●リプレイ本文
●外道
「しばらく京都を離れていたが、この様な事になっているとは‥‥、外道に関わる者は、外道となるとでも言うのでしょうか。悪しき連鎖、見逃せません」
外道によって命を奪われた村人達の亡骸を葬り、山王牙(ea1774)が悲しげな表情を浮かべて両手を合わす。
犠牲者達が埋葬されている墓地までは、マナウス・ドラッケン(ea0021)が案内してきたのだが、残鉄の娘らしき遺体は見つからない。
「外道が予め『死んだ後の』指示を手下に出していたとするなら話が変わってくるな。‥‥これはもう一波乱ありそうな按配だ」
冒険者ギルドで残鉄の娘の名前を調べ、パウル・ウォグリウス(ea8802)がゆっくりと口を開く。
残鉄に関しては公開されている以上の情報はなく、ほとんどの事が謎に包まれているらしい。
「‥‥強さを得るにはあえて狂う事も必要‥‥か。‥‥今の彼は何者にも勝るだろう‥‥だが───」
このまま放っておく訳には行かない。
緋室叡璽(ea1289)が拳を握る。
残鉄の暴走を止めると心に誓い‥‥。
「‥‥結局皆さんだって‥‥理由があれば命を奪うんですね‥‥」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、美芳野ひなた(ea1856)が顔を俯かせる。
心では分かっていても、素直に認める気にならない。
「そういう訳じゃないけど、残鉄さんみたいに無我夢中な人って苦手だわ。全く疑いもせず悪人の言いなりになっているんですもの。‥‥まいっちゃうわ」
疲れた様子で首を振り、紅千喜(eb0221)が溜息をつく。
根っからの悪党なら相手にしやすいのだが、残鉄のような一直線な性格の男は相手にする気にはならない。
「残鉄のおじさんは、まず倒す‥‥ここで死ななくても残る命はもう‥‥。ただ娘さんについては、生きているのか、もしくは、なんで死んだのか。‥‥冒険者のとった行動の所為なのか、そうでないのか‥‥。本当の事をボクは知りたいし‥‥、仮に操られ、それを知らないまま死ぬのは、辛いと思うから‥‥」
残月と娘の身を案じながら、草薙北斗(ea5414)がゆっくりと口を開く。
酒場などを回って情報を集めてみたが、やはり有力な情報は得られない。
「残鉄さんの憤る理由は解りました‥‥が、止めさせてもらいます」
聖なるロザリオを握り締め、楠木麻(ea8087)が覚悟を決める。
彼の気持ちも分かるのだが、それが正しい選択とは思えない。
「ここで残鉄さんを見逃しても、いつか捕まってしまいます。その間の逃避行で、また犠牲者がでるかもしれない‥‥。でも‥‥、それでも‥‥外道の言葉に、逆らってみたいんです。想いだけじゃ変わらない、‥‥ひなたたちは力だけの存在じゃないから‥‥。ごめんなさい、ひなた‥‥今日だけはワガママになります」
小声でボソリと呟きながら、ひなたが残鉄達のアジトにむかう。
残鉄達のアジトは深い森を越えた先。
‥‥そこで彼が待っている。
●残鉄のアジト
「それにしても頻繁にアジトを変更しているんだな」
行く先々で情報を集め、八幡伊佐治(ea2614)が残鉄の足取りを追っていく。
村人達の話から外道の残党がかなり残っている事は分かったのだが、報復を恐れているためかなかなか真実を語ろうとする者はいない。
「それだけ俺達の事を恐れているという事だろう。もしくは‥‥逆か」
大きな溜息をつきながら、ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)がボソリと呟いた。
今まで会った者達の中に外道の関係者がいないとも限らないため、村人達もあまり外道の残党について語らなかったのかも知れない。
「罠が仕掛けられている様子はありませんね」
北斗と一緒に草むらを調べてまわり、ひなたが仲間達のところに戻ってくる。
「ここに来る途中‥‥、罠はまったくなかったな。‥‥やはり余裕がなかったのか?」
何処を探しても罠を見つけ出す事が出来なかったため、ウィルマ・ハートマン(ea8545)が首を傾げて呟いた。
「‥‥何だか嫌な予感がするな」
今までの事を思い出し、虎魔慶牙(ea7767)が辺りを睨む。
「やはり‥‥罠か」
残鉄のアジトが分かったため、ウィルマが黙って村を出る。
村人達からは最低限の話しか聞く事が出来なかったが、断片的に集まった情報を繋ぎ合わせる事で残鉄の居場所を絞り込む事に成功した。
「‥‥考えてみればおかしな事ばかりですからね。この事件の裏には、きっと何かあるはずです‥‥」
ブレスセンサーを使って辺りを警戒しながら、牙が大薙刀を構えて森の中を進んでいく。
残鉄達の待つアジトを目指し‥‥。
「‥‥そろそろだな」
少し開けた場所に辿りつき、パウルが茂みの中に身を隠す。
残鉄達は森の奥にある古びた廃屋に潜んでいるらしく、外道の残党が辺りを警戒しながら歩いている。
「‥‥外にふたり、廃屋の中に13人か。真ん中にいるのか残鉄だろうな」
ブレスセンサーを発動させ、伊佐治が敵の数を特定した。
「‥‥残鉄さんは縁のある人に譲るわね。あたしは外道の残党を捕まえるから‥‥」
