●リプレイ本文
●鬼の湯
「人を誘い込み、喰らう鬼か。確かに厄介な話ではある。だが、これ以上好き勝手にはさせぬよう、きっちり狩ってしまいたいところだな」
似たような事件に関わった事がある山王牙(ea1774)に案内され、カノン・リュフトヒェン(ea9689)が仲間達と共にかつて鬼の湯と呼ばれた場所にむかう。
鬼の湯は事件が解決してから一気に寂れ、今では立ち寄る旅人もいない。
そのため、毒キノコの群生地になっており、その場にいるだけで頭がクラクラする。
「こいつは慣れていれば生(き)でもいけるが、毒抜きをすればスープに合う。いけるぞ。まぁ、木の根や皮をかじるよりはマシという意味でだが‥‥」
辺りに生えていた毒キノコを引き抜き、ウィルマ・ハートマン(ea8545)が豪快に齧ってみせた。
それと同時にウィルマの目つきが悪くなり、何かに取り憑かれたようにキノコを頬張っている。
しかし、それ以外に効果がなかったらしく、満腹状態になって大人しくなった。
「おいおい、そんなモンを食って大丈夫なのか。混乱してあたいらに攻撃を仕掛けてきたら、問答無用でブッ倒すからな」
不機嫌な表情を浮かべながら、クリムゾン・コスタクルス(ea3075)がウィルマを睨む。
毒キノコには幻覚作用があるため、最悪の場合は同士討ちに遭う可能性が高い。
ただし、毒キノコを抜いた時点で毒素が抜けているので、本人の意思が強ければ幻覚に惑わされる心配もなさそうだ。
「困りましたね。鬼の気配もまったく感じられません。どうやら、この場所ではなかったようです」
警戒した様子で辺りを見回しながら、牙がブレスセンサーで辺りを探る。
辺りにはうっすらと霧が出ているが、どこかに鬼が潜んでいる事はなさそうだ。
「‥‥という事は温泉で待ち伏せという手口以外、相手の詳細は何も分かっていないという事ですね」
険しい表情を浮かべながら、島津影虎(ea3210)が溜息を漏らす。
唯一の手掛かりが無くなってしまった以上、鬼湯を探す手段が無くなった。
「いえ、以前の依頼で討ち漏らした鬼が、新たな拠点を作って似たような罠を仕掛けているのかも知れません。ならば、それほど遠くには行っていないはず。必ずどこかにいるはずです」
『鬼の湯』で遭遇した敵の行動パターンなどを話した後、和泉みなも(eb3834)が地図を開く。
現時点で『鬼の湯』を根城にしていた鬼との関連性を示すものはないが、仮に以前の依頼で遭遇した鬼の残党ならば彼女の知識が必ず役に立つ。
「ならば鬼達のアジトを探すまで‥‥。それほど大した手間じゃありません」
皆もが持参した地図の上でダウジングペンデュラムを揺らし、宿奈芳純(eb5475)が鬼湯を拠点にしている鬼達のアジトを指定する。
ダウジングペンデュラムはしばらく地図の上で揺れた後、『鬼の湯』から少し離れた場所にある温泉で動きを止めた。
その場所は険しい山奥にある温泉で、隠れた名湯として噂になっている。
「‥‥なるほど。新たに拠点を移して、旅人を食らっていたわけですね。あの辺りなら遠方から来ている旅人も多いので、ひとりふたりいなくなっても怪しまれる事もありません。敵も上手く考えましたね」
感心した様子で地図を眺め、ベアータ・レジーネス(eb1422)がボソリと呟いた。
新しい鬼湯までは韋駄天の草履を履けば、あっという間に着く場所にある。
いまから峠を越えていけば、着くのは真夜中。
こちらから奇襲を仕掛ける事は出来ないが、鬼の待ち伏せを予測する事は出来る。
「それじゃ、さっそく温泉に行きましょうか。鬼達も首を長くして、待っているでしょうからね」
含みのある笑みを浮かべながら、南雲紫(eb2483)が鬼湯のある方向を睨む。
鬼湯のある場所には深い霧が立ち込めており、こちら側からではよく見えない。
「ああ、あまりにも待たせ過ぎて、旅人が襲われても困るからな」
隠身の勾玉をギュッと握り締め、橘一刀(eb1065)が早足で山を降りていく。
