●リプレイ本文
「今回は‥‥墳墓の探検! オマケにお宝付き‥‥! ‥‥っていう話だけど、ホントのトコは、どうなんだろうね?」
提灯を使って辺りを照らし、鷹城空魔(ea0276)がボソリと呟いた。
それなりの報酬は貰っているのだが、この依頼‥‥どこか胡散臭い。
「埋蔵金‥‥ねぇ。どうせまた、くだんねぇモンがお宝でした‥‥ってオチだろ? 俺は期待なんかしてねぇよ」
冷めた目つきで遠くを見つめ、秋村朱漸(ea3513)が大きなアクビをする。
「この話を聞いた時、華国の王古墳を思い浮かべてしまったよ。あれだけの埴輪が現れたらちょっと怖いな」
墳墓を守る埴輪に怯え、羽雪嶺(ea2478)が大粒の汗を流す。
埴輪の防御力は高いため、集団で襲ってきた場合は面倒だ。
「5パーテーもの冒険者が倒されたんですね。うち装備も体力もないからホンマ怖いわ」
依頼主に聞こえないように小声で呟き、グラス・ライン(ea2480)が辺りをキョロキョロと見回した。
依頼主にはジャパン語が分からないと伝えてあるため、ここでバレてしまうわけにはいかない。
「わしに内緒で何を話しているのかね?」
屈強な男達を何人か引き連れ、依頼主が豪快に笑う。
男達はみんな博打に負けて多額の借金を負ったらしく、依頼主の命を守る事によってその借金をチャラにする契約をしたらしい。
「この地図の通りに進んでいけばいいんだよね?」
依頼主から預かった地図を眺め、無天焔威(ea0073)が墳墓の中を進んでいく。
上質の紙を地図に使っている事から、この依頼主が大変な金持ちである事が分かる。
「ああ、その通りに進んでくれ。間違った通路を進めば、トラップを解除しなくてはならないからな」
扇子でパタパタと顔を仰ぎ、依頼主が通路を突き進む。
冒険者達に守られているためか、依頼主はまったく警戒していない。
「ところで前に雇ったヤツラは、どんなくたばり方をしたんだ?」
依頼主の傍を歩きながら、朱漸がボソリと呟いた。
「大半の奴は埴輪にやられちまった。わしだって何度も死にかけたんだぞ。まったく役に立たん奴らばかりだ」
以前の調査を思い出し、依頼主が不満げに愚痴をこぼす。
よほど腹が立っていたのか、その時の傷まで見せて愚痴を言う。
「今までの冒険者達が依頼を遂行出来なかったのは、埴輪兵だけが原因なのですか?」
念のため確認をしておくため、クレセント・オーキッド(ea1192)が依頼主に向かって問いかける。
墳墓内の危険は埴輪だけでなく、墓荒らし対策として仕掛けられたトラップもあるため、より詳しい話を聞いておくべきだろう。
「トラップについては気にするな。用心のため盾を用意しておいた」
豪快な笑みを浮かべ、依頼主が屈強な男達を前に出す。
「‥‥なるほどな(チッ‥‥前のヤツラ、やっぱ捨石か。このクソダヌキ‥‥)」
思っている事は口にせず、朱漸が豪快に笑って相槌を打つ。
「なるべく注意しておかないとな」
警戒した様子で辺りを睨み、結城利彦(ea0247)が慎重に歩く。
何処にトラップが仕掛けられているかも分からないため、壁を触る時さえ油断する事が出来ないようだ。
「少し怖いから、とし君の後ろを歩くね」
不安げに利彦の腕をぎゅっと掴み、玖珂麗奈(ea0250)がニコリと笑う。
利彦はかなり慎重になっていた事もあり、麗奈の声に驚き口から心臓が飛び出しそうになっている。
「俺は盾じゃないんだぞ。‥‥まったく」
