●リプレイ本文
●江戸の人斬り
「‥‥またも辻斬りか。まだまだこの街は楽しませてくれそうだな。さてと、仕事だ! とっとと斬捨てて幕にしよう。‥‥小次郎のエサの時間なんだ‥‥」
クールな表情を浮かべながら、猪神乱雪(eb5421)が小次郎(優れた猫)の頭をヨシヨシと撫でた。
小次郎はお腹をすかせた様子で乱雪を見つめ、瞳をウルウルと潤ませている。
「目的の為に無関係の人を殺めるなんて、私には信じられませんわ。わたくしは特に人を切る行為は暴走になる危険を控えていますので、特に思うのかも知れませんね」
仲間達と茶屋で情報交換をしながら、マハラ・フィー(ea9028)が溜息を漏らす。
刺青を持つ者に関する情報を集めるため、江戸の公衆浴場を調べ回っていた。
その結果、怪しいと思われる人物は5人。
人斬り浪人の捜している人物を特定するためには、もう少し情報が必要になりそうだ。
「暗躍する者か江戸の闇は深いねぇ。まあ、お陰で僕達忍びも活躍できるんだけどさ。いただけないねぇなぁ、無関係な者をやるなんて‥‥。闇に住まう者としては礼儀を教えて捕まえないといけないようだね」
現場に残っていた草履の跡などの手掛かりから、音無鬼灯(eb3757)が人斬り浪人が標準体型である事が特定する。
しかし、それだけでは特徴が無いため、人斬り浪人の正体を解明する事は出来ない。
「浪人にも事情があるのかも知れぬが、人を斬る理由にはならぬ。‥‥ぜひ成敗いたそうぞ」
刺青のある男に関する聞き込みを終え、上杉藤政(eb3701)が茶屋に入ってきた。
藤政は左腕に竜の刺青のある男が浪人本人である可能性も含めて情報収集をしてきたのだが、人斬りをしている浪人とは別人である可能性が低い。
「このまま放っておくわけには行かないようじゃしな」
険しい表情を浮かべながら、マハ・セプト(ea9249)が被害者の共通点を纏めていく。
今までに似たような事件が数件ほど起こっているのだが、被害者達はみんな酒と博打が好きで女癖が悪かった。
「しかも、この太刀筋‥‥。相当に手練れと見える」
奉行所に行って囮調査の許可を貰い、柚衛秋人(eb5106)が茶屋でお茶を飲む。
念のため冒険者ギルドで今まで発見された死体の特徴などを聞いてきたのだが、太刀筋などから浪人を特定する事は出来なかった。
逆に言えば、この男が江戸の者ではないと言う事である。
「まあ、おとなしく捕まるとは思いませぬゆえ、倒すつもりでかかりまするが‥‥」
被害者に関する資料を眺め、磯城弥魁厳(eb5249)が口を開く。
先程まで忍犬のヤツハシ、柴犬のナラヅケを動員して、被害者が斬られたと思われる場所周辺を探索していたため、人斬り浪人のものだと思われる臭いを発見する事に成功した。
その臭いは近所の長屋まで続いていたが、しばらく人が出入りした気配が無かったため、家の場所だけ覚えて帰ってきた。
「とりあえず刺青の男を特定しておく必要がありそうですね」
公衆浴場で集めた情報を思い出しながら、フィーが消去法を使って怪しい人物を特定しようとする。
複数の公衆浴場を回って情報を集めていたため、何人か重複している可能性があると思ったからだ。
その結果、怪しいと思われる人物は、ふたりまで絞り込む事が出来た。
「‥‥左腕に竜の刺青のある男か。一応、心当たりはあるのだが‥‥」
小次郎に餌をやり終え、乱雪がふらりと席に座る。
江戸中の彫師の元を訪れて竜の刺青のある人物を捜した結果、浮上した人物はひとり。
博打打ちの銀二と呼ばれるケチな男。
しかし、人殺しをするほどの根性は無く、度胸をつけるために刺青を彫った程らしい。
そのため、刺青を彫るのも一苦労だったため、彫師も名前を覚えていたようだ。
「博打打ちの銀二ねぇ‥‥。でも、あちこちの銭湯に顔を出しているようだから、人殺しをしているようには思えないけど‥‥」
困った様子で溜息をつきながら、鬼灯が給仕係の持ってきた団子を食べる。
そうなると怪しい人物はひとり。
フィーの話では一度しか銭湯に現れていないため、何処の誰だか分からないようだ。
「‥‥何か大事な事を忘れておらんか? そこには、わしらもいたのじゃぞ」
含みのある笑みを浮かべながら、マハが各務(地のエレメンタラーフェアリー)の頭を撫でた。
マハは各務に頼んでグリーンワードを使ってもらい、怪しい人物に関しての情報を集めていたため、人斬り浪人の捜している男が賭博場のある方向に消えた事まで分かっている。
しかし、人斬り浪人が現れて頃から、その男の姿を見た者がいないため、どこかに隠れているのかも知れない。
「‥‥なるほど。ならばこちらで罠を仕掛ければ、人斬り浪人を誘き寄せる事が出来そうだな」
