●リプレイ本文
●一番隊入隊試験
黄泉比良坂決死隊に参加して命を落とした一番隊隊士の不足を補うため、沖田総司(ez0108)が冒険者達を呼び集め、ひとりずつ一番隊の入隊試験を行う事となった。
●天螺月律吏(ea0085)の場合
「‥‥天螺月律吏、と申します。宜しくお願い致します」
自己紹介をした後、律吏が深々と頭を下げる。
「こちらこそ、よろしく。‥‥それじゃ、一番隊を選んだ理由と、僕に対する印象について答えてくれるかな?」
爽やかな笑みを浮かべながら、沖田がゆっくりと口を開く。
何も知らない相手が見れば、沖田は温厚で隙だらけの青年という印象を受けるが、律吏ほどの実力者が沖田を見れば彼に全く隙がない事が分かる。
それどころか攻撃を仕掛けようとした時点で、自分の首が宙を舞っている事だろう。
「それでは遠慮なく‥‥。‥‥一冒険者という立場は、常に自分の意思で己の往く道を選ぶ事が出来る。それは『自由』であるのと同時に、大局の成り行きを一番外側から走る、という事だ。‥‥先だって、とある調査中に私は『江戸城』に仕えると思われる忍の一団に襲われた事がある――彼らの『真実』は未だ闇の中。ただ言えるのは、源徳家康公の周辺にて何か動きがある、という事。ならば公の支援を受け、かつこの京の都で『先陣』を努めるこの隊に身を置き、時代の流れ(真実)を肌で感じたいと望む――それが、私が一番隊入隊を希望した理由であり、この隊にてやりたい事‥‥。沖田殿に関しては――刀の性(さが)を持ちし方、かと。鞘に納まっている間は穏やかだが、一度抜き放てば恐ろしいほど鋭利で。刀を手にする者ならば、少なからずその性を持ち合わせるかと思うが――彼はそれを凝集させたような存在に思える。ともすれば、只人ではないような――そんな錯覚さえ覚えさせられるほど。例えるならば良くも悪くも『諸刃の剣』‥‥」
自分の思いをぶつけた後、律吏が沖田から手渡されたお茶を飲む。
「色々と調べているようだね。‥‥合格だよ」
ニッコリとした笑みを浮かべ、沖田が律吏を一番隊の隊士として認める。
沖田の面接では、今までに参加した依頼や、入隊希望者の人柄及び実力なども見られるのだが、律吏には何の問題もなかったため、すべての話を聞く前に採用が決まったようだ。
「それから、余談になるが一つ願いが‥‥。今一度の隊士募集をお願いしたい。この度の募集は急であり、京の都の安寧に尽くして来た多くの者が黄泉人との戦いに出向き、結果として試験を受けたくとも受けられなかったと聞き及びます。貴殿の片腕となれる可能性のある者は、まだ多くいると思うのだが‥‥」
真剣な表情を浮かべながら、律吏がボソリと呟いた。
「確かに‥‥、全員採用したとしても、予定していた人数には達してないし、もう一度、募集してみた方がいいかも知れないね。あまり時間は残されていないけど‥‥」
そう言って沖田がゆっくりと立ち上がる。
何処か寂しげな表情を浮かべ‥‥。
●平島仁風(ea0984)の場合
「‥‥武州の素浪人・平島仁風、護国護仁の力となりたく馳せ参じた次第にて候‥‥あー、やっぱ駄目。堅っ苦しいの駄目なんだわ、俺」
苦笑いを浮かべながら、仁風が正座を止めて胡坐を組む。
「ははっ、構わないよ。面接はその人のすべてを見るから、普段のままで‥‥。それじゃ、面接を始めようか?」
仁風がリラックスできるように胡坐を組み、沖田がクスリと笑って一番隊の入隊試験を開始する。
「まずは、何故に新撰組隊士を志したかってのは‥‥、先頃に御偉方が揃って一悶着あったばっかでキナ臭さプンプン・黄泉人も未だ蔓延るこの御時世、不肖の身ながら俺も天下万民‥‥とまでは行かずとも、日々を気張って暮らしてる市井の連中の為に、一働きしてみようなんてぇ気になっただけって話で。その為に一人で出来る事にゃ限りがあるんでよ。一番隊だからどうこうって理由は特に無し。一番隊組長こと沖田のニィちゃんの思惑と俺の思惑、その他時勢やら何やらの巡り合わせが偶々重なっただけの事じゃ無いかねぃ」
