●リプレイ本文
●奇妙な村
「え〜っと、この村に外道という賊が現れた聞き、伺わせてもらったのですが‥‥何かご存知の事はないでしょうか?」
最後に外道が目撃された村に辿り着き、綿津零湖(ea9276)が村人達にむかって声をかける。
「それはご苦労様です。ささっ、こちらで詳しい話を‥‥」
村人達は一瞬戸惑った表情を見せたが、直ぐに揉み手で迎え入れ村の宿屋まで連れて行く。
「‥‥あからさまに怪しいですね」
零湖の耳元で囁きながら、十六夜桜花(ea4173)が辺りを警戒した。
村は異様に静まり返っており、誰かに監視されているような気分である。
「しっ‥‥、気づかれます」
静かに首を横に振り、零湖が村人達の後をついて行く。
村人達の案内した宿屋は物凄く綺麗に掃除されており、零湖達が部屋に到着したのと同時に温かい料理が運ばれる。
「その食い物はあんた等の物だ。気を使わんでいいぜ」
目の前に置かれた料理には手をつけず、虎魔慶牙(ea7767)が保存食にかじりつく。
「いえいえ、憎き外道を倒していただけるのですから、遠慮せずに召し上がってください。それに‥‥料理を食べていただけないなら、詳しいお話も出来ませんので‥‥」
いやらしい笑みを浮かべながら、村人のひとりが慶牙に迫る。
「‥‥そう来たか。分かったよ。食えばいいんだろ」
仲間達のアイコンタクトに気づき、慶牙が大袈裟に料理を食べたフリをした。
本当は食べたくなかったのだが、ここで村人達の警戒心を高めてしまっても意味はない。
(「‥‥女、子供の姿はまったくなしか‥‥」)
村人達の雰囲気からある程度の状況を察し、零湖が外道の手下がいないか辺りを睨む。
‥‥異様な気配。
外道の手下はすぐ傍に立っていた。
怪しく瞳を輝かせ‥‥。
「うまく村人に化けたつもりでしょうが、殺気までは消す事が出来なかったようですね」
すぐさま日本刀を引き抜き、桜花が外道の手下を威嚇する。
「‥‥愚かな奴め。このまま薬で眠っていれば、楽に死ねたものを‥‥」
短刀を引き抜き桜花を睨むと、外道の手下が畳にむけて唾を吐く。
「あんた、馬鹿だろ? 村の連中はみんな痩せこけているのに、てめぇだけガタイがやけにイイんだよっ!」
どぶろくを口に含んだあと、慶牙が斬馬刀を振り下ろす。
「おっと‥‥、危ねぇ! おい、てめぇら! 何をボサッとしてやがる! ‥‥分かるだろ?」
不機嫌そうな表情を浮かべ、外道の手下が村人達にむかって声をかける。
村人達は少し躊躇したようだが、包丁などを握って慶牙を睨む。
「やめておけ。そんな武器じゃ、俺達は殺せねぇ‥‥」
何処か寂しげな表情を浮かべ、慶牙が静かに首を横に振る。
「うっ、うわあああああっ!」
怯えた様子で雄たけびをあげ、村人が包丁を振り下ろす。
「殺れねえって‥‥言っただろ」
包丁を素手でガッチリと掴んだまま、慶牙が悲しげな表情を浮かべて口を開く。
村人は慶牙を見つめたまま腰を抜かし、ガタガタと身体を小刻みに震わせている。
「たくっ‥‥、根性がねぇな! まぁ、いいさ。代わりはいくらでもいるからな」
いやらしい笑みを浮かべて村人の頭に短刀を突き刺し、外道の手下が畳に落ちていた包丁を拾ってペロリと舐めた。
「なんと‥‥酷い真似を‥‥」
アイスチャクラムを作り出し、零湖が外道の手下に攻撃を仕掛ける。
外道の手下は余裕で攻撃をかわしたが、零湖は決して諦めず更なる一撃を放つ。
「やるじゃねえか。だが、それだけの人数じゃ俺は殺れねえぜ」
含みのある笑みを浮かべ、外道の手下が包丁を構える。
「‥‥余裕ですね。この状況で‥‥」
外道の手下を睨みつけ、桜花が出入り口に立って逃げ道を塞ぐ。
「当たり前だろ! こっちはてめぇらの倍‥‥いや、4倍だ! 死ぬ気でやりゃあ、お互い無傷じゃいられんだろ。‥‥やっちまえ!」
外道の手下を合図に村人達が一斉に襲い掛かる。
瞳には涙を浮かべ‥‥。
家族の名前を呟きながら‥‥。
「馬鹿野郎っ! まだ分からねえのか!」
村人達を一喝し、慶牙がゴクリと酒を飲み干した。
「‥‥騙されているんだよ、あんたらは。その証拠に、家族はなぁ‥‥」
