●リプレイ本文
●石舞台古墳
「‥‥これだけしか集まらなくて、申し訳ないわね」
黄泉大神を倒すために結成された決死隊に参加し、朱蘭華(ea8806)が沖田総司(ez0108)に頭を下げた。
石舞台古墳には巨大な石を積み上げて作った玄室があるのだが、封印が破壊された時に封土が吹き飛び、黄泉比良坂の入り口が剥き出しになっている。
「‥‥気にしないでください。蘭華さんが悪い訳ではありませんし‥‥」
ゆっくりと首を横に振り、沖田がニコリと微笑んだ。
作戦の失敗は『死』を意味している。
無理に参加しろとは沖田も言えない。
「‥‥そんなに悲しい顔をしないでっ! あたしまで悲しくなっちゃうから‥‥」
大粒の涙を浮かべながら、昏倒勇花(ea9275)が巨体を揺らして沖田に抱きつく。
「あ、あの‥‥、あなたは?」
困った様子で勇花を見つめ、沖田が気まずく汗を流す。
誠の鉢金を巻き、巫女装束を纏い、卒塔婆を担いだジャイアント。
‥‥沖田は言葉を失った。
「あたしは癒しの乙女、こんとーちゃん。でも心無い方は、あたしの事を『最終兵器彼氏』と呼ぶわ‥‥」
ただならぬオーラを漂わせ、勇花が寂しそうに溜息をつく。
「よ、よろしく‥‥」
勇花のおかげて緊張が解れたのか、沖田が苦笑いを浮かべて挨拶した。
先程とは異なり、表情にも余裕がある。
「大丈夫さ! 俺がついてりゃ、百人力だっ! 任せておけよっ!」
自分の胸をポンと叩き、劉蒼龍(ea6647)がニヤリと笑う。
元から危険は承知のうえ、いまさら逃げるつもりはない。
「頑張りましょう。‥‥何とかなるわ」
仲間達に対してオーラパワーを付与し、蘭華がゆっくりと辺りを見回した。
新撰組一番隊の隊士も作戦には参加しているが、相手にするのが人間ではなく死人のため、彼らといえど生きて帰れる保証はない。
「ここで倒れるわけにはいかないからな。‥‥俺にはやるべき事が残っている!」
鬼神ノ小柄を握り締め、ティーゲル・スロウ(ea3108)が気合を入れた。
精鋭部隊のひとりとして参加している以上、虎長の期待に応える必要がある。
「乙女には花を‥‥。童には笑顔を‥‥。戦士には死地を‥‥。そして、死者には安らぎを‥‥。それが世界のあるべき姿。それを妨げるなら、例え神であろうとも‥‥斬る」
道返しの石を勇花に渡し、デュランダル・アウローラ(ea8820)が魔剣『トデス・スクリー』を握り締め、クールな表情を浮かべて呟いた。
今回の依頼で使用したアイテムは、追加報酬として沖田から渡されるため、使い惜しみをする必要はない。
「好奇心が猫を殺し、諦めが人を殺す。此処には我々のみ、ならば我々がやらねば誰が出来るか? さあ、行こう。想像に考えうる最大最悪の事態に比べれば、この程度はおそれるに足らない‥‥」
闇の中で蠢く死人達の気配を感じながら、オリバー・マクラーン(ea0130)が黄泉比良坂の入り口を睨む。
何者かの視線に気づかぬまま‥‥。
●黄泉比良坂
「‥‥本当に真っ暗だな」
ランタンを使って照らし、蒼龍が黄泉比良坂を下りていく。
黄泉比良坂の内部は暗くじめじめとしており、しばらくの間は、なだらかな坂道を続いている。
決死隊の隊員は不意打ちに備え、楔形に陣形を組むと、正面の切り込みに沖田、勇花、デュランダル。
雑魚の払いに新撰組隊士、蘭華、オリバー。
斥候及び遊撃に蒼龍。
回復にスロウと役割を分担した。
「これじゃ、何処かに敵が潜んでいても分からんな」
警戒した様子で辺りを睨み、スロウがランタンを照らす。
人間とは異なり死人には気配がないため、不意打ちされないように注意する。
「既にまわりを囲まれているような気もしますが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、オリバーがロングソードを引き抜いた。
‥‥異様な気配。
心臓の高鳴りと共に、嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「まさか、これって‥‥」
左腕に装備した龍叱爪を素早く構え、蘭華が警戒した様子で辺りを睨む。
暗闇にボンヤリと浮かぶ無数の髑髏。
‥‥死霊侍がそこにはいた。
「悪い予想ほど、よく当たるな」
魔剣『トデス・スクリー』にオーラパワーを付与し、デュランダルが死霊侍との戦闘に備える。
死霊侍は侍が悪意と共に蘇った存在で、生前の剣術を覚えているため強敵だ。
その背後には死人憑き、怪骨、怨霊などの姿もあり、簡単に先には進めない。
「‥‥やるしかないってわけね」
ゆっくりと軍配を構え、勇花が死人達と間合いを取る。
いつまでも刀を抜こうとしない沖田を気にしながら‥‥。
●数十分後
「‥‥バオ・フー・チャン‥‥これで何体目かしらね」
死人達の攻撃をオフシフトでかわし、蘭華が爆虎掌を放って叩き込む。
‥‥既に倒した死人は数十体。
次から次へと死人が襲い掛かってくるため、油断しているとすぐにまわりを囲まれてしまう。
しかも死人達は疲れる事がないため、状況的にはこちらの方が不利である。
「やれるだけやるしかない。心していくぞ!!」
