【ハロウィン】大きな蕪の逆襲

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:5〜9lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 31 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月31日〜11月03日

リプレイ公開日:2005年11月11日

●オープニング

 おじいさんは畑に蕪の種を撒きました。
「大きくなあれ、おおきくなあれ‥‥」
 甘くて、元気の良い、とてつもなく大きな蕪ができました。
 
 ‥‥それは、元気の良すぎる、本当にとてつもなく大きな蕪でした。

「た、助けてくれ〜〜〜!!」
「おや? どうしたんです?」
 ケンブリッジギルドを受け持つ少女は、そう言って突然の来訪者を迎えた。
 ケンブリッジの食堂に野菜を納めてくれる、彼はこの近くの農家の主。
「か、蕪が、蕪が‥‥」
 息を切らせる彼の手には蕪の入ったかごが抱えられている。
「ああ、蕪を持ってきてくださったんじゃないんですか?」
 ハロウィンの飾り用に確か頼んでいたはず、そんなことを考える彼女に老人は懸命に首を横に降る。
「違う、違うんじゃ〜、うちの畑に巨大な蕪の怪物があ〜〜」
「蕪の怪物?」
 その場にいた係員も学生も、冒険者達もただ、信じられない言葉に目を瞬かせたのだった。

 見に行ってきました。と係員の少女は息を吐き出した。
「本当に、びっくりするくらい大きな蕪なんです。しかも、それが、どうやら本当に生きている蕪のお化けみたいで‥‥」
 体長約2m。葉っぱを入れれば3mはいきそうなその蕪は夜な夜な畑の中をごろごろと転がっているのだという。
「その蕪がいる限り、周囲の畑に近づけない。近づくと突進してくるから冬野菜の準備も収穫もできない。だから、退治して欲しい、っていうのがその農家からの依頼です。でも‥‥」
 少女はニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「あれ見て、思ったんですよね。ほら、丁度ハロウィンじゃありませんか? あれでジャック・オ・ランタン作ったらきっとステキだなあって」
 だから、と彼女は告げる。
「ケンブリッジのお祭りの為にも、できればその蕪、壊したり焼いたりしないで手に入れて頂けませんか?」
 もし、それができたら報酬を割り増しできるだろう、と彼女は告げた。ケンブリッジの生徒会が多分買い取ってくれるはずだ。
「まあ、もし出来なかったら、みんなで焼き蕪か、シチューにして食べちゃいましょ」
 彼女は鮮やかに笑う。それを本気に取っていいのか、冗談と笑うべきなのか、彼らは悩みながらも依頼に手を伸ばす。

 ハロウィンというケンブリッジの祭りは始まったばかり。
 ギルドの前に飾られた小さな蕪のジャック・オ・ランタンがまるで冒険者達を誘うように笑って見えた。

●今回の参加者

 ea0582 ライノセラス・バートン(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アルカード・ガイスト(ea1135

