●リプレイ本文
●一番隊の忘年会
「ははは‥‥、親睦会なら、やっておかないとな。‥‥ってな訳で、天螺月・律吏だ! よろしくな」
新撰組一番隊の忘年会に参加し、天螺月律吏(ea0085)が沖田総司(ez0108)と固い握手をかわす。
幾ら上役とはいえ人の金で遠慮なく飲み食いするのはさすがに気が引けたため、他の人に気づかれないようにコッソリと金を渡そうとしたのだが、逆に手を握られて返されてしまったため一銭も渡す事が出来なかったらしい。
「この様な席を設けて頂き感謝します、沖田組長。‥‥とは言え、何時招集がかかってもおかしくはない状況ですね」
チラと律吏を見た後、白河千里(ea0012)が黙って横に座る。
「お似合いですね、ふたりとも♪」
ふたりの関係を瞬時に理解し、沖田がニコリと微笑んだ。
「い、いや、そう言われると‥‥照れるな」
恥ずかしそうに頬を染め、千里がコホンと咳をする。
「今宵はこのような席に参加できた事を嬉しく思います。手土産と言っては何ですが、地酒を一本買って参りました」
手ぶらで来るのもマズイと思っていたため、ティーゲル・スロウ(ea3108)が京の地酒を持参した。
「これは京都のお酒だね。‥‥ありがとう」
地酒を受け取り、沖田がスロウにお礼を言う。
金銭とは違って酒等は受け取るらしく、沖田も何処か嬉しそうである。
「それにしても、沖田さんは懐が深い。最近、江戸復興のために散財したんで、ちと懐が寒いしな‥‥」
目の前の料理に舌鼓を打ちながら、氷川玲(ea2988)が沖田に感謝した。
料亭で用意されたのは季節の懐石料理で、どの食材も最高の物しか使っていない。
「そう言えば、新撰組とは関係ない俺まで参加しているが、本当にいいのか? ゼルスに言われて参加してはみたものの、何だか場違いな気がしてな」
苦笑いを浮かべながら、天城烈閃(ea0629)が気まずく頬を掻く。
「いや、気にしなくて構いませんよ。一番隊には知り合いが多いと聞いていますし、遠慮せずに宴会を楽しんでくださいね」
烈閃の緊張を解すため、沖田が並々と酒を注ぐ。
「それじゃ、遠慮なく」
マジマジと杯を見つめた後、烈閃がゴクリと一気に飲み干した。
「だから言ったでしょ? せっかく会場まで予約してくれているのに、人が集まらないのでは沖田組長が恥をかいてしまうって‥‥。こんな事くらいで文句を言うほど、沖田組長の器は小さくありませんからね」
烈閃の肩をぽふりを叩き、ゼルス・ウィンディ(ea1661)が酒を飲む。
「まぁ、そんな事を言ったら、俺だって保留の身だからな」
豪快な笑い声を響かせながら、鷹波穂狼(ea4141)が海で釣ってきた鮪を渡す。
「そんな事を言うたら、俺だって十一番隊の隊士やでぇ」
十一番隊の名目で酒樽を持参し、将門司(eb3393)がクスリと笑う。
同じ新撰組のよしみで参加したつもりだが、沖田が心配そうに苦笑いを浮かべている。
「結構、一番隊の隊士でない者も混ざっているんだな。俺はあまり酒をたしなまない。良かったら、これも飲んでくれないか? これは味の判る者が飲んだ方が良かろうと思ってな」
沖田に軽く挨拶をしたあと、デュランダル・アウローラ(ea8820)が名酒『うわばみ殺し』を差し出した。
「何だか今日は色々と貰ってばかりだなぁ。僕が奢っていたつもりが、みんなに奢られちゃったみたいだね」
冗談まじりに微笑みながら、沖田が恥ずかしそうに頬を掻く。
「それだけ沖田組長に感謝していると言う事ですよ。お互い気にしないで宴会を楽しみましょう」
司と同じく十一番隊士として宴会に参加し、日下部早姫(eb1496)が沖田の杯に酒を注ぐ。
「それもそうだね。それじゃ、乾杯しようか」
乾杯するのを忘れていたため、沖田が苦笑いを浮かべて口を開く。
「今日、生きてこの席に参加する事が出来なかった者達に‥‥、生き残った者が杯を捧げるべきかと思いまして‥‥、彼らの死によって、この京が平和であり、このような席を迎える事が出来た事を忘れたくないので‥‥湿っぽくてすみません」
