●リプレイ本文
「俺は鎖雷、見ての通り極々普通の(両利きで騎乗・押し倒し攻撃と徹夜が得意なサディスティック)貧乏浪人だ。‥‥まぁ、●●とか言わないで、よろしく頼む! ちなみに愛馬の名前は『めひひひひん』だ!」
不穏当な発言があったため一部音声に修正を入れられながら、湯田鎖雷(ea0109)が仲間達の前で自己紹介をし始める。
いかにも怪しい雰囲気を漂わせてはいるものの、触れてはいけない領域である可能性が高いため、誰もツッコミを入れるつもりはないようだ。
「酒は呑んでも呑まれるな‥‥ってな。憶えておいて損は無いぞ?」
苦笑いを浮かべながら、殊未那乖杜(ea0076)が村人達に頼んで大八車を用意してもらい、米と酒を積んでいく。
「つーか、俺は酒なんか呑んじゃいねぇ! イロモノ扱いするなよ!」
不満げに乖杜の顔を睨みつけ、鎖雷が乱暴に酒を運び出す。
「飲んで〜飲んで〜飲ませて〜飲んで〜♪ ‥‥てね。どう? もう一杯?」
冗談まじりに微笑みながら、山浦とき和(ea3809)がお酌のポーズで微笑んだ。
「そんな事を言っていられるのも今のうちだぞ! 俺があっという間に盗賊の野郎をぶっ倒しちまうからな。腰を抜かした時のために杖でも用意しておけよ!」
めひひひひんに慰められ、妙な敗北感を感じる鎖雷。
この怒りを盗賊達にぶつけるため、ここは我慢しておくらしい。
「‥‥また盗賊達か。何でこの手の奴らは在り来りの手を使うかね。此方も型通りの気がするが、奴らを酔わせて油断させてみるか」
呆れた様子で溜息をつきながら、南天輝(ea2557)がアルコール度数の高い酒を選ぶ。
よほど盗賊達が酒に強くない限り、これを呑めばイチコロだ。
「それにしてもこの国も厄介事がよぅ頻発する国じゃのぅ‥‥。さて、今回は猫の置物を守りながら盗賊退治、とな?」
苦笑いを浮かべながら、馬場奈津(ea3899)が馬に餌をやる。
その横ではめひひひひんがやけに高価な餌を食べており、鎖雷の財布を圧迫させているようだ。
「こら、めひひひひん! それくらいで我慢しろ! 俺に飯抜きで働けって言うのか。そんなに喰ったら、俺の取り分が‥‥うごっ」
めひひひひんから必殺の一撃を喰らい、青空の彼方に消える鎖雷。
めひひひひんはフンと大きく鼻を鳴らし、再び餌をモグモグと食べ始める。
「これではどちらが御主人様か分からんのぉ」
めひひひひんの頭を撫でながら、奈津がクスリと微笑んだ。
「色々と仕込みをするようだが、私は表に出ない方がいいな。敵の目に触れたら、明らかに不審に思われるだろうし‥‥」
物陰に隠れて腕を組み、デュラン・ハイアット(ea0042)がボソリと呟いた。
村人達の中に盗賊の一味が潜んでいると噂を聞いたため、なるべくなら村人達に自分の存在を知られたくはないようだ。
「もちろんじゃ。さきほどから妙な視線を感じるしのぉ‥‥。既にわしらの噂も広まっているようじゃ」
背後に妙な殺気を感じながら、奈津が小さく頷き他人のふりをした。
村人達の中に何人かの盗賊が潜んでいるらしく、何も言わずにこちらの様子を窺っている。
「他人の大事な物を奪ったうえに、自分勝手な振る舞い‥‥断じて許す事はできない! 盗賊達を懲らしめて、お猫様を奪い返さねばな」
拳を力強く握り締め、李雷龍(ea2756)が盗賊らしき人物を睨む。
すると男は気まずい様子で視線を逸らし、そそくさと村を後にする。
「猫猫猫‥‥そのお猫様って可愛いのかなー?? 俺、動物好き〜vv」
両手をぴょこぽんとあげながら、天螺月秋樺(ea0625)がニコリと微笑んだ。
招き猫を本物の猫と勘違いしているためか、秋樺はとてもワクワクしているらしい。
「ぶっちゃけて云うなら招き猫、なんだよな? そんなモンひとつに大袈裟な、と思わんでもないが‥‥村の連中にとっては大事な物だしな」
深刻な表情を浮かべて依頼してきた村人達の顔を思い出し、六道伯焔(ea0215)が疲れた様子で溜息をつく。
本物の猫ならいざ知らず、焼き物の猫ならまた作り直せばいいはずだ。
にも関わらず招き猫を取り返して欲しいという事は何か理由があるのだろうか?