沖田の出したお茶を飲み、仁風がさらりと答えた。
「その答えだと新撰組なら二番隊や三番隊でも構わないって事になるね? 理由としてはちょっと弱いかな‥‥。それじゃ、一番隊に入隊したら、何をやりたい?」
仁風の答えが納得出来るものではなかったため、沖田が次の質問をぶつけてみる。
「『世の父ちゃん母ちゃんが安じて屁でもこいてられる世の中にしたい』‥‥ちと大きく出過ぎかねぃ? 黄泉人にしろ不逞の輩にしろ戦禍にしろ、降りかかる火の粉を京の民に代わって払ってやりてぇってトコで。ちなみにお前に対する印象だが、悪い評判は聞かないねぃ。新撰組の一角の頭を張るからにゃ、人も出来てりゃ腕も立つってか。天は二物を与えずなんて言うから、差し詰め一つは自力で天からもぎ取って来たってなもんかぃ。大したもんで。‥‥まぁ、人から聞いた話だから妄信はしねぇけども。自分の目で人となりを確かめた訳じゃ無ぇんでよ」
茶菓子を美味そうに頬張り、仁風が沖田を見つめてニヤリと笑う。
「う〜ん、難しいなぁ。とりあえず保留って事で良いかな? 人間的には好きなんだけど、理由がね‥‥」
しばらく考え込んだ後、沖田が仁風の採用を保留にする。
実力的には申し分ないのだが、納得の出来る答えが得られなければ採用する事は出来ない。
例えどんな理由であろうとも‥‥。
●ゼルス・ウィンディ(ea1661) の場合
「さて次は‥‥フランク出身の人か。基本的に新撰組は外国の人は受け入れないようにしているけど、話だけでも聞かせてくれるかな? その答えによっては僕も考えてみようと思うから‥‥」
ウィンディを見つめて表情を強張らせ、沖田が一番隊の入隊試験を開始する。
まずは新撰組に入隊した理由‥‥。
「‥‥黄泉人に神剣と、この国は中々に興味深い事が多くあります。私はそれらの事に関わる事が出来、なおかつ、自分の知識と力を存分に生かせる場を探していました。噂に聞けば、沖田隊長は新撰組最強の実力の持ち主であり、先日も黄泉大神の討伐を任され、見事その任を果たしたとか。その方と行動を共にできるのです。迷う事無く、私は一番隊への志願を決めました」
クールな表情を浮かべながら、ウィンディが答えを返す。
‥‥悪くない答えである。
心の中で沖田が思った。
「それじゃ、一番隊に入隊したら、君は何をするつもりでいるのかな?」
ゆっくりとお茶を出し、沖田がウィンディの出方を見る。
「‥‥黄泉人に関する調査を。もちろん、どうすれば黄泉人を討ち滅ぼす事が出来るのかという点も含めて」
沖田に答えを返した後、ウィンディがお茶を飲む。
そして最後は沖田に対する印象だ。
「‥‥天才とまで謳われる方です。実力に関しては疑うところはありません。ですが、気になる点が一つ。沖田隊長は一人で悩みを抱え込んでしまうところのある方だと聞きます。戦いにおいて、悩みや迷いを抱えたまま戦うのは大きな危険をともないます。私が思うに、沖田隊長にはご自身の支えとできる、心から信頼できる戦友(とも)がいらっしゃらないのではないでしょうか? 願わくば、私がその戦友となれれば良いのですが‥‥」
それがウィンディの答え‥‥。
「君も保留にしておいていいかな? 別に君の性格に問題があるわけじゃないよ。実力的にも試験を受けに来た冒険者の中で一番上だしね。でも、フランク出身のウィザードとなると、源徳様の侍として資質を疑う人もいるんだよ‥‥。これは君も分かるだろう? 新撰組は傭兵集団じゃなくて武士なんだ。ただし、君の実力だけを考えた場合、このまま不採用にするのは実に惜しい。一番隊の正式のメンバーとして採用する事は出来ないけど、何らかの形で採用したいと思っているよ」
そう言って沖田がニコリと笑う。
不純な理由で一番隊に入隊しようと思っていたのなら、沖田も結果を保留にはせず不採用にしていたが、ウィンディの態度を見て気が変わり保留という結果になった。
本採用になるかは、今後のウィンディの行動と、それに状況変化を見定めなくてはならないだろう。
