●リプレイ本文
●手負いの熊鬼
「‥‥熊鬼か。俺の実力を試すには丁度良い相手かも知れんな。前回の依頼では九尾の一派に遅れを取った。‥‥今度こそは」
固い決意を胸に秘め、鬼嶋美希(ea1369)が熊鬼闘士退治にむかう。
熊鬼闘士は身寄りの無い娘を人質にして、今も洞窟の中に立て篭もっているらしい。
「‥‥流石に雨は望めませんね。雨冷えで体力を奪っちゃいますから‥‥」
苦笑いを浮かべながら、プリュイ・ネージュ・ヤン(eb1420)が洞窟の前に立つ。
熊鬼闘士だけなら雨が降るまで待つ事が出来たが、人質が捕らわれている以上のんびりしている暇はない。
「上手く行くのかな‥‥」
心配した様子で溜息をつきながら、風御飛沫(ea9272)が馬から降りる。
手負いとはいえ熊鬼闘士は警戒心が強いため、短弓を構えて物陰に潜む。
「ココデ失敗ハ許サレマセン。手負イノ熊鬼闘士ホド恐ロシイモノハアリマセンカラ‥‥」
警戒した様子で洞窟の入り口を睨みつけ、理瞳(eb2488)が担架代わりに用意した一枚の戸板を地面に置く。
「大丈夫でしょうか、可憐さん‥‥」
愛馬『御雷丸』の頭を撫でて木に繋ぎ、七神斗織(ea3225)が可憐の安否を気に掛ける。
熊鬼闘士が洞窟の中に立て篭もってから、早数日‥‥。
‥‥彼女が生きている可能性は低い。
「必ず彼女を助け出してくれ」
熊鬼闘士を引きつけるため、白九龍(eb1160)が洞窟の中に入っていく。
「グオオオオオオオオオオオン!」
それと同時に洞窟の中から咆哮が響き、負傷した熊鬼闘士が白を追いかけるようにして現れた。
「ここは私に任せてっ! 七神さんは人質の方をお願いね。‥‥蝦蟇ちゃん!! やっちゃって!」
大ガマを召喚して熊鬼闘士の逃げ道を塞ぎ、飛沫がシューティングPAを撃ち込んだ。
「グルルルルルッ!」
熊鬼闘士はフラフラとしながら、恨めしそうに飛沫を睨む。
「油断したな。‥‥愚か者め」
すぐさま洞窟の前に立ち、美希がスマッシュEXを放つ。
「それじゃ、行ってきますわ!」
次の瞬間、ぱふりあ しゃりーあ(eb1992)達が可憐を助け出すため、洞窟の中に入っていく。
(「‥‥任セマシタヨ、ぱふりあ」)
祈るような表情を浮かべ、瞳が熊鬼闘士の足止めをする。
熊鬼闘士は必死になって洞窟の中に戻ろうとしたが、冒険者達が邪魔をしているため戻れない。
「我が手に集いしは雷帝の吐息 破壊の煌きとなりて 解き放たん! 逃がしませんよっ! 絶対に‥‥」
ライトニングサンダーボルトを放ち、プリュイが熊鬼闘士をジロリと睨む。
自ら盾となって洞窟の入り口を塞ぎ、仲間達が可憐を助け出す時間を稼ぐため‥‥。
●可憐
「可憐さぁーん。わたくし達の声が聞こえているのなら、大きな声で返事をしてくれませんかー?」
少しでも早く可憐の事を助け出すため、斗織が提灯を灯して洞窟の奥へと進む。
洞窟の中は一本道のため迷う事はないのだが、何度呼んでも洞窟の奥から可憐の返事が聞こえてこない。
「何だか嫌な予感がしますわね。‥‥急ぎましょう」
松明を高々と掲げながら、ぱふりあが可憐を探して洞窟の奥を目指す。
最悪の事態を考えながら‥‥。
‥‥祈るような表情を浮かべ。
「あ、あれは‥‥」
ハッとした表情を浮かべ、斗織が身体を震わせる。
洞窟の奥に横たわっていたモノ。
それは可憐と呼ばれた少女の悲しい亡骸だった。
「‥‥遅かったようですわね」
ガックリと膝をつき、ぱふりあが頭を垂れる。
可憐の亡骸は死後2〜3日は経っており、洞窟の中で衰弱死した可能性が高い。
「ごめんなさい、間に合わなくて‥‥」
大粒の涙を浮かべながら、斗織が可憐の亡骸を毛布で包む。
‥‥救えなかった!
