●リプレイ本文
●キノコの自生地
「うわ〜! 何処を見てもキノコ、キノコ、キノコ〜♪」
ごるびーを探すためキノコの自生地にむかい、白井鈴(ea4026)が瞳をランランと輝かせる。
辺り一面キノコで埋め尽されており、ほのかに甘い香りが漂っている。
「ところで、ごるびー殿は何処にいるのでござろうか? 拙者は面識が無いので、どれがそうなのか、よく分からないのでござるが‥‥」
あちこちで動物がラリラリとしていたため、旋風寺豚足丸(eb2655)がダラリと汗を流す。
毒キノコから漂っている甘い香りのせいで、ウサギやタヌキが盆踊りを踊っている。
「ごるびーの外見って確か、イカ好きで、頭の毛が薄くて、カワウソだっけか? 大丈夫かな? そんなので‥‥」
鼻と口を手拭いで覆い隠し、ジーン・インパルス(ea7578)が溜息をつく。
動物なら辺りにたくさんいるのだが、ごるびーらしきカワウソが見当たらない。
「大丈夫、大丈夫♪ ごるびーちゃんはイカが大好物だから♪」
満面の笑みを浮かべながら、鈴がイカをユラユラと揺らす。
近くにごるびーが潜んでいれば、イカの匂いに誘われて姿を現すはずである。
「なるほどこうやってイカを揺らして、ごるびー殿を誘えばいいのでござるな」
鈴の真似をしてイカを揺らし、豚足丸がニコリと笑う。
豚足丸の持っているイカはキノコの形をしており、この森で偶然見つめたものらしい。
「‥‥あれ? いつの間にか辺り一面イカ畑に‥‥あれれ?」
驚いた様子で辺りを見つめ、鈴がイカを抜き始める。
土に埋まったイカは引き抜かれるとウネウネと動き、鈴にむかって真っ黒な墨を吐きかけた。
「うっ、うわあ!? あれ? あれれれれ?」
顔についた墨を拭い、鈴がダラリと汗を流す。
‥‥何処にも墨がついていない。
まるで幻を見ているかのように‥‥。
「ずっと嫌な予感がしていたのでござるが、この甘い香りの正体はキノコの胞子だったりするのでは‥‥?」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、豚足丸がキノコをペッと吐き出した。
いつの間にかキノコを頬張っていたらしく、表情にまったく締まりがない。
「た、食べちゃったの?」
引きつった笑みを浮かべ、鈴が豚足丸にツッコミを入れた。
豚足丸はキノコを食べている自覚がなかったらしく、吐き出した後もキノコを食べてハッとした表情を浮かべている。
「そういう鈴殿も先程からキノコを食べているでござる」
ラリラリとした表情を浮かべ、豚足丸がニヤニヤと笑う。
脳味噌まで毒が回っているのか、ムシャムシャとキノコを頬張りながら‥‥。
「えっ? 僕はキノコなんて食べてないよ? ‥‥って、あれれれれ? おかしいよ、やっぱりっ!?」
いつの間にかキノコを食べていたため、鈴が驚いた様子で目を丸くする。
「おーい、しっかりしろー!! あんたらはさっきからキノコを食っているだけだぞ!! いい加減に目を覚ませ!」
鈴達の胸倉を掴み上げ、ジーンが順番に往復ビンタを喰らわせた。
「いきなり何をするんだよ! このっ! キノコの化け物めっ!」
それと同時に鈴達がジーンを敵と勘違いし、手拭いを奪い無理矢理キノコを口の中に押し込んだ。
「うわっ! やめろっ! こらっ! うごごごぉ‥‥。けふっ! ‥‥あれ?」
キノコを食べた瞬間、今まで見えなかったものが見えたのか、ジーンの瞳がピュアな少年のソレになる。
「イカが‥‥空を‥‥」
唖然とした表情を浮かべ、豚足丸がイカを指差した。
既に現実と幻の区別がつかなくなっているため、何を信じていいのか分からない。
「あっ! あっちにはごるびーの姿をしたイカがっ!」
驚いた様子で目を丸くさせ、鈴が悲鳴を上げて尻餅をつく。
ごるびーの姿をしたイカがクネクネと奇妙なダンスを踊っている。
「う、嘘だろ。さっきまで一面キノコだけだったのに‥‥」
信じられたい様子で辺りを見つめ、ジーンがアングリと口を開けた。
豚足丸にキノコを放り込まれた事にも気づかずに‥‥。
「おおっ! あっちにはイカの姿をしたごるびーがっ!」
もきゅもきゅとイカを頬張りながら、豚足丸がイカの姿をしたごるびーを追いかける。
こうしてふたりはキノコの幻惑に惑わされ、楽しい一時を過ごすのだった。
辺りに生えた毒キノコが無くなるまで‥‥。
●掘っ立て小屋
「どうやら、この小屋にごるびーが捕らわれているようだな」
愛犬ボンチと共にごるびーの足取りを追いかけ、ジェームス・モンド(ea3731)が掘っ立て小屋に辿り着く。