少し聞いてみたい気もするが、村人達が動揺しているため、いまは聞ける状況ではなさそうだ。
「福を呼ぶ招き猫‥‥。出来る事なら、その恩恵‥‥私にも授けて欲しいものですね‥‥」
何処か寂しげな表情を浮かべ、十三代目九十九屋(ea2673)が辺りを睨む。
招き猫に福を呼ぶ力があるかどうかは分からないが、村人達の様子を見る限りではご利益があると考えるべきだ。
「それじゃ、招き猫を取り戻したら、試しに拝んでみるか」
そして輝は軽く冗談を言いながら、盗賊達のアジトにむけて大八車を引いていくのであった。
「米が足らないので、あるだけの酒と帰省して来た娘が持ってきた、上等な酒で今回は勘弁して下せぇ」
村人の格好をして盗賊達の指定した場所まで荷物を運び、山崎剱紅狼(ea0585)が怯えた様子でとき和の事を紹介する。
「長病を患っていたおとっつぁんが先日他界したものの、薬代の借金が払えず長屋を追い出され、路頭に迷って歩いてたところを、この左之助さんに声をかけて貰いまして‥‥先日からご厄介になってるんです」
ほろりと涙を流しながら、とき和が深々と頭を下げた。
「米が足らねえだと‥‥。まぁ‥‥、いいか」
盗賊達は剱紅狼の事を怪しんでいたようだが、とき和の事が気に入ったため下品な笑みを浮かべて肩を抱く。
「約束は‥‥守ってくれるんだろうな?」
険しい表情を浮かべながら、乖杜が一歩だけ前に出る。
「そんなに怖い顔をするな。お猫様は無事だぜ。まぁ、返してやる気はないけどな」
豪快な笑みを浮かべ、盗賊のひとりがとき和の事を連れて行く。
(「‥‥うまくやってくれよ」)
とき和にむかって合図を送り、乖杜が盗賊達から背をむける。
彼女の事は心配だが、盗賊達を油断させるためには仕方ない。
「本当に大丈夫なのか? 彼女ひとりでさ」
盗賊達が立ち去った後、剱紅狼が頭に被っていた手ぬぐいを外し、疲れた様子で溜息をつく。
勘のいい盗賊なら単純な変装は見抜くため、相手に気づかれないようにずっと緊張していたらしい。
「‥‥多分な。まぁ、何とかなるさ。山浦さんだって冒険者だしな」
仲間達が来るのを待つため、乖杜が大きな木に寄りかかる。
「どうやら作戦は成功したようですね」
ようやく乖杜達と合流し、九十九屋がそっと辺りを見回した。
地面には大八車の車輪跡がクッキリと残されており、その後は盗賊達のアジトまで続いている。
「いや、まだです。盗賊達が酔い潰れるのを確認するまでは‥‥」
険しい表情を浮かべながら、雷龍が大八車の車輪跡を辿っていく。
車輪の跡は近くの廃寺まで続いており、盗賊達のはしゃぐ声が家の外まで響いている。
「山浦殿がうまくやってくれているようじゃ。そろそろ頃合かも知れんのぉ‥‥」
そして奈津は苦笑いを浮かべながら、自分の馬を近くの樹に繋ぐのであった。
「もうこれ以上、お米が残ってないのです‥‥。ですから今日は不足分を地酒で振舞わせて下さいな」
廃寺の本堂ではとき和が盗賊達の杯にどぶろくを注いで酔いを誘う。
既に盗賊達の大半は酔っ払っているようだが、まだ何人かの盗賊は酒が強いために意識がある。
「おいおい、そんな奴らにばかり構うなよ。もっとこっちに寄って俺にも酌をしてくれぃ」
とき和の事を強引に抱き寄せながら、盗賊の頭が豪快に笑う。
完全に酔っ払っているためか、冒険者達の事など忘れている。
「‥‥仕方ないわね」
盗賊の頭が持っている杯を胸元に隠し、とき和が口移しで酒を流し込む。
そのため盗賊の頭はいやらしく笑い、酒をガブガブと呑み始める。
「随分と盛り上がっているな。なんだか邪魔をするのも気が引ける」
仲間達と一緒に物陰に潜み、輝が頭を抱えて呟いた。
とき和のおかげで廃寺に潜入する事は容易に出来たが、襲撃するタイミングを掴む事が出来ないため、少し躊躇しているらしい。
「酔っ払っている奴が7人、寝ている奴が4人か。まともに戦える奴はいないようだが、注意しておく必要があるな。とき和から合図があり次第、動けるようにしておけよ」
ブレスセンサーを使って盗賊達の様子を探り、デュランが物陰に隠れて息を呑む。
とき和も合図をする準備は出来ているようだが、盗賊の頭がしつこく身体を触るため、なかなか合図を送る事が出来ないようだ。
