【ハロウィン】もんすたー&モンスター 

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 19 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月28日〜11月02日

リプレイ公開日:2005年11月07日

●オープニング

 ケンブリッジの街は今年ハロウィンの祭りが盛大に行われるという。
 もちろん、ケンブリッジほどではないがキャメロットでもハロウィンの祭りは開かれる。
 ハロウィンは子供達の祭りである。

 最初はマントが歩いているのかと思った。
 マントはやがて冒険者ギルドの高いカウンターを背伸びして言う。
「あのね。お願いがあるんだ」
 身体と同じほどの長い大人用マントを引き摺って歩く男の子に、係員は笑いかけた。
「なんだい? ぼうや?」
「僕達をへんそうさせてくれる?」
「へんそう? ‥‥ああ、変装か? でも、なんだって冒険者ギルドにやってくるんだ? ハロウィンの変装だったら自分で作るか、おふくろさんにでも作ってもらえばいいだろう?」
 高い椅子によじ登った男の子はあのね。と続ける。
「ぼくのじゃないんだ。‥‥レーナ。出ておいでよ?」
「本当に、本当に大丈夫? ファル」
「ここは冒険者の人がいっぱいいるから大丈夫だよ」
「うん‥‥」
「ほお、こいつは〜〜」
 係員は長すぎるマントの理由をやっと理解した。
 男の子は一人では無かったのだ。マントの下から小さな身体が頭が羽が覗く。
 ぷあはっ!
 空気を掴んだ顔は、キョロキョロと周囲を見回し、そして‥‥
「暑かったあ〜。あ‥‥人がいっぱい。ファル〜〜」
 出てきたばかりの少女はその肩を男の子、ファルの背に寄せた。 
 隠れてきたのは正解だろう、と冒険者達も思う。
 彼女は注目を浴びるだろう。冒険者ギルドだけでなく、外に出たらなおのこと。
 ‥‥そのシフールは虹色の、蝶の羽をしていた。多くのシフールを見てきた冒険者ですら殆ど見たことの無い不思議な色だ。
「僕の友達レーナ。いつもはね、森の奥に住んでるんだけど、久しぶりに遊びに来てくれたんだよ」
「‥‥だって、ファルと一緒に遊びたかったんだもん」
 少し頬を膨らませ、俯くように彼女は言った。僕もだよ、と頷いてからファルは前をもう一度向く。
「僕さ、レーナにキャメロットの街を見せてあげたいんだ。でもさ、前にこのキラキラの羽のせいで人間に捕まったことがあって、怖いっていうんだよ」
 ああ、と係員は思い出す。もう大分前の事になるが、そんなこともあったかもしれない。
「で、思ったんだ。もうすぐハロウィンでしょ。お化けに化けたらレーナも気付かれないで遊べるかもって。でもレーナも女の子だし‥‥」
「ああ、だからここに連れてきたって訳か?」
 うん、とファルは頷いた。
「レーナと僕を変装させて。一晩だけで良いから」
 どうしようか? と係員は考える。別に難しい依頼ではない。だが、それだけに心配だった。
「子供相手だと報酬もあんまりあてにできないしなあ?」
「その心配はいらん。報酬はわしが払おう」
「えっ?」
 入り口の扉が開いて好々爺の顔がのぞいた。
「おじいちゃん!」
 ファルはそう言って顔をほころばせる。レーナの頬にも警戒の色は無い。
「図書館長殿‥‥」
 係員の言葉に図書館長と呼ばれた老人は笑った。視線は優しく子供達二人を見る。
「たまには孫の我が儘を聞いてやらねばな‥‥」
「孫? ああ、そうなんですか?」
 うむ、と頷いてエリファス・ウッドマンは言った。
「多くは無いがわしから多少なりとも報酬は出そう。引き受けてくれないか?」
 それなら問題は無い。係員は正式に依頼を受理した。
「わあい! ありがとう。もう大丈夫だよ。レーナ」
「ありがとう、ファル」
 喜びに手を握り合う子供達を横目で見ながら、エリファスは小さく係員に囁いた。
「‥‥よいか? その報酬は護衛の分も入っている」
「護衛? どういうことです?」
 声を潜めたということは子供達に聞かせたくないということ。係員も声を低くした。
「ここに来る途中、痛い視線を何度か感じた。あのレーナという少女が孫の下に来る前に誰かに見つかった可能性がある。おぬし達も解るじゃろう?」
「彼女を狙って来るものがまたいるかもしれないと?」
 無言で彼は頷いた。
「ハロウィンは顔を隠して子供や人が闊歩していても怪しまれない日じゃ。それは敵にも同じことが言える。この時を狙ってあのシフールを狙う者がおらんとも限らん」
「では、止めれば‥‥なんてことはできませんね」
 係員のささやきにエリファスは頷く。あの輝きを消したくは無い。
「おじいちゃ〜ん、そろそろかえろーよ」
「ああ、解った。今行く。と、言うわけじゃ頼んだぞ」
 孫に手を取られ、老人は帰っていく。シフールは再びマントの下。エリファスは老いたりと言えど実力のある地の魔法使いだと聞く。
 彼が付いているなら今は心配することもあるまい。