掘っ立て小屋は無駄に高そうな色紙が貼られており、庭で飼われている柴犬の小屋には何故か『ラッシー』と名前が書かれている。
「‥‥間違いないんっすか?」
警戒した様子で辺りを睨み、以心伝助(ea4744)が掘っ立て小屋の前に立つ。
「待てっ! ごるびーが中に捕らわれているかも知れん。念のため、しばらく辺りに身を隠そう」
伝助の肩を掴んで首を振り、モンドが警告まじりに呟いた。
掘っ立て小屋の中から何か物音がするため、誰か住んでいる事は間違いない。
「なるほど。さすがっすね。‥‥って、どうして街灯になっているんっすか?」
不思議そうな表情を浮かべ、伝助がモンドにツッコミを入れる。
「‥‥自然だろ?」
ミミクリーを解除して伝助を睨み、モンドがクールに答えを返す。
「そ、そりゃ、ここに街灯があったら便利だと思うんっすが、森の中だと場違いだと思うっす」
困った様子で汗を流し、伝助が気まずく頬を掻く。
確かに森の中は薄暗く街灯があると便利なのだが、違和感があるため掘っ立て小屋の住人に怪しまれてしまう可能性が高い。
「意外性を狙ってみたんだが‥‥駄目か」
険しい表情を浮かべて腕を組み、モンドが残念そうに溜息をついた。
「とにかく確かめてみる必要がありそうですね。見るからに胡散臭くて、帰りたくなってきましたが‥‥」
掘っ立て小屋の入り口に河童の形をしたドアノッカーがついていたため、レヴィン・グリーン(eb0939)が頭を抱えて汗を流す。
ドアノッカーの口には丸い形のキュウリが咥えられており、これを叩く事によって掘っ立て小屋の住人に来た事を知らせる仕組みになっている。
「ごるびーさんは胡散臭い人物に引かれる傾向があります。素直なので騙されやすいところもありますし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、志乃守乱雪(ea5557)がレヴィンを慰めた。
「まぁ、頑張ってはみますが‥‥。このまま帰っても、森で迷子になるのがオチですからね」
ドアノッカーをコツコツと叩き、レヴィンが引きつった笑みを浮かべる。
しかし、反応は‥‥ない。
「あらあら、妙ですね。こんなに可愛いワンちゃんがいるのに‥‥」
犬小屋からヒョッコリと顔を出したラッシーの頭を撫でながら、乱雪が不思議そうに首を傾げて呟いた。
ラッシーは何かに怯えているのか、身体をカタカタと震わせている。
「一体、何をそんなに怯えているんですか? さ・て・は、お腹が空いているんですね 美味しいキノコでも食べますか?」
満面の笑みを浮かべながら、乱雪が極彩色のキノコを取り出し、ラッシーの首根っこを掴んで喉の奥まで突っ込んだ。
「うわわわわわん!?」
しばらくジタバタと暴れた後、ラッシーが急に大人しくなったかと思うと、口からひょろりと魂が抜ける。
「あらあら、食べてすぐ寝ると牛になりますよ」
グッタリとした表情を浮かべるラッシーを抱きかかえ、乱雪が優しくニコリと微笑んだ。
「あ、あの‥‥、テレパシーを使えば、何か情報が分かったような気がするんですが‥‥」
引きつった笑みを浮かべ、レヴィンが乱雪にツッコミを入れた。
「‥‥あっ! これはウッカリ‥‥」
レヴィンの顔をマジマジと見つめ、乱雪がハッとした表情を浮かべる。
「それにしても妙っすね。あっしらがこんなに騒いでいたのに、誰も出てこないなんて‥‥。やっぱり留守なんっすかね? でも、そうなった場合、掘っ立て小屋の中からしている物音の正体って‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、伝助がダラリと汗を流す。
「とにかく詳しい話を聞いてみましょうか。掘っ立て小屋の住民が、必ずしも悪い人だとも限りませんし‥‥。すいませぇ〜ん、ちょっとお話を聞かせてもらってもいいですか?」
ドアノッカーをコンコンと叩き、レヴィンが大声を上げる。
しかし‥‥、反応はない。
「おかしいですね。‥‥失礼します」
恐る恐る扉を開け、レヴァンが中を覗き込む。
「‥‥あっ」
‥‥何かと目が合った。
真っ黒な身体をした何かと‥‥。
「一体、何を驚いている。中に人がいるではないか」
レヴィンが凍りついたまま動かなくなったため、モンドが溜息をついて小屋の中に入っていく。
小屋の中には大きな熊の毛皮を着たマタギが丸まって寝ており、まるで本物の熊のような臭いを漂わせている。
「‥‥安心しろ。俺達は敵じゃない。この森にカワウソが迷い込んだので、こうやって連れ戻しに来ただけだ。何か知っている事があったら、教えて欲しいのだが‥‥」
