●リプレイ本文
「‥‥随分と寂しい場所ですね」
依頼主の男と一緒に墳墓を訪れ、西方亜希奈(ea0332)が松明に火を灯す。
墳墓の中は薄暗く、あちこちで冒険者達の戦った後がある。
「仲間等の安否は当然として、依頼主の心の軽減を願う。想いの全てを連れ帰ってやろう‥‥」
より多くの遺留品を持ち帰るため、白河千里(ea0012)が愛馬『権兵衛』を同行させて墳墓に入ったのだが、通路があまりに狭いため途中で愛馬を置いていく。
依頼主の男も一緒についていくつもりだったようだが、探索中に危険が及ぶ可能性があるため依頼主に権兵衛の世話を頼む。
「そう気に病む必要は無い・・・・。君が逃げてきてくれたおかげで、私はラッキーな気分でいられるんだからな」
落ち込む依頼主を慰め、ウェス・コラド(ea2331)がクスリと笑う。
噂では埋蔵金が見つかったという話もあるため、このまま捜索に参加しておけば少しくらいはおこぼれが貰えるはずだ。
「だが、俺が逃げたのも事実だ。その事については、俺も言い訳する事はできない」
寂しげな表情を浮かべ、依頼主の男が力なく肩を落とす。
自分でも仲間を見捨ててしまったという負い目があるらしく、安否の分からない仲間達に対して罪の意識があるらしい。
「‥‥貴方は間違ってない。はぐれてしまったのだから生存の為に脱出するべきだし、仲間の人も判っているはずだ。彼等が脱出していないのは貴方のせいではないし、貴方が脱出しなければ誰も救出が必要だとは知り得なかったんだから」
依頼主の持っていた地図を受け取り、カイ・ローン(ea3054)が小さくコクンと頷いた。
依頼主の男もカイの言葉に慰められ、権兵衛を連れて入口まで戻る。
「それにしても曖昧な地図だな。もう少し細かい地図なら、分かりやすかったんだが‥‥」
ボロボロの布に描かれた地図を見つめ、天城烈閃(ea0629)が大きな溜息をつく。
墳墓内の地図は服の切れ端らしき布に描かれているため、所々が薄れておりハッキリとした所が分からない。
「とりあえず今回の目的は生存者が居たら、その人達を確保して無事に連れ帰りましょう。もし生存者が居なければ、遺留品だけでも回収して依頼主に手渡さないと‥‥」
烈閃の肩をポンと叩き、月詠葵(ea0020)が通路を歩く。
墳墓の中は一定の温度が保たれているらしく、外と比べてヒンヤリする。
「無視するのも嫌だし、助ける事ができるのなら助けたいしね」
取り残された冒険者達の事を考えながら、カイが墳墓内をゆっくりと歩いていく。
墳墓内には食料が全くないため、冒険者達が生き残っている可能性は低い。
それに加えて依頼主が墳墓を出てから数日ほど経っているため、冒険者達が生き残っている可能性は皆無に等しいだろう。
「余力があれば墳墓内の調査をしておきたいが‥‥」
烈閃から地図を受け取り、天螺月律吏(ea0085)が現在地を確認した。
地図にはトラップの印が書かれているものの、どんなトラップが仕掛けられているかは書かれていないため、印のある場所では必要以上に警戒しておく必要がある。
「冒険者達の数は全部で5人。まさかと思うけど共食いなんてしていないよね」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、ファラ・ルシェイメア(ea4112)が最悪の結果を予想した。
冒険者達は今回の依頼で出会った者達ばかりなので、極限状態の中で仲間割れする可能性は非常に高い。
「あまり妙な事は考えない事でござる。俺達の目的は冒険者達の救出および遺留品の回収‥‥。最悪の場合は冒険者達を倒して、遺留品だけでも回収する事になるな」
ファラの表情を読み取り、星不埒(ea4035)が何処か寂しげな表情を浮かべて首を振る。
