●リプレイ本文
●第一幕 村人達
「復讐を考えずに、もっと人里離れたところに行けば良かったものを‥‥、心の闇は鬼も人も変わらず、厄介な物でござるな」
険しい表情を浮かべながら、天城月夜(ea0321)が山道の入り口に向かう。
山道の入り口には村人達が集結しており、農耕具を構えて冒険者達を睨んでいる。
「弱り目に祟り目な状況では人の心が荒んでしまうものだし、判断力が低下するのも仕方のない事でしょーけど、村の将来を担う筈の夫婦まで生贄にしてしまうとゆーのは本末転倒ですし、流石に正当化は出来ないですよね〜。 案外、山の祠を軽視する振る舞いとか、それを鑑みない態度やそれを是とする指導者が状況の悪循環を招いているのかも知れませんが‥‥」
村人達がジリジリと迫ってきたため、井伊貴政(ea8384)が太刀を抜く。
彼らを率いているのは村の風習を頑なに守り続けている長老。
冒険者達の勝手な態度に嫌気が差し、全く信用していないらしい。
「多分、依頼主も自分と関係の無い人間だったら依頼を出さなかったろうね。 ‥‥やっぱり、駄目だね人間は‥‥」
村人達を更生させる事が不可能であると感じたため、フローライト・フィール(eb3991)が溜息をつく。
この村には何度か冒険者達が立ち寄り、事件を解決していたようだが、長老を説得する事が出来た者は誰ひとりとして居なかったようだ。
「どうやら皆、憑かれている様アルな。水に顔を映すと良いアル。皆、顔が鬼の様アル」
大凧に乗って空から登場し、張真(eb5246)が村人達の前に降り立った。
村人達は弓を構えて茂みに隠れ、大凧を落とすつもりでいたようだ。
「‥‥村人達よ、我が声に耳を傾けよ! 我は伊勢が斎王様直属。五節御神楽が一人なり!」
横笛で柔らかな音色を紡ぎ、月夜が天馬からゆっくりと降りる。
本当なら仲間達を先に行かせてから、村人達の説得を始めたかったようだが、ここまで村人達の数が多いとそういうわけにもいかないようだ。
「一体、ここに何のようじゃ。今夜は大切な儀式がある。今すぐここから立ち去れ!」
不機嫌な表情を浮かべながら、長老が張達にむかって怒鳴りつける。
それと同時に村人達が弓を引き、次々と弓矢の雨を降らせていく。
「うわあああ! だ、駄目アルね。とても話し合いをする雰囲気じゃないアル」
青ざめた表情を浮かべながら、張が岩の裏へと避難した。
それでも村人達は攻撃の手を休めず、弓矢をどんどん撃ってくる。
「‥‥退いて? 死にたくないなら」
長老の足元を狙い、フィールが冷たく弓を引く。
「うぐぐぐ‥‥、ついに正体を現したな、ゴロツキども! 私利私欲のためなら、わしらの気持ちなど関係なしか! 皆の者、これで分かっただろ! これが冒険者達の正体じゃ!」
自分達の事は棚に置き、長老がフィール達を批難した。
そのため、村人達も農耕具を手に取り、ジリジリと長老達に迫っていく。
「子を産み育む夫婦を生贄にするその場凌ぎの対応は、些か村の将来を無視しすぎですよね〜。指導者はその任に相応しくないのではー? 山の神を恐れず鬼を恐れるんだから、そりゃ神様も振り向いてくれないですよー‥‥って、誰も聞いてない!?」
嫌味を言っている途中で身の危険を感じ、貴政が村人達を見つめてダラリと汗を流す。
村人達は貴政の言葉に耳を傾けず、何かに取り付かれたような表情を浮かべている。
