【新撰組一番隊】異変

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月28日〜02月02日

リプレイ公開日:2006年02月02日

●オープニング

●謎の男
 最近、沖田殿の様子がおかしいとは思わぬか?
 夜な夜な屯所を抜け出し、何かをしているようなんだ。
 一番隊の隊士達の中には『お気に入りの女を抱くため遊郭に通っているのではないか』と勘ぐっている者もいるが、沖田殿に限ってそんなはずはないっ!
 きっと何か大切なお役目があって、屯所を抜け出しているはずだ。
 しかし‥‥、気にならないと言ったら嘘になる。
 近頃、物騒な輩が沖田殿を付け回しているからな。
 髪を後ろに束ねて前髪を垂らし、十字架をぶら下げた妙なヤツさ。
 名前は確か‥‥、ジェロニモと言ったかな?
 どう見てもシャパンの人間にしか見えないんだが、そいつがおかしな事を口走っていたんだよ。
 責任がどうとか、手遅れになる前にどうとか‥‥。
 まぁ、ハッキリとした事は覚えておらん。
 触らぬ何とかに祟りなしって言うからな。
 だが、よくよく考えてみれば怪しい事ばかりだ。
 悪いがお前達で沖田殿を調べてくれないか?

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2700 里見 夏沙(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5603 ユーウィン・アグライア(36歳・♀・ナイト・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea7216 奇天烈斎 頃助(46歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb0524 鷹神 紫由莉(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●屯所近くの酒場
「‥‥沖田殿の尾行だと? まるで『監察方』の仕事だな‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、風霧健武(ea0403)が溜息をつく。
 本来なら新撰組の観察方と面会し、沖田について話を聞いた方がいいのだが、彼らとの面会が叶わなかったため、まったく情報を得る事が出来なかった。
「どちらにしても、沖田隊長が狙われているのなら護衛が必要でしょう。沖田隊長は京になくてはならぬ方。それに沖田隊長の用事というものも気になります」
 色々と引っかかる事があったため、鷹神紫由莉(eb0524)が沖田の持ち物を調べてみたのだが、彼が愛用している刀以外は何も持っていかなかったらしく、身の回りのものはそのままの形で残されていたようだ。
「‥‥1番隊隊長の不審な行動、‥‥謎の男の出現、確かに気になるね」
 越後屋特製カップでお茶を飲み、ランティス・ニュートン(eb3272)が腕を組む。
 ジョロニモに関しての情報は皆無で、今まで得た情報以外は得る事が出来なかった。
「どちらにしても、沖田さんの尾行と言う事ですので、そう簡単にはいかないでしょうが、まあ出来る範囲でやるしかありませんね」
 疲れた様子で溜息をつきながら、島津影虎(ea3210)が溜息を漏らす。
 気配を消して沖田を尾行する事は難しく、途中で見つかってしまう可能性が非常に高い。
「ぶっちゃけ、バレないで〜っての、かなり難しいんじゃねぇの。意図的に一人で行動してるんだったら、周囲への警戒も怠らなねぇだろうし‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、里見夏沙(ea2700)がお茶を飲む。
 日増しの沖田の感覚は研ぎ澄まされ、人並み外れた力を持っているため、尾行という時点で失敗する事は目に見えている。
「新撰組や沖田さんの事をあまり知らないので、状況がよく飲み込めていないかも知れませんが‥‥、とにかく沖田さんの行動とジェロニモさんには、どのような関係があるのか確かめてみる必要がありますね」
 不思議そうに首を傾げ、ユリアル・カートライト(ea1249)が口を開く。
 ジェロニモに関する情報を得る事は出来なくとも、沖田と何らかの関係があるのは間違いない。
「沖田様の後を追う謎の異人は、何を考えているのでしょうか? 妖怪の跳梁で警戒を増す京で、異人が沖田様に危害を加えたと有れば、旅人に取って一大事となるでしょう、彼の目的を突き止めなければなりませんね」
 ゆっくりと立ち上がり、ミラ・ダイモス(eb2064)が勘定を払いに行く。
 沖田が外出しているのは真夜中だが、そろそろ店じまいのようなので、しばらくの間は外で待っている必要がある。
「とにかく、じぇろにも君をとっ捕まえて、沖田君を付回す理由を吐かせ‥‥じゃ無くって、沖田君が夜な夜な出掛ける理由を突き止めないとね」
 あまりの寒さに身を強張らせながら、ユーウィン・アグライア(ea5603)が辺りを見回した。
 辺りからは火の用心の声が聞こえており、野良犬の遠吠えが夜空に響き渡っている。
「……もしかするとジェロニモは神聖魔法の遣い手かも知れませんね。どうやら沖田組長の刀を狙っているようですが‥‥」
 沖田が愛用している刀の事を思い出し、月詠葵(ea0020)がボソリと呟いた。
 一番隊の隊士から話を聞いた限りでは、沖田はどんな時でも刀を手放す事がなかったようだ。
「人は誰しも秘密を抱えるもの也。‥‥とはいえ今は何事も無くとも、これからの事を考えて尾行する必要がありそう也」
 警戒した様子で辺りを睨み、奇天烈斎頃助(ea7216)がそそくさと準備をし始める。
 どちらにしても沖田のまわりで何か起こっている事は間違いない。