相手が麗奈と分かったため、利彦がほっとした様子で溜息をつく。
「何をグスグスしてるんだ! ノンビリするなら、置いてくぞ!」
ふたりの事を睨みつけ、依頼主がぷんすかと怒る。
いつ埴輪が襲ってくるかも分からないため、少しアセッているらしい。
「多分コイツぁよ‥‥。自分さえ良けりゃ他のヤツはどうだって良いってクチだぜ。‥‥目ぇ見りゃ分かんだよ、目ぇ見りゃ」
小声で利彦に愚痴をこぼし、朱漸が依頼主の背中を睨む。
「でも、あの依頼主、信用ならないんだよなぁ〜。いきなり『俺の盾になれ』ってよ! ふざけんな! もし逃げようとするんなら首根っこ引っつかんで引っ張り戻してやる!」
小声でコソコソと喋りながら、空魔が不満そうに愚痴をこぼす。
確かに貰える報酬は多いが、依頼主の態度には腹が立つ。
「‥‥んな事よりよ。くたばった連中のお仲間だったヤツが出した依頼の方が報酬は上だって言うじゃねぇか? 野郎‥‥ガッチリ貯め込んでやがるな。とっととくたばっちめぇ‥‥」
そう言って朱漸が恨めしそうに呟いた。
「何を犠牲にしても手に入れたいものは依頼主にはあるんだろ。まあ、そのために犠牲になったものを顧みないクズなら粗末に扱うだけだしねぇ〜」
それほど依頼主には興味を持たず、焔威が通路をゆっくりと進んでいく。
「俺達がやるべき事は依頼主の前に立って、襲ってくる埴輪の相手をする事だ。余計な事をやってる余裕も無いだろうし、依頼者を守る事を第一に考えろ。まぁ、こんな所で死ぬ気も無いしな」
六尺棒で地面を叩き、嵐真也(ea0561)が辺りを睨む。
ここまで無事に通ってきたため、何か嫌な予感がする。
「胡散臭かろうが何だろうが、俺としては無傷で依頼が達成出来れば、他はどうでも良い事だ‥‥」
呆れた様子で仲間を見つめ、ナバール・エッジ(ea4517)が大きな溜息をつく。
貰える報酬が多い以上、これ以上の深入りは禁物だ。
「まぁ、いいや、久々に普通に冒険が楽しめそうだから、俺は別に何があってもいいけどね〜♪」
そして空魔はクスリと笑い、通路をノンビリと進むのだった。
「もし俺が罠を仕掛けるなら‥‥そうだな‥‥床を踏むと沢山の矢が飛んできたり‥‥狭い通路や階段で大岩が転がってきたり‥‥上から毒蛇を降らせたり‥‥おもむろに落とし穴があったり‥‥突然天井や壁が開いてはにわを大量に放流して挟み撃ちにしたりするかな‥‥」
心なしか少し楽しそうな笑みを浮かべ、麻生空弥(ea1059)が仲間達と雑談しながら通路を歩く。
「ほとんどのトラップは解除されているようだな」
辺りに異常がないかを確認し、空魔が地図を見ながら奥に進む。
通路の途中で何人か冒険者の死体を見つけたが、迂闊に触ってトラップを発動させるわけにも行かないため、空魔もかなり慎重になっているらしい。
「随分とむごい死に方をしているな。それだけここには重要な物が眠っているというわけか」
冒険者の死体に祈りを捧げ、空弥が通路の奥を睨みつける。
死体は鈍器のようなもので殴られており、脳漿が辺りに散らばり異臭を放つ。
「うわっ‥‥、腐って肉と鎧がへばりついているね。こんなのを着たら変な病気になりそうだ‥‥」
ウジの湧いた冒険者の死体を調べ、焔威が険しい表情を浮かべて視線を逸らす。
袋の中には色々な道具が入っていたが、死体から流れ出る腐汁で妙な臭いを放っている。
「地図だとこの辺りで埴輪が出たようだね。ほら‥‥、地図に×印が書いてあるだろ?」
