●リプレイ本文
●カメ吉
「くそ、後味悪いぜ。玄武衆はたった2人で優勝しかけたのに、俺達は数にものを言わせての逆転。いや、最初からミスがなければ、そうは思わなかったんだが‥‥」
不機嫌な表情を浮かべながら、南天輝(ea2557)が愚痴をこぼす。
カメ吉(本当の名前が分かるまで)の策略によって玄武衆が勝利した事になっていたのだが、実際は白虎衆が勝利していた事が後の調査で分かったので複雑な心境に陥っている。
そのため、責任を感じた九千坊が、麒麟衆の河童忍者達を輝達に貸し出した。
「兄上、落ち着いてくださいね。背後関係が分かっていませんから、くれぐれも殺すような真似はしないでください。ここでカメ吉を倒してしまえば、白虎様に迷惑が掛かってしまいますよ」
心配した様子で輝を見つめ、南天流香(ea2476)が汗を流す。
「‥‥殺しはしないさ。いくら腹が立っているとはいえ、俺だってそのくらいの区別はつく。きちんと相手の言い分を聞いた上で、処分を決めるつもりだからな」
落ち着いた様子で溜息をつきながら、輝が完成した罠を荷車に積んでいく。
この罠はカメ吉が移動するポイントに仕掛けられる事になっているのだが、事件とはまったく無関係な旅人や動物達が引っかかる可能性もあるため、殺傷力よりも捕獲のしやすさを重視するように細工が施してある。
「お手伝いしますわ、輝お兄さま」
輝と一緒に簡単な罠を作っておき、南天桃(ea6195)が河童忍者と一緒に荷物を運ぶ。
河童忍者達は完成した罠を荷車に引っ張り、カメ吉が通りそうな場所へとむかう。
『それにしても敵の考えがよく分かりませんね。どうして玄武衆を勝たせたかったのでしょうか? 白虎衆が勝つと何かマズイ事があるというのなら納得する事が出来るのですが‥‥』
ジャパン語を覚えていないので河童忍者の通訳を間に入れ、キハラ・リョウ(eb8927)が不思議そうに首を傾げる。
カメ吉が玄武や白虎から依頼を引き受けて五輪祭の妨害をしているのなら納得する事が出来るのだが、両陣営の首領ともカメ吉とは面識すらないのでグルになっている可能性が低い。
「今回の試練に勝利して白虎衆が6つの欠片を持つ事になったら、次の試練で玄武衆か白虎衆が欠片を手に入れる事になれば、すべての試練が出る前に五輪祭が終了してしまうからではないでしょうか? 以前から麒麟衆の審判による採点ミスが多かったので、敵はそれを利用していたのかも知れませんね」
今までの経験を元にして、琴宮茜(ea2722)が今回の事件を推理する。
どうやらカメ吉は何処かの組織と関係があることは確かなようだが、ハッキリとした事が分かるまで迂闊に手出しする事が出来ない。
「‥‥なるほどな。まぁ、俺のいた朱雀組は負けちまったが、喜んで力を貸すぜ!」
水馬の電撃号を飛び乗り、伊達正和(ea0489)がニコリと微笑んだ。
正和は改めて事件の事を九千坊に聞いてみたのだが、色々と話す事の出来ない事情があるらしく、歯切れの悪い答えしか返ってこなかった。
『それにしても仲間を殺め、すり変わって悪事を働くなんて最低な奴ネ。義によって生き、義によって力を貸すのが、華国人ネ。此処は、ジャパンの河童の為に力を貸すネ』
河童忍者に通訳を頼んで状況を説明してもらい、張真(eb5246)がえろがっぱーずに変装して華国の料理を作っておく。
何処からどう見ても怪しげな雰囲気が漂っているが、悪意があるわけではないので仲間達も大目に見ている。
「とにかくカメ吉と名乗っている者の足取りを追ってみましょうか。何か分かるかも知れませんし‥‥」
そう言って勁臥玲奈(eb8990)がカメ吉の潜伏していた洞窟へとむかうのだった。
●潜伏場所
「‥‥やはり此処にはいないようだな」
カメ吉が潜伏していた洞窟の中を覗き込み、正和が残念そうに首を振る。
洞窟の中にはカメ吉が生活していた痕跡が残っており、河童忍者達によって調査が行われた後だった。
「だが、ここでしばらく生活していた事は間違いないな」
険しい表情を浮かべながら、輝が念入りに洞窟の中を調べていく。
カメ吉は洞窟の中にいる間、カエルやトカゲなどを食べていたらしく、焚き火のまわり炭化した串焼きが刺さっている。
