【狩人の少年】決意 目に見えない戦い

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:夢村円

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月03日〜12月13日

リプレイ公開日:2005年12月10日

●オープニング

「父さんのわからずや! 石頭!」
 おっと! 扉の前に立っていた村長はひょいと身をかわして、中から急に開いた扉を避けた。
 外に飛び出していく少年の背中を見送ってから、部屋の中へと入る。
 そこには憮然とした顔で腕を組む、男の姿があった。
「またフリードとやりあったのか? いい加減に許してやればいいのに‥‥」
「俺はあいつを冒険者になんぞさせん! 大事な跡継ぎだし、羊飼いとして平穏な人生を送るのがあいつの為だ」
 ふんと顔を背ける男を見ながら村長はため息を付いた。
 村の少年、フリードが冒険者になりたいと願っているのは村中が知っている。
 だが、彼の父はそれを断固として許さない。
 ケンブリッジで学ぶことどころか、用事で村を出ることさえ今は殆どできずにいるため、このような事態は日常茶飯事だ。
「本当にそうか? まあ、確かに若い者に村を出られるのは困るが、あの子には弓の才能もあるし、何より真剣に冒険者になる事を望んでいる。わしは認めてやってもいいと思うんだがな」
「家のことに口を出さんでくれ。で、どうしたんだ? 今日は。説教をしにきたのか?」
 頑固一徹。石頭という言葉もあながち間違いではない。夢をかなえるには余りにも前途多難な少年を少し思いやって村長は肩を竦めた。
 そして、本題に入る。
「最近、村の者が変な青白い影を見かけると言っている。そいつに触れると意識を失うらしい。羊や家畜に気をつけろよ‥‥」
 
 森の奥、小さな洞窟でフリードはため息を付いた。
「はあ〜、いつになったら許してもらえるんだろう‥‥」
 冒険者になりたいと願うようになって一年以上。
 漠然とした憧れだったものが、いつか確かな夢に変わったのはここ半年ほどのことだ。
 無意識に首のペンダントに手が行く。いくつもの、思い出が込み上げてくる。
 自分が何度も救われたように、自分も誰かを救う者になりたい‥‥。
 だが、父はそれを解ってはくれない。毎日大喧嘩だ。
 冒険者達を目指すためのものなど家において置けず、いつしか秘密基地のようになった洞窟で彼はまた深いため息を付く。
 尊敬する人物と約束した。冒険者として旅立つ時は‥‥
「自力で親を説得し、許しを貰ってから‥‥。ああ! もう許可を貰うより父さん達がいなくなるのを待ったほうが早いような気がするよ!」
 ほんの少し、物騒なことを思うが、大切なダガーを握り締めてそんな思いを振り払う。
「そんな事考えちゃダメだ。‥‥あの人たちと肩を並べられない。よし、仕事に戻ろう」
 荷物を片付けて洞窟を出る。
 彼は気付かなかった。
 自らに忍び寄る、運命の影を‥‥。


「フリードを、息子を助けてくれ!」
 恰幅のいい男はそう言って、ギルドに飛び込んできた。
 焦りを浮かべた顔、飲み込む息。冷静さを完全に失っている男を係員はまず座らせ、落ち着かせた。
「何があったか、ちゃんと説明してくれ!」
 言葉に男は自分の来た村の名前、そしてフリードというのが自分の息子であると語る。
「息子が‥‥怪しい影に囚われたんだ!」
 聞けば最近村に現れた青白い炎のようない影が現れるようになり、人々や家畜を襲うようになった。
 それの対応を考えている最中、一人の少年がその影に囚われてしまったのだという。
「村の子供が襲われそうになったのを、助けたらしい。他の奴らは触れられて倒れるくらいだったのに、何故かあいつはその影に囚われてしまった‥‥」
 子供を助け、家に戻った少年は青白い顔で、ダガーを握り‥‥父親に向かって切りつけた。