金属拳を両手にはめ、千喜が茂みの中から飛び出していく。
「それじゃ、行くかっ!」
アッシュエージェンシーで作った身代わりを行かせ、伊佐治が茂みに隠れてしばらく様子を窺った。
「ちっ! とうとうここも潮時か」
外道の手下は刀を抜いて斬りかかって来たが、千喜は身軽な身のこなしで攻撃をかわすと懐に潜り込んで足払いを放つ。
「お前達はこの『蒼眼の修羅』が相手をしてやる。来い! 喰らえ! 奥義、絶刀撃!!」
チャージングを発動させ、ウェントスが男達にむかって斬りかかる。
「ゾロゾロと現れたな‥‥。確実に‥‥仕留めるっ!」
残党の振り下ろしてきた刀を弾き、叡璽がカウンターを放って辺りを睨む。
相手も必死なのか、やけに殺気立っている。
「ひなた‥‥本当にどうすればいいのか分かりません」
迷いで身動きが取れなくなり、ひなたがその場に立ち尽くす。
「やるしかないんです。僕達が冒険者である限り‥‥」
大きく深呼吸をした後、麻がグラビティーキャノンを撃ち込んだ。
それと同時に廃屋が吹っ飛び、戦意を失った残党が逃げていく。
「‥‥残ったのは数人ですか」
壊れた廃屋の中に座っている残鉄に気づき、ひなたが険しい表情を浮かべて汗を流す。
残鉄自身は眉ひとつ動かしていないが、残った残党が奇妙な叫び声をあげながらむかって来る。
「誰だって命は惜しいだろ」
念のためファイヤーボムを放っておき、伊佐治が疲れた様子で溜息をつく。
最後まで残っていた残党もその一撃で腰を抜かし、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすようにして逃げだした。
「逃がすかっ! ‥‥覚悟は出来ているんだろうな」
すぐさま逃げ道を塞ぎ、パウルが怪しくニヤリと笑う。
「何か文句があるなら、奉行所でして頂戴」
そう言って千喜が残党の身体を縛っていく。
奉行所に突き出すため、誰ひとりとして容赦せず‥‥。
●残鉄
「あんたが残鉄か。なら、俺はその残滓を斬る者、『斬鉄』となろう」
ようやく立ち上がった残鉄を睨みつけ、慶牙が斬馬刀を構えて間合いを取る。
「死にたくなかったら‥‥、ここから去れ」
慶牙の顔をジロリと睨み、残鉄が警告まじりに刀を抜く。
「理由は知っている、だから掛かってきな。1人の武士として、勝負致す!」
真剣な表情を浮かべながら、慶牙が残鉄に対して答えを返す。
「‥‥面倒だ。構わず纏めて掛かって来い」
含みのある笑みを浮かべ、残鉄が慶牙の斬馬刀をガシリッと弾く。
「しかし辛いよなぁ‥‥。彼女が生きているのであれ死んでいるのであれ、娘のために罪のない人間を切ったと、娘に言えるか?」
どこか寂しそうな表情を浮かべ、パウルが素早く日本刀を引き抜いた。
「‥‥だろうな。故に後戻りする事は出来ん。両手が血塗られたままでは‥‥」
パウルの言葉を聞いて顔を俯かせ、残鉄が小刻みに身体を震わせる。
「さあ、一端の悪鬼気取るなら‥‥、最後まで根性見せて見やがれ」
不機嫌そうな表情を浮かべ、パウルが残鉄に刀をむける。
「いいだろう。‥‥死ねっ!」
それと同時に残鉄がパウルの刀を叩き落し、返す刀で彼の喉元に狙いをつけた。
「君が関係のない冒険者達を殺して、気持ちが晴れるのか? 娘さんが喜ぶと思うのか!?」
ライトシールドを使って体当たりを浴びせ、ウェントスがパウルを助けて残鉄を睨む。
「‥‥ボクから見たら、おじさんも外道だよ。そんな姿を‥‥娘さんは望むような娘さんだったの‥‥?」
悲しげな表情を浮かべ、北斗がボソリと呟いた。
「‥‥何とでも言うがいい。お前達と話す事など何もない」
自らの思いを断ち切るようにして、残鉄が次々と斬撃を放っていく。
「‥‥残鉄さんは罪を重ねすぎました。でも、それは行方不明の娘さんを愛してるからのはず‥‥。ただ流されるまま、理屈をつけて戦ったんじゃ‥‥それこそ、外道ですよ」
残鉄の攻撃を避ける事なく、ひなたが真剣な表情を浮かべて叫ぶ。
何も答えぬ残鉄を見つめ‥‥。
「悪いが今のお前に情けを掛ける義理は無い‥‥。数多に散っていった冒険者の意志を継ぎ、成し通す‥‥そう誓ったんだ‥‥お前が堕落したなら俺は誓い通さねばならない‥‥」
ひなたの身体に当たる寸前で刀を弾き、叡璽が日本刀を構えて前に出る。
「命を掛けているのは、貴方だけではありません」
スマッシュ+ソードボンバーを放ち、牙が残鉄の刀を弾き飛ばす。
「残鉄‥‥、外道を殺したのは俺だ! そして分かってるんだろう!? あんたの行動は唯の八つ当たりにしか過ぎないって!」
刀を拾おうとした残鉄にファイヤーボムを放ち、マナウスが呆れた様子で溜息をつく。
「‥‥殺せ。このまま生きていても娘に合わす顔がない‥‥」
戦う術をなくしたため、残鉄が険しい表情を浮かべて目を閉じる。
「殺しはしません。ですが‥‥しばらく我慢していてもらいます。あなたの娘さんが見つかるまで‥‥」
そう言って麻がストーンを使う。
「こ、殺せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
次第に身体が石化していく中、残鉄の雄たけびが辺りに響く。
麻達に対して呪いの言葉を吐きながら‥‥。