●リプレイ本文
●見張り
‥‥草木も眠る丑三つ時。
冒険者達は河童忍軍玄武衆首領『玄武』を救うため、彼が囚われている島へと降り立った。
「河童忍軍の玄武衆の長で有る、玄武様が、このような目に会うとは、いったい誰が、そのような噂を流したのでしょうか。ひどい仕打ちを、為さる者です」
不機嫌な表情を浮かべながら、木下茜(eb5817)が愚痴をこぼす。
玄武の囚われている独房は島の中心にあり、数々のトラップを潜り抜けていかねばならない。
そのため、少人数で救出作戦を成功させるためには、看守達が眠りについているはずの真夜中でなければならない。
「まぁ、色々とあったようやで。大人の事情っつーヤツじゃな。本当の黒幕は別のところにいるっちゅー話やから、何とかなると思うんやが‥‥」
苦笑いを浮かべながら、将門雅(eb1645)が気まずい様子で頬をかく。
冒険者ギルドで色々と話を聞いたのだが、玄武に非があるというよりは、ハメられて投獄されたという印象が強い。
もちろん、日頃の行いが悪いため、誰も玄武が無実だとは思っていなかったようなのだが‥‥。
「さて、ひと暴れしてこようかのう」
含みのある笑みを浮かべながら、朱鈴麗(eb5463)が看守小屋を目指して進む。
看守小屋は島の高台にあり、そこから島全体が見渡せる。
「まずは、看守達の、利用している、食料庫から、襲いましょう」
警戒した様子で茂みに隠れ、茜がゆっくりと辺りを見回した。
看守小屋の前には見張りの河童が立っており、いくつもの篝火が焚かれている。
「いや、それはマズイやろ。ちょっと、わしらだけじゃ人数が少な過ぎる。見つかったら、何をされるか分からんでぇ〜」
青ざめた表情を浮かべながら、鈴麗が雅の腕をガシィッと掴む。
予想以上に参加者が少なかったため、必要以上の行動をすれば成功する確率が低くなる。
「やはり、駄目ですか。いい作戦だと、思ったんですが‥‥」
持参したゴーヤを握り締め、茜が残念そうに溜息をつく。
「‥‥誰だっ!」
次の瞬間、見張りの河童が呼び子を鳴らし、眠っていた河童達を叩き起こす。
「むっ‥‥、気づかれたか。ならば予定通りに動くのみ!」
仲間達に向かって合図を送り、鈴麗が森に向かって走り出した。
小船のある場所から少しでも遠くに行くために‥‥。
「鬼さんこっちやでぇ〜。早よ来んと胡瓜食っちまうでぇ〜」
キュウリを高々と掲げながら、雅が見張りの河童を挑発する。
そのため、見張りの河童が狂ったように呼び子を鳴らし、雅達の逃げ道を塞ぐようにしてまわりを囲む。
「むむ‥‥、しつこい奴らめ! ‥‥仕方ない。この手だけは使いたくなかったんじゃが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、鈴麗がウォーターボムを放つ。
「ぬわあああっ! こ、こいつ! 冒険者か!?」
驚いた様子で悲鳴を上げ、見張りの河童が尻餅をつく。
いきなり水球が顔面に直撃したため、見張り達が鈴麗を警戒する。
「まだやる気か? ‥‥わらわは弱い者虐めをするような輩が嫌いでのう。これ以上、やるというなら容赦はせぬぞ」
含みのある笑みを浮かべながら、鈴麗がジロリと睨む。
「お、覚えてろ!」
そのため、見張りの河童達は捨て台詞を吐き捨て、蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。
●玄武
「‥‥えろがぱーずの首領として囚われているのですか。余り気乗りはしませんが、やる上には確実に片付けましょう。ここら辺は冒険者としてのプライドって物ですか‥‥」
色々な意味で自業自得と思いながら、景山清久(eb1803)が茂みに潜む。
見張り小屋の方が騒がしくなってきたため、玄武を助け出すためには今しかない。
「‥‥まったく。一体、何をしておるのじゃ、玄武は‥‥。なんと言うか、コトの阿呆さ加減に目眩がしそうじゃ。‥‥とはいえ、われらが首領じゃ放ってはおけん。わしが脱走に一役買ってやろうぞ!」
呆れた様子で溜息をつきながら、錬金(ea4568)が玄武の囚われている独房にむかう。
玄武の囚われている独房は島の地下にあり、太陽の光さえ届かない場所にあるらしい。
「‥‥見張りの数は40ですか。独房の見張りも森に行っているといいんですが‥‥」
月明かりを頼りにしながら、清久が見張りの数を確認する。
ほとんどの見張りは森に行っているようだが、だからといって独房に見張りがいないとは限らない。
「‥‥ここまで来たんだ。いまさら逃げるわけにも行かないだろ? あたいはやるよ」
険しい表情を浮かべながら、クーリア・デルファ(eb2244)が独房にむかう。
玄武の独房に行くためには洞窟を通っていく必要があり、松明が無ければ真っ暗で何も見えない。
「それじゃ、さっそく行こうとするかのぉ」
満面の笑みを浮かべながら、金が壁に掛けられていた松明を掴む。
それと同時に大量の蝙蝠が羽をバタつかせ、洞窟の外にむかって一斉に飛び立った。
「ぬおっ! し、しまった! き、気づかれておらんだろうな?」