「何をするんだ。フリード!」
『望みをかなえる‥‥。大切な人の所へ‥‥行く‥‥うわあああ!!』
 

「だけど、あいつは自分の手を刺して‥‥家を飛び出していった。それからまる2日。戻ってこない」
 少年は、どうやら森に一人で潜んでいるらしいと、父親は言う。
 村は山奥で、町に続く街道は一本。その道を抜けた形跡は無かった。
 彼は羊飼いであると同時に狩人であり、村で一番、森を知り尽くしている。
 裏道を知っているかもしれないが、おそらくそうはしていないだろうと依頼主は思っていた。
「影はきっと亡霊か何かであいつはそれに憑りつかれたんだ。そうでなければ、あいつが俺に斬りつけたりするはずはない!」
 係員も少年を知っている。
 もし、その少年が何かに憑りつかれ、人を傷つけようとするのならば‥‥きっと彼は誰も傷つけないように自らを村から離すだろう。
 おそらく、戦っているはずだ。自らに囁く亡霊と。
 完全に勝ちうるか、敗北するまで自分から姿を現すことはすまい。
「今は、まだ森で過ごすことはできない訳じゃない。だが‥‥もう直ぐ雪が降る。そしたら‥‥!」
 少年を捉えることができなかった村人は、最後の望みをここに託したのだろう。   
「‥‥あいつは冒険者になることを夢見ていた。冒険者を心から信じて憧れていた。俺は、それが嫌だったが、今は、他に頼るすべが無い。‥‥頼む。息子を助けてくれ!」
 亡霊の正体が何で、何故、彼が憑りつかれたか。
 それを考えるのは後でいい。
 今、すべきことは唯一つ。

「‥‥ダメだ。‥‥なんでそんなことを‥‥考えちゃうんだ? 誰も、傷つけさせない‥‥。僕は‥‥、冒険者になるんだ。皆を助ける、守れる冒険者に‥‥」
 
 森の中で一人戦う少年を救うことだろう。
 彼が憧れる冒険者として

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea4965 李 彩鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 12月の風は冷たく、寒い。
 その中を冒険者は疾走する。
「雪?」
 ギリアム・バルセイド(ea3245)はふと足を止めた。手の上に小さな白い花びらのような雪が舞い降りて溶ける。
「前に、あの子と出会ったのも冬の森だったね。この森に始まり、この森に終る‥‥か」
 そんなフレイア・ヴォルフ(ea6557)の肩をライル・フォレスト(ea9027)はポンと軽く叩いた。
「きっと大丈夫だよ。早く行ってやろう!」
「‥‥そうだね。ありがとう。ライル」
 仲間の気遣いにフレイアは微かに浮かべていた憂いの眼差しを決意に変えて足を早める。
「ギリアムさん、俺、この辺は良く知らないんだ。地形とかフリードの親父さんについて教えてくれるかい?」
 リオン・ラーディナス(ea1458)の言葉にああ、勿論と、ギリアムは頷く。
「あの辺には何度か行っているし、フリードは可愛い弟みたいなものだからな。知ってる限りのことは教えるぞ。あいつの親父さんは悪い奴じゃ無いが頭は固くてな」
 苦笑しながら言うギリアムの横でどこかイライラとした声がする。
「悪いとは‥‥申しませんし、親子の関係に口を挟むべきではないのでしょうが」
 セブンリーグブーツでの全力行。それでも気が急くと李彩鳳(ea4965)は息を付いた。
「急ごう。雪が強くなってきたぜ」
 空を見上げたクリムゾン・コスタクルス(ea3075)の声に彩鳳も皆も頷き
「フリード様‥‥待っていて下さい。必ず助け出しますわ」
 懸命に街道を走りぬけて行った。

 村は既に雪化粧で純白に染まっている。その奥から
「皆さん、お待ちしていました」
 フライングブルームで先行して聞き込みをしていたシエラ・クライン(ea0071)が仲間を出迎える。
「フリードさんは、まだ?」
 心配顔の彩鳳の問いにシエラは辛そうに首を振る。
 村人達とて冒険者を待つ間何もしていなかったわけではない。
 手分けして森や山を捜していたのだ。
 だが、フリードの居場所は杳として知れなかった。
「この時期に外をうろつくってのは無いだろう。アイツが根城にしそうな場所に心当たりは無いか?」
「彼がいつもどんなことをしているかとか、だけでも解らないかな?」
 ギリアムとリオンは真っ先にフリードの家に立ち寄って父親に問いかけた。
「‥‥あいつの行きそうな場所?」
 憔悴しきった父親はそれでも、冒険者達の問いかけに顔を上げた。妻が、フリードの母親が側に寄り添っている。
「時折荷物を持ち出しては、森の方へ持っていったりしていた‥‥な?」
「ええ、時折食べ物や、火打石なども。どこかに小さな隠れ家を作っていたようです。‥‥この人が、冒険の道具を家で弄るのを嫌がるもので‥‥」
「冒険は危険だ。俺の弟は冒険者だったが、怪物に襲われて死んだ。だから‥‥あいつには‥‥なのに」
 幾度も事件と関わり、時に命の危険にさえさらされてきた。
 なのに、あの子は何故‥‥? 手の中に残された自分に向けられたダガーが重い。
「ご協力どうも。必ず彼の無事を約束します」
 これ以上聞くのも酷だし、無駄だろうとライル達は静かに会釈して家を出ようとする。
 ふと、同時にどちらともなく振り返った。
 俯き頭を抑える父親は、確かに息子を心配していた。
 息子を思うがゆえに冒険者を厭う。その気持ちも‥‥少しだけ解る気がした。

