●リプレイ本文
●ミンメイ
「うぅ‥‥、このままじゃ、マズイある。もう少しで開演なのに‥‥、何もしていないアルよぉ〜。ぜ、絶対にボコられちゃうアル‥‥。や、やっぱり逃げた方が良いアルかね〜」
青ざめた表情を浮かべながら、ミンメイが見世物小屋の前を往復する。
何とかチケットを捌く事が出来たものの、肝心のペット達が来ないため、落ち着いて楽屋で待っている事が出来ない。
「随分と困っているようですね。‥‥何かあったんですか?」
クールな表情を浮かべながら、嵯峨野夕紀(ea2724)が不思議そうに首を傾げる。
ある程度の事は予想をしていたのだが、それ以上に事態は深刻になっているようだ。
「おおっ! ワタリに船アル! 心細かったんアルよ。助けてプリーズあるぅ〜!」
大粒の涙を浮かべながら、ミンメイが夕紀に抱きついた。
しかし、夕紀は同情する事なく、呆れた様子で溜息をつく。
「とにかく詳しい状況を説明してください。泣いてばかりでは、無駄に時間ばかりが過ぎていくだけですから‥‥」
舞台の開演時間が迫っているため、夕紀がさっそく本題に入る。
「えーっと、まずはペットが足らないアル。あと人材も足りないし‥‥、愛も欲しいアル!」
きゅるるんとした表情を浮かべ、ミンメイが夕紀の腕を掴む。
どうやら『ヘコんでいるので、もっと優しく接して欲しいアル』と言いたいらしい。
「とにかく部隊の準備を始めましょう。ふたりで一緒にやれば、何とか開演時間には間に合うはずです。それにここで逃げ出してしまえば、雨風を凌ぐ場所だって無くなってしまいますよ。ゴルビー様とミンメイ様は大家と店子のようなご関係‥‥、大家といえば親も同然、店子といえば子も同然。ここは手助けして借りにしておくのがよろしいかと‥‥」
いまにもミンメイが逃げ出しそうな雰囲気だったため、夕紀がすかさずツッコミを入れる。
そのため、ミンメイがギクッと身体を震わせ、作業をするため小動物のような表情を浮かべて舞台裏へと急ぐのだった。
●ごるびー
「しふしふふよよ〜ん☆」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、ベル・ベル(ea0946)が見世物小屋に入っていく。
舞台の上ではごるびーがチョコンと立っており、緊張のあまり身体をガタガタと震わせている。
「はやや〜、なんか緊張してるみたいですね〜。大丈夫ですかぁ〜?」
ごるびーのまわりをクルリッとまわり、ベルが心配した様子で口を開く。
「きゅきゅきゅー」
しかし、ごるびーはぎこちない笑みを浮かべ、ゼンマイ仕掛けの人形のようにカタカタと動いている。
「えーっと‥‥、こういう時は深呼吸をすると良いですよー」
満面の笑みを浮かべながら、ベルが大きく息を吸い込んだ。
それに合わせてごるびーも息を吸い込み、彼女と一緒にぷはーっと息を吐く。
「これでバッチリですよー♪」
嬉しそうにピョコンと飛び上がり、ベルがニコリと微笑んだ。
ごるびーも嬉しそうにぴょこぽんと飛び跳ねる。
「それじゃ、張り切って練習するですよ〜」
ホッとした様子で笑みを浮かべ、ベルがごるびーのまわりをクルクルと回る。
舞台の開演まで、もう少し‥‥。
それまでに少しでも気合を入れておかねばならない。
●行列
「わぁ‥‥、思ったよりも並んでいるね。一体、どうやってチケットを売り捌いたんだろ? やっぱり裏工作をしたのかな?」
見世物小屋に並んだ人々を見つめ、白井鈴(ea4026)が感心した様子で溜息を漏らす。
ミンメイの話ではチケットをすべて売り捌いたという話だが、行列の中に何人かサクラが混ざっているため、彼女の言っている事がすべて本当だとは信じ難い。
「でも、何だかドキドキするね。みんなが期待しているんだよ。気合を入れて頑張らなくちゃ」