そこで慶牙が口をつぐむ。
ここで真実を語るべきか悩みつつ‥‥。
「家族は‥‥なぁ‥‥」
拳を震わせ、吐き捨てる。
真実を語るため、力を込めて‥‥。
「言ってみろよ。真実をさ! 人間ってのは壊れやすいんだぜ。心も‥‥身体も‥‥な!」
満足した様子でゲラゲラと笑い、外道の手下が慶牙を何度も挑発する。
「ひ、酷い‥‥」
あまりの非道さに心が痛み、桜花がポトリと涙を流す。
‥‥村人達は知っていた。
だが、信じたくなかっただけなのだ。
「てめえらが来なきゃ、コイツらもこんな思いはしなくて済んだのになぁ。まったく罪作りな奴らだぜ」
村人達の肩を叩き、外道の手下がニヤリと笑う。
「少し‥‥黙っていてくれますか」
とうとう我慢が出来なくなり、零湖が警告まじりに呟いた。
「ははっ! そうだよ、その目! てめえらだって同じじゃねえか! 俺と同じ人越しさ」
挑発するようにして両手を開き、外道の手下が馬鹿にした様子で零湖を睨む。
「あんた‥‥外道だな‥‥」
鋭い視線を外道に放ち、慶牙がボソリと呟いた。
「‥‥さあな。だが、さっきの言葉は本当だぜ。てめえらも俺と同じだろ。心の中じゃ、人殺しを楽しんでいる。気が変わったら、いつでも東の砦に来てくれ。そんときゃ、特等席を用意するぜ! じゃあな!」
そう言って外道が村人達を盾にして宿屋から逃げていく。
不気味な笑みを浮かべながら‥‥。
●外道のアジト
「‥‥ここか。外道のアジトは‥‥」
警戒した様子で辺りを睨み、高町恭也(eb0356)が忍び足を使ってアジトの傍まで近づいた。
外道のアジトは洞窟の中に存在しているのだが、その入り口には何故か見張りすら立っていない。
「‥‥ここが外道のアジトか。ヤツには相応しい場所だな‥‥」
クールな表情を浮かべながら、緋室叡璽(ea1289)が松明をかざす。
途中で罠が仕掛けてある可能性もあるため、慎重に辺りを見回しながら進んでいく。
「‥‥不気味なくらいに静かだな。やはり罠か」
インフラビジョンを使って辺りを睨み、鷹見沢桐(eb1484)がひとつずつ部屋を確認する。
ほとんどの部屋はそのままの状態だったが、外道の手下が隠れている様子はない。
「この様子じゃ、その可能性が高いな。だが、このまま手ぶらじゃ帰れんだろ?」
ムーンアローを放っても全く反応がないため、黒畑緑太郎(eb1822)が警戒した様子で洞窟の奥へと進んでいく。
「妙な匂いがするな‥‥。それに‥‥静か過ぎる。まさか、人質達は‥‥」
洞窟の奥から異様な臭いが漂ってきたため、恭也が険しい表情を浮かべて走る。
臭いのする方向を目指して‥‥。
「やはり‥‥そうか」
山のように積まれた死体を目の辺りにしたため、叡璽が視線を逸らして拳を握る。
村人達の死体は死後数日ほど経っており、腐汁で汚れた地面に無数のウジが這い、まともに正視出来ないほどだ。
「‥‥私達に対する挑戦か」
外道の嘲笑う姿が脳裏を過ぎり、桐が言葉を吐き捨てた。
村人達の死体は苦悶の表情を浮かべており、身体には無数の拷問痕が残っている。
「まさかこの中に外道がいるって事はないよな」
再びムーンアローを発動させ、緑太郎が本物の外道を探す。
死体の中に外道が隠れていれば、ムーンアローが命中するはずなのだが、やはり反応はないようだ。
「‥‥待て。壁に文字が書かれてないか?」
調査の途中で異変に気づき、恭也が死体の山を退かしていく。
ほとんどの死体が腐っているため、移している途中でボロリと崩れ、そのたび刺激臭が辺りにもわんと漂った。
「‥‥物凄い臭いだな」
纏わりついてきたハエを払い、叡璽が恭也と一緒に死体を退ける。
「後で埋葬してやらんとな。このまま放っておいたら目覚めが悪い」
村人達の死体が死人憑きになる可能性も高いため、桐が外道達の使っていた荷車を見つめて死体を積んでいく。
「これで文字が読めるな。どれどれ‥‥畜生。フザけた事を!」
壁に書かれた文字を読み、緑太郎が怒りで拳を振るわせる。
『腰抜けどもへ、臆していないのなら、東の砦まで来いがいい』
‥‥それは外道からの挑戦だった。