●リプレイ本文
●沈んだ村
「‥‥人喰樹と死人憑きか。京は天皇様のお膝元だというのに‥‥。志士の一人として何とかしてかねぇとな」
人喰樹のある村を訪れ、鷹波穂狼(ea4141)が辺りを睨む。
村は冒険者達で溢れ返っているものの、村人達の表情は暗く覇気がない。
「まったく自然とは大したものだな。このようなものまで生み落とすとは――無論、この世界は我らヒトだけのものではないのだろうが‥‥。だが、ヒトとして生きる者として、害成す存在を見過ごす訳にはいかぬな」
クールな表情を浮かべながら、天螺月律吏(ea0085)が村外れにむかって歩き出す。
村外れには人喰樹があるのだが、まわりには無数の死人憑きが立っている。
「‥‥人喰樹か、面白れぇ。なんか、余所の依頼でオーラ使いが人喰樹の蔦や枝を吹き飛ばしたらしいしな。俺も負けてられねぇぜ!」
自信に満ちた表情を浮かべ、バーク・ダンロック(ea7871)がニヤリと笑う。
人喰樹は無数の蔦をウネウネさせ、バーク達を激しく威嚇する。
「はあ‥‥、日本刀じゃなくて、伝説の包丁だったらなァ」
残念そうな表情を浮かべ、美芳野ひなた(ea1856)が大きな溜息をつく。
人喰樹の体には日本刀が突き刺さっており、それを目当てに冒険者達が集まっているため、死体憑きの数も日に日に増えているようだ。
「そう言えば剣の持ち主って冒険者だったのよねぇ。ギルドに聞いた話じゃ天涯孤独って事だけど‥‥、それが理由で冒険者になったのかしら」
何処か寂しそうな表情を浮かべ、渡部不知火(ea6130)がボソリと呟いた。
もしかすると名も無き冒険者の躯は、いまのこの辺りを彷徨っているかも知れない。
「しかも人喰樹って物凄く強いようですから、皆さん、十分注意して下さいね」
警告まじりに呟きながら、ひなたが人喰樹の恐ろしさを語る。
「どうやらのんびりしている暇はなさそうだな。‥‥死人とは言え元は冒険者‥‥、最後まで侍の誇りを抱かせて逝かせるのがせめてもの情け‥‥正々堂々相手を致す‥‥!」
死人憑きがユラユラとむかって来たため、緋室叡璽(ea1289)が刀を抜く。
「(また会えたのに‥‥。私はどう声をかけたら良いのでしょうか‥‥)」
胸が締め付けられるほどの痛みを感じ、神有鳥春歌(ea1257)が瞳を潤ませ叡璽の背中を見守った。
うまい言葉が見つからず‥‥。
●死人憑き
「三月、行くよっ!」
愛犬『三月』に飛び乗りテレパシーを使い、ベェリー・ルルー(ea3610)が死人憑きの間をすり抜ける。
死人憑きはルルーの行く手を阻むようにして立ちふさがり、鋭い爪で三月の体を引っかいた。
「あまり無茶をしないようにね。人喰樹はシフールが大好物だって噂だし‥‥」
スマッシュを放って死人憑きを攻撃し、佐上瑞紀(ea2001)がルルーを見つめてクスリと笑う。
「うん、大丈夫!」
満面の笑みを浮かべながら、ルルーが大きく深呼吸をした後、犠牲になった冒険者達に対して鎮魂歌を歌いだす。
歌声よ永遠(とわ)まで届け
痛みも苦しみも 全て解き放(はな)ち
いつかは辿(たど)る道 されど 辿(たど)るに早過ぎし 魂よ‥‥
無限(おお)なる祈り 抱(いだ)かれて 今はただゆっくりと 眠れ‥‥
眠りし者たちに捧ぐ 歌 彼方(かなた)まで届け
深き深き想い 永遠(とわ)までも ‥‥祈り続けん‥‥ 鎮魂歌
進撃歌(戦意向上)
進撃せよ! 進撃せよ! 進撃せよ!
恐れ無くただひたすらに歩みも止めずひたすらに
進撃せよ! 進撃せよ! 進撃せよ!
勝利は我らの手の内に!