「匂いを嗅いで。いいかい?」
 帽子を目深に被り、愛犬の鼻先に帽子を差し出すライルの後ろでフレイアと彩鳳は顔を見合わせている。
 以前大よその地形は覚えたつもりではあったがそれでも森と山は広い。
 一人の人間を探し出すのが難しいほどに‥‥。
 悔しげに唇を噛む二人の足元で突然何かが服を引く。
「なんだい?」
「なんです?」
 下には子供が数人、必死の顔で彼らを見上げている。 
「ねえ姉ちゃん、兄ちゃん! 冒険者だろ?」
「フリードを助けて!」
「僕のおやつ全部あげるから」
 真摯な思いに二人は顔を見合わせて、柔らかく微笑む。
 フレイアは膝を付く。子供と目線を合わせるように。
「勿論さ。必ず助ける。でも‥‥あんた達。何か知ってるのかい? フリードの居場所について」
 子供達はフリードを見つけてとは、言わなかった。助けて、と。
 彼ら少し迷うように目線を揺らしたが、直ぐに顔を冒険者に向ける。
「父さんたちにはひみつだよ」
「約束したんだ。大人には知らせちゃダメな秘密の場所なんだ!」
 小さな手の招きに彼らは顔を寄せる。その前を先導するかのようにコリーが走って行った。

 洞窟の入り口を足音を潜めながら冒険者達は近づき見つめていた。
「あそこか? 子供達の秘密の隠れ家って‥‥」
 クリムゾンが付いた息に彩鳳達が静かに頷く。
「そうらしいよ。フリードがあそこに冒険の品を置いたのが始まりで、子供達の遊び場になっていたとかね」
 教えてくれた子供の言葉をライルは思い出す。足跡や草の折れた様子からあそこに人が良く出入りしているらしいのは解る。
 意外なまでに村から遠くない森の中、木々に阻まれ古い岸壁の中央に穿たれた穴は大人が入るには小さく狭く暗い。
 正に子供達の隠れ家だった。
「雨風を凌げて水場が近い。なるほど、あそこなら絶好ですね?」
 フライングブルームで飛んでいる時には気付かなかった木陰の洞窟をシエラは感心したように見つめた。
『心配して近寄ったら怒られた。怖くて今は近づけないんだ!』
 子供は泣き出しそうな顔で言っていた。
「いつもじゃないけどここに戻ってきている時がある。とあの子達言ってたね。今はいる?」
 フレイアの問いにシエラは小さく呟いた。
「紅魔の目は光ならざる光を見通す。インフラビジョン」 
 だが、シエラの答えを待つ前に確信めいた声で彩鳳は告げる。
「いますわ。間違いなく」
 手のひらのブローチが銀の光を放つ。さっき、洞窟の前で拾った。
 彩鳳がかつてフリードに贈ったものだ。これを手放すと言うことは、きっと‥‥。
「‥‥います。洞窟の奥に人影感知」 
 洞窟の奥に蹲る微かな赤い光。だが、徐々に周囲と同じか、冷えた色になりつつある。
「急いだほうがいいな」
 ギリアムが呟き仲間を見る。彼自身はこの中に入るには少し大きすぎる。
「任せて頂けますか?」
 小柄な彩鳳の言葉に仲間達が頷く。
 全員の思いを受けて彼女は静かに洞穴の中に、足を踏み入れた。