例え、それが罠だとしても、逃げ出すわけにはいかないのだから‥‥。
●秘湯
「‥‥凄い霧ですね。これじゃ、何も見えません」
うっすらと積もった雪を踏み締め、琉瑞香(ec3981)がようやく鬼湯に辿り着く。
鬼湯のまわりには毒キノコがたくさん生えており、霧状の胞子を辺りに撒き散らしている。
瑞香はキノコの胞子を吸い込まないように注意しながら、峠の茶屋で借りたかんじきを脱ぎ捨てた。
「どうやら、鬼達はまだのようじゃのう。それともどこかに隠れているのか」
鬼の気配を探りながら、ゲラック・テインゲア(eb0005)が口を開く。
胞子の霧が出ているせいか、頭がズキズキと痛む。
「ええ、私達のすぐ傍に‥‥」
インフラビジョンのスクロールで鬼の熱源を感知したため、芳純がババ・ヤガーの空飛ぶ木臼から降りて仲間達に警告する。
それと同時に人食い鬼が唸り声をあげて立ち上がり、先手必勝とばかりに攻撃を仕掛けてきた。
「そこですっ!」
隠身の勾玉を放して茂みから飛び出し、みなもがダブルシューティングEXを放つ。
次の瞬間、人食い鬼の右目に深々と弓矢が刺さり、辺りに凄まじい悲鳴が響き渡る。
「まさか、こんな近くにいたなんて‥‥。予想以上に毒を吸い込んでいたようですね」
すぐさまコアギュレイトを放ち、瑞香が人食い鬼の動きを封じ込めた。
そのため、茂みに隠れていた人食い鬼が飛び出し、呆気なく仲間を見捨てて逃げていく。
「敵のアジトを知るため、ここで逃がしておくべきか」
途中で追いかける事を止め、ゲラックがミョルニルをゆっくりと下ろす。
他の場所にも人食い鬼が隠れていたようだが、毒キノコの胞子が舞っている中で戦っても勝ち目はない。
「とりあえず温泉のまわりに生えたキノコも処分しておきましょう。これじゃ、鬼達に来てくださいと言っているようなものです」
温泉にボールボの石を放り込み、瑞香がキノコを乱暴にむしっていく。
ボールボの石はお湯の成分を変える事が出来るため、戦いの疲れを癒す事が出来るようになった。
「‥‥そうですね。仲間達を助けに行くのは、それからでも遅くないと思いますし‥‥」
ファイヤーコントロールのスクロールを広げ、芳純が辺りのキノコを一瞬にして炎に包んだ。
その事によって大量の胞子が舞い上がり、次々と空に昇っていく。
「一刀殿が心配です。早く鬼の住処にむかいましょう」
険しい表情を浮かべながら、みなもが仲間達を連れて敵の棲み処に向かう。
鬼達が逆に罠を仕掛けている可能性もあるのだが、みなも達に迷っている暇はなかった。
●追跡
「‥‥思ったよりも数が多いな。てっきり鬼の湯を拠点にしていた鬼の残党かと思っていたが、実は逆だったのかも知れん。鬼の湯と比べて派手に活動していなかったようだしな。まぁ‥‥、どっちみち倒しちまうんだから、関係ねぇが‥‥」
頻繁に風向きを確認しながら、ウィルマが人食い鬼の後を追う。
人食い鬼達はみんな同じ方向にむかっており、冒険者達の存在には気づいていない。
「しっかし鬼の趣味も理解できねぇなぁ。世の中には人肉よりうめぇもんなんていっぱいあんのにさ」
納得がいかない様子で人食い鬼を見つめ、クリムゾンがマスクで口と鼻を覆い隠す。
鬼湯と比べて毒キノコの胞子が少ないものの、何もしなければすぐに惑わされてしまう。
「私達と鬼では味の感じ方が異なりますからね。鬼にとっての御馳走が人間だったという事でしょう」
ペットの帝釈天(柴犬)を連れて人食い鬼を尾行し、影虎が少しずつ違和感を覚えていく。
人食い鬼の群れが後ろを向く事はないのだが、まるで影虎達を誘き寄せるように一定の距離を保っている。
もちろん、影虎達も完全に気配を消すように心掛けているため、人食い鬼達が気づいているわけではない。
‥‥となると、結論はひとつ。
「最初から私達を嵌める事が目的っ!?」
ハッとした表情を浮かべながら、紫が日本刀『法城寺正弘』を引き抜いた。
それと同時に人食い鬼が踵を返し、冒険者達に襲いかかってくる。
その場所は鬼にとって有利な地形。