「それにしてもキリがないな。ここ数日でまた死体が増えたのか」
斬馬刀を使って死人憑きの頭をふっ飛ばし、虎魔慶牙(ea7767)が疲れた様子で溜息をつく。
死人憑きは次から次へと襲ってくるため、油断しているとすぐにまわりを囲まれてしまう。
「この中に刀の持ち主だった冒険者も紛れ込んでいるんだろうな。出来れば後で弔ってやりたいが‥‥」
何処か寂しげな表情を浮かべ、パウル・ウォグリウス(ea8802)が死人を睨む。
死人憑きの大半は冒険者だった者が多いため、どれが刀の持ち主なのかは分からない。
「纏めて弔ってやらないか。コイツらと同じ冒険者として‥‥」
人喰樹の攻撃を仕掛けるため、雪守明(ea8428)オーラを練りつつ間合いを取る。
「‥‥冒険者としてか。アイツらも同じ理由で私達を死人憑きにしようとしているのかも知れないな」
オーラソードを使って死人憑きを倒し、律吏が険しい表情を浮かべて辺りを睨む。
死人達は頭をフラフラと揺らし、口からダラリと腐汁を垂らす。
「それじゃ、きちんと断っておかないとな。熱心に口説かれる前に‥‥」
冗談まじりに微笑みながら、穂狼が死人憑きと対峙した。
死人憑きは唸り声をあげながら、穂狼にむかって襲い掛かる。
「ここは俺に任せておけええええええええええええ!」
雄たけびをあげて死人憑きの群れに突っ込み、バークがオーラアルファーを使って辺りの敵を倒していく。
「うわっ‥‥、あっという間に半分ですね。こっちも負けていられません。ごお、ちゃっぴい! 死人さんをやっつけて下さ〜い!!」
大ガマの術を使って巨大なガマを召喚し、ひなたが死人憑きに対して勝負を挑む。
「それにしても‥‥強いわね。腐っても元は冒険者と言う事かしら」
冒険者の骸を苦しみから解放するため、不知火が急所を狙ってトドメをさす。
「この世に未練を残した分、生前より強くなっているかも知れないな」
死人憑きの身体を真っ二つに両断し、叡璽がバックアタックを放って辺りを睨む。
「あ、あの‥‥」
まったく声をかける事さえ出来ぬまま、春歌がアイスチャムラムを使って叡璽の事を援護する。
叡璽も春歌の存在には気づいているが、うまい言葉が見つからずなかなか話しかける事が出来ない。
「‥‥もう少しだ。みんな生きてるか」
荒く息を吐きながら、慶牙がムックリと立ち上がる。
死人憑きは単体ならそれほど強くはないのだが、集団で襲ってきた場合は時間が経つにつれ冒険者が不利になっていく。
「眠るのにはまだ早過ぎるんじゃない? こんなところで眠ったら、それこそ彼らの仲間入りよ」
豪空波(ソニックブームとスマッシュの合わせ技)を繰り出し、瑞紀が死人憑きを倒して慶牙にむかって声をかける。
「‥‥無茶を言うな。これでも頑張っているんだぜ」
苦笑いを浮かべながら、慶牙がダラリと汗を流す。
慶牙のまわりには無数の死人憑きが転がっており、手足をバラバラにされて動く事さえままならない。
「これをひとりで!? 凄い〜♪」
死人憑きの山に気づき、ルルーが感動した様子で慶牙を褒める。
「だが、途中で怪我をしたら意味がない。意識まで朦朧としてきたしな」
身体についた腐汁を拭い、慶牙が疲れた様子で溜息をつく。
死人憑きを全滅させる事は成功したが、少し休まなければ戦いで負った傷が癒えそうにない。
「それにしても凄い臭いだね。‥‥お洗濯で落ちるかなァ? 戦いが終わったら、着物や下着の汚れ物をひなたに預けて下さい。後で皆さんのお家に届けしますから♪」
満面の笑みを浮かべながら、ひなたが回収用の籠を指差した。
「それじゃ、俺も頼むかな。もちろんヤツを倒してから‥‥」
手拭いを使って金属拳の汚れを拭き取り、パウルが警戒した様子で人喰樹を睨みつける。
人喰樹はその場から動く事が出来ないため、こちらから攻撃を仕掛けない限り、怪我をする事はない。
だが、しかし‥‥。
「ここまで来たんだ。やるしかないな」
既に覚悟は決まっていた。
●人喰樹
「老木ではあるが数多くの人間を喰らってきた相手‥‥生半可な一撃では無に等しい‥‥今の自分には力不足ではあるが‥‥、刀は侍にとって誇りその物‥‥それを餌にするなどという侮辱は断じて許さん‥‥!」
日本刀についた腐汁を払い、叡璽が人喰樹をジロリと睨む。
「みんな覚悟はいいな。‥‥死ぬなよ」
オーラボディを発動させ、律吏がオーラソードで斬りかかる。
