●リプレイ本文
「釣瓶落しに頭からバリバリと喰われる‥‥か。ガキの頃、悪さする度、木に吊るされて脅されたのを思い出すな。しかし神木とまで呼ばれる木に魔物が棲み付くとは一体何があったんだろうな」
神木と呼ばれた木を遠くから眺め、東樂坊春慶(ea0722)が大きな溜息をつく。
釣瓶落しが住み着いた事で村人達は警戒し、誰も神木を崇めようとは思うはない。
それどころか神木が呪われてしまったのだと勘違いしたため、神木を恐怖の対象として恐れている者までいるようだ。
「村の皆に大切にされている木ならば、自分に住み着いた妖怪の類が人に害を成す事は不本意でもあるな‥‥」
哀れみの表情を浮かべ、木賊真崎(ea3988)が神木に同情する。
神木を苦しみから解放するためにも、釣瓶落しを退治しなければならないだろう。
「今回も手強そうな敵だな‥‥」
険しい表情を浮かべながら、ティーゲル・スロウ(ea3108)が神木を睨む。
(「飛翔するらしいアンデットの相手、この国でも暇をしそうにない。それに自分を鍛えてアイツと渡り合えるようにならなければ‥‥。俺の左腕を奪ったアイツと‥‥」)
過去の記憶を思い出し、ティーゲルがクルスソードを握り締める。
少しでも強くなるため、いまは経験を積むしかない。
「いささか荷の重い仕事でございますが、仏門に身をおく者としては見過ごすわけにはまいりませんね。路銀もつきかけておりますし」
戦乱のせいで職を失い生活費が必要になったため、矛転盾(ea2624)が僧兵として依頼に参加する。
少しでも懐を暖かくしなければならないため、ここで頑張らなければならない。
「意思無き不死者は、早急に世界に返すのが彼らにとっての救いだし、人々のためだからね」
村人達を納得させた上で、カイ・ローン(ea3054)が『害虫駆除中、進入禁止』の立て札を立てる。
少しでも犠牲者を減らす必要があるため、出来るだけの事はしているようだ。
「‥‥何時の間にそんな話になったんだぁっ!?」
不機嫌そうに鳳刹那(ea0299)を睨み、風羽真(ea0270)が不満げに愚痴をこぼす。
別の依頼を終え一息入れようとしていたのだが、恋人の刹那が自分の分まで依頼を取ってきてしまったため、ここまで馬を走らせ駆けつけたようだ。
「‥‥えっとぉ‥‥一日間違えちゃった。てへ♪」
バツの悪い表情を浮かべ、刹那がてへっと舌を出す。
全く悪気はなかったが、さすがに反省しているらしい。
「まあまあ、ふたりとも。こうやって間に合った事ですし、いまは釣瓶落しを倒す事だけ考えましょう」
苦笑いを浮かべながら、御蔵忠司(ea0901)がふたりをなだめる。
真はいまいち納得していない様子だが、ここでモメても作戦に支障が出るだけだ。
「それで‥‥どうする?」
地面の落ちていた木の実を弄び、レナン・ハルヴァード(ea2789)がクスリと笑う。
「高い所にいる敵は厄介だが、死者であるなら神聖魔法が有効だな。この面子なら何とかなるか」
安心した様子で仲間達を見つめながら、岩倉実篤(ea1050)が釣瓶落しに警戒されないように刀を隠す。
釣瓶落しの知能がどれほどあるかは分からないが、用心に越した事はないだろう。
「この様子じゃ、木に登って倒すという選択肢を選ぶ羽目にはならないな」
軽く冗談を言いながら、フレーヤ・ザドペック(ea1160)が神木を睨む。
遠くから見た限りでは怪しい所は何処にもないが、あの木の中にたくさんの釣瓶落しが潜んでいる事は間違いない。
