●リプレイ本文
●第一章 裏切り
「覗きをしないとは何事だ! 河童は覗きをしてこそ、河童ではないか! それに覗きは、美しい女性の裸体を観賞するという立派な芸術だ。河童は人間と種族が違うのだから、欲求ではなく、芸術としてちゃんと観賞できる恵まれた種族なのに‥‥」
信じられない様子で川太郎の肩を掴み、大宗院謙(ea5980)が熱心に戻るように説得した。
川太郎はえろがっぱーずが嫌で逃げてきたのだが、謙が一生懸命になって説得を続けているため、『えろがっぱーずって実は凄い団体なのかも!?』と勘違いをし始めている。
「覗きをしない事は良い事ですが、友人を裏切る行為はよくありませんよ。逃げるのではなく、川太郎さんが彼らを正しき道に導く事が大切なのではないでしょうか。そのためなら、わたくし、ご協力させていただきます」
すぐさま謙にツッコミを入れ、大宗院真莉(ea5979)がニコリと笑う。
彼女の一撃を喰らって謙が涅槃に旅立とうとしているが、仲間達はみんな見て見ぬフリをした。
「えろがっぱーずを本気でやめたいというのなら信用しましょう。ただし、嘘だとわかったら容赦なくお仕置きの鞭が飛びますよ?」
クールな表情を浮かべながら、瀬戸喪(ea0443)が川太郎をジロリと睨む。
「当たり前だろ! 俺はえろがっぱーずに未練はねぇ。綺麗な身体になって早く母ちゃんに会うんだ! もう女湯なんて見ねぇからな!」
興奮した様子で鼻を鳴らし、川太郎がキッパリと断言した。
その間も横で謙が三途の川とファーストコンタクトを始めているが、色々と面倒な事になりそうだったので、とりあえず見なかった事にする。
「ふ〜ん、君には帰る場所があるのだね〜‥‥」
しみじみとした表情を浮かべ、トマス・ウェスト(ea8714)が溜息を漏らす。
トマス(以下ドクター)は家族も故郷も失っているため、川太郎の事を羨ましく思っているようだ。
「そう言えばジャパンにいる河童は、皆えろ河童と聞いたが本当なのかねぇ?」
キョトンとした表情を浮かべ、リスティ・ニシムラ(eb0908)がボソリと呟いた。
「いえ、えろがっぱーずになる河童は極僅か。普通は河童忍軍に所属するか、冒険者として各地を回っているかのどちらかだと思うんだが、俺もハッキリとした事は分からない」
他の河童には興味が無いため、川太郎がさらりと答えを返す。
川太郎にとって他の河童が何をやっていようと関係ない。
それよりも早く実家の母親を早く安心させたいようだ。
「まあ、えろがっぱーずも世代交代なのかね〜」
川太郎の言葉が真実である事に気づき、ドクターがクスリと笑う。
最初は胡散臭く思っていたが、この様子では川太郎も本気なのだろう。
その瞳には『脱・えろがっぱーず』の言葉が刻まれている。
「本気だという事を証明できるなら、僕は何もするつもりはありません」
未だに川太郎の事を信用する事が出来ないため、喪が疲れた様子で溜息を漏らす。
川太郎がえろがっぱーずを脱退した証拠が無いので、もしかすると喪達の事を騙しているのかも知れない。
「しかし、河童に見られるという事は、犬や猫、猿に見られているのと変わらないのではないか」
ふと疑問が脳裏を過ぎり、謙がボソリと呟いた。
先程まであっちの世界とコンタクトをしていた人間とは思えないほどの復活ぶり。
「‥‥誰であろうと覗きは犯罪です」
爽やかな笑みを浮かべ、真莉がきつく言い放つ。
そのため、謙は身の危険を感じて、彼女の傍から離れていく。
「まあ、どちらにせよ。ことが終わるまでは、えろがっぱーずにいてくれないとねぇ? ジャパンで言うあれだねぇ、乳心中の無視?」
そう言ってリスティが川太郎の肩をぽふりと叩いた。
●二章 えろがっぱーず
「ふぅ〜‥‥、やっぱり温泉はいいわねぇ〜。全身に力が漲ってくるわ。温泉最高♪」
幸せそうな表情を浮かべ、御陰桜(eb4757)が温泉に浸かって溜息を漏らす。
この温泉はえろがっぱーずが出没しているため、ほとんど貸し切り状態になっている。
『ぬおおおおおおおおおおお! みんな! オンナだっ! 腰を引け!』
興奮した様子でカッと目を見開き、えろがっぱーずが一斉に腰を引く。
そして、背中に草の束を抱えると、匍匐前進で温泉まで進む。
(「ふふっ‥‥、来た来た♪ やっぱり、えろがっぱーずって単純ねぇ〜。ちょっとからかってあげようかしら」)
大きな胸を寄せながら、桜がクスクスと笑う。
そのため、えろがっぱーずが興奮した様子で、キュウリをポリポリと齧っている。