「しかも食事を食べる前に河童忍者達が洞窟の中に踏み込んできたようだな」
地面に残った血痕を見つけ、正和がゆっくりと辺りを見回した。
ここでカメ吉を捕縛する事は出来なかったようだが、何処かに傷を負わせたようなので河童忍者達はその痕跡を追いかけているのだろう。
「‥‥とにかくカメ吉を捜してみるか」
九千坊の描いた地図を広げ、輝がカメ吉の通りそうなルートを進んでいく。
途中で何度か河童忍者達にも出会ったが、誰もカメ吉の姿を見てはいないらしい。
「この辺りの森には河童忍者達が沢山いるので、迂闊に山を降りる事が出来ない状況になっているようですね」
リトルフライを使って上空からカメ吉を捜し、流香が疲れた様子で地面にふらりと降りていく。
カメ吉が重要な情報を持っている可能性が高いため、河童忍者達も彼を捕縛するのに必死なようだ。
「それじゃ、森の中に隠れているのかも知れないって事ですね。早く見つけて白虎お姉さまを安心させてあげないと‥‥」
使命感に燃えながら、桃が森の中を進んでいく。
河童忍者達が大声を上げてカメ吉を捜しているため、何かに化けている可能性も高いという事だ。
『確か、この辺りに川がありませんか? 河童ならば川を渡って移動する事も可能だと思うのですが‥‥』
ハッとした表情を浮かべながら、キハラが輝の開いた地図を指差した。
地図に描かれている川はそのまま村まで続いており、森を抜けるのには一番近道になっている。
「‥‥なるほど。川の中を移動していけば、河童忍者達にも見つからないというわけですね。急ぎましょう。これに乗って下さい」
そう言って茜がフライングブルームに飛び乗り、村へと続く川へと向かうのであった。
●河童の川流れ
「‥‥見つけました。あれですね」
上空から川を泳ぐカメ吉の姿を確認し、茜がフライングブルームに乗って後を追う。
カメ吉は警戒した様子でまわりの森を見回しているが、上空にいる茜達の存在には気づいていない。
(「とにかく見失わないようにしておかねば‥‥」)
少し後方を飛んでカメ吉の後を追い、茜が仲間達に到着を待つ事にした。
しばらくして‥‥。
森の中を進んでいた仲間達が茜の姿を発見し、カメ吉に気づかれないようにして河原に出る。
「‥‥気をつけてくださいね。ここでカメ吉に見つかれば、今までの苦労が水の泡になってしまいますから‥‥」
大きな岩の後ろに隠れて様子を窺いながら、勁臥が慎重にカメ吉の後を追っていく。
カメ吉は水面から半分だけ顔を出し、目の前を横切ろうとしていた蛙を食べる。
「しかし、このまま放っておくわけにも行きません。早めに何か手を打っておかないと‥‥」
困った様子で溜息をつきながら、流香が紫天(鷹)の頭を撫でた。
カメ吉は少しアセッているのか、徐々に泳ぐスピードが早くなっていく。
「この様子じゃ、森に仕掛けた罠を解除して行ったようだな。‥‥となると五輪祭で見せていた姿は演技だったのか」
悔しそうな表情を浮かべながら、輝が拳をギュッと握り締める。
そのため、ドジでノロマなカメ吉のイメージを捨てねばならない。
「でも、このまま放っておくわけにも行きませんよ。もうすぐ村が見えてくる頃ですから‥‥」
心配した様子で輝に声を掛け、勁臥がダラリと汗を流す。
カメ吉が村に着いてしまうと捕縛するのが難しくなるだけでなく、村人達を人質に取られてしまう可能性があるため、川で捕まえるよりも難易度が増してしまう。
「ははっ、大丈夫さ。こんな事もあるかと思って、川に網を仕掛けておいたからな」
苦笑いを浮かべながら、輝がカメ吉を指差した。
次の瞬間、カメ吉が川に仕掛けられた罠に掛かり、それを合図にして半弓を射る仕掛けが作動する。
カメ吉は短刀を使って網を切り裂き、警戒した様子で四方八方にクナイを飛ばす。
「あ、あの動きは五輪祭で見たカメ吉さんの動きとは明らかに違うようですよ〜」
青ざめた表情を浮かべながら、桃がピルムを持ってカメ吉の逃げ道を塞ぐ。
カメ吉は桃を見つめてチィッと舌打ちした後、手裏剣を投げつけて森の中に逃げていく。
『貴殿も追われているのか? それなら我が輩と一緒ネ』
敵意がない事をカメ吉に伝え、張が身振り手振りを使って交渉を試みる。