しかも女子供関係なく呼び集められているため、迂闊に攻撃する事も出来ない。
「どうか我らを信じ、弓を下ろされよ。これ以上、誰も倒れぬように‥‥。今は拙者らが村を守る。皆、疲れた心と身体をゆっくり休まれよ」
それでも月夜は諦めず、村人達を説得しようとする。
「お前達は何も知らんのじゃな。冒険者を信じた結果が、このザマじゃ。山の神を退治したせいで、他の山からも神々がやってきてしまったのだから‥‥」
月夜の喉元に杖を突きつけ、長老がフンと鼻を鳴らす。
もともと疑い深い性格だったため、この事がキッカケとなって冒険者達を信用する事が出来なくなってしまったらしい。
「んー、これ以上、刺激したらマズイ事になりそうだね〜。説得する事も出来ないし、やっぱり強行突破しかないって事か」
襲い掛かってきた村人達を峰打ちし、貴政が疲れた様子で溜息をつく。
相手が魔物なら楽に片付ける事が出来るのだが、村人達を相手にして本気を出す事は出来ない。
「もはや沙汰の限りでございまするな」
セブンリーグブーツを穿き、磯城弥魁厳(eb5249)が疾走の術で跳躍力を上昇させ、村人達の頭を飛び越えた。
それに合わせて阿阪慎之介(ea3318)が優れた戦闘馬に飛び乗り、村人達の間を駆け抜けていく。
「お、追え! 奴らに儀式の邪魔をさせるな!」
慌てた様子で悲鳴をあげ、長老が村人達に指示を出す。
そのため、村人達は雄叫びを上げて、慎之介達に襲い掛かっていく。
「‥‥ここから先は誰も通さん! どうしても通りたいというのなら、拙者達を倒していくんだな」
天馬に跨って村人達の行く手を阻み、月夜がゆっくりと鉄扇を構える。
もちろん、彼女も村人達と本気で戦うつもりがないため、あくまで足止めをするだけでいるらしい。
「やはり言っても聞かないか。ならば、我々が鬼より強い事を見せてやろう!」
何処か寂しげな表情を浮かべ、黒畑緑太郎(eb1822)が村人達をスリープで眠らせる。
それと同時に張がトリッピングを仕掛け、次々と村人達を転倒させた。
「顔を洗って頭を冷やすアル。天が望むのは、真摯な祈りアル。生贄とは人の世の禊アル。新婚の生贄を捧げるのは、村の不満を他人にぶつけるだけアル。天の意思を自分の都合の良い様に歪める等、恥を知れアル」
倒れた村人達の前に立ち、張が熱く語っていく。
もちろん、その言葉が村人達の心にまで届いていない事は分かっているが、このまま何も言わずにいる事など張には出来ない。
「災いを撒き散らす種め!」
捨て台詞を残して、その場から逃げ出す村人達。
そんな村人達の姿を見て長老が何やら文句を言っているが、既に声が聞こえない場所まで逃げている。
「災いを撒き散らす‥‥種か‥‥」
村人達の仕掛けた罠を避けていきながら、ライル・フォレスト(ea9027)が寂しそうに溜息をつく。
大半の罠はお粗末なものだったため、途中で引っかかる事はなかったが、それ以上に村人達の言葉が気になった。
それだけ大和の治安が乱れていると言ってしまえば御終いだが、このまま放っておけばさらなる災いを呼び寄せてしまう事になるだろう。
「これもまた運命‥‥」
自分自身に言い聞かせるようにしながら、魁厳が落とし穴を飛び越える。
冒険者達の足止めに連れてこられた女子供達。
みんな生気の無い表情を浮かべているが、それも山の神が原因なのだろうか?