人喰樹は無数の蔦を伸ばして反撃し、律吏達を威嚇しながら何度も攻撃を仕掛けてきた。
「さぁ、噂の人喰樹のお手並み拝見といくかぁ!」
気合を入れて斬馬刀を握り締め、慶牙が雄たけびをあげて蔦を斬る。
「それじゃ、元凶の一つを取り除くとしましょうか」
クレイモアを構えて豪空波を放った後、瑞紀が人喰樹にスマッシュの連打を打ち込んだ。
それと同時に人喰樹の蔦が瑞紀の身体を捕らえ、勢いよく持ち上げ力任せに放り投げる。
「こりゃあ、面倒だな。毎日冒険者が来ていたから、元気が有り余っているのか」
無数の蔦を避けながら、穂狼がスマッシュを放って舌打ちする。
食料となる人間が豊富にいたため、他の人喰樹に比べてやけに強い。
「あんまり俺の傍に近づくなよ。‥‥巻き添えを食らいたくなかったらな!」
出来るだけ人喰樹の蔦を引き寄せ、バークが再びオーラアルファーを発動させた。
「あ、危ないわね。死ぬかと思ったわ」
バークのオーラに驚きながら、不知火が慌てた様子で後ろに下がる。
「いいねぇ、この雰囲気。さぁ、もっと楽しもうぜぇ!」
戦闘の緊張感に包まれながら、慶牙が寸前で蔦をかわしてスマッシュEXを放つ。
それと同時に大量の体液が慶牙の身体にかかり、辺りには肉の腐ったような臭いが漂った。
「植物は植物らしく大人しくしてな!」
すぐさま野太刀でスマッシュを放ち、穂狼が腕のように太い蔦をふっ飛ばす。
「くゥ〜ッ、痺れるゥッ! これは負けちゃいられねぇっ!」
仲間達の活躍を見て胸が痺れ、明がニヤリと笑って長巻を握る。
次の瞬間、一番太い蔦が動き出し、穂狼の肩を一瞬にして貫いた。
「ぐはっ‥‥、マズッた‥‥」
人喰い樹の蔦が肩にズブリと突き刺さり、穂狼が険しい表情を浮かべて膝をつく。
それと同時に無数の蔦が穂狼を襲い、辺りを血の海に変化させる。
「こんな所で死ぬんじゃねえぞ!」
無数の蔦を盾で受け止め、パウルがスマッシュを放つ。
度重なる攻撃によってパウルも疲労しているが、このまま穂狼を見捨てて逃げ出すほど彼も冷たくない。
「俺の事は気にするな。戦いに‥‥集中しろ‥‥」
強引に蔦を引きちぎり、穂狼がフラつきながら立ち上がる。
出血が激しいためこれ以上戦う事は出来ないが、致命傷は免れたため命に別状はない。
「離れろっ!」
次の瞬間、バークが人喰樹めがけて腕を突っ込み、再びオーラアルファーを発動させる。
「おっと‥‥、口に合わなかったかな?」
ビクビクと痙攣を始めた人喰い樹を睨みつけ、バークが勢いよく腕を引き抜いた。
「最後は‥‥この一撃を受けて果てるがいい‥‥。志半ばで散った冒険者達の想いとともに‥‥」
すぐさま人喰樹の身体に突き刺さっていた日本刀を抜き取り、律吏が気合を入れて懐に潜り込み必殺の一撃を叩き込む。
彼らの無念を晴らすため‥‥。
「‥‥残念ながら弔おうにも花が無い。‥‥貴方達も光明を求めて冒険者になった身であろう。‥‥ならばせめてその想いを俺が預かる。‥‥それが俺からの弔いの花‥‥だから‥‥今は安らかに眠ってくれ‥‥」
人喰樹が倒された事を確認し、叡璽が冒険者の死体を集めて土に埋める。
冒険者のほとんどは身元が確認出来ないほど損傷が激しかったため同じ場所に埋葬されたのだが、その中でも身元の分かった遺体はギルドに身元を調査してもらい遺族の元に届ける事になったらしい。
「迷わず成仏して下さいね」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、春歌が村で手に入れた花を備える。
「‥‥綺麗だな。‥‥ありがとう‥‥」
春歌の顔をしばらく見つめ、叡璽がボソリと呟き俯いた。
ふたりとも‥‥うまい言葉が見つからない‥‥。
「ところで刀はどうするの? 刀は武士にとっては自身そのもの。器がもう還れないのなら、魂だけでも還してあげたいじゃなぁい? ‥‥魂を引き継ぐ者が居れば、それに越した事は無いけどねん」
律吏の手に入れた刀を見つめ、不知火がニコリと微笑んだ。
「元の所有者に返して供養すべきだが‥‥」
困った様子で辺りを見つめ、律吏が大きな溜息をつく。
この村にはこの刀を目当てにやって来る冒険者も多いため、このまま放置しておけば間違いなく盗まれてしまう。
「難しい事は言わずにッ、もらっとけもらっとけッ」
律吏の肩を優しく叩き、明がコクンと頷いた。
冒険者の遺志を継ぐ事。
‥‥それが何よりも大事な事だ。