●リプレイ本文
●沖田
「‥‥弱者しか襲わぬ人の皮を被った鬼とは‥‥欠落しておるな。その鬼‥‥、身だけでも人ならば生かして捕縛‥‥それが最優先事項。何故、黄泉人らの中に居るのか‥‥事情を伺わねばならぬ」
新撰組一番隊の隊士として依頼に参加し、白河千里(ea0012)が馬に乗って問題の村にむかう。
今回の結果次第では依頼に参加した冒険者達にも、一番隊に登用される可能性があるため、千里も一番隊の先輩として他の冒険者達の面倒を見ている。
「‥‥江戸でも事件が起きているが、京都でも何かが動き始めているのは間違いないな」
馬を使って食料を運び、鷲尾天斗(ea2445)が煙管を吹かす。
ギルドに保護されていた村人達の話では、賊の人数が40人前後だと言う事は分かっている。
「沖田組長。‥‥今回の件、ひょっとすると覇道は逆に黄泉兵に操られているとは考えられませんか?」
険しい表情を浮かべながら、天螺月律吏(ea0085)が馬から降りる。
賊の中には不審な動きをしている者いるため、村人達全員が味方とは限らない。
「‥‥可能性は高いかも知れないね。だけど今は黄泉大神が倒れた事で本来なら現れるはずのない黄泉人達について調査する方が先じゃないかな?」
何か気になる事でもあるのか、沖田総司(ez0108)が問題の村を睨む。
それと同時に、とある男の言葉が蘇る。
『近いうちに、この地を災いと恐怖が襲うでしょう。しかし、貴方にはそれを止める事が出来るのです。この刀を扱う事の出来る貴方なら‥‥』
‥‥最初は意味が分からなかった。
大和の地に黄泉人達が現れるまでは‥‥。
「‥‥考え事か?」
草むらに身を隠すようにして村を睨み、氷川玲(ea2988)が沖田にむかって声をかける。
「な、何でもないよ。大した事じゃないから‥‥。それよりも村の方は大丈夫?」
苦笑いを浮かべながら、沖田が気まずい様子で視線を逸らす。
「あまり状況は良くないようだね‥‥。毎晩のように村人達を処刑しているようやし‥‥。うちらがここに来る事も知っていたようや‥‥」
グリーンワードを使って情報を集め、コユキ・クロサワ(ea0196)が疲れた様子で溜息をつく。
村のまわりに仕掛けた罠はプラントコントロール等を使って解除する事が出来たのだが、情報収集のために時間を掛けてしまうと村人達が処刑されてしまうため、のんびりしている暇はない。
●刀
「‥‥ここから村全体を見渡す事が出来ますね」
ギルドに保護された村人達に頼んで詳しい地図を描いてもらい、フィーナ・グリーン(eb2535)が高台に立って村の様子を窺った。
村のまわりにはたくさんの罠が仕掛けられているため、逃亡に失敗した村人達の死体があちこちに転がっている。
「何人か黄泉人達が混ざっているようだな。この気配‥‥、間違いない」
黄泉比良坂に潜った時の事を思い出し、デュランダル・アウローラ(ea8820)が偃月刀を引き抜いた。
デュランダルは黄泉比良坂決死隊に参加していたひとりであるため、黄泉大神が沖田に倒されたところをハッキリと覚えている。
そのため黄泉人が復活しているとは考えもしていなかったのだが、今までの話を纏める限り新たな支配者が暗躍している可能性が高い。
「村に黄泉人の影‥‥、この前の依頼を思い出す。駆け付けた時には既に誰も居ず。‥‥さて、急ごうか」
最悪の事態を想定した上で、八幡伊佐治(ea2614)が森の中を進んでいく。
覇道との交渉が決裂した場合、人質になっている村人達が殺されてしまうため、何処かで待機しておく必要がある。
「何だか‥‥、おかしいと思わないか? ゴロツキ達と黄泉人の組み合わせなんて‥‥」
滑るようにして森を駆け下り、鷹波穂狼(ea4141)が辺りを睨む。
ゴロツキ達は暢気に酒を飲んでおり、全くと言っていいほど危機感がない。
「やはり沖田さんに対する復讐が目的かも‥‥。妙に引っかかっているのよね。沖田さんの態度も、そうだけど‥‥」
沖田の様子がおかしいため、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)が険しい表情を浮かべて腕を組む。
黄泉大神が倒されてから、沖田の様子がおかしいため、ずっと気になっているらしい。
「‥‥謎を解く鍵は沖田隊長の持つ刀にあるのかも知れないな」
険しい表情を浮かべながら、パウル・ウォグリウス(ea8802)が口を開く。
沖田の所有している刀は、青白い刀身をしており、普通の刀とは何かが違う。
その証拠に沖田は片時も刀を手離さず、誰にも触らせようとしなかった。
「ひょっとして黄泉人達は刀の力を恐れているんじゃないのかのう。あの刀が存在している限り、黄泉人達は滅びる運命にあるのだから‥‥」
森と同化するため、三月天音(ea2144)が迷彩色の服を身に纏う。
黄泉大神すら恐れていたと言われる刀‥‥。
その刀に何か秘密が隠されている事は間違いない。
●交渉
「約束通り食料を渡すが、お前らの目的は一体なんだ? まさかこれだけが目的じゃないだろ?」