マタギの肩に手を置きながら、モンドが自分達の目的を説明した。
「あ、あの‥‥」
怯えた様子でマタギを指差し、レヴィンが身体を震わせる。
「なんだ、見っとも無い。何も怯える事なんてないだろ?」
呆れた様子で溜息をつきながら、モンドがジロリとレヴィンを睨む。
「う、後ろ‥‥」
それと同時にマタギがムックリと起き上がり、唸り声をあげてモンドの事を威嚇した。
「こ、こいつは‥‥本物の熊じゃないか!? マ、マタギは何処だっ! 食われたのか?」
唖然とした表情を浮かべ、モンドがジリジリと後ろに下がる。
「に、逃げるっすよ! 冬眠中の熊を刺激したら、何をされるか分からないっす!」
モンドの腕をガシッと掴み、伝助が猛スピードで逃げていく。
後ろから熊に追いかけられながら‥‥。
●湖
「しふしふですよ〜☆ はやや〜? ごるび〜ちゃん、また行方不明になっちゃったですか〜?」
仲間達のまわりをグルグルと飛び回り、ベル・ベル(ea0946)が大きなハテナマークをピコピコさせた。
ごるびーがいると思われる湖は、伝説の主が目撃され始めてから水が淀み、沼のようになっている。
「どうやらそうらしいな。この寒さじゃ、きついと思うが‥‥。俺も着ぐるみで来た位だしな。それにしても、ごるびーの捜索依頼を出したヤツが気になる‥‥。ミンメイと言う訳でもなさそうだし、見世物小屋の主人でもないようだが‥‥、善意の第3者か。一体、誰なんだろうな?」
険しい表情を浮かべて腕を組み、龍深城我斬(ea0031)が辺りを睨む。
噂ではミンメイ堂の行きつけだった客が、ごるびーの事を心配して捜索願を出したという話だが、冒険者ギルドに本人が来ていなかったので分からない。
「私が聞いた話では、ふゆさんだって事ですが‥‥。それよりも、ごるびーは大丈夫でしょうかね? 食料が豊富な分、餓死する事は無さそうですが‥‥」
湖の周りを囲むようにして生えている草を掻き分け、山本建一(ea3891)が行方不明になったごるびーを捜す。
今回は家出という訳ではないため、名前を呼べば出てくるはずだか、それらしき姿は見当たらない。
「しかし、ごるびー殿が再び旅に出ていたとは予想外でござる‥‥。そう言えば去年も旅に出ていたでござるな。あの時は温泉を探していたようでござるが‥‥。今回もまた温泉を探しに行ったのでござろうか‥‥。色々とあったのでござるからの。癒しを求めても仕方がないと思うでござる」
しみじみとした表情を浮かべながら、沖鷹又三郎(ea5927)がクスリと笑う。
ごるびーとの付き合いが長いせいか、ある程度の気持ちが分かるため、それほど心配はしていない。
「それじゃ、そろそろごるびーを捜してみようか? 何処かに隠れているかも知れないし‥‥」
辺りをキョロキョロと見回しながら、リリン・リラ(eb0964)がごるびーを捜しにむかう。
湖の水が腐っているためか、湖面には大小様々の魚が浮かんでおり、硫黄にも似た臭いが漂っている。
「はやや〜、物凄い臭いがするですよ〜」
物凄い臭いが湖から漂ってきたため、ベルが鼻を押さえて汗を流す。
「これじゃ、釣りは無理そうだな。せっかく道具を持ってきたのに‥‥」
残念そうな表情を浮かべ、我斬が疲れた様子で溜息をつく。
この日のために釣り道具も頑丈な物を用意してきたため、随分と落ち込んでいるようだ。
「とにかく試しに釣り糸を垂らしてみましょう。何か大物が連れるかも知れませんし‥‥」
冗談まじりに微笑みながら、健一が湖に釣り糸を垂らす。
「運が良ければ湖のヌシが引っかかるかも知れないでござるな」
瞳をランランと輝かせ、又三郎が念入りに包丁を磨く。
ごるびーが見つかった時の事も考え、大好物のイカも焼く事にした。
「おーい、ごるびーさーん♪ おいらと一緒にお食事しよーv」
満面の笑みを浮かべながら、リラが湖にむかって声をかける。
「きゅきゅー!」
それと同時にごるびーがヒョッコリと顔を出し、七輪の上に置かれたイカに喰らいつく。
「おおっ、こんな所に隠れていたのでござるか。随分と痩せたようでござるな」
ごるびーの頭を撫でながら、又三郎がニコリと笑う。
しばらく放浪生活が続いたため、ごるびーの身体は泥だらけになっており、無我夢中でイカを食べている。
「ごるび〜ちゃ〜ん☆ こっちのイカもどうぞですよ〜☆」
ごるびーのまわりをクルクルと回り、ベルが持参したイカを渡す。
こうしてごるびーは見つかり、冒険者達に連れられ江戸に帰っていった。
最後までヌシの正体は分からぬまま‥‥。