●リプレイ本文
●鬼の湯
「それにしても冷えますねえ‥‥。こういう時こそ熱燗を一杯。くう〜、酒場が恋しい! 早く依頼を終えて、浴びるように酒が飲みたくなってきましたねぇ〜!」
身体をガタガタと震わせながら、神田雄司(ea6476)が仲間達を連れて鬼の湯にむかう。
鬼の湯は森の奥にあるため、辿り着く前に夜風で身体が冷えている。
「せっかくなので、私達も温泉に浸かって帰りましょうか? 鬼の湯は身体の疲れを癒す効果があると言われていますし、身体を冷やしたまま家に帰ったら、風邪を引いてしまいますよ?」
おっとりとした表情を浮かべ、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)がニコリと笑う。
鬼の湯は身体の緊張をほぐして精神を安定させる効果があるため、鬼さえ現れなければ普通の温泉として楽しむ事が出来る。
「‥‥いまはやめておけ。あの温泉は鬼達の狩り場になっているからな。あんただって鬼の餌にはなりたくないだろ?」
苦笑いを浮かべながら、雪守明(ea8428)がフィーナの肩を叩く。
鬼の湯の危険性に関してはフィーナも承知の上だが、ここまで寒いと温泉に浸かってのんびりしたくなる。
「何だか俺ばっかり良い思いをしちまって悪いなぁ。‥‥とは言え囮として温泉に浸かるだけなんだが‥‥。何かあったらよろしく頼むぞ。鎧を着てりゃ、鬼如き屁でもないんだが、丸腰じゃマトモに戦えるかどうかも怪しいからな」
険しい表情を浮かべながら、バーク・ダンロック(ea7871)が頬を掻く。
バークは毒に対する耐性が一番強いという事で囮に選ばれたため、まるで鬼に捧げられた生贄のような心境だ。
「その事に関しては、ご安心ください。事前に調査しておきましたので‥‥。まず鬼に関してですが、それほど強くはないようですが、集団で行動しているので全滅させる事は難しいようです。また鬼の湯の周辺に生えているキノコは幻覚作用がありますが、これは温泉のまわりに生えているせいなので、引っこ抜いてしまえば何の効果もないようです」
冒険者ギルドで事前に鬼に関することを調べ上げ、和泉みなも(eb3834)が仲間達の前で報告する。
鬼に関しての情報が乏しく、具体的な情報を得る事は出来なかったが、そのおかげで鬼の出没しやすい時間が真夜中である事が分かったため、彼女の行動は決して無駄にはならなかった。
「それじゃ、鬼達をぶっ潰して、温泉三昧だな☆」
キノコを抜けば幻覚作用が無いと分かったため、ネフィリム・フィルス(eb3503)が上機嫌な様子で鼻歌を歌う。
これでゆっくり温泉に浸かっても、幻覚に惑わされる事がないので、後は厄介な鬼を退治するだけである。
「どちらにしても成功するか否かは、すべてバークに掛かっている。途中で鬼に気づかれないようにしてくれよ」
ようやく鬼の湯が見えてきたため、備前響耶(eb3824)が物陰に潜む。
囮になるのは、バークただひとり。
他の者達は鬼が現れるまで待機である。
●温泉
「ふぅ‥‥、いい湯だぁ‥‥。これで鬼が出てこなければ最高なんだが‥‥。そんな事も言っていられないか。せめて鬼が現れるまで温泉を堪能しよう」
鎧と服を脱いで温泉に浸かり、バークがホッとした様子で溜息を漏らす。
鬼の湯は浸かっているだけで全身の疲れが取れるため、油断しているとそのまま眠ってしまいそうである。
「おっと‥‥、イカンイカン。ここで眠ったら大変な事になってしまう。いくら温泉の湯加減がいいからって、ここで寝たら‥‥ぐうぐう‥‥。だ、駄目だ! このままじゃ眠ってしまう! まさか、これか毒キノコの力なのか!? と、とりあえず毒消し草を‥‥すやすや‥‥」