拳をギュッと握り締め、鈴が闘志をメラメラと燃やす。
そのため、ペットの茶太郎と龍丸も、同じようにして瞳をメラメラとさせた。
「あっ‥‥、茶太郎は駄目だよ。まだ芸を覚えていないんだから‥‥。今回は龍丸だけ」
鈴の答えに茶太郎がションボリとする。
気合が入っていただけに、余計にショックが大きいようだ。
「そ、そこまで落ち込まなくっても。それに茶太郎は芸が出来ないだろ」
その問いに茶太郎が『ワン』と答えて、鈴の前にチョコンと座る。
そして、覚悟を決めた様子で立ち上がり、芸をしようとしてコロンと転がった。
「‥‥ほらね。頑張っているのは分かるんだけど‥‥。ごめんね、茶太郎」
茶太郎の頭をヨシヨシと撫でながら、鈴が困った様子で溜息を漏らす。
そのため、茶太郎は潤んだ瞳で、龍丸の顔を見つめるのであった‥‥。
●控え室
「けひゃひゃひゃ、我が輩の相棒、鈍器丸〜。今こそ、その真の姿をみせる時がきたのだ〜。ごるびー君を上手くフォローしたまえ〜」
ドンキーの鈍器丸に乗せていた天斗を下ろし、トマス・ウェスト(ea8714)が奇妙な笑い声を響かせる。
ミンメイの募集の仕方が悪かったのか、控え室にはトマス(以下ドクター)のペットしかいない。
「う〜む、どうもきな臭い〜。まさか誰かの邪魔が入ったのか〜?」
控え室に置かれていた名簿を見つめ、ドクターが不思議そうに首を傾げる。
予定では十数匹のペットが舞台に立つ事になっているが、控え室に居るのはドクターのみ。
何かの都合で来れなくなったとしても、連絡くらいは来るはずだ。
それに大半のペットが病気や怪我や休む事などあり得ない。
「‥‥どうやら何か裏がありそうじゃな」
険しい表情を浮かべながら、ドクターが溜息を漏らす。
しかし、真相を探るにも、これから舞台があるので、迂闊に動く事は出来ない。
「我が輩の相棒、鈍器丸よ〜。今回の舞台‥‥、決して油断するんじゃないぞぉ〜」
そう言ってドクターが鈍器丸に耳打ちするのであった。
●初舞台
「ううっ‥‥、何だかドキドキするアルねぇ‥‥。何のトラブルもなく、無難に終わってくれればイイアルが‥‥」
緊張した様子で胸をドキドキとさせながら、ミンメイが舞台袖からコッソリと観客席を覗き込む。
観客席の前列にはガラの悪い男達が座っており、まわりを威嚇するようにしてガブガブと酒を飲んでいる。
「はやや〜、何だか怖いオジさんばかりいるですよ〜。ひょっとして借金取りさんですかね〜?」
キョトンとした表情を浮かべながら、ベルが不思議そうに首を傾げて呟いた。
最近、ミンメイの口から借金の話を聞く事はなかったが、観客席の前列に並んでいるのはどう考えても、そのスジの人達ばかりである。
「ワ、ワタシは借金なんて‥‥していない‥‥アル‥‥よ? ほ、本当アル! た、多分‥‥。いや、多分じゃなくて、本当に‥‥」
あからさまに動揺しながら、ミンメイが気まずい様子で視線を逸らす。
舞台を借りるのにいくらか借金した上に、ほとんどチケットをさばく事が出来なかったため、かなりの赤字が出ているらしい。
「‥‥まさか。怖い人達の力を借りて、観客を集めたんですか? そんな事はありませんよね? まぁ、晴れ舞台に上がる前に挫折するというのもお二方らしいと言えますけど‥‥。いくらお客が集まらなかったとはいえ、そこまでアレな事は‥‥したんですね?」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、夕紀がボソリと呟いた。
「いや、あのぉ‥‥、そういう事に‥‥なるアルねぇ‥‥」
申し訳無さそうな表情を浮かべ、ミンメイがダラダラと汗を流す。
そのせいでメインのお客である子供達が舞台を観に行く事が出来ず、イカツイお兄さん達ばかりが観客席に座っている。
