●リプレイ本文
「‥‥毒蛙か。毒がやっかいよねえ。普通の蛙だったら、捕まえて料理しちゃうんだけどなぁ‥‥」
冗談まじりに微笑みながら、郭梅花(ea0248)が脳裏にカエル料理を思い浮かべる。
蛙の毒が弱ければやり方次第で何とかなるが、とても毒性の強いカエルのため、さすがの梅花も手に負えそうにない。
「だって、ヒキガエルよ、ヒキガエル! 30センチって顔より大きいんじゃない」
湖の蛙と目が合ってしまったため、霧生壱加(ea4063)が顔を引きつり気味に呟いた。
やはり爬虫類や両生類といった生き物は苦手なようだ。
こうやって見ているだけでも、全身から鳥肌が立ってくる。
「まぁ、落ち着け。さて、どう動くか‥‥」
険しい表情を浮かべながら、大神総一郎(ea1636)が湖を睨む。
湖にはたくさんの藻が浮かび、何とも言えない異臭を放っている。
「例えば餌を使って釣り上げてから潰すとか、遠距離射撃系の攻撃で何とか出来るんじゃないかなぁ‥‥」
穢れてしまった湖を見つめ、梅花がボソリと呟いた。
湖からは毒蛙がヒョッコリと顔を出し、こちらの様子を窺っている。
「多分、あれが祭具だよね? まずは邪魔な蛙を捕まえる必要があるかな?」
湖の中心にある小さな社を見つけ、狩多菫(ea0608)が釣竿の準備をする。
釣り糸の先には森で捕まえたウサギの生肉が括り付け、途中で持っていかれないように釣竿を地面にさす。
「ん、なかなかアレな祭具だな〜」
独特な形をしている祭具を見つめ、加藤武政(ea0914)がボソリと呟いた。
「村人達にとっての大事な祭具‥‥、かならず持って帰って差し上げなければ」
拳を力強く握り締め、十六夜桜花(ea4173)がひとり使命感に燃える。
困っている村人達のためにも、祭具を何とか取り戻したい。
「依頼主の話じゃ、祭具を持ち帰るだけでええようやけど、ここまで毒蛙の数が多いと途中で死にそうやな」
梅花に頼んで言葉を訳してもらいながら、鳳美鈴(ea3300)が疲れた様子で溜息をつく。
小さな社がなければここから祭具を一本釣りする方法もあるのだが、社の中に祭具が安置されているためさすがにそれは難しそうだ。
「釣り餌はこのくらいでいいか?」
毒蛙の好みが分からないため、武政が鼠や虫などの餌を用意した。
この他にも色々な餌を取って来たため、どれかひとつくらいは引っかかるはずだ。
「うん、ありがとうね♪」
湖を泳ぐ毒蛙を視線で追いかけ、菫が小さくコクンと頷いた。
毒蛙のせいで湖はひどく汚れているが、何とか毒蛙の姿は見る事が出来る。
「ところで清らかな漢女(おとめ)って、一体どんな方でしょう?」
ムキムキマッチョなオカマを浮かべ、ララ・ルー(ea3118)が滝のような汗を流す。
何となくゴッツイ漢女が浮かんだため、いまにも鼻血を吹きそうな勢いだ。
「それはちょっと違うんじゃないのかな? 穢れていない女の子って意味だから‥‥」
大粒の汗を浮かべながら、梅花がララにむかってツッコミを入れる。
「穢れてるだの穢れてないだの、年頃の女の子捕まえて失礼極まりないわよ!」
不満げに愚痴をこぼしながら、壱加が湖を黙って睨む。
そこまで乙女に拘っているなら、祭具を作る職人も乙女なのかと村人達に問いかけたい。
「穢れない乙女か‥‥。あたしは穢れているのか‥‥な?」
含みのある笑みを浮かべ、梅花が仲間達の会話に加わった。
男性と付き合った事はないのだが、穢れの基準がよく分かっていないため運搬は辞退するつもりらしい。
「んー、一応穢れては無いと思うんだけど‥‥。ま、運搬は遠慮させて貰うねっ♪」
苦笑いを浮かべながら、設楽葵(ea3823)が祭具の運搬を辞退する。
穢れてはないはずだが、色々と面倒そうなので、なるべくなら遠慮したい。
「それが正解かもね。穢れていない基準が、もし肉を食べていないとか、動物を殺した事がないとかだったら、料理人のあたしは無理だしね。他の人だってそうでしょ?」
辺りをゆっくりと見回しながら、梅花が他の女性の同意を得る。
村のしきたりであるため、乙女の条件もかなりいい加減なものだと思うが、ハッキリした事が分からないため、なるべく警戒しておきたい。
「一応、私は大丈夫ですよ?」
自分の事を指差しながら、斉藤志津香(ea4758)が首を傾げる。
乙女である事は確かなので、何とか条件はクリアしているはずだ。
「だったらキミで決まりだね。‥‥任せたわ」
そして葵は志津香の方をポンと叩き、祭具の運搬を任せるのであった。