自ら進んで行動しているとは、とても思えない。
しかし、村に住んでいる以上、掟には逆らえないのだろう。
彼女達には他に行くアテなどないのだから‥‥。
●第ニ幕 生贄
「おい、てめえら! 放しやがれ!」
不機嫌な表情を浮かべながら、犬彦が村人達に文句を言う。
犬彦は幼馴染の沙耶と祝言を挙げ、村人達と一緒に朝まで酒盛りをしていたのだが、その酒に薬が入っていたらしく、気がつくと身体を縛られ神輿に乗せられていた。
「村の掟に背いたお前が悪いんだ。恨むんだったら、自分の甘さを恨むが良い」
鬱陶しそうな表情を浮かべ、村人が嫌味まじりに答えを返す。
村人達も掟に逆らう事が出来ないため、自分達の考えで動いていない。
「‥‥見つけた。あれか!」
雪山に残った足跡を辿っていき、ライルが生贄達の神輿を発見した。
村人達は犬彦の乗せた神輿を担ぎ、祠にむけて山を登っている。
「クククッ‥‥、ようやく追いついたぞ」
含みのある笑みを浮かべながら、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が村人を睨む。
村人達はテスタメントに気づくと悲鳴をあげ、慌てた様子で木の棒を握り締める。
「その人達を自由にしてもらえませんか?」
警告まじりに呟きながら、山本佳澄(eb1528)が刀を抜く。
そのため、村人達は滅茶苦茶に木の棒を振り回し、佳澄達に攻撃を仕掛けてきた。
「修羅三連撃!」
忍犬達に命令を下し、魁厳がバックアタックを放つ。
その一撃によって村人達は呻き声を上げ、悔しそうに膝をつく。
「お、落ち着いてください。貴方達だって愛する方が、村で帰りを待たれていますよね? 出来れば手荒な真似は‥‥したくないのです。 鬼は‥‥私達が退治しますから、今は信じてくれませんか?」
村人達の攻撃を軽々とかわし、明王院未楡(eb2404)が説得を試みる。
しかし、村人達は聞く耳を持たず、未楡達に攻撃を仕掛けていく。
「‥‥聞こえなかったのか。その者達を放すんだ」
神輿の担ぎ手めがけて当て身を放ち、明王院浄炎(eb2373)が牛角拳を使って近くにあった木を破壊した。
「お、お前達なんて怖くねぇぞ! もう少ししたら、ここに仲間が来る!」
青ざめた表情を浮かべながら、村人が木の枝を握り締める。
「外から邪な鬼が入り込み、山の神に捧げられる祈りや供物を掠めとろうとしてござる。これは天が下した試練であり、生贄を鬼に取られて儀式は失敗で、神に祈りは通じぬ。一先ずは鬼の手より逃れるのが先決でござる」
村人に対して強弁で元々ある不安をつき、慎之介が鬼は山の神と敵対する邪悪なものだと丸め込もうとした。
しかし、村人達は冒険者を全く信用していないため、今まで以上に関係が悪化しただけであった。
「やはり素直には返してくれないようでござるな」
優れた戦闘馬を巧みに操り、慎之介が村人達をジロリと睨む。
村人達は恐怖のあまり冷静な判断が出来なくなり、悲鳴にも似た叫び声を上げて慎之介達に攻撃を仕掛けてきた。
「‥‥やるしかないか」
すぐさまスリープの魔法を使い、緑太郎が村人達を眠らせていく。
しかし、村人達は眠った仲間を蹴り飛ばし、むりやり彼らを起こしていった。
「‥‥いい加減にしてね? 神様じゃなくて俺に殺されたいかい?」
次の瞬間、フィールの放った弓矢が村人達の足元に突き刺さる。
その弓矢を見て悲鳴を上げる村人達。
「ひ、怯むな! ここで生贄達を逃がせば村は滅びるぞ!」
怯えた様子で木刀を握り、村人が無謀にも攻撃を仕掛けていく。
「刃向うと言うならば仕方あるまい。次は御身らがこの樹と同じ様になる事を覚悟されよ」
残念そうに溜息をつきながら、浄炎が村人達に当て身を放つ。
その間に未楡が気絶した村人達を縛り上げた。
「大丈夫か?」
村人達をすべて倒した事を確認した後、魁厳が犬彦達の縄を解いていく。
「た、助かったぜ。ありがとうな」
ホッとした表情を浮かべ、犬彦が魁厳にお礼を言う。