●夜十字信人(ea3094)の場合
「‥‥流浪の剣客だ。未熟者なれど、一番隊への入隊を希望させていただく」
沖田の待つ座敷に通され、信人が深々と頭を下げる。
まずは一番隊を選んだ理由‥‥。
「‥‥俺の生きる理由、ま、妹なんだがな(シスコン兄貴)に言われたのだ。『殺生の為に斬らないで、守る為に斬ってください』と。‥‥人斬りの名を持つ者に言うのは、場違いな言葉だ。だが、そういうのは嫌いでは無い俺も居る。そう、確かに、微力な俺でも、守れたものがあった。剣持てぬ者の為に剣を取る。その志は、江戸でも、京都でも違いは無いと思う。して、ふと沸いたこの依頼。京都の守り手として名高い新撰組。そして、その一番隊。ま、根本の部分に、一人の剣客としても興味と憧れもある。‥‥守り刀を一本加えては頂けぬか?」
信人の言葉に沖田が頷く。
「‥‥なるほどね。それじゃ、入隊したら何をしたい?」
淹れたてのお茶を信人に渡し、沖田がボソリと呟いた。
「大したことは考えられんよ。己を鍛え、与えられ任務を全うする。‥‥それだけかな、俺は」
信人の答えに沖田が腕を組んで考え込む。
「最後になるけど僕について、どう思う?」
これだけで結論が出せなかったため、沖田が次の質問をする。
「‥‥気の良い男だと思うよ。話を聞く限りではな。少なくとも、間違った方向に剣を突きつけるような事はせんはずだ。俺のようなトウヘンボクも、上手く使ってくれるだろうよ。故に、隊の長として従うのであれば全てを持ち忠義を尽くす。背を守り、前を守り、地獄のそこまでお供いたす」
それが信人の答え‥‥。
「う〜ん、微妙だね。もう少しハッキリした理由がないと、正式に採用する事が出来ないし‥‥。最初は仮隊士で採用ってところで、どうかな? 何も問題がなければ正式採用するつもりだから‥‥」
そう言って沖田がニコリと微笑んだ。
●水葉さくら(ea5480)の場合
「は、初めまして‥‥水葉さくらと言います。‥‥はぅ‥‥こういう事は、慣れていない‥‥ので‥‥ちょ、ちょぴり、緊張してしまいます‥‥。頑張りますので‥‥よ、よろしくお願いします」
恥ずかしそうな表情を浮かべ、さくらがペコリと頭を下げる。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。その方が僕も面接をしやすいから♪」
さくらが必要以上に緊張しているため、沖田が彼女が落ち着くのを待ってから本題に入る。
最初は新撰組一番隊を選んだ理由‥‥。
「理由‥‥ですか? 理由‥‥りゆう‥‥えっと、な、なんだか大変だというお話を聞いたので、お手伝いを出来たらな‥‥と‥‥。その、よ、余計なおせっかい‥‥だったでしょうか? すみません‥‥」
話をしている途中で再び緊張してしまい、さくらが困った様子で頭を下げた。
「別に謝る必要はないよ。こ、困ったなぁ‥‥。えっと、一番隊に入隊したら、何をしたいか教えてくれる?」
少し対応に困っているのか、沖田が気まずく頬を掻く。
「あの‥‥一番隊の皆さんのお手伝いをするんです‥‥よね‥‥? え? 私自身が‥‥ですか‥‥? 私は多くの皆さんの色々なお役に立てればと思っています。‥‥みんな、仲良くできると良いです‥‥よね?」
きょとんとした表情を浮かべ、さくらがさらりと答えを返す。
「それじゃ、お茶汲みとかやらされちゃうよ。えっと‥‥、最後の質問になるけど、僕に対する印象は‥‥?」
苦笑いを浮かべながら、沖田がボソリと呟いた。
「はぁ‥‥。お、お優しそう‥‥な、きれいなお顔‥‥です。え‥‥、あ、す、すみません。‥‥人のお顔をあまりマジマジと眺めるのも、し、失礼です‥‥ね‥‥」
マジマジと沖田の顔を見つめた後、さくらがぽぉっと頬を染める。
「と、とりあえず‥‥あれ? 君って新撰組三番隊仮隊士見習い何だよね? だったら悪いけど不採用かな。斉藤さんに後ろから刺されると困るから‥‥」
そう言って沖田が気まずい様子で汗を流す。
‥‥どうやら斉藤に釘を刺されていたらしい。