考えれば考えるほど最悪な結果ばかりが脳裏を過ぎり不埒の気分を悪くした。
「生存者か‥‥。正直、難しいだろうな‥‥こんな場所に置いていかれたのでは‥‥」
通路の途中に仕掛けられていた罠を解除し、烈閃が険しい表情を浮かべて辺りを睨む。
例え生きていたとしても、不安定な精神状況では、このトラップを解除していく事など不可能だ。
「さて、取り残された人達が皆生きている事を期待しつつ、頑張るですよ♪」
そして葵は依頼主から借りた松明を片手に墳墓の奥へと進むのだった。
暗い暗い墳墓の中に‥‥。
「地図は途中まで‥‥か。それでも依頼主は望む人物に逢えると言うのだから、何とも切ない冒険だ。しかも口ぶりでは死んでる様子‥‥。この墳墓には何人もの商人が埋蔵金を求めて探索に出かけたらしいが、一体どの商人に依頼されてここに来た者達なのだろうな」
インフラビジョンを使って辺りを警戒しながら、千里が刀を構えて奥へと進む。
地図に描かれているのは途中までなので、ここから先は自分の勘を頼りに進んでいくしか方法はない。
「何か気に掛かる事でもあるんですか?」
心配した様子で千里を見つめ、鳳明美輝(ea1405)がボソリと呟いた。
「いや、なんでもない‥‥」
静かに首を横に振り、千里が墳墓の奥へと進んでいく。
「随分と道幅が狭くなってきたようですね。ここから先は一列になって進みましょう」
念のため墳墓の壁に目印を残し、葵が千里の後を追いかける。
「こんな場所で埴輪にでも遭遇されたら敵わんな」
苦笑いを浮かべながら、律吏が辺りに殺気がないかを探っていく。
ただし埴輪が殺気を放つ事はないため、どちらかと言えば財宝などを狙う第3者達に対する対策だ。
「なるべくなら埴輪に会いたくないでござるな。このまま無事に遺留品だけ回収できればいいでござるが‥‥」
血で汚れた壁を見つめ、不埒が慎重に奥へと進む。
墳墓の中にはかなりの数の埴輪がいるため、挟み撃ちにされた場合は勝ち目がない。
「間違って、全然関係ない遺留品を持ち帰ったりしたら、目も当てられないよ。まぁ、依頼主のためにも、生きていると思いたいけどね‥‥」
冗談まじりに微笑みながら、ファラが大きな溜息をつく。
「‥‥待て。あれは!」
行き止まりになった通路の先を指差し、玖珂刃(ea0238)がハッとなって大声を上げる。
「やっぱり死んでいたか‥‥。まぁ、ある程度の覚悟していたが」
そして田崎蘭(ea0264)は冒険者達の亡骸に駆け寄り、吐き捨てるようにして呟いた。
「この様子じゃ、埴輪達に追い詰められて、踏み潰されたようだな。ボコボコにぶん殴られた後にさ」
ピクリとも動かなくなった冒険者達の死体を見つめ、ウェスが疲れた様子で首を振る。
冒険者達は埴輪の集団に襲われ行き止まりまで追い詰められてしまったらしく、逃げる事すら出来ないまま壁や地面に叩きつけられ命を落としてしまったようだ。
「まあ、状況から考えれば当然だろうな‥‥」
天井に突き刺さった冒険者を引き抜き、ウェスが遺留品を回収し始める。
あまり気分がいい事ではないが、依頼を引き受けてしまった以上やるしかない。
「寺院に連れて行けば復活するというわけでもないし‥‥仕方ないな」
冒険者達の亡骸に両手を合わせ、律吏が寂しげな表情を浮かべて目を閉じる。
「仕方ないから遺留品だけでも回収しよう」
なるべく持ち運びやすいものだけを選び、カイが冒険者の亡骸から道具を外す。
冒険者の亡骸は無数のウジが湧いており、卵の腐ったような臭いを放っている。
「だが、この状況ですべてを回収するとなると骨が折れる。なるべく小さくて本人の物だと分かるものだけ持っていこう」
鼻を押さえて亡骸を睨み、千里が端に寄せていく
出来る事なら亡骸も一緒に回収すべきなのかも知れないが、持ち帰る途中で埴輪に襲われた場合ピンチに陥ってしまうため、ここに安置しておく事にしたようだ。
