●リプレイ本文
●水蜘蛛の訓練
「正義の味方は修行して強くなるでござるよ! 勢いに任せて水面を走るのでござるっ! サイゾウ(駿馬)さん、サスケ(戦闘馬)さん! 頑張るでござるよっ!」
拳をギュッと握り締め、風魔隠(eb4673)がペット達を応援する。
水蜘蛛の試練は脂を塗った木製の草履を履いて水面を歩くだけなのだが、うまくバランスを取っておかなければ、途中でブクブクと音を立てて沈んでしまう。
「うぐっ‥‥、ドンキンはさすが無理か。危険だと思ったら、すぐに草履を捨てていいんだぞ」
心配した様子で驢馬のドンキンを見つめ、ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)が色々とアドバイスをし始めた。
しかし、ドンキンは身体が重過ぎるせいか、うまくバランスを取れずに妙な格好になっている。
「みんな頑張っているようだね〜」
おっとりとした笑みを浮かべ、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)がラーバルト達にお茶を渡す。
ロッズのペットである鷲のニェーバ(空と言う意味)は手裏剣の試練、若い蛇のズイムリャー(大地と言う意味)は隠れ身の術の試練をしているため、二匹を信用して過度の干渉はしていない。
「ここで頑張らねば、サイゾウさんとサスケさんに明日は無いと思っているでござる。ああっ‥‥、冗談でござるよ、サイゾウさんとサスケさん。そういう意味で言ったわけではないでござる。だから、そんなにウルルンとした瞳で、拙者を見ちゃ駄目でござる」
ペット達の顔を見て胸をキュンとさせながら、隠が手拭いを噛んで助けに行く事を我慢する。
ここでペット達に手を貸してしまえば、なし崩しで修行を手伝ってしまう事になるため、助けに行きたい気持ちを堪えて心を鬼にした。
「ぬおっ‥‥、あれは!? ま、まさか‥‥、この池には河童がいるのか!?」
ハッとした表情を浮かべながら、ラーバルトがチィッと舌打ちする。
「ひ、卑怯な真似を‥‥。一体、河童達は何の恨みがあって、僕達の邪魔をしているんでしょうか?」
納得のいかない表情を浮かべ、ロッズが河童の動きを視線で追う。
河童達はドンキンの足をガシィッと掴み、そのまま池の底へと引きずり込もうとしているようだ。
「ならば、こちらも河童に対抗するまでだっ! 行け! 走れ! フカシたん!! 泳げ! 潜れ! 水の中にいるヤツラを引きずり出すんだ!!」
ここぞとばかりにヒポカンプスのフカシたんを嗾け、ラーバルトがビシィッと河童を指差した。
しかし、フカシたんは脱兎の如く逃げ出しまま、一向に戻ってこようとしない。
「‥‥ま、まさか。逃げたんじゃないだろうな? ま、待て〜、フカシたん! こら、逃げるな〜!!」
キョトンとした表情を浮かべた後、ラーバルトが慌てた様子でフカシたんを追いかける。
「むむっ、このままではサイゾウさん達が危ない。‥‥そ、そうでござるっ! 河童の頭を飛び石代わりにして、踏みつけていけばいいでござるっ!」
最後の手段とばかりに河童の頭を指差し、隠がペット達に指示を出していく。
ペット達は隠の合図に合わせて飛び上がり、河童達の頭をグシャリと踏んで着地した。
「あっ‥‥、河童達が次々と‥‥。自業自得‥‥ですかね?」
頭の皿が割れてプッカリと浮かぶ河童を見つめ、ロッズがなむなむと両手を合わす。
だが、この事がキッカケとなり、河童達がちょっかいを出してくる事は二度と無かったらしい‥‥。
●手裏剣投げの訓練
「うぐっ‥‥、これって本当に大丈夫なんっすかね? 手裏剣が当たったら、かすり傷じゃすまないっすよ?」
心配した様子でダラリと汗を流しながら、以心伝助(ea4744)が身体をカタカタと震わせる。
手裏剣投げの試練は飼い主を的にしているため、当たり所が悪いと死んでしまう。
「‥‥ペット達を信じましょう。上手く投げる事が出来るようになれば、ペット達の自信にも繋がると思いますし‥‥」
覚悟を決めて深呼吸をした後、三笠明信(ea1628)がペッタリと壁に身体を押しつける。
明信は手裏剣投げをさせる事によって正確な飛行の軌道を覚えさせ、新たな芸として『コンビネーション・フライト』を仕込むつもりでいるようだ。
「な、なるほど‥‥。それじゃ、柴丸ー、助ー! これを狙って投げるっすよー」
手盾を目立つようにして突き出し、伝助がペット達に合図を送る。
しかし、ペット達は伝助の言っている意味が分からず、その場から全く動こうとはしない。
「は、早くソレを投げるっす」
なかなかペット達が手裏剣を投げようとしないため、伝助が怯えた様子でペットを急かす。
その言葉に反応したのか、助が手裏剣を何度か甘噛みした後、尻尾を振って伝助の所まで届けに行った。
「ち、違うっす。それをあっし目掛けて、投げるんやす」
気まずい様子で首を振り、伝助が手裏剣を投げるフリをする。