「それじゃ、援護の方は任せましたよ」
そして闇目幻十郎(ea0548)は釣瓶落しを誘き寄せるため、仲間達と一緒に神木へと近づくのであった。
「一応お参りもしておきますか‥‥。どうかこの度のお勤めが無事に終りますよう‥‥」
ご神木を見つめて両手を合わせ、盾がゆっくりと祈り始める。
釣瓶落しが現れた事で効果があるかは不明だが、何もしないで戦うよりは心の支えになってくれそうだ。
「さて、何時何処で仕掛けて来ますかね‥‥」
一直線に神木までむかわないように蛇行して、幻十郎が感覚を研ぎ澄ませながら物音に気を配る。
神木の幹には何かがぶらんとぶら下がっており、いまにも落下してきそうな雰囲気だ。
「まずは様子見だ。奴等が神木を離れても獲物を追うか確認しておかないとな」
神木を拝みにきた者を装って神木に近づき、実篤が釣瓶落しの落ちてくる間合いを図る。
釣瓶落しは実篤の気配に気づくとすぐに落下し、頭を丸かじりしそうな勢いでガチガチと歯を鳴らす。
「なかなかすばしっこいな。それほど時間を稼ぐ事は出来そうにないか」
何度も噛まれそうになりながら、実篤が大粒の汗を浮かべて左右に避ける。
出来るだけ他の釣瓶落しをしないようにするため最低限の動きしかしていないのだが、釣瓶落しが一体落ちてしまった事で、他の釣瓶落しも連鎖するようにして落ちていく。
「化けモンになった揚句、勝手に神聖なモノに取り憑いてんじゃねぇよっ!!」
忍ばせていた短刀を引き抜き、真が釣瓶落としにトドメをさす。
釣瓶落しは真の素早い攻撃に反撃する事さえ出来ないまま、短刀の一撃を喰らって辺りに腐汁をバラ撒いた。
「だ、大丈夫!?」
実篤に噛み付こうとしていた釣瓶落しを六尺棒で殴り飛ばし、刹那が真と一緒になって実篤の事を援護する。
「ああ、何とかな。それよりも‥‥来るぞ」
襲い掛かってきた釣瓶落しを刀で弾き、実篤が険しい表情を浮かべて汗を拭う。
「さすがにこれだけの相手をすると疲れますね」
必死で釣瓶落しの攻撃をかわし、忠司が小太刀を振り下ろす。
釣瓶落しの攻撃が激しいため、少しでも気を抜けば神木まで傷つけそうだ。
「文句を言っている暇はないぞ。奴等は次々と襲ってくるからな」
なるべく多くの釣瓶落しを引きつけ、レナンがロングソードを振りまわす。
戦っている間にあちこちを噛まれたため、他の仲間達に比べて相手にする釣瓶落しの数が多い。
(「‥‥悪いが、暫く一緒に闘って貰えるか?」)
プラントコントロールを使って御神木に語りかけ、真崎が祈るようにして目を閉じる。
神木はすぐに反応すると枝を動かして葉を散らし、釣瓶落しの落下するタイミングをずらす。
「人に仇名す意思なき不死者よ、今世界に返してやる。青き守護者カイ・ローン、参る」
念のためグッドラックをかけておき、カイがスピアを構えて勝負を挑む。
「ココはお前らが住む所にあらず。大人しく冥府に帰るがいい」
釣瓶落しをぶら下げている蔓のような物を狙い、実篤が倒れそうになりながらもブラインドアタックを放つ。
すると釣瓶落しは地面へと落下し、奇声を上げて実篤に噛み付こうとガチガチと歯を鳴らす。
「‥‥意外と有効的な戦い方かも知れんな」
地面に落ちた釣瓶落しを刀で突き刺し、実篤がほっとした様子で汗を拭う。
まだ何体もの釣瓶落しがいるが、戦い方さえ分かれば怖くはない。
「これで何とか勝てそうですね」
仲間達が魔法を詠唱する時間を稼ぐため、忠司がわざと釣瓶落しを引きつける。