地図に書かれている×印を指差し、焔威がゆっくりと辺りを見回した。
「何かを引きずった跡がありますね‥‥」
地面に残った血痕を辿り、クレセントがピタリと動きを止める。
左側の通路を覗くと埴輪の背中が見えており、クレセント達のいる方向とは別の場所にむかっているようだ。
「敵は3体。‥‥近くにいます」
小声でボソリと呟きながら、ラインがゴクリと唾を飲む。
「‥‥少し黙っていた方がいいかもな」
警戒した様子で息を殺し、空弥が壁にむかって背を当てる。
「ぶぇっくしょい!」
埴輪はしばらく前に進んでいたが、依頼主のクシャミに気づき、他の埴輪を引きつれ元の通路に引き返す。
「‥‥気づかれたか」
慌てた様子で依頼主の口を塞ぎ、空弥がチィと舌打ちする。
「こんな狭い通路じゃ戦いにくいなぁ‥‥」
ゆっくりと刀を構え、焔威が埴輪と間合いを取った。
埴輪は通路を塞ぐようにして並んでいるため、このまま戦うか反対側の方向に逃げるかのどちらである。
「正面からやり合うのはマジでヤバイかも知れねぇ。今回はあくまで自己防衛メインだろ。君子危うきに近寄らず‥‥ってヤツよ」
反対側の通路を睨み、朱漸が怪しくニヤリと笑う。
とても都合がいい事に反対側の通路は宝が眠っていると思われる場所だ。
「ここは逃げた方がいいかもね。この結界もいつまで持つか分からないし‥‥」
すぐさまホーリーフィールドを展開し、クレセントが魔法の障壁を使って仲間達を守る。
依頼主はかなり動揺しているためか、冒険者達を残して逃亡しそうな勢いだ。
「早く、逃げて!」
すぐさまオーラパワーを発動し、雪嶺が埴輪に体当たりを食らわせる。
埴輪は大きくバランスを崩したものの、何とか体勢を立て直し、拳を大きく振り上げた。
「‥‥仕方ねぇな。こっちだ!」
面倒そうに依頼主の手を引っ張り、利彦が埴輪とは反対側の通路を走る。
本当なら一緒に戦いたかったが、依頼主がパニックに陥りそうなため、このまま逃げる事にしたらしい。
「このまま戦っちゃえばいいのに‥‥」
残念そうに埴輪を見つめ、麗奈がウォーターボムを撃ち込み逃亡を図る。
「文句は後だ! まずは依頼主の安全を確保しよう!」
六尺棒を使って埴輪を殴り、真也が依頼主が逃げる時間を稼ぐ。
「まったく面倒な事になったな」
依頼主を守るために殿を務め、鬼剛弁慶(ea1426)が大きな溜息をつく。
埴輪は倒れてしまった事で起き上がる事は出来ないが、他の通路からも別の埴輪が来ているらしい。
「ライン、大丈夫か疲れて居ないか? 体力がないんだから無茶は駄目だよ」
六尺棒を使って埴輪を殴り、雪嶺がラインにむかって声をかける。
するとラインは依頼主の視線を感じ、何も言わずに小さくコクンと頷いた。
「おおっ!」
それと同時に依頼主が大声を上げる。
「一体、何があったの?」
驚いた様子で依頼主に駆け寄り、雪嶺が目の前の部屋を見つめて、しばらく言葉を失った。
「がっはっはっ! これでわしは金持ちだっ!」
そこには眩いばかりの金塊が山積みにされており、依頼主の男が金塊の山に埋もれて幸せそうな表情を浮かべている。
「‥‥まさか本当にあったとはな」
そして弁慶は目の前の金塊に圧倒され、しばらく言葉を失うのであった。
「これで俺達は金持ちだな!」
依頼主と一緒に金塊の山に埋もれながら、朱漸が欲しいものを思い浮かべて悦に浸る。