ホーリーライトを使って辺りを照らし、スロウが一気に間合いを詰めて『我流剣技・葬魔刀(シュライク)』を放つ。
死人達を倒すたび何とも言えない臭いが漂い、胃液が込み上げてくるような感覚に襲われる。
「‥‥大丈夫か? みんな顔色が悪いぞ」
心配した様子で仲間を見つめ、蒼龍がランタンを照らす。
明かりを持っているせいか、蒼龍は死人に狙われ続けているが、回避能力が高いためなかなか敵の攻撃が当たらない。
「本音を言えば‥‥限界です。これだけの死人を相手にしていますからね」
ライトシールドを使って死人の攻撃を受け止め、オリバーが疲れた様子で汗を拭う。
一番隊の隊士は死人達に襲われ、生き残っているのは数名だ。
「こ、このままじゃ、マズイわね‥‥」
死霊侍の攻撃を軍配で受け流し、勇花がカウンターを使って相手を掴み、スープレックスを使って敵の集まっている場所に放り投げる。
「か、囲まれたか‥‥」
怪骨めがけてスマッシュEXを放ち、デュランダルが魔剣についた腐汁を払う。
‥‥明らかに切れ味が落ちている。
しかし、沖田は動かない。
「なぜ戦わないっ! ここまで来て、怖気づいたか!」
沖田をジロリと睨みつけ、スロウが納得のいかない様子で文句を言う。
「違うっ! そうじゃないんだよっ!」
‥‥沖田が答える。
わずかに声を震わせて‥‥。
「この刀を抜いたら‥‥僕が‥‥僕じゃなくなるから‥‥」
そう言って沖田がゆっくりと刀を抜く。
真っ青な刀身を輝かせ‥‥。
●沖田
「化け物だな、ありゃ‥‥」
‥‥刀を抜いてからの沖田は無敵だった。
まるで紙を切るような感覚で、次々と死人達を倒していく。
無表情のまま、黄泉比良坂を駆け下りながら‥‥。
「お、おい、待てよ! 俺達を置いていく気か?」
慌てた様子で声をかけ、蒼龍が沖田の後を追いかける。
「す、すみません‥‥。でも、目的地には着いたようですね」
荒く息を吐きながら、沖田がクスリと笑って辺りを睨む。
目の前には地底湖が広がっている。
「ここは‥‥黄泉の国ね‥‥」
地底湖の中心に建てられた社を見つけ、蘭華が警戒した様子でゆっくりと歩く。
「グッ‥‥グォォォォォ!」
社の中にはカサカサの肌をしたミイラが鎮座しており、蘭華達の姿に気づくと唸り声を上げて立ち上がる。
黄泉人達を率いる首領、黄泉大神。
飛鳥の地を恐怖のどん底へと陥れた、祟り神‥‥。
「我を‥‥再び‥‥封印するのか」
その言葉に反応するようにして、湖の中から黄泉人達が現れる。
蘭華達を殺すため、ふらふらと頭を揺らし‥‥。
「ひとつ‥‥聞きたい事がある。酒天童子について、何か知らないか? 知っているのならお前を倒して答えを聞くまでっ!!」
スロウの攻撃が黄泉大神に炸裂する。
バースト+シュライク+チャージングの複合技。
‥‥『我流剣技・葬魔刀・砕』である。
「知らぬ」
素っ気無く答えを返し、黄泉大神が素早く刀を振り下ろす。
「ぐおっ‥‥」
持っていた刀を落とし、スロウが黙って膝をつく。
‥‥実力の差があり過ぎる。
まともに戦っても勝ち目はない。
「期待しているわよ、隊長さん」
オーラパワーを沖田に付与し、蘭華がすぐさま後ろに下がる。
その隙に黄泉大神が咆哮をあげ、蘭華達の動きを封じ込めた。
「‥‥なるほど。これは効きますね」
オーラエリベイションとオーラパワーを発動させ、オリバーが黄泉人めがけてロングソードを振り下ろす。
「は、早く倒さないと‥‥。後ろから死人達が迫っているわ」
いまにも逃げ出したい衝動に駆られ、勇花がオリバー達にむかって声をかける。
何とか恐怖の咆哮に耐える事は出来たが、このままでは挟み撃ちされてしまう。
「‥‥マズイな」
荒く息を吐きながら、デュランダルが目を閉じる。
‥‥一筋の汗が頬を伝う。
大量の血を見てしまうと狂化してしまうため、目を閉じたまま一気に黄泉大神との間合いを詰め、全身全霊を込めた一撃『ブラストセイバー・クロス(カウンターアタック+スマッシュEX)』を黄泉大神に叩き込む。
それと同時に放たれた一撃。
‥‥デュランダルは宙を舞う。
「大丈夫だっ! ‥‥まだ生きている!」
デュランダルの生死を確認し、蒼龍が大声を上げる。
死人達と戦っていた隊士の大半は命を落としてしまったため、早急に決着をつけねば目的を果たす事なく全滅してしまうだろう。
「‥‥動けますか?」
デュランダルに優しく手を差し伸べ、沖田がニコリと微笑んだ。
「あ、ああ‥‥」
朦朧とする意識の中、デュランダルが魔剣を握る。
「一気に攻めるぞ。しくじるなよ」
‥‥スロウが動く。
沖田達の動きに合わせて‥‥。
黄泉大神の咆哮が辺りに響く中‥‥。
「クッ‥‥」
険しい表情を浮かべて刀を握り沖田が走る。
一撃‥‥二撃‥‥三撃‥‥。
スロウ達の攻撃が次々と命中し、黄泉大神が崩れ落ちた。
「これで‥‥終わりです‥‥」
黄泉大神の断末魔が響く中、沖田がゆっくりと刀を納める。
「それじゃ、帰りましょうか」
ホッとしたような表情を浮かべ、沖田がニコリと微笑んだ。
黄泉大神が倒された事で、地上には平和が戻るだろう。
しかし、それはすべての始まりでもあった。