 洞穴の奥で少年は膝を抱え蹲る。
 頭の中で囁く声がする。
『目的を叶えよう。夢を、願いを叶えるのに邪魔な者は‥‥』
「僕はそんなことは望んじゃいない!」
 少年は自らの心に浮かぶ『声』を振り払う。その繰り返しだった。
 旅立とう。望みを叶える為に。
 声はそう言う。それに従いたいと思う心がある。
 だが‥‥。
 冒険者との出会いの中で得た物が少年の心をかろうじて支えていた。
 ‥‥カサ。
 軽い音がした。少年は顔を上げる。
 自分以外の人がいない筈の場所に、光があった。
「フリード様?」
 一番会いたかった。でも一番見られたくなかった人物。
「あ、あ‥‥うわあ!」
 声を上げ、フリードは立ち上がり、彩鳳の横をすり抜けて行った。
 捕まえようとした手が空を切る。
「フリード様!」
 洞穴の闇を抜け少年が外へと飛び出す。その瞬間
「待て。フリード!」
 リオンは逃げる方向を読んで、立ちふさがるように手を伸ばした。
 駆け寄るフレイア。だが、
「うっ!」 
 微かな痛みと紅い筋が手に走る。
 飛び退った少年の右手に握り締められたナイフが震えるように揺れる。
「それは‥‥」
 声を上げてフレイアはナイフを見つめた。
「僕に近寄らないで!」
「フリード!」
 魂に響く声、冷静な、力強い声に錯乱しかけたフリードの背中が伸びる。
 視線の先には敬愛して止まない、冒険者達。
「抵抗しろ! 諦めるな! くたばったらそれで終わりだぞ!」
「冒険者を目指してるあんたなら、こんなことに負けちゃだめだ!」
「子供を助けたんだって? そして今も必死に戦っている。‥‥もう立派な冒険者さ、キミは。だから負けるな」
 冒険者の一声、一声ごとにフリードの表情が苦しそうに歪んでいく。
『逆らうな。逆らえばお前の望みは永遠に叶わなくなるぞ。目の前の敵を倒せ。それこそ冒険者への道』
 そんな『声』が冒険者にも聞こえたような気がした。フリードを蝕む声。
「できない。あの人たちを傷つけるなんて。それくらいなら‥‥」
 ナイフを持つ手が動く。
「ダメだ!」
 銀の矢がフリードの頭上をすり抜ける。
 小さな隙。その時、赤と黒。フリードを思う二つの魂が同時に動いた。
 前方からフレイアが両手を押さえ背後から彩鳳が彼の背中にしがみ付くように、強く抱きしめた。
「捕まえた! 戻ってくるんだ。フリード!」
「放して下さい。でないと、僕は‥‥皆さんを!」
「放さない。このナイフをフリードは絶対にこんな風に使いたいなんて思わない。あたしは知ってる!」
「思い出すのです。貴方が冒険者になりたいと思ったのは大切な人達を守りたかったからでしょう? 忘れないで」
「‥‥あっ」
 耳に、いや心に伝わってくる思い。
 フリードが自分のものと思い込んでいた暗い意思とは違う光。
 心に彼らがくれた暖かいものを思い出させた。
(「そうだ、僕はそんなことを思いはしない。大切な者を傷つけるくらいなら、僕は冒険者になれなくてもいい‥」)
「気ぃ抜くんじゃないぞっ。今助ける!」
「闇の誘惑に囚われてはなりません。貴方なら呪縛を打ち破れる。自分と、そして私達を信じて!」
「振り払え! フリード。お前には出来る筈だ!」
「「「「フリード!」」」」
 呼びかけられた声に答えるように身体が震えた。小さな身体が全力で、抵抗するように空を仰ぎ、声を上げた。
「離れろ! 僕の中から! 僕じゃない何かよ!」
『ぐおおう!』
 声にならない声と共に、青白い影が噴出すように少年の身体から離れていく。
 と、同時。足元から崩れ落ちる少年の身体を彩鳳とフレイアはしっかりと抱きとめ支えた。
「よう‥‥相棒、良く、頑張ったな」
「諦めずによく頑張りましたわね」
「良くやったね。フリード。後は、任せておいて」
 優しい兄のように微笑むとリオンはフレイアに向けて、自分の防寒着を投げる。
 揺らめく青白い影。
 冒険者達はそれを鋭い目で見つめた。フリードと、彼を守る二人の間に立つように。
『そやつは‥‥わしのもの。共鳴する願いを持つもの‥‥よこせ。返せ』
 どこかで聞いたような声に、ギリアムは小さく舌を打つ。
「やはり貴様!」
 彼にはこのレイスに思い当たることがあるのだろう。
 だが、それを知らないからこそシエラは炎の魔法と共に強く言葉を放った。
「誤解して貰っては困ります。普通の人ならレイスの憑依に抵抗など出来る物ではない筈。貴方の出る幕など無いのです」
 リオン、ライル‥‥そしてクリムゾンの意思が青白い影を滅ぼそうと射抜く。影は怯えるように揺れる。
『わしは‥‥ただ、あの方の下へ‥‥』
「ここは手前のいる場所じゃねぇ!」
 ピーーン!
 張り詰めた弓の音に目を醒ましたフリードを迎えたのは
「よく頑張ったね‥‥君の強さが皆を助けたんだよ」
 冒険者の優しい笑顔達だった。