●とある長屋
「ううっ‥‥、何だかスースーするな。しかも今度は首輪をつけねばならぬのか。こんなものをつけても息苦しいだけだと思うのだが‥‥」
 仲間達から銀のネックレスを受け取り、白河千里(ea0012)が納得のいかない様子で愚痴をこぼす。
 沖田に警戒されないようにするため、勇気を振り絞ってガチガチのドレス(女装)を着てみたのだが、色々な意味で違和感があるらしく、とても不満そうである。
「ふぅむ。志士にしておくのが惜しい程の化けようだな。‥‥今からでも忍びに転職してみたらどうだ?」
 千里の姿をマジマジと見つめ、健武が感心した様子で溜息を漏らす。
 何も知らない者が見たら、思わず口説いてしまうほど、千里の女装は完璧だ。
 本人の気持ちとは裏腹に‥‥。
「姉上に兄上の格好、ぜひ見せてやりたかったなぁ
 しみじみとした表情を浮かべながら、夏沙がゲラゲラと笑う。
「‥‥いくら律吏の義弟とはいえ、今まで通り名で呼べ。友達が弟になった上、末っ子の私が言われ慣れない『兄』と呼ばれるは尻付近がむず痒い!」
 恥ずかしそうに頬を染め、千里がジト目で夏沙を睨む。
 拳をぷるりと震わせて‥‥。
「……白河君、頑張れっ!」
 必死になって笑いをこらえ、ユーウィンがぽふりと肩を叩く。
 わなわなと肩を震わせている千里の心にトドメの一撃を放つようにして‥‥。
「お、おまえらなぁ〜。いい加減にしろよっ!」
 そして千里の叫びが辺りに響くのであった。

 ‥‥所変わって屯所近く。
 草木も眠る丑三つ時。
 寒空の中、屯所から沖田が外に出て行った。
 沖田はまったく警戒した様子もなく、まるで取り付かれたかのように、ただ前だけを見て迷う事なく進んでいく。
(「‥‥やはり何かに取り憑かれているのかも知れないな」)
 月明かりを頼りにしながら、健武が屋根の上を伝って沖田を尾行する。
 建武の尾行はしばらく続いていたが、沖田には気づかれていない‥‥はずだった。
(「‥‥!?」)
 沖田のいた場所から光が走る。
 ‥‥何の前触れもなく。
「き、気づかれていたか!」
 人並み外れた跳躍力に驚きながら、建武が頭部に強烈な一撃を喰らう。
「ば、馬鹿な!? こ、こんな事が‥‥」
 そこで建武の意識は途切れ、深い眠りへと落ちていった。