紫達が並の冒険者達であったら、返り討ちに遭っている‥‥はずだった。
「‥‥甘いな。拙者らを倒すには弱過ぎる!」
一気に間合いを詰めて『夢想流奥義・閃』を放ち、一刀が次々と人食い鬼を倒していく。
人食い鬼は一刀達の強さまでは計算していなかったため、彼らに傷一つつける事が出来ず崩れ落ちた。
「だが、この辺りに鬼のアジトがある事は間違いない。ここはダウジングペンデュラムで絞り込まれた場所の近くだ」
ゆっくりと辺りを見回しながら、カノンが眼のある剣にこびりついた血を払う。
人食い鬼と戦った場所の近くには洞窟があり、外の騒ぎを聞きつけて鬼達がギャーギャーと騒いでいる。
「仲間達に危険が及ばないように、二重に罠を仕掛けていたか。だが、ヤツらが逃げ出す前に、すべて仕留める!」
インフラビジョンのスクロールで暗視能力を付与し、ベアータが人食い鬼の根城になっている洞窟を睨む。
人食い鬼達は仲間達が呆気なく倒れた事を知り、洞窟を捨てて逃げ出す準備を進めている。
ベアータが高速詠唱でブレスセンサーを発動させたところ、洞窟の中にいる鬼は20匹程度。
そのすべてが人食い鬼である可能性は低いものの、今までの事を考えると油断する事が出来なかった。
「ええ、ここで一匹でも逃がせば、後々で面倒な事になりますからね」
険しい表情を浮かべながら、牙が野太刀を構えて斬りかかっていく。
そのため、鬼達も戦わざるを得なくなり、次々と金棒を握り締めて攻撃を仕掛けてきた。
●鬼の群れ
「あたい、すんげぇうまそうだろ? 食わしてやるよ。あたいを捕まえられたらな!」
洞窟から出てきた鬼めがけてダブルシューティングを連発し、クリムゾンが勝ち誇った表情を浮かべてニヤリと笑う。
鬼達は他に逃げ道がないため、金棒を振り上げて襲いかかってきた。
「‥‥よほど死にたいようだな」
高速詠唱でライトニングトラップを仕掛け、ベアータが鬼の群れを次々と罠に嵌めていく。
そのため、鬼達の動きが一瞬だけ鈍り、冒険者達が攻撃を仕掛けるには充分な隙が出来た。
「さぁ、狩りの時間だ」
呼子笛を吹き鳴らして仲間達に合図を送り、ウィルマが逃げ惑う鬼達に攻撃を仕掛けていく。
ウィルマの場合は鬼に情けをかけるほど甘くはないため、例え相手が背を向けていたとしても容赦なく射抜いていった。
「色々と予定が狂ってしまったが、これで作戦通りってところだな」
棍棒を振り上げて襲いかかってきた茶鬼を狙い、紫が近距離からシュライクを炸裂させる。
そのため、茶鬼は身の危険を感じて棍棒を放り投げ、地面を這うようにして逃げ出した。
「‥‥悪いが逃がすわけにはいかないのでな」
一気に間合いを詰めながら、一刀が居合い斬りでトドメをさす。
茶鬼は断末魔の悲鳴をあげ、両目をカッと見開いて地面に突っ伏した。
「狩猟の志士の何かけて全て、刈り取ってくれましょう」
人食い鬼などの強い相手を優先し、牙がスマッシュ+ソードボンバーで薙ぎ払う。
それでも鬼の群れは牙達の包囲網を強引に突破していこうとしたが、鬼湯から駆けつけた冒険者達が援護に来たため、一匹たりとも逃げる事が出来ずに無残な屍を晒していった。
「やれやれ、一時はどうなるかと思いましたが、何とか全滅させる事が出来ましたね」
ホッとした表情を浮かべながら、影虎が額に浮かんだ汗を拭う。
鬼の群れは自分達の存在を気づかせないため、時間帯を選んで旅人達を襲っていたようだが、これほど強い冒険者達が攻めてくるとは夢にも思わなかったらしく、誰ひとりとして太刀打ちする事が出来なかったようだ。
もちろん、これがレベルの低い冒険者達であれば、結末は全く逆になっていた事だろう。
「それじゃ、帰るとするか。山の天気は変わりやすい。このまま吹雪になっても困るしな」
雪がポツポツと降り始めたため、カリンが仲間達を連れて山を降りていく。
仲間達とうまく連携を取る事が出来たため、冒険者側の被害はゼロ。
そのため、冒険者達は満足した様子で、山を下りていくのであった‥‥。