「子供の変装の手伝いと護衛。護衛もこうなったら怪物にでも変装してたほうがいいかもな?」
 半ば冗談の口調、半ば本気で係員は言った。
 
 子供の祭り、そして笑顔を守る依頼。
 ハロウィンの夜には魔物や、怪物、幽霊が一晩蘇るという。
 だが魔物よりも怖いは人の心なのかもしれない‥‥。

●今回の参加者

 ea0974 ミル・ファウ(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5884 セレス・ハイゼンベルク(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9089 ネイ・シルフィス(22歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9244 ピノ・ノワール(31歳・♂・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

天城 月夜(ea0321)/ アリオス・エルスリード(ea0439

●リプレイ本文

 街が楽しげにざわめくハロウィンの夜。マントの少年がそっと、扉を開けた。
「こんばんは〜」
 恐る恐る顔を出す少年に、やっほー! 明るい声が笑顔と共に手を振る。
「二人とも、久し振り〜♪ 元気にしてた?」
「あ、貴方は!」
 少年の声は輝いている。それが聞こえたのかマントの『中』もかさかさ揺れた。
「何? ファル、誰?」
「レーナちゃん、お久! 私のこと覚えてる?」
「えっ! その声は!」
 がばっ! 内側からマントが弾かれる。よろめくファルを支えたフレイア・ヴォルフ(ea6557)は目の前の光景にニッコリと微笑む。
 シフールの少女同士が手をつなぎ合って、飛び跳ね‥‥いや、くるくると回っている。
「あの時の‥‥確かミルさん、だったよね! 勿論覚えてるよ!」
 そうそう。ミル・ファウ(ea0974)は頷いて満面の笑顔を見せた。彼女にとってはイギリスで最初に受けた依頼で出会った大事な思い出。大事な友達。
 覚えていてくれたのが嬉しかった。
「これだけ大きなお祭りはイースター以来かな。お祭りは楽しいけど、レーナちゃんの苦労も絶えないよね〜」
 共感してくれる相手に、レーナも硬い心の殻を外し頷く。人ごみの中は彼女にとって決していいものではない。それでも、大好きな子と一緒に遊びたいのだ。
「でもね、大丈夫。皆が手伝ってくれるから」
 みんな。その言葉にレーナの顔が少し揺れる。
「‥‥これは。確かにこの姿なら狙われるでしょうな」
「こら! あんまり怖がらせるようなこと言わない!」
 ネイ・シルフィス(ea9089)に諌められ、失礼、とピノ・ノワール(ea9244)は謝罪した。だが謝罪しながらも魅入るようにレーナの羽を見る。その虹色の羽は本当に光を結晶させたように美しく輝いている。
(「人と言うものは‥‥何故にこう欲深くあるのでしょうか‥‥」)
 羽を見つめられる視線は彼女が嫌いなもの。
 だがレーナは冒険者達に不信を浮かべたりしなかった。
 人に狙われ、危険の中にい続けるからこそ解る。彼女の直感。この人たちは信じられる。と。
「レーナ?」
「うん、解ってる。大丈夫だから」
 ミルの手を離し、冒険者達の方を笑顔でレーナは向いた。そして丁寧にお辞儀する。
「今日は、どうぞよろしくお願いします」
 そこにいた顔全部が、満面の笑顔と共に頷いた。

