大和の炎

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月03日〜01月08日

リプレイ公開日:2007年01月10日

●オープニング

●大和の炎
「そ、そんな馬鹿な‥‥」
 信じられない様子で村を見つめ、仁衛門がガックリと膝をつく。
 仁衛門の村は紅蓮の炎に包まれており、風がまるでケモノの唸り声を上げている。
 ‥‥あっという間の出来事であった。
 山に登っている間に村が滅びていたのである。
 仁衛門は三ヶ月前に盗賊団を抜け、この村で匿ってもらっていた。
 真っ当な人間になるため、過去の自分を捨てて‥‥。
 ‥‥その結果がコレである。
「だ、誰か生き残っているはずだ」
 そう思って炎の中を突き進む。
 しかし、何もかもが手遅れだった‥‥。

 ‥‥炎が消えた後。
 仁衛門は村人達の死体を埋葬した。
 炭化して性別すらも分からなくなった死体。
 それを一体ずつ穴に埋めて、墓石を立てていった。
 必ず敵を討つと心に誓い‥‥。
 しかし、自分ひとりでは勝ち目がない。
 怒りで我を失いそうになっていたが、それでは敵の思う壷である。
 仁衛門は冒険者ギルドに赴き、助けを求める事にした。

●今回の参加者

 ea2388 伊達 和正(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●正面門
「‥‥ここが盗賊団の根城ですか」
 険しい表情を浮かべながら、伊達和正(ea2388)が茂みに潜む。
 盗賊達は森の奥にある古寺を根城にしており、近隣の村を襲って略奪行為を続けている。
 そのため、古寺の蔵には近隣の村で奪った宝物や、連れ去られた娘達が閉じ込められているらしい。
「ああ、間違いない。今頃、何処かの村で連れ去った村娘達とお楽しみの最中かもな」
 殺気に満ちた表情を浮かべ、仁衛門が吐き捨てるようにして呟いた。
 最悪の場合、その娘達の中に知っている者がいるかも知れない。
 そう思うだけで仁衛門の怒りは、マグマのように噴き上がる。
「‥‥仁衛門殿。敵を討った後はどうなさるつもりじゃ? 過去の償いをした方が良いと思うのじゃが‥‥」
 仁衛門の身体から凄まじい殺気が漂ってきたため、西天聖(eb3402)が心配した様子で口を開く。
 ただでさえ参加人数が少ないため、ここで仁衛門が無謀な行動をすれば、作戦が失敗してしまうだけでなく、誰かが命を落としてしまうかも知れない。
「しばらくはこの古寺に残って、どうすれば今までの罪を償う事が出来るか考えてみようと思っている。もっとも、俺が生きていればの話だが‥‥。そのためにもお前達の協力が必要だな」
 苦笑いを浮かべながら、仁衛門が答えを返す。
 しかし、仁衛門は既に覚悟を決めており、祠堂さえ倒す事が出来れば、死ぬ事さえ怖くない。
「まぁ、数の上で負けているのじゃから、くれぐれも馬鹿な真似はしないでくれ」
 警戒した様子で仁衛門を睨みつけ、聖が念のため釘を刺しておく。
 作戦が成功する可能性が低いため、不安の種はなるべく少ない方がいい。
「ああ、問題ない。犬死するつもりで、ここに来たのなら、わざわざお前達に依頼などしないからな。出来るだけ‥‥我慢しておこう」
 必死に感情を押し殺し、仁衛門がボソリと呟いた。
 本当は単独で盗賊団に勝負を挑み、祠堂の息の根を止めたいと思っているが、相手の実力を知っているため、どうしても聖達の協力が不可欠となる。
「‥‥信じていいのじゃな? それにの、人を思いやるようになった仁衛門殿に死んで欲しくないのじゃ」
 心配した様子で仁衛門を見つめ、聖がさらに念を押す。
 そのため、仁衛門はクスリと笑い、小さくコクンと頷いた。
「心配するな。俺だって馬鹿じゃない。とにかく祠堂を倒す方が先だ。この様子じゃ、一仕事終えてハメを外している最中のようだしな」
 含みのある笑みを浮かべながら、聖が瞳をキラリと輝かせる。
 仁衛門は一時期、盗賊団の用心棒として雇われていた時期があるため、祠堂達の行動パターンが手に取るように分かっているようだ。
「まあ、酒盛りで浮かれているようですし、そのまま(三途の)川を渡ってもらいしょうか」
 正面門の見張りをしていた盗賊達が交代をしたため、宿奈芳純(eb5475)が近くまで忍び寄っていく。
 盗賊達は酒盛りに参加している途中で交代する事になったため、不機嫌な表情を浮かべながらスルメイカをかじっている。
「‥‥おやすみなさい。しばらく夢の世界にいてください」
 スリープを使って見張り役の盗賊達を眠らせ、芳純が仲間達に連絡するためにテレパシーを使う。
「よし、いまじゃ!」
 それに合わせて聖がオーラエリベイションを発動させ、すぐさま盗賊達に攻撃を仕掛けていった。