青ざめた表情を浮かべながら、金がダラリと汗を流す。
幸い見張りの河童には気づかれていないようだが、心臓が飛び出るほど驚いたのは確かである。
「と、とにかく急ぎましょう!」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、清久が洞窟を滑り降りていく。
独房の前には見張りの河童が座っており、呑気に酒をガブガブと呑んでいる。
「クッ‥‥、やはりな。じゃが、わしとて、ここで諦めるつもりはない!」
河童五輪を戦い抜いて目覚めたミミクリーの術を使い、金が河童の姿に化けて見張りの河童を殴り飛ばす。
見張りの河童は何が起こったのかも分からぬまま、玄武が閉じ込められていた扉を突き破って気絶した。
「た、助けに来てくれたのか!?」
ホッとした表情を浮かべ、玄武が独房から顔を出す。
玄武は独房に閉じ込められていた間に拷問を受けており、彼の甲羅には無数の傷跡が残っている。
「こぉの馬鹿首領がーーーー!!!! 別にえろがぱーずの首領である事はかまわん。煩悩も覗きも漢の道じゃ。だが、ばれた挙句捕まって牢に送られ、一人で脱走も出来んとは何たる体たらくじゃ。それでも河童忍軍玄武衆の首領か。情けなくって父ちゃん涙が出てくらぁ」
やけに熱の篭った擬音とともに、金が玄武をブン殴る。
玄武は呑まず食わずで弱っていたため、勢いあまって壁にめり込み血反吐を吐いた。
「とりあえず生きていますね。それじゃ、脱出しますよ」
気絶した玄武を抱き起こし、清久がヒーリングポーションを玄武に飲ます。
玄武は魂が抜けた様子でふらりと立ち上がり、地上を目指してフラフラと歩いていく。
「そんなんじゃ、この島から出る事など出来んぞ。これを呑め!」
強引にマムシ酒を玄武に飲ませ、金がニヤリと笑って肩を貸す。
次の瞬間、洞窟の入り口が騒がしくなり、たくさんの見張りが洞窟の中に入ってきた。
「‥‥間に合わなかったようだね。それじゃ、オトシマエをつけてもらおうか!」
このままでは玄武が捕まってしまうため、クーリアが自ら盾となって先陣を切っていく。
しかし、見張りの数が多過ぎて、いつまで持つのか分からない。
「た、祟りじゃ! この者に手を出してはいかん、早く島から出さないと‥‥皆、死ぬぞ」
わざと大声を出しながら、清久が見張りの河童を挑発する。
そのため、見張り達は驚いた様子で目を丸くさせ、なかなか玄武に手を出せなくなるのであった。
●逃亡
「はぁ‥‥はぁ‥‥。た、助かった。早く、船に‥‥乗せてくれぃ」
疲れた様子で荒く息を吐きながら、玄武が消え去りそうな声を出す。
早く逃げないと見張り達に捕まってしまうため、玄武も必死になって逃げている。
「玄武‥‥、あんた一体何やってんだよ。よりによって妻帯者の身でエロ河童の首領に間違われるか? ‥‥全くしょうがねえなあ、河童忍者の掟ってのも融通がきかねえ様だし、今更五輪祭が中止ってのも腹立たしいから助けてやるけどさ」
面倒臭そうに溜息をつきながら、龍深城我斬(ea0031)が玄武にむかって右手を伸ばす。
それと同時に無数の矢が雨のようにして降り注ぎ、我残が慌てた様子で右手を引っ込める。
「な、なんだ、今のは!? き、聞いてねぇぞ!」
青ざめた表情を浮かべながら、我斬が小船を岸から遠ざけていく。
他にも船に乗っている冒険者がいれば何とか対処する事も出来たのだが、たったひとりであれこれやれるほど我斬も器用ではない。
「ちょっと待てぃ! 何故、船を出す! 俺はまだ乗ってねぇぞ!」
派手にズッコケて泥まみれになりながら、玄武が納得のいかない様子で文句を言う。
「仕方ないだろうが! 人数が少な過ぎて、昼間に活動する事が出来なかったんだから‥‥。文句を言うなら、テメーの人望の無さを恨みやがれ!」
このままでは自分の命まで危ういため、我斬が構わず船を遠ざけていく。
一応、他の仲間達が見張りの足止めをしてくれているようだが、完全に防ぎきれているわけではないので、強引に玄武を救出しようとすれば必ず死傷者が出てしまう。
「だからと言って俺を見捨てる気か! は、薄情者! 死んだら化けて出てやるからな!」
今にも泣きそうな声を出しながら、玄武が呪いの言葉を吐き捨てる。
その間も見張りの河童達が玄武を捕まえようとして、雄たけびをあげて次々と攻撃を仕掛けてきた。
「仕方ないだろうが! 俺だってこんな事になるとは思ってねぇ! とりあえず、これを着ておけ! 普通に殴られるよりマシだろ?」
不機嫌な表情を浮かべながら、我斬がネイルアーマーを放り投げる。
それと同時に見張りが一斉に飛び掛り、ネイルアーマーを掴んだ玄武を捕まえた。
「うぐ‥‥、逆効果だったか。と、とにかく必ず助けに戻ってくる! 何か証拠を掴んでな!」
そう言って我斬が気まずい様子で視線を逸らす。
そのため、見張りの河童は玄武の身体を縛り上げ、フンと鼻を鳴らして持ち場に帰っていく。
彼らにとって玄武さえ捕まえる事が出来れば、我斬達が何をしても関係のない事なのだから‥‥。