しかし、カメ吉は誰ひとりとして信用していないため、問答無用で張に攻撃を仕掛けてきた。
『チョッ、チョット待つネ。我が輩は貴殿の味方ネ』
驚いた様子でオフシフトを使い、張がカメ吉の攻撃を避けていく。
「どうやら交渉に応じるつもりは無いようですね」
張を守るようにして前に立ち、勁臥が日本刀を振り下ろす。
そのため、カメ吉が悔しそうな表情を浮かべ、再び川にザブンと飛び込んだ。
「逃がしませんよ、絶対に‥‥」
すぐさま流香と連携を組んで逃げ道を塞ぎ、桃がカメ吉めがけて槍を突き立てる。
「グハッ!」
左腕に桃の一撃を喰らって呻き声を上げ、カメ吉がたまらず河原に逃げていく。
それと同時に流香がラントニングアーマーを発動させ、鎖分銅を振り回してカメ吉の短刀を奪い取る。
それでもカメ吉は逃げようとしたが、張のトリッピングを喰らって転倒した。
『これでカメ吉を捕縛する事が出来ましたね。何か情報を聞く事が出来ればいいのですが‥‥』
そう言って勁臥がホッとした様子で汗を拭う。
恨めしそうな表情を浮かべるカメ吉を見つめ‥‥。
●内通者
「‥‥殺せ! 貴様達に話す事は何もない!」
覚悟を決めた様子で硬く目を閉じ、カメ吉が勁臥達に聞こえるように大声で叫ぶ。
一応、嘴の中に毒薬を隠しておいたのだが、正和に見つかってしまったので、自害する事が出来なくなってしまったようだ。
「まぁ、落ち着け。白虎には試練で俺の気がきかなくて可哀想な事をしたんでな。お前を捕まえて名誉を回復させて貰うよ」
疲れた様子で溜息をつきながら、輝が縄を使ってカメ吉の身体をきつく締まる。
カメ吉は仲間達の事を一切喋ろうとしなかったので、舌を噛み千切らないように念のため猿轡を噛ませておく。
『‥‥逃げるつもりはないようネ』
ペット達を使ってカメ吉のまわりを囲み、張が河童忍者の通訳を通して仲間達に話しかける。
カメ吉が見つかった事を知らせるため、河童忍者達が呼子を吹いており、それに答えるかのようにあちこちから呼子の音色が響いていく。
「このままじゃ、お前は殺されるぜ。‥‥口封じによ。だから俺達に知っている事を全部、嘘つかずに白状しろって。必ず助けてやっからさ」
警戒した様子で辺りを見回し、正和がカメ吉の耳元で囁いた。
しかし、カメ吉は何も語ろうとはせず、まるで岩のように動かない。
「まあ、飲んでくれ。これは兄弟分の固めの杯だ。俺の弟分になれ」
カメ吉の猿轡を外しながら、正和が半ば強引にどぶろくを飲ませる。
そのため、カメ吉は不機嫌な表情を浮かべて口をつぐむ。
「どうやら交渉に応じるつもりはないようですね。まぁ、すべて白状したところで、裏切り者として処分されるのがオチでしょうから話す気にはならないと思いますが‥‥。それよりも本当の名前を教えてください。いつまでもカメ吉では亡くなった本人に悪いので‥‥」
なかなかカメ吉が口を割ろうとしなかったため、茜が別の話題に変えて彼をリラックスさせようとした。
「‥‥名無しの権兵衛」
含みのある笑みを浮かべ、カメ吉が舌を噛もうとする。
それと同時に桃が駆け寄り、カメ吉に猿轡をかます。
「よほど死にたいようですね。この様子では麒麟衆に突き出しても、口を割るのは困難だと思いますが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、流香が困った様子で溜息をつく。
カメ吉は自害する事しか考えていないため、どんな条件を突きつけられても話す気はないようだ。
「つまりカメ吉‥‥。いや、権兵衛か? とにかくコイツに話す気がないのなら、こっちから関係のありそうな言葉を言っていけばいいんじゃないのか? 例えば九千坊とか白虎とか‥‥」
輝の言葉にカメ吉改め権兵衛がハッとした表情を浮かべて視線を逸らす。
「‥‥図星だな」
しかし、輝達には心当たりのある言葉が無いため、これ以上の尋問は無駄になった。
「関係のありそうな言葉か。それが分かるまで生きていてもらわないとな」
そう言って正和が権兵衛をジロリと睨む。
権兵衛を差し向けた相手は分かっていない。
だが、彼らの正体が分からない限り、九千坊達の身が危険に晒されている事は確かである。