しみじみとした表情を浮かべ、スロウが寂しそうに呟いた。
「‥‥忘れようぜ、今だけは‥‥。それじゃ、気を取り直して乾杯の音頭を取らせてもらおうかな」
大きく深呼吸をした後、鷲尾天斗(ea2445)が乾杯の音頭を取る。
「今年も残す所あと僅か。来年も色々あると思いますが、今ここに居る事を感謝しつつ、沖田組長の太っ腹に乾杯!」
自らの杯を高々と掲げ、天斗が大声で叫ぶ。
今年一年に感謝し、新しい年を迎えるために‥‥。
●宴会
「それにしても流石は高級料亭。何を食しても美味いな。しかしっ! 魚は嫌いだ‥‥」
クールな表情を浮かべながら、千里が魚介類を律吏の皿にポイポイと投げる。
「‥‥」
山積みされた魚介類をジト目で睨み、律吏が黙って福袋の口を開けた。
「‥‥って、おい律吏! 何だ、その異臭のする物体は!」
すぐさま律吏にツッコミを入れ、千里が嫌々と首を横に振る。
「‥‥ん、これか? 福袋を買ったら中に入っていたんだが‥‥いるか?」
キョトンとした表情を浮かべながら、律吏が強烈な匂いのする魚の干物を突きつけた。
「臭い臭い! 律吏、臭い!」
必死になって鼻を押さえ、千里が大粒の涙を流す。
「そんなにマズイ物なんですか? 確かに匂いは強烈ですが、それほどマズくはないような気が‥‥」
魚の干物をマジマジと見つめ、早姫が試しにひとくち食べてみた。
「わーわー! 食べたら死ぬぞ! そんなモン!」
怯えた様子で早姫を指差し、千里が慌てて柱にしがみつく。
「美味しい♪ いけますね、これ?」
魚の干物が美味かったため、早姫が素直な感想を言った。
「あ‥‥、悪夢だ‥‥」
青ざめた表情を浮かべ、千里の魂がにゅるりと抜ける。
「なんや、もうノビたんか。魚嫌いを克服するため、俺が手料理を御馳走してやろうと思ったのに‥‥」
穂狼が持ってきた鮪を解体しながら、司が残念そうに溜息をつく。
これ以上、千里の心を刺激してしまうと、本当に魂が戻って来なくなる可能性があるため、他の隊士達のためにお頭付で刺身の舟盛を作る。
「それにしても、本当にお前が新撰組に入るとは思わなかったぞ」
ゼルスと一緒に酒を飲み、烈閃がクスリと笑う。
「久しぶりにこの国を訪れた時に、黄泉人のせいで以前とはガラリと変わってしまったこの国の様子を見て、このままではいけないと思いましてね。そんな時、『本気で国を変えたいなら、それが出来る立場につく事だな。例えば、新撰組に入るとか‥‥』と教えてくれたのが烈閃でしたね」
昔の事を懐かしみ、ゼルスがゴクリと酒を飲む。
「三ヶ月ほど前か。お前がパリから戻ってきて、久しぶりに会うなり真面目な顔で最初に言った言葉が『どうすれば、この国を変えられると思いますか?』だったな。あれには俺も驚いた。‥‥正直に言えば、異国人のお前が入れるわけは無いと思っていた。そりゃ、実力に関しては、俺が知る限り右に出る者がいないほどの精霊魔法の使い手だが、新撰組の体裁を考えるとな‥‥。最初に入隊の報告を聞いた時は、何か裏から手を回したんじゃないかと疑ったほどだ」
ゼルスの顔を見つめた後、烈閃が冗談まじりに微笑んだ。
「裏から‥‥って、酷い言われようですね。まあ、良いでしょう。今日は宴の席なのですから、多少の事は大目に見てあげます」
苦笑いを浮かべながら、ゼルスが烈閃の杯に酒を注ぐ。
「そろそろ隠し芸の時間だな。何も考えて来なかったヤツは俺と花札でもどうだ? 気まずい思いをしたまま、縮こまっているのもキツイだろ? 沖田さんもたまにゃこんなんどーっすか?」
まわりの隊士に気を使い、玲が花札を用意した。
参加者の中には隠し芸のネタがない者も少なくはなかったため、玲が花札を始めてくれた事でホッとしている者もいる。
「僕は隠し芸を見ているよ。賭け事は苦手だから‥‥」
みんなの隠し芸を観るため、沖田が前の席に移動した。