しかし、沙耶の方は恐怖でボーっとしており、身体をカタカタと震わせている。
「この状況で村に帰るのは危険ですね」
村人達の対応が狂信的だったため、佳澄が犬彦達に同情した。
このまま彼らを村に帰したとしても、掟を破ったという事で罰を受けるのがオチである。
「神仏を静める為に出す贄は、それ相応の責を持つ者の血筋から‥‥と、村長らの身内から出す事が多いと聞きますが‥‥この村では、逆なのですね‥‥。村で弱い立場の方から差し出される。‥‥村長の身内から贄が出る時には、きっと村人は誰も残っていないのでしょうね‥‥」
村人達の縄に切れ目を入れ、未楡が困った様子で溜息をつく。
これで村人達を放っておいても、すぐに縄を解いて逃げる事が出来そうだ。
「いや、村長の息子は真っ先に生贄にされている。だからこそ掟が絶対なのかも知れないな。そこまでツライ思いをして、掟を守った意味がなくなるからな」
何処か寂しそうな表情を浮かべ、犬彦が沙耶を優しく抱き締める。
「‥‥近くの村まで案内します。あの村には帰れませんから‥‥」
村人達がゾロゾロと山を登ってきたため、佳澄が犬彦達を馬に乗せていく。
犬彦達も村を出る覚悟が出来ているのか、素直に佳澄の指示に従った。
「‥‥鬼作よ。間違っても、この山に居るな」
祈るような表情を浮かべ、浄炎が祠のある山頂を睨む。
山に追いやられた鬼達が、すべて悪ではないと思いつつ‥‥。
●第三幕 人食い鬼
「‥‥どうやらうまくいったようだな」
予定の時間(日没)が過ぎた事を確認し、ライルが木立から洞窟を睨む。
鬼達は生贄が到着しなかった事に腹を立てており、金棒を肩に担いで山を降りる準備を進めている。
「それじゃ、始めるとするか」
茂みに隠れて狐のお玉に鬼達の気配を探らせ、緑太郎がフレイムエリベイションの巻物を広げて魔法の成功率を上昇させた。
しかし、洞窟の中に隠れている鬼達は気弱そうな表情を浮かべおり、とても悪さをしていたようには思えない。
「間違っても鬼を村に逃がすなよ」
すぐさま犬と鷹を鬼に嗾け、ライルが追儺豆を投げつける。
依頼中に消費したアイテムはすべて追加報酬で貰える事になっているため、ありったけの豆をぶつけて鬼を攻撃した。
「ああ‥‥、分かっているでござる」
馬に木の枝を下げて土煙と音を多く立て、慎之介が大群を率いて鬼退治に現れたフルをする。
そのため、鬼の群れは村とは正反対の方向にむかい、ワラワラと山を降りていく。
「――矢の雨が降り注ぐ‥‥篠突く雨って所かな?」
先頭を走っていた茶鬼に只管矢を射った後、フィールがシューティングPAを放って人食い鬼にトドメをさす。
人食い鬼は何が起こったのか分からず、口からブクブクと泡を吐いて絶命した。
「さすがに人食い鬼を野放しにしておくワケにはいかないのでな」
逃げようとしていた人食い鬼をムーンアローで追跡し、緑太郎が躊躇う事無くトドメをさした。
しかし、鬼達の中には戦いを好まない者もいたため、人食い鬼以外は深追いしない事にする。
「ひょっとして‥‥、鬼作か。浄炎から話は聞いている」
シュライクを使って茶鬼を倒し、テスタメントが赤鬼を睨む。
どうやら赤鬼は鬼作だったらしく、他の鬼を守るようにして壁になっている。
「‥‥行けよ。おたくらも好きでここに来たわけじゃないだろ? その代わり村人達に危害を加えるような事があれば、例えどんな理由があっても許さんからな」
念のため鬼作に警告をした後、緑太郎が疲れた様子で溜息をつく。
本当なら逃がすつもりなどなかったが、無抵抗な鬼を殺すほど緑太郎も非情にはなれない。
そのため、鬼作は緑太郎達に頭を下げ、殿を守るようにして山を降りていく。
「とにかく洞窟を封鎖しておこう。そのうち他の鬼が棲みつくかも知れないからな」
鬼作の姿が見えなくなった事を確認し、ライルが洞窟の封鎖作業を開始した
この作業が終わったら、今度は祠の修復と清掃作業が待っている。