「ハックション!」
 鼻を擦るリオンを冒険者達は笑って見つめた。
 寒さの中フリードに自分の防寒着を貸してやっていたリオンは、予想通り風邪をひいたようである。
「だから、まるごとクマさん貸そうかって言ったのに」
 笑うライルにリオンはキッパリ拒否をする。
「ヤダ! そんなの女の子達に見られたらまた‥‥」
 それ以上は言わぬが身の為と沈黙する。
 彼と冒険者の適切な手当てのおかげで、フリードは大きな外傷も無く村に戻った。
 完全に回復したのを見届けて冒険者達は村を後にした。
 その数日、冒険者が子供達に囲まれたのは言うまでも無い。
 子供達が差し出した『お礼』もちゃんと受取った。
「これからどうするのでしょうね‥‥」
 彩鳳は首にかけた首飾りを弄びながら呟く。彼がなめした黒皮で作ったと言うそれに付けられた星が不安げに光る。
「まあ、後は親子の問題だしね」
 言ってフレイアは右手を見る。血止めにとフリードが巻いてくれたスカーフ。
 まだなんとなく外せないでいた。
「でも、あの子ならきっと‥‥おや?」
 軽く後ろを見たクリムゾンは目を瞬かせた。村の方向から走りよって来る影。
「「「「「「「フリード!」」」」」」」
「やっと‥‥追いつけた。‥‥僕も、連れて行って下さい」
 息を切らせそう言った少年の前にギリアムが真っ直ぐに立つ。
「約束は‥‥どうした?」
 フリードはその目を見上げ、答える。
「両親の許可を得てきました。勿論、村長のも」
「冒険者は楽な道じゃない。あれよりもっと怖い目に何度も遭うかもしれない。それでも続ける覚悟はあるか?」
「はい!」
「そうか。なら‥‥来い」
 迷いの無い返事に、振り返ったギリアムの背中が言う。
「行こう。フリード!」
「大事なのは、強い気持ちを持ち続けることだ。それを忘れなければ、立派な冒険者になれるぜ」
「歓迎します。真摯な思いを持つ冒険者の誕生を」
「こいつはアンドラ。俺の大事な相棒さ」
 新しい仲間を冒険者達の笑顔が優しく包み込む。
「‥‥フリードさん」
 喧騒の中、静かに近づいた彩鳳は彼にだけ、聞こえる一言をそっと囁いた。耳元にキスするように。
「えっ?」
 ボッと燃えるように少年の顔が赤くなる。
 悪戯っぽくその反応を見つめる黒い瞳。
「‥‥何を言ったんだ?」
「ないしょ、ですわ」
 ギリアムの追求を羽根のように交わして彩鳳は笑う。
 照れを必死に隠して前を行く少年。
「‥‥男の子が男になっていくのってのはこう言う時なのかもしれないね」
 雪と青空、腕の青いスカーフ、少年の背中と仲間達の笑顔。
 冬のモノトーンの中、輝く光、守れたものを大事そうに眩しそうに見つめて、フレイアはその光の中へと自らも入っていった。

 こうして、少年は旅立つ。
 守られるだけの時を終えて、守る者としての第一歩を。
 その道が叶うかどうか、答えが出るのはまだ遥か先のこと。
 だが、今は彼の行く先に光があることを誰もが信じ、また祈っていた。

●コミックリプレイ

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