その悔しさだけが、彼女の中で渦巻いた。
「みんなが待っていますわ。‥‥行きましょう」
斗織の肩を優しく叩き、ぱふりあがコクンと頷いた。
暗闇の中に閉じ込められていた彼女に光を見せるため‥‥。
‥‥ぱふりあ達は可憐の亡骸を抱えて洞窟を出る事にした。
●悲しい結末
「‥‥熊鬼闘士は怯んでいる。このままガンガン攻めて行くぞっ!!」
示現流の心得として気合を入れたスマッシュを放ち、美希が熊鬼闘士との間合いを一気に詰め、スマッシュとバーストアタックEXの合わせ技をお見舞いする。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
恨めしそうな表情を浮かべ、熊鬼闘士が大量の血を撒き散らす。
「‥‥10秒‥‥詠唱の時間を稼いでください‥‥!」
ヘブンリィライトニングを詠唱するため、ブリュイがゆっくりと目を閉じる。
熊鬼闘士が迫ってくるのも気にせずに‥‥。
気合を入れて‥‥。
「数多の雷光 闇に染まりし空を切裂け 天を焦がし地を揺るがし力を示せ 舞え我とともに 刹那 天地は我らのもの!」
次の瞬間、熊鬼闘士の身体を稲妻が襲う。
ぶすぶすと煙を吐きながら、前のめりに倒れる熊鬼闘士。
そのままピクリとも動かなくなった。
「‥‥危ないところだったな」
ホッとした表情を浮かべながら、美希が熊鬼闘士の首を切る。
「首ヨリ手デス」
首だけでは証拠能力が低いと思ったため、瞳が両手斧を使って熊鬼闘士の両手首を切り落とす。
「ドウヤラ‥‥帰ッテ来タヨウデスネ」
風呂敷で熊鬼闘士の手首を包み、瞳が洞窟の中から出てきたぱふりあ達に気づく。
ぱふりあ達はションボリとしており、彼女達の表情はとても暗い。
「申し訳ありません。‥‥手遅れでした」
可憐の亡骸を抱きかかえ、斗織が悔しそうに首を振る。
溢れ出す涙を止める事が出来ないまま‥‥。
「もっと早く来れたら‥‥辛かったよね‥‥苦しかったよね‥‥ごめんね‥‥」
ボロボロと涙を流し、飛沫がふたりを抱きしめる。
「‥‥駄目元で寺院に蘇生する事が出来ないか頼んでみては如何でしょうか? わたくしがお金は出しますわ」
助けられなかった事を悔やみながら、斗織が蘇生費用として手持ちの金を差し出した。
「死んだと云うのなら、それがその娘の運命。‥‥そのままそっとしておいてやれ」
クールな表情を浮かべながら、九龍が静かに首を横に振る。
彼女の死体は損傷が激しい上、死後数日ほど経っているため、例え寺院で蘇生を引き受けてくれたとしても、生き返るとは思えない。
それどころか村人達に過度な期待をさせるだけで、蘇生が失敗した場合は余計に村人達を悲しませてしまう事になるからだ。
‥‥次の日。
可憐の亡骸は村外れの墓地に埋葬された。
シトシトと雨の降る中、村人達に運ばれて‥‥。
村人達の大半は彼女の亡骸に謝り続け、いつまでも離れようとしなかった。
「‥‥天国では平和に暮らしてくれよ」
彼女の墓に花を添え、美希が黙って両手を合わす。
ぱふりあの奏でる竪琴の音色が辺りに響く。
彼女の歌うレクイエムに合わせて‥‥。