「‥‥芸とか苦手なんですよねぇ。でもまあ、何もしないのもどうかと思いますので、これを‥‥」
自分の魔法とスクロールを使い、ゼルスがマジックショーをし始める。
「す、凄い」
満足した様子で笑みを浮かべ、沖田がパチパチと手を叩く。
「さーて、お次は那須の隠れ里のエルフに教わったおめでたい踊りでござーい!」
瞳をキラリと輝かせ、天斗が上着を脱ぎ捨て、怪しげなスキップを披露する。
「うむ‥‥、ならば私も脱ぐとしよう。‥‥ちょっとだけだぞ、皆の衆」
意味不明な言葉を羅列し、千里が服を脱いでいく。
だいぶ酔っ払っているのか、焦点が定まっていない。
「あ、あの‥‥! 落ち着いてくださいね」
柔術の演舞を披露するつもりでいたため、早姫が千里の胸倉を掴んで背負い投げを披露した。
「‥‥」
青ざめた表情を浮かべ、天斗がそそくさと服を着る。
すっかり酔いが避けてしまったのか、舟盛のお頭を構えて身を隠す。
「それにしても、こんな高い料亭で奢りなんて大丈夫か?」
次々と運ばれてくる料理を見つめ、穂狼が心配した様子で口を開く。
「このくらいの事で悲鳴をあげる僕じゃないよ。黄泉大神を退治した事で、かなりの報酬をもらったからね」
苦笑いを浮かべながら、沖田がのん気に酒を飲む。
「そう言えば‥‥、六番隊の組長から黄泉人に対する動きは何か聞いていますか? アレから何の連絡もなくなってしまったのですが‥‥」
心配した表情を浮かべ、スロウがボソリと呟いた。
「いや、何も聞いてないよ。最近、忙しかったからなぁ。他の隊と交流している暇もなかったから‥‥」
残念そうに首を振り、沖田が反省した様子で溜息をつく。
「前にも言ったかも知れやせんが、黄泉路だきゃあ塞がなきゃ駄目ですぜ」
黄泉路の存在に危機感を感じ、玲が沖田に対して警告した。
「‥‥分かっているよ。それが僕の使命でもあるからね」
何かを悟ったような表情を浮かべ、沖田が愛用の刀を握り締める。
「千里も律吏も天斗も、ゼルスもティーゲルも、ここにはいないが、伊佐治も‥‥あんたが選んだ仲間は皆、この国のために何かしたいと思ってるし、それだけの力もある。大事にしてやってくれ。これは、あいつらの友人としての頼みだ」
自らの思いを沖田に伝え、烈閃が深々と頭を下げた。
何も言わずに頷く沖田。
その表情は真剣そのものだ。
「この間、手合わせをして思った事は組長が何かを背負っているという事です。その背負っている物が大きいからこそ沖田組長の剣は誠実で強いのだと‥‥。俺は那須で闘った時仲間と協力して物の怪と戦って来ました。白面には負けましたが、仲間がいる限り負けとは思ってない。組長にもそれを知って欲しい。だから俺は組長の半歩後ろについて歩いていきます。組長の後ろを護る為に‥‥。そしていつか組長を超える為にも」
真剣な表情を浮かべながら、天斗が瞳をキラリと輝かせる。
「僕も皆さんには期待していますからね。‥‥頼みますよ」
自らの刀を置いた後、沖田がニコリと微笑んだ。
「さすがは一番隊、皆なかなかの業物を携えているようだな。俺が以前使っていたトデス・スクリーも悪い剣ではないのだが、決死隊の折、この刀が届いていれば、すこしは楽ができたのだがな」
自ら愛用している長曽弥虎徹を示し、デュランダルが沖田の刀に視線を移す。
「‥‥故郷に居た頃、破壊の剣、天空の剣などと呼ばれる伝説の剣の事を聞いた事がある。よくある伝説と聞き流していたのだが‥‥、決死隊の時や覇道捕縛の際の様子を見て確信した。総司殿、その刀こそが『シープの剣』なのだな?」
沖田の顔を真っ直ぐと見つめ、デュランダルが真意を問う。
「悪いけど僕にはよく分からないよ。これは貰い物だからね。その人なら何か知っていると思うけど、あれから会っていないからなぁ」
申し訳無さそうな表情を浮かべ、沖田がデュランダルに謝った。
本当に何も知らないのか、沖田の言葉に偽りはない。
そんな中、新年の訪れを告げるかのようにして除夜の鐘が響くのだった‥‥。