怪しい男が姿を隠している事を逆手に取り、藤政が刺青の男に関する情報を故意に流す事を提案する。
人斬り浪人が何処に潜んでいようとも、刺青の男に関する情報が流れていれば、間違いなくその場所に現れると思ったからだ。
「それならばさっそく行動に移すのみだな」
怪しい男に関する情報を流すため、秋人が先に茶屋を出て行った。
この辺りの酒場や瓦版屋にネタを売れば、人斬り浪人に伝わる確率も高くなる。
「さぁ〜て、それじゃ人斬りをとっ捕まえるか〜」
そう言って鷹城空魔(ea0276)が冒険者ギルド(正確には依頼人)のツケで、茶屋の支払いを済ませるのであった‥‥。
●真夜中
(「‥‥来たか」)
刺青の男に関する情報を流してから、すぐに人斬り浪人は現れた。
噂どおりに真っ黒な頭巾を被り、明人の行く手を阻むようにして前に立つ。
「貴様がくだらん噂を流していた張本人か」
‥‥男が言った。
地の底から響くような恨めしそうな声で‥‥。
「‥‥くだらん噂? さあな。殺気を叩きつけながら質問するような奴に、答える必要は無いと思うが‥‥」
人斬り浪人を睨みつけ、秋人が河伯の槍を握り締める。
しかし、人斬り浪人は動じる事無く刀を抜く。
「ならば永遠に黙っていろ」
殺気に満ちた表情を浮かべ、人斬り浪人が秋人に斬りかかる。
(「は、早い‥‥」)
光の如く速さで繰り出される斬撃。
その一撃を槍で受けるたび、両手に凄まじい激痛が走る。
「伊達に辻斬りして回ってないって事か? ‥‥良い腕だな。しかし、キミに僕の太刀筋が見切れるかな?」
カウンター+居合い抜きEXを仕掛け、乱雪が秋人を守るようにして人斬り浪人に斬りかかっていく。
それでも人斬り浪人は怯む事なく、乱雪に斬撃を叩き込む。
「‥‥相当の手練れだ。気をつけてくれ」
警戒した様子で人斬り浪人を睨みつけ、秋人が乱雪の援護に入る。
次の瞬間、魁厳が忍犬のヤツハシを嗾け、疾走の術を駆使して人斬り浪人に攻撃を仕掛けていった。
「ええいっ! 鬱陶しい!」
不機嫌な表情を浮かべながら、人斬り浪人がヤツハシに峰打ちを放つ。
さすがに犬に斬る事には躊躇したのか、必要以上に攻撃をしようとしない。
「単なる殺人鬼というわけでもないようじゃな」
すぐさまホーリーフィールドを発動させ、マハが人斬り浪人と間合いを取っていく。
「‥‥目撃者は斬る。それだけだ‥‥」
クールな表情を浮かべながら、人斬り浪人が刀をギュッと握り締める。
「まさか目撃者を‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、空魔がダラリと汗を流す。
‥‥本来なら最も気をつけなければならない事だった。
誰も目撃者の保護まで考えていなかったため、仲間達も同じような心境に陥っていたのかも知れない。
「だとしたら‥‥どうする?」
黒頭巾を被っていても分かるくらいに邪悪な笑みを浮かべ、人斬り浪人が空魔達に容赦なく刀を振り下ろす。
‥‥もう少し早く気づくべきであった。
人斬り浪人が次々と目撃者を葬ってきた事を‥‥。
「‥‥だから関係の無い人間まで殺めてきたのか」
納得した様子で人斬り浪人を睨みつけ、乱雪がリカバーポーションを飲み干した。
依頼中に使用したポーションなども追加報酬として後でもらう事が出来るため、ここで使っておかねば逆に損をしてしまう。
「‥‥で、お前さんが人を殺してまで追いかけてる男って、いったい何者なんだ?」
乱雪を守るようにして前に立ち、秋人が人斬り浪人をジロリと睨む。
「お前達に答える必要は無い」
ここで本当の事を答えてもメリットが無いため、人斬り浪人が迷う事なく秋人達に斬りかかっていく。
しかし、相手の人数が多過ぎるため、なかなか攻撃が当たらない。
「‥‥ならば強引に聞くしかないか」
バックアタックで人斬り浪人に攻撃を仕掛け、魁厳が再び忍犬のヤツハシを嗾ける。
そのため、人斬り浪人は悔しそうに舌打ちし、鬱陶しそうに刀を振るう。
「どうやら油断したようですね」
素早く鞭を振り下ろし、フィーが人斬り浪人の動きを封じ込める。
「行けぇ!」
それと同時に空魔が次々と柴犬を嗾け、人斬り浪人に対してスタンアタックを放つ。
「うぐっ‥‥、しまった!?」
攻撃が当たる寸前で地面を蹴り、人斬り浪人が空魔の攻撃を避ける。
それに合わせて鬼灯が空蝉の術を使い、人斬り浪人が驚いた瞬間を狙ってスタンアタックを叩き込む。
「ふぅ‥‥、何とか捕まえる事が出来たな」
ホッとした様子で溜息をつきながら、藤政が額に浮かんだ汗を拭う。
その後、人斬り浪人は何も答える事がなかったので、藤政達によって奉行所に突き出されたが、牢屋番が目を放した隙に自害してしまったため、真相は闇に包まれたまま幕を閉じた。