●裏門
「裏切り者には、それなりの償いを、か。それが盗賊団の掟だとしても、放っておくわけには行かないな」
 仁衛門の言っていた言葉を思い出し、クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)が物陰に潜む。
 ‥‥古寺の裏門には見張りがふたり。
 ふたりとも裏門から敵が現れると思っていないため、のんびりと地面に座って博打遊びを始めている。
「過去の過ちを償おうとしている者への仕打ちにしても酷過ぎるでござる。まぁ‥‥、それだけの事をしてきたと言えばそれまででござるが‥‥。やり直そうとしている者の心情を察するに、何とかしてやりたいというのが本音でござる。それに、のさばらせておけば同じ事を繰り返す盗賊団ならば、壊滅させた方が世のため人の為でござる」
 怒りで拳を震わせながら、香山宗光(eb1599)が見張りを睨む。
 見張り達は呑気にアクビをしており、宗光達の存在に気づいていない。
「‥‥呑気なものだな。これから死ぬような思いをするって言うのに‥‥。まぁ、仕方が無いか」
 呆れた様子で溜息をつきながら、クリスティーナが仲間達からの連絡を待つ。
 作戦がうまく行けば芳純からテレパシーが届くはずである。
「この人数で盗賊団を全滅させる事は不可能でござる。‥‥となると、方法はひとつ。盗賊団の首領である祠堂を討ち漏らす事無く仕留める事だけでござる」
 険しい表情を浮かべながら、宗光がゆっくりと太刀を抜く。
 夕日を浴びて宗光の太刀がキラリと光る。
 しかし、見張りのふたりは博打遊びに夢中になっているため、未だに宗光達の存在に気づいていない。
 次の瞬間、芳純からテレパシーが届く。
『‥‥作戦が成功しました。いまから本堂に突入します』
 それに合わせて本堂の方が騒がしくなり、博打遊びをしていた見張り達が慌てた様子で援護にむかう。
「どうやらうまく行ったようだな」
 ホッとした表情を浮かべながら、クリスティーナが裏門をくぐっていく。
 芳純達の作戦が成功した事で盗賊達はパニックに陥っており、本堂にいる娘達を蔵まで移動させている。
「‥‥いよいよでござるな」
 そう言って宗光がオーラパワーを太刀に付与し、クリスティーナと共に本堂を目指して走り出した。