「トリック、オア、トリート〜! やっほ〜。楽しいね」
「うん。こんなに楽しいの初めて。人がいっぱいいて、なんだか胸がバクバクするみたい」
「大丈夫だよ。誰も気付かないから。きっと」
「ふふ、こういうのも悪くないねぇ。ほら、一緒に楽しもうじゃないかい。あ、あっちにも面白そうなものがあるみたいだよ」
「ネイ、元気なのは良いですが、張り切り過ぎないで下さいよ」
「そうそう、あんまりはしゃぎすぎると危ないぞ。迷子になる」
「「「「は〜い♪」」」」
 セレス・ハイゼンベルク(ea5884)の言葉に子供達+2は元気よく手を上げた。
 やれやれ、と肩を竦める様子はすっかり保護者の風情だ。ピノはその様子をくすくすと笑いながらも優しく労った。
「子供は元気だねえ。いや、解ってたことだけどさ」
「ご苦労様、でも満更でもないようですね。楽しそうだ」
「ああ、楽しいよ。子供は好きだからね」
 なんとなく眼を細めて羽根帽子を軽く上げる。彼の視線の先には輝く笑顔たち。
「うん、ライルと天城の力作、なかなか似合ってるな。二人とも‥‥」
 白い天使二人が楽しそうに微笑み合う。
 白いドレスに白い羽根の衣装。ライル・フォレスト(ea9027)と天城月夜のお手製アレンジである。
 小さな天使のようなシフールがトコトコ歩いたり、驢馬の上に乗っている様子はなかなかに可愛い。
 レーナの羽根を隠す為に作った天使の羽根ははりぼてなのであまり自由には飛び歩けないからだが十分に楽しそうだ。
 後ろからクレリックに仮装し、ターニップヘッドを首から下げるファルが懸命に追う。
 着て歩いてきたマントよりも小振りのマントが彼の背丈にピッタリだ。
 一緒に楽しみながらも周囲に眼を配る魔法少女はネイ。反対側には物静かに歩く怪しげな黒の魔導師がいる。
 外見と内面は正反対であるがワケギ・ハルハラ(ea9957)も結構楽しんでいるようだ。
「俺はハロウィンのお祭りを見たことがないので、一緒に行ってもいいかな?」
 そう言って保護者をかって出たセレスの仮装は仮面の騎士。文字通り彼らの騎士になる為だ。
「あのような笑顔が見られるのであれば、このような祭りも悪くは無いでしょう。ですが‥‥」
 歯切れの悪い声でピノは顔を背ける。セレスにはその理由が解っている。
「聖職の身にありながらこの様な格好しか出来ないとは。情けなくもありますがこれも仕事。割り切るしかない」
「あんまり気にしないことだ。この祭りの中、自分が気にするほど人は気にしちゃいないんだから」
「それは、そうでしょうけど‥‥」
 ド派手なグレートマスカレードを押さえながら、ピノは俯き‥‥かけて止めた。
 足を止めるワケギとネイ。彼らの後ろから男装の悪魔が近づいてくる。
「天使のお嬢さん、悪魔には気を付けて‥‥捕まってしまったら大変だからね」
 ニッコリと笑いながら囁いて行った意味を知る冒険者達は軽く武器を握り締めた。