 ‥‥しばらくして。
 影虎は道端に倒れていた建武を発見した。
「だ、大丈夫ですか?」
 すぐさま建武を抱き起こし、影虎が何度も声をかける。
 しかし、建武は目を覚まさない。
 沖田の放った一撃が的確に急所を捉えていたため、声を掛けた程度で目を覚ますレベルではないからだ。
「‥‥やはり何かあるようですね。私達に知られてはならない何かが‥‥」
 何らかの目的で沖田が動いている事を確信し、影虎が建武をゆっくりと抱き上げる。
 一瞬‥‥、風が吹いた。
「‥‥んな!?」
 それと同時に影虎の頬から鮮血が飛び散り、地面を真っ赤に染めていく。
「これは‥‥警告だよ‥‥」
 ‥‥背後で誰かの声がした。
 しかし、振り向く事は出来ない。
 後ろを向いた瞬間、影虎の首が吹っ飛ぶからだ。
 ‥‥刃物の如く鋭い殺気。
 先程まではまったく感じる事が出来なかった気配。
「それじゃ、お休み‥‥」
 後頭部に放たれた強烈な一撃。
 ‥‥そこで影虎の意識が吹っ飛んだ。

「‥‥流石新撰組一番隊の組長やね。あっという間に、うちらの事を撒きよった」
 気絶していた影虎を抱き起こし、将門雅(eb1645)がダラリと汗を流す。
 影虎も建武と同じ場所に攻撃を喰らっており、ちょっとやそっとじゃ目を覚ましそうにない。
「これで沖田隊長の足取りは掴めなくなってしまいましたわね」
 残念そうな表情を浮かべ、紫由莉が辺りを見回した。
 沖田が出掛けたのが真夜中だった事もあり、尾行していた冒険者達の気配を感じやすくなっていたためか、途中で気づかれてしまったようだ。
「そんな事を言うても、このまま帰るわけにもいかんやろ。とにかくふたりが目を覚ますまで待たな」
 困った様子で紫由莉を見つめ、雅がボソリと呟いた。
「それは無理じゃないかしら? 急所を一撃でやられているようだし、生きているのが不思議なくらいなんだから‥‥。沖田組長が本気を出していたら、ふたりとも死んでいたところよ」
 気絶したふたりの状態を確認し、紫由莉が頭を抱えて溜息をつく。
 沖田に気づかれているため、これ以上の尾行は意味がない。
 例え彼を見つける事が出来たとしても、その目的までは分からないからだ。

●沖田
「‥‥妙だな。やけに静かだとは思わないか?」
 沖田の匂いが染み付いた手拭いを犬に嗅がせ、千里が提灯を片手に夜道を進む。
 仲間達より少し遅れて出発した事もあり、沖田が何処にいるのか分からない。
「まさかジェロニモってヤツに殺されちまったんじゃないのか?」
 ハッとした表情を浮かべ、夏沙が辺りを見回した。
「‥‥必ずしも敵対する人物と決めつけるのは危険だな。沖田を護る為に止めようとしているとも取れる。とにかく合流地点まで行ってみよう」
 仲間達から情報を得るため、ランティスが合流地点にむかう。
 沖田に気づかれないようにするため、深追いはしないように決めてあるため、誰か一人ぐらいは合流地点にいるはずだ。
「でも、こうやってみんなで沖田君を尾行していくのって、なんかアレみたいだね。ジャパン語で言う所の‥‥そう、浮気調査!」
 のほほんとした表情を浮かべ、ユーウィンがクスクスと笑う。
「へぇ、誰が浮気をしているんですか?」
 ‥‥背後で誰かの声がした。
「お、沖田組長! こんな夜更けに一体何を?」
 驚いた様子で沖田を見つめ、千里が心臓をドキドキさせる。
「それはこっちの台詞です。僕は見回りをしていただけですよ。最近、物騒ですからね」
 満面の笑みを浮かべながら、沖田がさらりと答えを返す。
「それならば我々にも声を掛けてくれれば良かったのに‥‥。共も連れずに組長の単独行動は危険極まりない。何かあってからでは遅いのですぞ」
 気まずい様子で沖田を見つめ、千里が軽く注意した。
「ははははは、確かにね。僕もウッカリしていたよ。今度からはそうするね」
 苦笑いを浮かべながら、沖田が恥ずかしそうに頬を掻く。
「‥‥見つけましたよ、沖田さん」
 次の瞬間、暗がりから男が現れ、いきなり沖田にむかって斬りかかる。
「き、君は‥‥!?」
 ハッとした表情を浮かべ、沖田が素早く刀を抜く。
「覚えていてくれたようですね。‥‥ならば話が早い。その刀を返してもらいましょうか? すべてが手遅れになる前に‥‥」
 沖田の事を睨みつけ、男が再び刀を振り下ろす。
「沖田組長をお守りしろっ!」
 すくさま千里が刀を抜き、男の振り下ろした刀を弾く。
「クッ‥‥、余計な真似をっ!」
 激痛の走る右腕を押さえ、男がジロリと千里を睨む。
「あんたが噂のジェロニモか。見た感じ、ジャパンの人間らしいな」
 沖田が逃げる時間を稼ぐため、夏沙がヒートハンドで牽制した。
「邪魔だ、退け! ここで彼を逃がしたら、とんでもない事になるんだぞ!」
 地面に落ちた刀を拾い、ジェロニモが十字架のペンダントを握り締める。
「その様子だと、君はジーザス教徒じゃないのかな? いや、ジャパンだと珍しいと思ってね」
 十手を構えて牽制しながら、ランティスが男にむかって問いかけた。
「だったら私の目的が分かっているはず‥‥。これ以上、手出しは無用っ!」
 ランティス達にまったく興味がないのか、ジェロニモが刀を構えて沖田の後を追おうとする。
「動かないでっ! それ以上、動いたら撃つよ!」
 ジェロニモの心臓を狙って鉄弓を構え、ユーウィンが警告まじりに呟いた。
「それじゃ、後の事は宜しくね。‥‥特に千里君」
 ゆっくりと刀を収め、沖田が千里達に別れを告げる。
 何処か寂しそうな表情を浮かべ‥‥。