●祠堂
「どこだ、祠堂! 俺は此処だ! 早く出て来い!」
 次々と盗賊達を斬り捨て、仁衛門が祠堂を捜して本堂を走る。
 本堂には盗賊達が沢山いたが、仁衛門は気にせず刀を振り回す。
「こ、こら! 落ち着け! ひとりじゃ、勝ち目がないと言っておるじゃろう!」
 呆れた様子で溜息をつきながら、聖が必死になって仁衛門の後を追う。
 仁衛門は頭に血が上っているせいか、聖の声が聞こえておらず、祠堂を捜して雄叫びを上げている。
「とにかく仁衛門を援護しましょう。行け、流星っ!!」
 盗賊達に流星(鷹)を嗾け、和正がオーラショットを叩き込む。
 そのため、盗賊達は蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。
「まぁ‥‥、お気持ちは分かりますが、このままでは命を落としかねませんね」
 険しい表情を浮かべながら、芳純がスリープを使って盗賊達を眠らせる。
 盗賊達は逃げる途中で睡魔に襲われ、そのままゴロリと転がった。
「こんなところにいたのか! おい、祠堂は何処だ? 早くカタをつけて帰ろうぜ!」
 シューティングPAを放って盗賊を倒し、クリスティーナが祠堂を捜す。
 しかし、祠堂の姿は見当たらず、仁衛門が焦った様子で障子を蹴った。
「‥‥なるほど。復讐を焦るあまり、祠堂を殺す事しか頭に無くなったようでござるな」
 納得した様子で仁衛門を見つめ、宗光が真剣な表情を浮かべて肩を掴む。
 宗光も仁衛門の気持ちは痛いほど分かるのだが、だからと言って彼の事を放っておくわけにはいかない。
「は、放してくれ! 俺にはやるべき事があるんだ!」
 宗光の右手を振り払い、仁衛門が奥の部屋に行こうとする。
「それは拙者達とて同じ事。ここで依頼主が亡くなれば、拙者らは何をしに此処まで来たのか分からなくなるでござる。貴殿の気持ちも分かるが、ここはとにかく落ち着いてほしいでござる」
 仁衛門の顔をジッと見つめ、宗光がボソリと呟いた。
 これ以上、仁衛門が単独行動を取るのなら、最終手段しかないと頭の中で考えながら‥‥。
「‥‥分かった。だが、祠堂の命だけは俺が奪う。それだけは約束してくれ」
 それが仁衛門の条件であった。
 瞼を閉じれば、村の惨状が浮かんでくる。
 何処の誰だか分からない仁衛門を家族同様に扱ってくれた村人達。
 どんな事があっても、村人達は仁衛門の過去には触れなかった。
 もしかすると、村人達も仁衛門の正体を薄々気づいていたのかも知れない。
 ‥‥それでも仁衛門は嬉しかった。
 だからこそ祠堂を許すわけには行かないのだ。
「‥‥約束でござるよ」
 必要以上の事は口にせず、宗光が仁衛門と共に祠堂を捜す。
 もちろん、祠堂の実力を考えれば、仁衛門と戦わせる事は危険だが、ここで他の者がトドメをさせば、一生彼から恨まれるだけでなく冒険者としての信頼まで失ってしまう。
 そして、祠堂は見つかった。
 誰もいなくなった本尊の前で‥‥。
「‥‥たくっ! ウルセェな。俺ならさっきから此処にいたぜ。面倒臭いから、みんな纏めて掛かってきやがれ。何人でも相手をしてやるぜ」
 邪悪な笑みを浮かべながら、祠堂が杯を放り投げて刀を抜く。
 盗賊達を束ねているだけあって祠堂の殺気は凄まじく、戦う前からピリピリとした雰囲気が漂っている。
「おらオラおらおラ! テメェ、年貢の納め時だぞ!! 覚悟しやがれ!!!!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、クリスティーナがダブルシューティングを放つ。
 しかし、祠堂は彼女の攻撃を軽々とかわし、刀を構えて一気に攻撃を仕掛けてくる。
「‥‥さすが。頭を張るだけの事はあるでござるな。ならば拙者らも全力を尽くすでござる」
 オフシフトを使って祠堂の攻撃をかわし、宗光がフェイントアタックを放つ。
 それと同時に足元の床が抜け、宗光がバランスを崩して転倒した。
「ははっ! 油断したな。俺は天下の祠堂様だぜ? 一番嫌いな言葉は正々堂々! ここには面白い仕掛けが沢山あるぜ!」
 満足した様子で笑みを浮かべ、祠堂が刀を振り下ろす。
「無駄口を叩く暇があったら、もう少し手を動かした方がいいんじゃないんですか? そんな事じゃ、俺達を殺す前にあなたの方が痛い目に遭いますよ?」
 すぐさまオーラショットを叩き込み、和正が祠堂をジロリと睨む。
 そのため、祠堂は掛け軸を乱暴に引き千切り、抜け道を通って外に逃げようとした。
「‥‥逃がしはしませんよ!」
 険しい表情を浮かべながら、芳純がムーンアローを撃ち込んだ。
「ぐはっ‥‥、しまった!?」
 その一撃を喰らって祠堂が呻き声を上げ、バランスを崩して転倒した。
「いまじゃ、仁衛門殿!」
 一気に間合いを詰めてスマッシュを放ち、聖が仁衛門にむかって声を掛ける。
 次の瞬間、仁衛門が馬乗りになり、祠堂に刀をズブリと突き刺した。
「‥‥終わりましたね、何もかも‥‥」
 ホッとした表情を浮かべ、和正がぽふりと肩を叩く。
 しかし、仁衛門は静かに首を横に振り、祠堂に突き刺さっていた刀を抜いた。
「いや、何も終わっちゃいない。これから罪を償わなければならないからな」
 そう言って仁衛門が何処か寂しそうな表情を浮かべて微笑んだ。