かなり疲れているため少し休みたい気分だが、釣瓶落しの数が多いためもう少し時間を稼がなくてはならないようだ。
「対処法さえ分かれば何も怖くはありません。こんな所で彷徨っていないで早々に成仏しなさい!」
オフシストを使って釣瓶落しの攻撃をかわし、幻十郎が忍者刀を使って釣瓶落しの蔓を狙う。
「‥‥悪いな。時間を稼いでもらって‥‥」
ビカムワースの詠唱を終え、春慶が慌てて横に飛ぶ。
釣瓶落しは春慶の一撃を喰らって地面に落ち、実篤に踏まれて動かなくなる。
「神よ、我に力を与えたまえ‥‥。一撃で決める! 唸れ、聖なる光よ!!」
タイミングを計ってホーリーを放ち、ティーゲルが釣瓶落しを破壊した。
危うく齧られそうになったが、ぎりぎり釣瓶落しを仕留めたらしい。
「それ以上、俺に近づくな!」
釣瓶落しに噛み付れそうになったため、フレーヤが険しい表情を浮かべてスマッシュを放つ。
すると釣瓶落しはぶらぶらと揺れ、フレーヤの事を挑発する。
「ここは貴方がたには相応しくございません故、餓鬼道辺りへお連れいたします」
カウンターアタックで釣瓶落しを迎撃し、盾がブラックホーリーで釣瓶落しをピンポイントに攻撃した。
「‥‥みんな大丈夫か。途中で倒れるなよ」
スピアの先に刺さった釣瓶落しを放り投げ、カイが荒く息を吐きながら仲間達にむかって話しかける。
「手間がかかるな、数が数だ‥‥」
傷ついた身体をリカバーで癒し、ティーゲルがクルスソードを振り下ろす。
かなり疲れがたまっているが、もう少しで釣瓶落しを始末できそうだ。
(「もう少しで終わるからな」)
神木にむかって語りかけ、真崎が最後の釣瓶落しを引きつける。
「喰らえっ!」
大きく口を開いた釣瓶落しにスピアを突っ込み、カイがそのまま足で何度も何度も踏み潰す。
「任務完了‥‥だな」
釣瓶落しが動かなくなったのを確認し、ティーゲルが疲れた様子で神木に寄りかかる。
「願わくは高給な働き口か働かずにすむ富が手に入りますよう‥‥。精神面の幸福は間に合っておりますので、物質面の方を、なにとぞ‥‥」
魔除と称して結社グランドクロスの旗を御神木の近くに立て、盾が改めて神木に対して両手を合わす。
神木は何も答えてくれないが、村人達はきっと喜ぶはずだ。
「不死者が住み着く不浄があるのかも知れないし、住み着いて穢れがついたかも知れないから念のため‥‥」
神木にピュアリファイをかけておき、カイが自分の立てた立て札を引き抜く。
ピュアリファイの効果があるかは分からないが、村人達を安心させる材料にはなるだろう。
「一度、釣瓶落しが発生した原因を調べる必要があるようだな」
釣瓶落しのいないなった神木を見つめ、春慶が疲れた様子で溜息をつく。
未だに原因が分からないため、ここで安心することはできない。
「うげ‥‥、いつの間にか身体に釣瓶落しの腐汁がこびりついちまったな。死臭臭くてたまらないや。何処か湖はないかな?」
気持ち悪そうな表情を浮かべ、フレーヤが近くにある湖を探す。
戦っている時はそれほど気にならなかったのだが、落ち着いてみるとかなり臭い。
「それじゃ、私達は帰ろうか」
真の馬を引き連れ、刹那が優しく声をかける。
真はまだ不機嫌そうだが、刹那から手綱を受け取り溜息をつく。
「‥‥全く勝手な事しやがって‥‥帰ったら思いっきり哭かしてやるからな!?」
怒り半分諦め半分で刹那に文句を言いながら、真が自分の馬に飛び乗り刹那を待つ。
「また何時か、同じ依頼に行こうね♪」
そして刹那は真の乗っている馬に乗り、彼にそっと寄りかかりニコリと微笑むのであった。