最初に理解する事さえ出来なかったが、伝助が熱心に手裏剣の投げ方を教えたため、柴丸が手裏剣を咥えてブンと放り投げた。
「ひゃあ! な、な、な、な、何をするんっすか!? あ、危うく死ぬところだったんっすよ!」
頭上の壁に手裏剣がグサリッと突き刺さったため、伝助が青ざめた表情を浮かべて文句を言う。
しかし、ペット達はどうして起こられているのか分からず、不思議そうに首を傾げている。
「そんなに怒ってしまったら、ペット達が落ち込んでしまいますよ。せっかくなので、わたくしが見本を見せて上げましょう」
苦笑いを浮かべながら、明信がペット達にむかって合図を送る。
流星(イーグル)と閃桜(ホーク)は手裏剣を咥えて飛び上がり、明信めがけて飛んでいくと勢いをつけて手裏剣を投げた。
「クッ‥‥、まさかここまで上手く行くとは‥‥」
唖然とした表情を浮かべながら、明信が壁に突き刺さった手裏剣を抜く。
ペット達の投げた手裏剣は明信の頭を挟むようにして壁に突き刺さっており、少しでも狙いがズレていれば彼の頭に手裏剣が突き刺さっていた程だ。
それは単なる偶然でしかなかったのだが、色々な意味でペット達の恐ろしさを知る事が出来た。
●隠れ身の術の訓練
「ミンメイ殿、ごるびー殿、お久しぶりだな。我はちょっと京都にて巫女修行をしてきたのだが‥‥、どうだろうか?」
ミンメイ達に挨拶をした後、ルミリア・ザナックス(ea5298)が神楽舞を踊り出す。
残念ながら河童忍軍の者達はこの場にいないのだが、ごるびーが楽しそうにルミリアと舞を踊っている。
「けひゃひゃひゃ、相変わらず能天気だな〜。頭の中に棲みついているネズミ君も元気かねぇ〜」
冗談交じりに微笑みながら、トマス・ウェスト(ea8714)がごるびーの頭をコンコンと叩く。
ごるびーは訳も分からず首を傾げ、呑気にイカを齧っている。
「さて、それじゃあ。訓練を始めるとするか」
身振り手振りを使って訓練の内容を説明した後、ルミリアが目を閉じてペット達が隠れるまで待つ事にした。
ペット達はミンメイの用意したハリボテを使い、ルミリア達に見つからないようにして身を隠す。
「けひゃひゃひゃ、こっちも負けていられないね〜。さて、鈍器丸。今日はゆっくりと修行の様子を見せてもらおうじゃないか〜」
鈍器丸(驢馬)の頭をヨシヨシと撫で、トマス(以下ドクター)がゆっくりと目を閉じる。
すると鈍器丸はドクターの後ろに隠れ、気づかれないようにするため息を殺す。
「‥‥おや? さっきまでいたはずの鈍器丸がいない。一体、どこにいるのかな〜?」
わざと分からないふりをしながら、ドクターがキョロキョロと辺りを見回した。
しかし、鈍器丸は途中で我慢する事が出来なくなり、ぶはっと息を吐き出し思いっきり咳き込んだ。
「むー‥‥、鈍器丸は、もう少し我慢しなきゃ駄目だな〜。それじゃ、今度は大威牙丸に頑張ってもらおうか〜。さぁ、君の隠れ身の術を見せてくれたまえ〜」
呆れた様子で溜息をつきながら、ドクターが大威牙丸の頭を撫でる。
大威牙丸はドクターが目を閉じたのと同時に死角に隠れ、相手の動きに合わせてチョコマカと移動した。
「む、む、どこだ〜大威牙丸〜」
満足した様子で笑みを浮かべ、ドクターが後ろを見ないようにして歩いていく。
そのため大威牙丸は徐々にコツを掴んでいき、ドクターが満足する事が出来るだけの結果を出した。
「‥‥よし。そろそろ我も動くとするか。二匹ともうまく隠れたかな?」
ペット達の鳴き声が聞こえなくなったため、ルミリアが警戒した様子で岩を撫でる。
(「‥‥うむ。大きい身体ながらになかなか上手く隠れている。さすがに戦場には通用しまいが‥‥、芸としてはまずまずだな♪」)。
岩のハリボテを使って身を隠しているガーナッシュ(戦闘馬)に気づき、ルミリアがあえて口には出さずに感想を述べた。
ハリボテはそれほど出来のいいものではないが、ガーナッシュは出来るだけ動かないようにして気配を消しているようだ。
(「‥‥おっ! こっちはブレンヒルト(イーグルドラゴンパピー)か。随分と張り切っているんだな」)。
ブレンヒルトが大木のハリボテを使って身を隠しているため、ルミリアがわざと視線を逸らして気づかないフリをした。
その事に満足したのかブレンヒルトはガーナッシュの傍に移動し、何から会話らしきものを始めている。
(「うぐっ‥‥、あれじゃ丸見えだな。そろそろツッコミを入れておくか」)
だんだんペット達が悪ノリをしてきたため、ルミリアがハリボテを掴んで二匹を睨む。
ペット達は気まずい様子で視線を逸らし、ダラダラと滝のような汗を流す。
「こらこら、そんなに怯える事は無い。おぬしらも頑張っていたからな。それじゃ、そろそろ帰るとするか。そろそろ腹も減っている頃だろ?」
満足した様子で笑みを浮かべ、ルミリアがペット達の頭をヨシヨシと撫でる。
隠れ身の術を会得したとはいえないが、この事がキッカケとなってペット達が成長する事を祈りつつ訓練を終えるのであった。