「‥‥ん? かかった!」
釣糸を垂らしてしばらく経った後、菫が満面の笑みを浮かべて釣竿を引っ張る。
釣竿の先には毒蛙が引っかかっており、何とか逃れようと必死でもがく。
「とりあえず、蛙潰しだ。まぁ、生活が掛かっているから頑張るか」
菫の釣った毒蛙に狙いを定め、武政がポイントアタックEXで毒蛙を攻撃する。
毒蛙は最後の悪あがきとばかりに毒液を吐き出し、再び武政のポイントアタックEXを喰らって絶命した。
「きゃあっ! 羽織が汚れちゃったよう‥‥」
毒蛙の毒液を陣羽織に浴びてしまったため、菫が大粒の涙を浮かべて上着を捨てる。
かなりショックだったため、毒蛙めがけてバーニングソードを付与した矢を放つ。
すると毒蛙は物凄い勢いで、菫にむかって飛び掛る。
「聖光招来!」
菫の前に立ってホーリーを放ち、ララが額に浮かんだ汗を拭う。
何とか菫を助ける事が出来たが、もう少し遅ければどうなっていたか分からない。
「みんな、頑張ってや〜! 誰かが死んでしもうてもクリエイトアンデットをかけたるさかい。安心しいや〜」
毒蛙の毒液を浴びないようにするため、美鈴が茂みに隠れて仲間達を応援する。
普通なら仲間達が血反吐を吐くような言葉だが、梅花があえて翻訳しなかったため、仲間達には何を言っていたか分からないようだ。
「狙うは一撃必中必殺‥‥集中しなければ」
毒蛙に見えるように野鼠を放ち、桜花が長弓を構えて毒蛙が湖から出てくる瞬間を狙う。
すると毒蛙は湖の中から長い舌を伸ばして、桜花の放った野鼠をゴクンと丸呑みした。
「ま、まさか‥‥、作戦が失敗するなんて‥‥」
驚いた様子で湖を見つめ、桜花が悔しそうに唇を噛む。
かなり自信のあった作戦のため、まさか失敗するとは思っていなかったようだ。
「こっちの罠には引っかかりますかね?」
湖の生肉を放置し茂みに隠れ、ララが心配そうにボソリと呟いた。
しかし毒蛙は生肉には興味を持たず、湖をユラユラと泳いでいる。
「だったらまとめて捕まえるか」
村から借りた網を湖へと放り投げ、総一郎が残った毒蛙を捕獲した。
毒蛙達は逃げる事さえ出来ないまま、そのまま陸へと上げられる。
「最初からこうすれば良かったのね」
苦笑いを浮かべながら、葵が大きな溜息をつく。
こんなに簡単な方法で毒蛙が捕まるとは予想もしていなかったため、一気に身体の力が抜けたらしい。
「何だか拍子抜けしたけど‥‥」
そう言って梅花が網の中にいる毒蛙をオーラショットで炸裂させる。
毒蛙は網の中でもがきながら、梅花を睨んで絶命した。
「そんな事より誰が祭具を取りに行くんや? 湖も随分と汚れているようやし、うちは遠慮しておくで」
どす黒くよどんだ湖を見つめ、美鈴が仲間達の顔を見る。
「‥‥泳ぐなら脱がないと駄目だよね。サラシと腰巻で‥‥?」
恥ずかしそうに頬を染め、菫が慌てた様子で胸を隠す。
まわりには男性陣もいるため、さすがにそれは恥ずかしい。
「なんならあたしが取りにいってこようか? そんなに深くもなさそうだし‥‥」
湖の中に足をつけ、壱加がゆっくりと湖に入る。
「幸運を‥‥」
壱加にグッドラックをかけておき、ララがピュアリファイで湖の浄化を試みた。
ほんの少しだけ湖を浄化したようだが、完全に元に戻すためにはとてつもなく時間が掛かりそうである。
「毒蛙の毒が湖に漂っている可能性もあるから、なるべく早めに戻って来いよ」
心配した様子で湖を見つめ、総一郎がボソリと呟いた。
一応、ララがアンチドートを覚えているため心配はないが、湖が毒に汚染されている可能性もあるため、すぐに対応できる状態にはしてあるらしい。
「お〜い、水に濡らさないよう気をつけろ〜」
壱加が祭器を回収したため、武政が彼女にむかって声をかけた。
途中でコケたりしないか心配のため、なるべく慎重に歩くようにアドバイスする。
「大丈夫よ。ちょっと着替えは欲しいけど‥‥」
祭具を頭の上に掲げながら、壱加が仲間達の傍まで戻っていく。
湖の水が冷たかったため身体が冷えてしまったが、何とか祭器は汚さずに運ぶ事が出来た。
「‥‥お疲れ様です。すぐにあちらで休んでください」
そっと壱加に手を差し伸べ、桜花が焚き火の傍まで案内する。
念のためララがアンチドートをかけたため、湖が毒に汚染されていたとしても安心だ。
「それじゃ、この祭器を村まで持っていきますね」
そして志津香は壱加から祭器を受け取り、馬を走らせ村へとむかうのだった。
その後、志津香達は村で静香の舞を堪能し、幸せな気持ちになりながら村を後にしたらしい。