「けひゃひゃひゃ、ならば玄人好みの芸をさせればいいんじゃないのかぁ〜? なぁに、難しい事じゃない。我が輩達だって何も子供達だけに芸を見せるためだけに、厳しい特訓をしてきたわけではないからなぁ〜」
奇妙な笑い声を響かせながら、ドクターがさらりと答えを返す。
この日のためにきちんと特訓をしてきたため、どんな客が相手でもそれほど恐れる事はない。
「き、期待しているアルよ。それじゃ、よろしくアル」
風呂敷包みの荷物を抱え、ミンメイが笑みを浮かべて右手を振った。
「‥‥おや? どこに行くのかね、ミンメイ君〜?」
瞳をギラリと輝かせ、ドクターがミンメイの肩を掴む。
いつの間にか鈍器丸がミンメイの前に立ち塞がっており、ドクターと同じように瞳をギラリと輝かせる。
「まぁ、我が輩に任せておけば問題ない〜。協力費も含めて君が3、我が輩が7の報酬でどうかね〜? まぁ、嫌ならそのままにしておくがね〜」
ミンメイに顔を近づけ、ドクターが耳打ちした。
しかし、ミンメイは『大丈夫アル』と答えて、舞台の準備をし始める。
「本当に大丈夫なのかなぁ〜? 色々な意味で不安な気がするんだけど〜」
心配した様子でミンメイを見つめ、鈴がダラリと汗を流す。
「まぁ‥‥、やるだけの事はヤルしかないアル。ごるびーだって準備万端アルからネ!」
引きつった笑みを浮かべながら、ミンメイがごるびーの肩をぽふりと叩く。
そのため、ごるびーは魂の抜けた表情を浮かべ、ぎこちない足取りで舞台へむかうのだった‥‥。
●ゴロツキ
「はっはっはっはっ! なんだ、ありゃ! あんな状態で芸なんて出来るのか!」
ごるびーが舞台に現れたのと同時に、観客席からどっと笑い声が響く。
そのせいでごるびーはさらに萎縮し、ションボリとした様子で肩を落とす。
「ゴルビー様、ここは団長としての威厳の見せ所ですよ」
舞台袖からエールを送り、夕紀が観客席をジロリと睨む。
それでも観客達の野次が収まらなかったため、夕紀が観客席に下りてゴロツキ達をドツキ倒す。
そして、気絶したゴロツキの襟首を掴み、そのまま見世物小屋の外へと放り投げた。
もちろん、財布をスッて、きちんと入場料を貰った上で‥‥。
「ごるび〜ちゃんには、ごるび〜ちゃんしか出来ない『芸』があるですよ〜。だから、頑張るですよ〜〜〜!」
ごるびーのまわりをふよふよと飛び回り、ベルがうさぎのナルくんを舞台に呼ぶ。
ナルくんは舞台に上がるとごるびーのまわりを飛び跳ね、まるで『一緒に芸をやろうよ』と言っているようである。
「きゅきゅきゅ!」
『おう、分かったぜ!』と言わんばかりに声をあげ、ごるびーがぎこちなく芸をし始めた。
最初は観客達のウケも悪かったが、時間が進むにつれて徐々に手応えを掴んでいく。
「おおっ、二匹の息がピッタリある! このままガンガン行くアルよぉ〜」
ホッとした様子で笑みを浮かべ、ミンメイが拳をギュッと握り締める。
ごるびー達は観客達に愛嬌を振り撒き、楽しそうにピョンピョンと飛び跳ねていく。
「よぉし、龍丸も頑張ってね」
龍丸の背中をポンと叩き、鈴がニコリと微笑んだ。
それと同時に龍丸が舞台に向かって走り出し、それを追うようにして茶太郎が舞台に立って『わん』と鳴く。
「‥‥あ、茶太郎まで。まぁ、大丈夫かな?」
ハッとした表情を浮かべ、鈴が茶太郎にむかって右手を伸ばす。
しかし、茶太郎があまりにも楽しそうにしていたため、そのまま舞台に立たせる事にした。
「けひゃひゃひゃ、そろそろ出番のようだね、鈍器丸よ〜」
少しずつ舞台が盛り上がってきたため、ドクターがビシィッと舞台を指差した。
鈍器丸はごるびー達を背中に乗せ、音楽に合わせてダンスを踊る。
こうして、ごるびーの初舞台は無事に終り、何とか次に繋げる事が出来るのだった‥‥。