「せめてここに埋葬してあげられるとよかったんですが、穴を掘る道具を持ってきていませんので‥‥ごめんなさい」
冒険者達の亡骸の前に座り、美輝が黙って両手を合わす。
遺留品しか持ち帰れない以上、せめて冒険者達の冥福だけは祈りたい。
「早くこれを依頼主に持って帰ってあげないとね」
遺留品の詰まった麻袋を背中に背負い、葵が入口にむかって歩き出す。
他の冒険者達も葵の後に続いたが、途中でピタリと立ち止まる。
「待ち伏せされていたか。わざわざこんな開けた場所で‥‥」
そして律吏は舌打ちすると、埴輪達にむかってオーラソードを放つのだった。
「青き守護者カイ・ローン、参る」
グットラックを自分にかけ、カイが短槍を使って埴輪を倒す。
埴輪はバランスを崩して後ろに倒れ、そのままピクリとも動かなくなる。
「狭い通路で挟み撃ちにされなかった分、まだマシかな?」
埴輪と間合いを取りながら、刃が力任せに日本刀を振り下ろす。
「ある意味、こいつらも墳墓の貴重な資料なんだが‥‥仕方ないか‥‥」
クイックシューティングで矢を放ち、烈閃が埴輪の破壊を試みた。
しかし埴輪は矢を弾き、烈閃にむかって拳を上げる。
「‥‥短弓じゃ威力が弱いか」
床に転がった弓矢を回収し、烈閃がダブルシューティングEXを放つ。
「だったら考え方を変えればいいだけの事でござる」
烈閃を守るようにしてバックアタックを放ち、不埒が墳墓内のトラップを発動させて埴輪を倒す。
「あれ、カワイイ‥‥」
ウットリした様子で埴輪を見つめ、亜希奈が瞳をウルウルさせた。
埴輪のほとんどは無表情で愛想のない顔をしているが、稀に誰かの気まぐれなのか可愛らしい埴輪が存在する。
これは見た目で冒険者達を油断させるためであり、能力的には他の埴輪と変わらないため、よく騙されて命を落とす冒険者もいるようだ。
「サポート宜しくね」
サンダーボルトを放つため、ファラがその場で詠唱を始める。
「このボクが居る限り、呪文の邪魔はさせませんよ♪」
満面の笑みを浮かべながら、葵がブラインドアタックで埴輪を倒す。
「とにかくファラさんが魔法を唱えるまで、時間を稼ぐ必要がありますね」
フェイントアタックを使って埴輪を倒し、美輝が魔法の詠唱時間を稼ぐ。
「下がって!」
埴輪にむかってサンダーボルトを炸裂させ、ファラが汗を拭って後ろに下がる。
一応、魔法の効果はあったようだが、詠唱中に身動きひとつ取れないため、かなり心臓には悪い。
「これでトドメだっ!」
サイコキネシスを使って岩を操り、ウェスが埴輪達を次々と破壊する。
それと同時に墳墓内が大きく揺れ、バラバラと天井が崩れていく。
「ば、馬鹿な! 私はそこまでしていない!」
納得の行かない様子で天井を見上げ、ウェスがチィッと舌打ちする。
「‥‥何処か別の場所でトラップを発動させたようだな。しかも一番どデカイヤツを‥‥」
悔しそうな表情を浮かべ、律吏が出口のある通路にむかって提灯を照らす。
まだ崩れるまで少し時間がありそうだが、モタモタしていてはこのままみんな生き埋めになってしまう。
「宝探しはお預けだな」
まだ未調査だった通路を見つめ、千里が残念そうに溜息をつく。
このまま調査を続ければ何か宝が見つかるはずだが、こうしている間にも通路が岩で塞がれていくため、命が惜しいのならこのまま脱出するべきだ。
「二頭を得んと欲する者は一頭をも得ず‥‥とか、あったよねぇ‥‥。欲張りすぎは、失敗のもとさ」
戸惑う仲間達の顔を見つめ、ファラが出口にむかって走り出す。
「命あってのモノダネだ。ついて来る気がないなら、このままココに置いていくぞっ!」
そして蘭は仲間達が出口にむかったのを確認し、最後尾を守りながら墳墓を脱出するのであった。