毒消し草を取りに行く途中で睡魔に襲われ、バークがブクブクと温泉に沈んでいく。
しかし、その事が幸いしたのか、何処からかワラワラと鬼の群れが集まってきた。
「‥‥なるほど。獲物が完全に眠った事を確認してから、鬼の群れは現れていたのですね」
鬼の湯が見渡せる場所に身を隠し、みなもがヒポカンプスのさざなみから予備の矢を下ろす。
いまのところ俺達に気づかれている様子がないため、さざなみを安全な場所まで避難させる。
「鬼は全部で10匹か。‥‥意外と多いな?」
鬼の頭数を見極めておくため、明が警戒した様子で茂みの中から顔を出す。
真夜中のため鬼の種類は分からなかったが、思ったよりも数が多いので油断は出来ない。
「‥‥気をつけてくださいね。状況的には、こちらの方が不利ですから‥‥」
鬼の群れにバークが囲まれているため、雄司が険しい表情を浮かべて太刀を握る。
それと同時にみなもがシューティングPAを放ち、バークの腕を掴もうとしていた鬼の頭を撃ち抜いた。
「さすがですね。‥‥お見事です」
ウィンドスラッシュを放って鬼を倒し、フィーナがみなもを見つめてニコリと笑う。
その間に雄司が鬼の群れに飛び込み、バークの腕を掴んで避難した。
「‥‥んあ? 俺は一体‥‥。確か毒消し草を食べようとして‥‥んん?」
眠そうに目を擦りながら、バークが不思議そうに首を傾げる。
キノコのせいで幻覚でも見ているのか、仲間達との会話が噛み合っていない。
「詳しい話は後回しだ」
バークを守るようにして前に立ち、響耶が鬼切丸を使って敵を牽制する。
鬼達は響耶達に獲物を横取りされたのだと勘違いしたため、殺気に満ちた表情を浮かべて棍棒をブンブンと振り回す。
「とりあえず作戦は成功したようだな。俺も一緒に戦わせてくれ。温泉で眠っていただけじゃ、あんたらに申し訳ないからな!」
襲い掛かってきた鬼を狙って追儺豆を投げつけ、バークが間合いを取りながらオーラボディを発動させる。
そのため、鬼達は滅茶苦茶に棍棒を振り回し、顔を押さえて激しく唸り声を響かせた。
「どうでもいい事なのかも知れないが、全裸のままで戦う事だけはやめてくれ。つまり、その‥‥男だけで戦っているわけではないからな」
気まずい様子で視線を逸らし、明がコホンと咳をする。
よく見れば他の仲間達も視線のやり場に困っており、戦闘に集中する事が出来ないようだ。
「おおっと! すまん、すまん! 鬼の相手をするのに夢中で、褌を締め忘れていたようだ。はーはっはっはっ!」
豪快な笑い声を響かせながら、バークが鬼の褌を掴む。
しかし、鬼達が次々と攻撃を仕掛けてきたため、風呂桶を使って棍棒を受け止めた。
「‥‥たく、褌を締める暇も無さそうだな。そこまでして俺が食いたいのか。悪いが俺はウマくないぞ。肉だって柔らかくないしな」
含みのある笑みを浮かべながら、バークが全身の筋肉を隆起させる。
そのため、鬼達は悔しそうな表情を浮かべ、狂ったように棍棒をブンスカと振り回す。
「ようやく自分達が騙されていた事に気がついたようだな。まぁ、いまさら気づいたところで手遅れだが‥‥」
流れるようにして鬼達の攻撃をかわし、明が次々と鬼を仕留めていく。
しかし、最後の一匹だけはトドメをささず、攻撃が当たる寸前の所で刀を止める。
「‥‥失せろ。目障りだ」
それが仲間達に対する合図となった。
逃げていく小鬼を見送る仲間達。
その後をネフィリムのボーダーコリーがついていく。
逃げた小鬼を使って敵のアジトを突き止めるために‥‥。
●鬼の住処
「‥‥なるほどな。近くにあった洞窟が鬼の根城になっていたのか」