 甘い焼き菓子、香ばしい腸詰の焼かれる匂い。
 魚に肉の素材の味そのままの自然な香り。
 道のあちこちに出され、並ぶ店に時々足を止める従者に、前を歩く悪魔の麗人は時折不満げな顔を見せた。
「こら、仕事を忘れちゃ困るよ。満!」
「無論。だが異国の、しかも祭り料理。興味は多少なりともあるのでな‥‥」
 その後に何か、続く筈だった言葉を尾花満(ea5322)は止めて前を見た。
 頭を覆う兜からの視線は、誰か、何かを見つけたのか。
「‥‥ライルも。どうしたんだい?」
 それよりも少し先に状況に気付いていたであろう狼男。の仮装をした仲間に男装悪魔麗人フレイアは問いかけた。
「見てみろよ。いかにも怪しいでございます。って感じの奴らがそこに五人いるじゃねえか」
 指差された先を見てああ、とフレイアも納得する。楽しそうな同行隊をつける影。見るからに無頼漢と解る仮装もおざなりの男達。
「見るからに小物って感じでござるな。他人のものは俺のもの、俺のものは俺のものというところか‥‥うむ、解りやすい」
「組織的でないなら何よりだ。フレイア。多分なんとかなると思うけど」
「解った。任せておきな」
 完全に息の合った、理解しあった目線。それに頷くとフレイアは後方三人の中から一人、歩み出て前に早足で向かう。
 軽く前方の仲間に合図をして後
「おっと!」
 ワザと大きな声と動きで身を隠しながら歩く男達に向かって躓いて見せた。
 巻き込まれて一人が足をとられ、地面に崩れこむ。
「何しやがるんだ!」
「これは失礼。すまなかったね」
「すまないですむか! 見ろ! 見失ったじゃねえか?」
 フレイアと男達の『話』の間、ふと見ると前方を歩いていた集団が見えなくなっている。
「追うぞ! ‥‥何!?」
 駆け出しかけた男達は目を瞬かせる。仲間は五人いた筈なのに今は‥‥三人?
「ああ、悪いな。向こうで一人、足踏んじゃったよ」
 背後から方向は違えどフレイアと同じ方法で、敵の数を減らしたライルが木剣を握ったまま頭を掻く。
 男達にはそれが、まったくふざけた狼男の冗談にしか見えなかった。
「ふざんけじゃねえ!」
「‥‥他に追ってる奴はいないみたいだし、多分大丈夫だ」
「じゃあ、片付けさせて‥‥もらおうか!」
 空気を切る音がしてフレイアのダーツが飛んだ。その一閃は確実に一人の足を止めたが、同時にフレイアに向かっても白刃が迫る。
「しまった!」
 眼を瞑りかけたフレイアはいつまでも自分に衝撃が来ないのを知って目を開ける。その間は僅か数秒足らず。
 彼女の前には悠然と立って、必ず守ると背中で誓う男の姿があった。
「満?」
「フレイアに、傷など負わせぬ。‥‥とっとと行くぞ!」
「ああ、解ったよ!」
 掴んだ刃をそのまま横に投げ捨て、満は攻撃者の体制を崩した。そこをフレイアがすかさず薙ぐ。鈍い音を立て男の身体は地面に崩れる。
 二人がライルの援護に走りついた頃、ライル自身もまた一人の鳩尾に木剣をめり込ませ、意識を落としていた。
「ふう、こんなもんだろうさ」
 額の汗を軽く拭ったライルにああ、とフレイアは頷く。完全に信頼できる仲間がいれば、こんな敵など大したことは無い。
「さて、こやつらをどうする?」
 倒れた男達を縛り上げた満が仲間に向けて聞く。
「満に任せた」
 フレイアはそういうが‥‥
「ライル殿に任せよう。拙者がやると腕の一本や二本ではすまぬ」
 たらい回しで、尋問が回ってきた三番目は素直に任された、と腕を捲くる。
「さあて、どうするかなああ〜〜?」
 裏通りに迅速冷静、だが、激しい尋問の幕が開いた。
 狼の雄たけびにもにた声が響き、後に完膚なきまでに叩きのめされた男達が自警団の詰め所に転がされていたという。