ゴロツキ達に囲まれ身体検査がされながら、天斗が両手をあげて覇道を睨む。
覇道達は警戒心が強いため、天斗達の持っていた武器を奪い、天斗達の逃げ道を塞いでいる。
「へへっ、てめえらには関係ねえだろ。用が済んだら帰りやがれ! ‥‥まったく。立場が分かってねぇな」
不機嫌な様子で天斗の事を睨みつけ、覇道が面倒臭そうな表情を浮かべて溜息をつく。
もともと天斗達と交渉するつもりがなかったため、覇道が挑発的な態度で天斗を脅す。
「お、お頭っ! コイツが刀を渡しやせんぜ!」
なかなか沖田が刀を渡そうとしないため、覇道の手下が慌てた様子で刀を抜く。
「‥‥‥‥」
しかし、沖田は全く動揺する事なく、刀に手を掛け手下を睨む。
(「‥‥やはり覇道の目的はあの刀か」)
インフラビジョンを使って覇道達の熱感知をしながら、千里がコホンと咳払いをして合図を送る。
「このままここに立て篭もっていても、いずれは検非違使が動くだろう。ならば今のうちに、このような事は止めた方が良いのではないか?」
辺りの様子を警戒しながら、律吏が覇道の腕をギュッと掴む。
「‥‥なるほど。そういう事か。俺を捕まえたって無駄だぜ! どうせ処刑される身だ。いまさら恐れる事など何もない」
律吏にむかって蹴りを放ち、覇道が素早く刀を抜く。
それと同時にコユキがプラントコントロールを発動させ、覇道達の動きを封じ込める。
「畜生っ! これじゃ、呼子が鳴らせねぇ!」
滅茶苦茶に刀を振り回し、覇道がチイッと舌打ちした。
交渉が決裂した場合、黄泉人達に合図を送る予定になっていたのか、覇道が妙に慌てている。
「それじゃ、村人達は黄泉人達と一緒か。どうやらマズイ事になったな」
覇道達を縛り上げ、玲が村人達の救出にむかう。
祈るような表情を浮かべ‥‥。
●黄泉人
「随分と時間が掛かっておるようじゃのう。そろそろ呼子が鳴ってもいい頃じゃが‥‥。まさか交渉が成立したのか?」
忍び歩きで村の中に入っていき、天音が警戒した様子で辺りを睨む。
天音達のいる場所からでは覇道達の姿が見えないため、交渉が成立したかどうかを知るためには呼子の音を聞くしかない。
「どちらにしても村人達を救出しておいた方が良さそうですね。覇道達が約束を守るとも限りませんから‥‥」
黄泉人達の奇襲を警戒し、フィーナが桃の木刀を握り締める。
次の瞬間、覇道の悲鳴が辺りに響く。
黄泉人達に知らせるため、わざと覇道が大声を出したのである。
「やっぱりマズッたか。えーっと、この地図を見る限りじゃ、村人達はここに囚われているようだな。急ぐぞ、みんなっ!」
ざっと地図を見た後、穂狼が隠身の勾玉を使って気配を消す。
村人達の囚われている蔵まで、それほど遠くはないのだが、覇道の合図で処刑が執行される可能性が高いため、黄泉人達に気づかれてはお終いだ。
「こっちだっ! 気を抜くなよっ!」
デティクトアンデットを使って黄泉人達の位置を確認した後、伊佐治が体当たりをして蔵の扉を破壊し、黄泉人めがけてコアギュレイトを発動させる。
「やはり‥‥村人達は‥‥」
梓弓を使ってダブルシューティングを放ち、アイーダが気まずい様子で視線を逸らす。
村人達は拷問された挙句、黄泉人達によって殺害されており、覇道の合図など全く関係がなかったようだ。
「‥‥覇道が離れたのと同時に村人達を殺害したようだな」
仲間達にオーラパワーを付与した後、パウルが十手を使って黄泉人達の攻撃を受け止めた。
最初から黄泉人達の目当てはパウル達だったため、狂ったように刀を何度も振り下ろし、不気味な唸り声をあげている。
「黄泉大神は、あの時‥‥、確かに倒したはず。なのに何故、お前達がまだこの地にいる?」
オーラパワーとオーラエリベイションを付与しておき、デュランダルが黄泉人達に対してバーストアタックを叩き込む。
黄泉人は不気味にケタケタと笑いながら、デュランダルの身体にしがみつき、鋭い爪を突き立てる。
「‥‥間に合わなかったか」
ようやく蔵に辿りつき、玲がガックリと肩を落とす。
覇道を捕縛した時から嫌な予感はしていたが、現実にその光景を目の当たりにするとショックはデカイ。
「落ち込んでいる暇はない。今は黄泉人を退治する方が先だっ!」
フレイムエリベイションを詠唱した後、千里がバーニングソードを刀に付与して攻撃に移る。
黄泉人達はパックリと口を開け、一斉に刀を振り上げた。
「そういや、お前達のリーダーはトンズラか? 何処かに隠れているんだったら、顔を見せろ! 新撰組一番隊『葬刀』鷲尾天斗が来てやったんだぜ」
霊剣『ミカヅチ』を使って黄泉人の腕を切り落とし、天斗が左手に持って桃の木刀で怯んだ黄泉人の足を砕く。
しかし、黄泉人達は何も答えず、天斗達にむかって攻撃を仕掛ける。
「‥‥やはり駄目か。敵の目的が沖田殿の刀である可能性が高い以上、何か手を打つ必要があるが‥‥」
黄泉人達にトドメをさし、律吏が疲れた様子で溜息をつく。
何か嫌な予感に襲われながら‥‥。