●リプレイ本文

「うわー、凄いな、おっきいなー!」
 開口一番、朝一番。そんな賑やかな声が、畑に響き渡った。
「僕もこんなに大きなカブ育てたいなー! どうやって育ったんだろう。やっぱり水かな? それとも肥料かな?」
 好奇心で眼を丸くしながら無防備にイシュメイル・レクベル(eb0990)は蕪に近づいて言った。
 一歩、二歩、三歩。
「これ! あんまり近づいては‥‥」
 老人の忠告は少し遅かった。
「えっ? なに‥‥ってわああああ!!」
 ごろごろごろごろごろ!!!
 突然の突進(?)にイシュメイルは慌てて手を上に上げた。全身でごろごろと、まるで雪の玉のように蕪は転がってくる。
 イシュメイルに向かって。
「あー、やかましい! ほら! 早くこっちへ来い!」
 腕組みをしながら様子を見ていたエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は畑に向かって手を伸ばすと、その手を掴んで思いっきり引いた。
 なんとか畑の敷地から逃れると、蕪は思いのほか大人しくなる。ごろごろが、ころころ、になって‥‥やがて静かに停止した。
「びっくりしたあ。ありがとう」
 息を吐き出すイシュメイルはぴょん、と飛び上がってお尻を叩いた。落ちる埃と舌を出す少年を見ながらライノセラス・バートン(ea0582)は腕を組んだ。
 彼自身も大きな蕪に驚いて、口笛を吹いていた。イシュメイルが行かなければ自分が側に行っていたかもしれない。
 そして、脅かされる。表情に出さず苦笑していた。
「本当に大きいですわね。どのようにしたら‥‥ああ、失礼致しました。私は御門魔諭羅(eb1915)と申します。陰陽師をしておりますわ」
 優雅な魔諭羅の挨拶と正反対に、小さな槍のようなものを振り回し、元気にシフールが跳びはねる。その槍のようなものが手製の旗であることに気付くのに冒険者達もしばらくかかった。
「“ブラしふ団”のぉ〜呼びかけにぃ〜、ファムちゃん一味もぉ〜、これに乗じて一旗あげぇ〜」
「ワン!」「‥‥!」
「よしよし、パッソルくん。いいお返事♪ ダメだよ。ヴィッツくん。もっと真剣にやらなくっちゃ」
「‥‥真剣、なのか?」
「もっちろん!」
 底抜けに明るく陽気に迷い無く頷くファム・イーリー(ea5684)にエルンストは頭を抱える。
 騒がしいのがイヤで早く静寂を取り戻すために依頼を受けたはずなのにまた騒がしいのがいた。と露骨に顔が言っているがそれを当然ファムは気にしたりしない。
「でも、どう致しましょうか? 火で焼いてしまっては拙いのでしょうし‥‥」
 エレナ・レイシス(ea8877)は考える。植物相手ならば彼女の得意とする火の魔法は本当なら絶大な効果を発揮する。
 しかし、今回は外見を崩すことはできない。火の魔法の使用は控えるべきだった。
「それは‥‥とにかく、さっさと片付けてしまおう。早くになんとか倒してしまえば今日の夜祭に間に合うかもしれん」
 せっかくの夜をこんなところで消費したくは無い。ライノセラスだけではなくそれは全員同じ思いだった。
「よし、行くぞ」
 声は大きくは無いが鋭いエルンストの声に冒険者達はそれぞれの思いで、頷いた。

 シュン! 音を立てて葉っぱが風を薙いだ。
「わわっ! もう、びっくりするじゃないか!」
「おいおい、大丈夫か?」
 とっさに飛びのいたイシュメイルの横でライノセラスは苦笑しながら剣を大ぶりに振った。葉っぱの端が微かに切れた。
「美味しく食べるから覚悟してー!」
 この言葉が聞こえたのかどうかは解らないが、何故か蕪はイシュメイルを眼の敵にするように転がってくる。葉っぱで打撃攻撃までしてくる。
「随分、愛されてますね」
「なんだよ、それ〜〜。野菜は美味しく食べてこそだよ?」 
 エレナの笑み交じりの言葉にイシュメイルは盾を構えながらも膨れて見せた。
「ほら、遊んでる暇は無い。来るぞ。どうやら葉っぱはかなり敏感なようだ。弱点なのかもな?」
 指差された先をライノセラスの言葉に従ってみる。確かに体当たりしたり、叩いた時に比べると反応が大きい気がする。
 反応が大きい、つまりは怒りも大きいのかも。力を溜める様に蕪が左右に揺れる。
「とりあえず動きを止めましょう。‥‥スリープ!」
 今まで様子を見ていた魔諭羅が前に進み出た。紡いだ呪文にエルンストの顔が歪む。
「おい、こら!!」
 彼の声とほぼ同時に蕪は突進してきた。魔諭羅に向かって。
「くそっ!」
 呪文を蕪に向かって打ち付けて、彼は魔諭羅を庇うように動いた。植物に対する防御はしてある。突進の衝撃は減ったが彼女自身の身体にかけられた魔法の帯電は響いてくる。
「うっ‥‥!」
「あ‥‥っ!」
 呆然とする魔諭羅をエルンストは睨んだ。
「植物が寝るか? 呪文の使い方はもう少し考えろ!」
「申し訳ありません‥‥。大丈夫ですか?」
 出立前に植物モンスターの話をアルカード・ガイストから聞いていたはずなのに、うろたえる魔諭羅を気にせずエルンストは一番の後衛。この戦いの要のバードを見る。
 呪文の詠唱準備はできているようだ。さっきの呪文も少しは効いている筈。
「‥‥そっちは、どうだ?」
「OK。大丈夫だよ」「いつでも‥‥」「後はタイミングだけだ」
 言いながら囮グループは蕪に向き合った。蕪もまた、こちらを睨むように身体を動かしている。
 そして‥‥身体をこちらに向けて転がし始めたタイミング。それを逃しはしない。
「よしっ。行け! バード!」
「まっかせて! シャドウバインディング!」
 ファムの渾身の、そして真剣な魔法が放たれる。影縛り。
 光が作り出した影が、重力、慣性を全てに逆らい身体をもたげた蕪の動きを封じる。
「やった! 成功だね!」
 タイミングを見計らい、回避にだけ集中していた冒険者達に攻撃は当たることなく巻き込まれること無く、蕪だけが今、畑の中央で凍り付いている。
 側によると異様なまでの大きさがさらに目に付く。一番背の高いエルンストよりもさらに大きい。まるで本当のお化けのようだ。
 身体を横にし、葉っぱは真横。不自然な形で凍る蕪は押せば倒れそうだが、今は倒れない。
「のんびりしている時間は、無いかな。とにかく早くこいつを固定してしまおう。ロープは‥‥」
「あ、今もってくる」
「呪文が切れたらまた頼むぞ」
「足元の影を消さないように気をつけて?」
 捕縛と加工の準備に素早く動き出す冒険者達の背後で、ファムと魔諭羅は蕪を見つめた。万が一動き始めた時の為の待機‥‥だったのだが。
「あれ? ファムさん、何をなさってるんですか?」
 ひらひらと飛んでファムは畑の端においておいたお手製旗を抱え、戻ってくる。
「巨大カブ制覇の証に一味の旗を立てるんだよぉ〜♪」
 ぷすっ。刺さった旗は小さな小さなもの。加工の邪魔にならないように葉っぱの横に。
 それは彼女なりの気遣いだろうか?
「天よ、大地よ、ブラしふ団よ! 我が野望ここに成就せり〜!」
 畑に響き渡る時の声。勝利のポーズに誰の拍手も喝采も存在しなかった。
「な、なんでしょう?」
 あったのは首を傾げる魔諭羅と足の下で震える蕪のみ。
 団員その1は畑の隅で震え、その2は草を食んでいる。
「こら〜〜。こっち見なさ〜い」
 部下の心もまだ一つにならない、ファムの望みは遠い。果てしなくしょうもなほど遠かった‥‥。