●ジェロニモ
「もう一度だけ言う。そこを退けてもらおうか」
 千里達を睨みつけながら、ジェロニモが敵意を持って刀をむけた。
 沖田が逃げてしまったためか、ジェロニモの表情は険しく余裕がなさそうだ。
「一体、何が目的か、ここで答えてもらいますっ!」
 騒ぎを聞きつけ千里に加勢し、ユリアルがスタッフを構えた。
 ジェロニモが何か知っている事は確かなため、ここで何とか足止めして出来るだけ多くの情報を聞き出す必要がある。
「貴方達に答える義理はありません」
 不機嫌な表情を浮かべ、ジェロニモが先を急ごうとした。
「だったらボクらも手加減はしないよ」
 すぐさまジェロニモの刀を弾き、葵が喉元に忍者刀を突きつける。
「無駄な抵抗はやめた方がええで。確かにあんたは強いが、それは一対一で戦った場合の話や。これほどの人数を相手にして、本当に勝てると思っているわけではないやろ?」
 苦笑いを浮かべながら、雅が地面に落ちた刀を拾う。
「‥‥少し時間をいただいてもよろしいか也。我らは新撰組とギルドから派遣された冒険者也。まず、御身が一体何者で、どちらからいらして、何の目的でこのようなところに居るのか、話して欲しい也。ちなみに御身は新撰組一番隊組長、沖田総司殿とお知り合いか? 何ゆえ沖田殿の身辺に現れる也? 返答いかんによっては御身に良くない結果になるやもしれぬ也。御身の安全は御身自身の誠意にかかっている也」
 ジェロニモをジロリと睨みつけ、頃助が色々と質問した。
「‥‥」
 悔しそうに唇を噛み締め、ジェロニモが黙って目を閉じる。
「沖田様の持っている刀‥‥ですね」
 ジェロニモが何も答えようとしないため、ミラが念のためカマを掛けてみた。
「うぐっ‥‥」
 ミラの言葉にジェロニモが動揺する。
「差し詰めジェロニモと言う名前は洗礼名ですね。何らかの使命を帯びて、沖田さんの持っている刀を手に入れる必要があったのでしょう?」
 だんだんジェロニモの目的が分かってきたため、ユリアルが核心についた質問をした。
「‥‥何もかも手遅れだ。何もかも‥‥な」
 吐き捨てるようにして呟きながら、ジェロニモがその場に崩れ落ちた。
 自分の犯した過ちを悔やみつつ‥‥。
 
 翌朝、沖田は屯所から姿を消した。
 置き手紙すら残さずに‥‥。