「おじいちゃん!」
 王宮の前で待っていた祖父に、少年は走りよった。小さな友達を胸に抱いて、無邪気にはしゃぐ姿は見るもの全てを微笑ませるようだ。
「あのね、楽しかったよ。とっても! レーナとも皆とも一緒にいっぱい遊べてね、楽しかった!」
「お菓子や食べ物も一緒に食べたの! 奢ってもらっちゃった」
「いいんだよ。俺も食べたかったんだから。それに楽しかったしね」
 セレスの言葉に
「そうか、それは良かったのお。じゃあ、わしからもお菓子をあげよう」
 心底幸せそうに祖父は笑うと、用意しておいた菓子を子供達に振舞う。
 無論冒険者達の分もある。
「ありがとう‥‥。うん、こういうのは童心にかえるね。素直に嬉しい」
 袋の中の菓子を見つめたセレスは、そっと二人の子供達が自分の分のお菓子を袋に足した事を気付かない。
「館長の関係する依頼でしたら喜んでお引き受けします。どうぞご遠慮なく」
 朝と同じように誠実に挨拶するピノに、冒険者に感謝するように祖父は孫とその友達を見つめ告げる。
 ハロウィンナイトはまだ続くが、子供達の時間はそろそろ終わりだ。と。
 寂しげな顔をしながらも彼らは頷く。もう、楽しい思いは沢山できたから。
 冒険者に孫達の送迎を託し、仕事に戻ろうとする老人に
「待って下さい」
 呼びとめる声がした。
「なんじゃな?」
 ワケギはマスクを外し、帽子を取り、人間として先達に問うた。
「人は何故、自分の欲望の為に他人を傷つけたりするのでしょうか?」
 他者を思いやらず、欲望のまま人を傷つける者は消えることは無い。そんな者たちを若い魔法使いでさえ、何度も見てきた。
 ‥‥人の心の中には怪物が潜んでいるかのように。
 俯く若者の頭を老人は優しく撫でた。
「人は自分と誰か何かを比べて初めて幸せを知る者だ。その心は千差万別。中には人を傷つけ優位に立つことで幸せを感じる歪んだ者もいるのかもしれん」
 それを完全に否定はできないと、彼はため息と共に言う。
「だがそれでも人は心の中に怪物に負けない光を持っている。それを育て照らしていけばいつか、自分ばかりではなく多くの人を照らしていけるだろう」
 学び、体験し、育てよ。と老人は言う。心の怪物に負けない光をと。
「はい」
 ワケギは頷くように答え顔を上げた。ここに来たのはシフールを助けたいと願う友の代わり。
 でも、ここで得た答えと、小さな友を助けたいと思う心。それは、友と同時に自分のものでもある。
「ありがとうございました」
 依頼を受け、依頼を完遂した冒険者は、依頼人と小さな友にそう頭を下げた。

 影での守護に徹していたアリオス・エルスリードは最後に友の手引きでかつて救った者達との約束を果たした。
 どうしても伝えたかった言葉を贈る。
「強さと力は別のものだ。力を求めてレーナを手放さないようにな。ファルはファルの強さでレーナを守ればそれでいい」
「うん、約束する!」
 その真剣で誠実な眼差しに、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「ねえ、満」
「なんだ? フレイア」
 並んで夜の祭りを歩き、光を見つめる。
「‥‥何でもない。もう少し、歩こうか」
「‥‥そうだな。こういうのも悪くは無い」
 男勝りの女レンジャーも今は一人の女性。隣を歩く男性の胸にそっと頭を寄せる。
 賑やかな中の二人だけの時を、彼らは静かに抱きしめていた。

 ハロウィンは古き自然と、精霊の祭り。
 今宵一時、神と魔、人と精霊が同じ時間を過ごし、時を紡ぐ。
「こんな幸せな時間が、ずっと続くといいのに‥‥。ね、パックル」
 驢馬の背中から空を見上げるシフールに降るような星が、静かに答えていた。

 向こうには何か、お土産を買っていこうかな? と悩む魔法使いがいる。
 あっちには派手なマスクに顔を赤らめながらも、いつの間にか祭りを楽しむ司祭がいた
 ここには
「あれ? お菓子が多い? 皆も、こんなに貰ってたのかな?」
 袋の中の報酬の数に首を傾げる騎士も一人。

 そしてこっちには若い恋人達が‥‥二人。
「魔法少女を舐めるな〜、ってあんまり出番無かったねえ」
 せっかくスタッフまで持って決めたのに。頬を少し膨らませるネイを宥める。
「まあ、何事も無ければそれがいちばんだね。お疲れ様。ライル!」
 ネイはそう言って振り向くと真っ直ぐにライルの瞳を見つめた。
「ほらライル、今度はあっちに行こうじゃないか」
「あ、待てよ」
 ポケットの中身をそっと握り締めてライルはネイに素直に引き摺られて行った。
 それはやがて‥‥
「少しずつでいいから、もっと君の心に近づきたい。君を想う気持ちは誰にも負けないつもりだ、誰にも渡したくない‥‥ネイ、愛してる」
 思いと共に一つずつ、指に輝く光となって輝いた。


 それぞれのハロウィンナイトが更けていく。
 冒険者達の守った笑顔は、幸せな夢を一緒に見る。
 楽しい祭りの続きを、しっかりと手を繋いで‥‥。