 ガラガラガラガラ。
 車輪の回る大きな音が静かな森に響き渡る。
「ふう、重いねえ」
「中身はだいぶくり抜いたのですけどね。やはりこの重さはなかなか大変です」
 荷車を押しながら冒険者達は息を吐き出した。
 驢馬や馬に引かせながら畑からここまで、この大きな蕪を運んできた。
 ケンブリッジまであと少しだ。空気も紫色に近づいている。休んでいる暇は無い。
「この調子だと、夜までに間に合うでしょうか?」
「なんとかなるんじゃないか? せっかくの祭りだし、たのしみたいよな」 
「きっと、皆これ見たら喜ぶよ〜」
 子供のように、いや子供の笑顔で蕪を叩くイシュメイルの言葉に冒険者達の顔も綻ぶ。そうだったら嬉しい。
 何せ、蕪退治は捕らえてからが一苦労だった。
 動きは止まっているからと言ってもまだ蕪は生きている。どうしたら、この不思議極まりない蕪の「生命」活動が止まるのか。
 ロープで固定し、葉っぱを切り落としてもまだそれは冒険者達にも解らなかった。
 下手に持ち上げて影を消してしまったら、蕪を捕らえる魔法が消滅する。
「なら、これっきゃないよね!」
 しっかりと捕まえた蕪の上に、腕まくりをしてイシュメイルが昇る。手にはナイフ。
 何をするつもりかと見れば、しゃくしゃくしゃく、と蕪の中身をくり抜き始めたのだ。
「どーせ、ジャック・オ・ランタンにするんだから穴を開けとけば後々楽でしょ。中身無くなればこいつだっておとなしくなるだろーし」
 なるほど。いくつかの微笑が生まれるが、誰も否定はしなかった。
「解った。俺も手伝おう」
「では、そのくり抜いた蕪、頂けませんか? 何か暖かいものでも作りますわ」
「あたしも、やるっ!」
「何かお手伝いすることはありますか?」
 興味なさげに、でも万が一の時のことを考えて待機するエルンストを除く全員が、加工に携わった結果、程なく蕪は巨大なカップになった。
 切り取った葉っぱで蓋をしてそっと、ロープを外してみる。
 ぐらっ! 一瞬蕪が揺れて見えた。冒険者達は身構える。
 だが、二度と蕪が突進してくることは無かった。
 その葉っぱを動かすことは無かった。
「ごめんね〜。美味しく食べて有効利用すっからね!」
 ポンポン、イシュメイルはそう言って蕪を撫でた。
 聞こえた、とは思わない。
 だがまだ顔も何も彫っていないターニップ・ヘッドが何故か笑ったように見えたのはイシュメイルだけではなかった。 
 それは光の加減、だったのかもしれないけれど。