「‥‥猫を壊されないようにするのが優先なんだよな? だったら、賊を猫に近付けさせないような位置で戦うべきか」
盗賊達に気づかれないように忍び足で歩きながら、伯焔がお猫様の後ろまで移動する。
途中で何人かの盗賊達が気づいたが、酔って幻でも見たとでも思ったのか、再び何事もなかったように酒を呑む。
「おうらっ! 何を呑気にしてやがる!」
我慢が出来なくなったため、鎖雷がめひひひひんにのって廃寺の障子を突き破り、ほろ酔い加減のとき和にむかって、警告まじりにカナブンを投げつける。
「あうっ‥‥」
後頭部にカナブンがぱちんと当たり、とき和が大袈裟に倒れて盗賊の頭から刀を奪う。
「‥‥相手はみんな丸腰か。刀を使うまでもないな」
オーラパワーを使って短刀を構え、乖杜がお猫様を背にして盗賊を睨む。
「まずはお猫様を確保しろ!」
リトルフライを使って飛び上がり、デュランが仲間達にむかって指示を出す。
盗賊達は慌てた様子で杯を叩きつけ、お猫様を破壊しようと棒を握る。
「オラァッ! 邪魔だ! 其処を退けィ!」
お猫様を守るため迷う事なく走り出し、剱紅狼が立ち上がろうとしていた盗賊の頭を踏んでいく。
「面倒事は御免だぜ!」
盗賊達の背後からブラインドアタックEXを放ち、輝がむかってきた盗賊めがけてソニックブームを叩き込む。
盗賊達は酔いのためうまく戦う事が出来ないまま、次第に追い詰められていく。
「怪我をしたくないなら、端に寄っていてくださいね」
オーラボディを発動させ、雷龍が盗賊達に当て身を食らわせた。
「ふざけるなぁ! うおおおおおお!」
雄たけびをあげて棒を握り、盗賊のひとりがお猫様の破壊を試みる。
「おっと、危ない!」
すぐさま足払いを放ち、秋樺がスマッシュを使ってトドメをさす。
「手っ取り早く戦闘を終わらせるか」
ディスカリッジで盗賊達の戦意を奪い取り、伯焔がホーリーフィールドを使ってお猫様のまわりに結界を張る。
「そろそろわしの出番かのぉ」
お猫様の後ろに隠れ、奈津がクククッと笑う。
『なぁぁぁ〜ご‥‥。よくもよくも、このわしをかどわかし、さらには可愛い村の者たちを苦しめてくれたのォォ。おぬしら、末代まで祟ってくれるわぁぁぁっ』
ヴェントリラキュイを使って声の発生場所にお猫様を指定し、奈津が憎悪に満ち溢れた声を響かせた。
「ひぃぃぃぃ、化け物だぁぁぁぁ!」
盗賊達は酔っ払っているせいか、必要以上に怯えて逃げる。
それに合わせて奈津がお猫様の後ろから手裏剣を投げつけ、盗賊達の恐怖心を次第に増幅させていく。
「早く逃げないと食べられてしまいますよ」
大ガマの術を使って盗賊達を驚かせ、九十九屋が逃げ遅れた盗賊の頭を捕縛した。
「ふう‥‥、何とかお猫様は無事のようだね。一時はどうなるかと思ったよ」
ホッとした様子で汗を拭い、秋樺がお猫様の身体を撫でる。
盗賊の頭は観念したのか、諦めた様子で溜息をつく。
「まったく。こんな物を護る為に骨を折らなければならないとは、冒険者というのは損な商売だな。まあ、其れもまた良しとするか」
苦笑いを浮かべながら、デュランが鎖雷と一緒にお猫様を運ぶ。
「しかし‥‥というかやはり招き猫なのか。ご利益なあるんだろうな? 村人達は信じているようだが‥‥」
胡散臭そうに招き猫を見つめ、輝が首を傾げて呟いた。
銅見ても胡散臭い代物だが、本当にご利益はあるのだろうか?
「‥‥信じるものは救われます」
商売繁盛の祈願をするため、九十九屋が黙って両手を合わす。
効果があるかどうかは分からないが、祈っておいて損をする事はないだろう。
「さっそく村人達に報告せねば‥‥」
酒の匂いを嗅いで少し眩暈を感じたため、伯焔が気まずい様子で廃寺を出る。
「‥‥あら鎖雷さん。可愛いさくらんぼつけてるのね♪ 何かのおまじない?」
ようやく意識を取り戻し、とき和がニコリと微笑んだ。
「そんな事を言う不届き者は、めひひひひんの踵に踏ませて這い蹲らせてやるから、覚悟しろよ?」
拳をプルプルと震わせながら、鎖雷が怪しく瞳を輝かせる。
よほどショックな事を言われたのか、鎖雷の顔が妙に赤い。
「それじゃ、お猫様を持ち帰るとするか」
そして乖杜は仲間達と一緒にお猫様を大八車へと積み込み、村へと戻っていくのであった。