洞窟の入り口で尻尾をブンブンと振っていたボーダーコリーの頭を撫で、ネフィリムがランタンを使って洞窟の中を覗き込む。
鬼達は獲物を仕留め損ねた小鬼を責め立て、唸り声を上げてドツキ倒している。
「どうやら、御取り込み中のようでございますね」
苦笑いを浮かべながら、雄司がタラリと汗を流す。
次の瞬間、鬼達の視線が洞窟の入り口に集中し、雄司がハッとした表情を浮かべて身を隠す。
「こ、こ、こっちを見ましたよ。一斉に‥‥」
青ざめた表情を浮かべながら、雄司が胸を押さえて深呼吸をし始める。
殺気感知のおかげですぐに身を隠す事が出来たようだが、間違いなく鬼達には怪しまれている事だろう。
「ならば入り口で待ち伏せておくだけだ。どうせ出入り口はここしかないんだろう? だったら、洞窟から出てきた鬼を一匹ずつ倒せばいい。それとも入り口を壊して生き埋めにするか? どちらにしても、私達に負けはない」
クールな表情を浮かべながら、アキラが霊刀『ホムラ』を握り締める。
案の定、鬼達が唸り声をあげて洞窟から飛び出してきたため、明がニヤリと笑って霊刀を振るう。
次の瞬間、人食い鬼の身体が両断され、上半身がゴロリと地面に転がった。
それを見て他の鬼達が動揺した様子で棍棒を手に取り、狂ったように攻撃を仕掛けてくる。
「クッ‥‥、よほどお腹が空いていたようですね」
険しい表情を浮かべながら、雄司が右肩を押さえて膝をつく。
鬼の群れは棍棒を振り回すだけでなく、牙を剥いて噛みついて来るので油断は出来ない。
「‥‥大丈夫ですか? これを使ってください」
すぐさまポーションを放り投げ、フィーナが雄司の援護にむかう。
依頼で使用したポーションなどは、後で追加報酬として請求する事が出来るため、仲間達が傷ついた時は迷わず使う事にした。
「影牙、下がれ!」
熊犬の影牙が人食い鬼を睨んで吠えていたため、響耶が鬼切丸を構えて前に出る。
それと同時に人食い鬼が唸り声をあげ、響耶の首をガシィッと掴む。
「このまま仲間を殺らせてなるものか。うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
オーラボディを発動させ、バークが人食い鬼に体当たりを喰らわせた。
それと同時にデッドorライブを使って他の鬼達を引きつけ、雄叫びを上げてオーラアルファーを叩き込む。
「バークさんもこれを!」
リカバリィポーションを放り投げ、フィーナが鬼の攻撃を避けていく。
鬼達は腹の音を響かせながら、ダラダラと涎を垂らしている。
「‥‥悪いがお前達の餌になるつもりはないんでな。そんなに腹が減っているのなら、これでも喰っておけ!」
近くに転がっていた小石を拾い上げ、響耶が鬼の口を狙って放り投げた。
次の瞬間、響耶が一気に間合いを詰めてポイントアタックEXを放ち、目の前にいた鬼の首を勢いよく刎ね飛ばす。
「‥‥あと3匹」
予備の弓矢まで使い果たしてしまったため、みなもが後ろに下がって氷輪を形成する。
既に両者とも疲労の色が見えているため、早めに決着をつけねば共倒れになってしまう。
「それだけなら問題ない。一気に片付けるよ!」
金時の鉞オーガスレイヤーを握り締め、ネフィリムが人食い鬼の攻撃を避けてカウンタースマッシュEXを炸裂させる。
それと同時に明が茶鬼に攻撃を仕掛け、スマッシュEXを叩き込む。
「オーラの真髄、喰らいやがれ!」
そしてバークがオーラアルファーを使ってトドメの一発。
その一撃を喰らった鬼達が次々と血溜まりの中に沈んでいく。
こうして鬼の湯を狩り場として利用していた鬼の群れは退治され、森の中に新たな名所が生まれるのであった。