 辿り着いたケンブリッジの夜は、賑やかに光と、喧騒に溢れていた。
「うわ〜、予想以上ですね。さっそく加工に回します!」
 ギルドに持ち込まれた巨大蕪は、言葉どおりさっそく生徒会の手によってジャック・オ・ランタンに加工され、門に飾られた。
 この夜の目玉の一つになった、というのは後の噂である。
「さて、用は終った、俺は引き上げさせてもらおう」
 宵祭りの喧騒に背を向けかけたエルンストに、そして冒険者達に係員は待ってください、と呼びかけた。
「これをどうぞ。お疲れ様でした」
 ハロウィンの甘菓子が一人、一つずつ追加報酬と共に配られた。
 それを無言で受取ってエルンストは自室に消えた。
「さ〜って、じゃあ、僕達も遊ぼう! せっかく仮想衣装用意したんだもん」
「ふむ、FORの女性ととでも一緒に遊びに出るかな?」
「あたしもお買い物しよ〜っと」
「では、これで‥‥」
 退室していく冒険者達は祭りの中へと消えていった。


「今日は、俺が奢りましょう。ちょっと、臨時収入も入りましたから‥‥」
「本当にいいの?」
 ええ、紳士的に彼は女性をエスコートする。
 賑やかな祭りの中、少女と少年の笑顔が交差する。

 黒いローブを引きずりながら少年は手を上げて威嚇する。
「おかしをくれないとイアタズラするよ〜」
 幾つめかのお菓子をほおばりながら、賑やかで楽しげな祭りを闊歩する彼は、一人。
 門の下に飾られた巨大なターニップ・ヘッドを見ながら呟く。
 自分達の戦利品。端っこに小さな旗もちゃんと刺さっているのは生徒会のお茶目だろうか?
 嬉しく、楽しい祭り。だが、どうしても口に出てしまう思いがあった。
「先祖の霊が帰ってくる日‥‥かあ〜」
 帰って来て欲しい、そう願う相手はいる。だがそれを口に出すことはしないつもりだった。
「よお〜し! 遊ぶぞ〜。おばさんに後でイヤって程話してやる〜」
 拳を握り締めて、跳びはねた少年の活躍はまた別の話。

「あら?」
 通りすがり魔諭羅は犬や驢馬と一緒に祭りを楽しむさっきまでの仲間を見つけた。
 ハロウィンの祭りは故郷とは違う初めての体験。
 騒々しいまでに賑やかで、活気のある祭りに思わず笑みがこぼれる。
 故郷にも先祖の霊を迎える祭りはあるがあまりにも違う。
「だからこそ、楽しいですわね」
 灯りの多い夜。今日は星も月もあまり良く見えない。
 だが、地上の灯りと言う名の星達の輝きに彼女は暫し、酔うことにした。

 騒がしい雑踏から離れ、一人、部屋に戻り書を開く。
 祭りなどに興味は無い、騒がしい時も早く過ぎて欲しいと思う。
 だが‥‥
 テーブルの上に置いた甘菓子に何故か今日は気を取られてしまう。
 その理由は彼には解らなかった。

「お仕事ご苦労様です。これはお土産です。良ければ召し上がって下さい」
 最後に残ったエレナはギルドの係員の前に包みを置いて去っていった。
 まだほんのり暖かいそれを開くと白い、焼き蕪が湯気を上げている。
「これは、ひょっとして‥‥?」
 小さく苦笑しながら一つ摘まんで口に入れる。
「あ、結構美味しいかも」
 微笑み、彼女は告げる。
 消えていった冒険者達、そしてケンブリッジの街の皆に思いを込めて。
「皆さんに良いハロウィンがありますように‥‥」

●ピンナップ

イシュメイル・レクベル(eb0990


PCシングルピンナップ
Illusted by 浅倉あづま