さすがにすべてを持ち帰る事は出来ないが、この一部だけでも持ち帰る事が出来れば大金持ちだ。
「馬鹿な事を言うな! これは全部わしのモンだっ!」
金塊の山を抱きかかえ、依頼主が朱漸を睨む。
「なんだと、クソ親父! 死にてぇのか!」
それでも朱漸は金塊を両手に抱え、依頼主の頭を蹴り飛ばす。
「‥‥まさか本当に金塊があったとはな。てっきり眉唾物だと思っていたが‥‥」
驚いた様子で金塊を見つめ、エッジが依頼主を抱き起こす。
「普通に考えたら山分けだろ。こんなにあるんだからさ」
朱漸と一緒に金塊を抱え、空魔が部屋の出口を見つめて凍りつく。
そこには埴輪達が待っており、空魔にむかって巨大な棍棒を振り下ろす。
「‥‥予想通りの展開だな」
呆れた様子で溜息をつきながら、空弥が目にも留まらぬ早業で埴輪のボディを破壊する。
それと同時に部屋の中に安置されていた埴輪も次々と動き出す。
「どうやら俺達を挟み撃ちにする気だね」
仲間達の傍から離れず、焔威がダブルアタックで埴輪を転倒させる。
「何をボサッとしてやがる! 早くわしを助けんか!」
沢山の埴輪に囲まれ、依頼主の男が大粒の汗を流す。
金塊の山を持っているため、重くて逃げる事が出来ないようだ。
「その金塊を捨ててください。ここに金塊があると分かった以上、また取りに来る事が出来るはず‥‥。いまは貴方の命が大事です」
依頼主にリカバーをかけ、クレセントが優しく手を差し伸べた。
「‥‥命か。それもそうだな」
納得した様子で金塊を床に置き、依頼主がゆっくりと立ち上がる。
「だから報酬に色をつけてくれよ。こんなに苦労したんだからさ」
麗奈の事を守りながら、利彦が依頼主にむかって愚痴をこぼす。
「きちんと契約書を読んでおけ。わしはあれ以上の金は出さんと書いてあるぞ」
クレセントの背中に隠れ、依頼主がブツブツと文句を言う。
金塊を手に入れる事が出来たら話は変わっていたかも知れないが、何も手に入れずに帰ってしまうため追加報酬はないらしい。
「まぁ、仕方ないよね。金塊を持って帰ったら、逃げ送れちゃうかも知れないし‥‥」
依頼主を取り囲もうとしていた埴輪にアイスブリザードを放ち、麗奈が利彦に続いて部屋を出る。
「持ち運びには不便だしな。置いていくしかないだろう」
埴輪を破壊し汗を拭い、真也が疲れた様子で溜息をつく。
仲間達のうちの何人かが必死で金塊を持ち帰ろうとしているが、埴輪達の攻撃を喰らってうまく持ち帰る事が出来ないらしい。
「確実に一体ずつ壊せ! 手当たり次第に攻撃しても、俺達には勝ち目がないぞ!」
ソニックブームで埴輪の頭をふっ飛ばし、エッジがロングソードを握り締める。
倒しても倒しても埴輪は何処からか現れてくるため、逃げるためには持っている金塊を捨てるしかないだろう。
「今回は力不足という事で諦めるしかないな。今の倍以上の実力があれば、何とかなったのかも知れないが‥‥」
六尺棒を使ってスマッシュEXを決め、弁慶が埴輪を次々と破壊する。
埴輪の数は異様に多いが、麗奈の攻撃が効いているためか、このまま逃げる事は出来そうだ。
「こんな事なら金塊を持ち運ぶ手段を考えておくべきだったな」
そして雪嶺は残念そうに金塊の山を思い浮かべ、依頼主と一緒に墳墓を抜け出すのであった。
その後、依頼主は再び墳墓に足を踏み入れ、金塊を手に入れようとしたのだが、部屋の中の仕掛けを作動させてしまい、瓦礫に埋もれて命を落としてしまったようだ。