「あらぁ〜、お肌がつるつる〜♪ 腕なんて、こんなにすべすべになっちゃったぁ〜」
えろがっぱーずの気を引きため、桜がわざと大声を出して生足をさらす。
それがトドメとなったのか、えろがっぱーずが興奮した様子で、雄叫びを上げて桜に飛びついた。
「本当に気が早いのね。そんなんじゃ、女の子に嫌われちゃうわよ」
春花の術を高速詠唱で唱え、桜がえろがっぱーずを眠らせる。
河童達はとろんとした表情を浮かべ、次々の温泉に沈んでいった。
「‥‥あれ? もう終わったの!? は、早いなぁ」
唖然とした表情を浮かべ、リスティが風呂桶を落とす。
えろがっぱーずが現れるまで、のんびりと温泉に浸かって酒を飲むつもりでいたが、桜が春花の術を使って河童達を眠らせてしまったため、彼女の目論見が音を立てて崩れてしまった。
「相変わらず学習能力がありませんね。まぁ、お仕置きされたいのなら、僕も容赦はしませんが‥‥」
温泉に辿り着く前に眠ってしまった河童を見つめ、喪が冷たい視線を送って背中をグリグリと踏む。
そのため、河童はヒキガエルを潰したような鳴き声を上げ、キュウリを握り締めたままグッタリとして動かなくなった。
「匍匐前進とは、やる気があってよい心掛けだ。川太郎殿、あれを見て素晴らしいと思わないのか?」
感心した様子で溜息をつきながら、謙が鋭い視線を川太郎に送る。
しかし、真莉がそれ以上に鋭い視線を送ってきたため、気まずい様子で大きくコホンと咳をした。
「あなたはどっちの味方なんですか? とても冗談で言っているようには見えないんですが‥‥」
こめかみをピクピクとさせながら、真莉がジリジリと謙に迫っていく。
「じょ、冗談に決まっているだろ。なぁ、川太郎。あは、あはははは‥‥」
色々な意味で身の危険を感じ、謙が乾いた笑いを響かせた。
「へぇ〜、これがジャパンで有名なえろがっぱーずか。普通の河童と比べて、目がエロイね」
気絶したえろがっぱーずをツンツンとつつき、リスティが物珍しそうに観察をし始める。
本当なら標本にして何処かに飾りたい気分だが、大量のお湯を飲んで他の河童達が目を覚ましたので、仲間達と協力してえろがっぱーずを捕縛する事にした。
「あなた方にお話しがあります。覗きの他に何か、その熱意をぶつける先が、他にはないのですか?」
目を覚ました河童を見つめ、真莉が説得をし始める。
そのため、川太郎も彼女に協力して、えろがっぱーずを説得しようとした。
「悪いが俺達は覗きをするために生まれてきた種族だ。覗きを止めた時点で、存在価値を失ってしまう!」
自分達が河童である事を否定し、えろがっぱーずがキッパリと断言する。
「君たちも若さを失ってきたのだろう〜。歳を重ね、理を知り、さらには冒険者にやられる〜。昔から言うだろう〜。『若さ』徒は振り向かないことなのだよ〜。これからは『振り向かない』若者達に任せたらどうかね〜?」
のほほんとした表情を浮かべ、ドクターがえろがっぱーずをなだめようとした。
しかし、えろがっぱーずは聞く耳を持たず、キュウリを握り締めて攻撃を仕掛けてくる。
「あらあら、温泉を身体の疲れを癒すところよ。もっとノンビリする事が出来ないのかしら?」
そう言って桜がえろがっぱーずの戦いを眺めるのであった。
●三幕 対決
「‥‥致し方あるまい。えろがっぱーず反逆の罪で貴殿を成敗させていただく!」
突然、川太郎に対して刃を向け、謙がえろがっぱーずに味方する。
そのため、えろがっぱーずが尊敬の眼差しを送り、謙を見つめて『マスター・えろがっぱ』と叫ぶ。
「あなた、いい加減にしてください」
雪女の如くクールな表情を浮かべ、真莉がアイスブリザードを放つ。
その一撃によってえろがっぱーずが次々と倒れ、熱い思いを謙に対して送っていく。
「‥‥お前達の思いは受け取った。ここは私が抑える! 早く、貴殿達の任務を全うするのだ。あとで、その様子を土産に私は待っている」
戦場へ出る兵士を見送るように敬礼し、謙が覚悟を決めて真莉に攻撃を仕掛ける。
それと同時に真莉のアイスコフィンが炸裂し、謙が情けない恰好のまま凍りつく。
「うーん、なかなかいい光景だねぇ。さて、見てるばっかりでも何だからあたしも加勢するかねぇ‥‥っと、武器が引っかかったー」
ニヤニヤとした笑みを浮かべ、リスティが加勢するフリをして、武器に手拭いを引っ掛ける。
「クッ‥‥、ここまでか。覚えていろ、冒険者達よ! 我々は何度でも復活する! 『マスター・えろがっぱ』がいる限り!」
お約束とばかりに捨て台詞を吐き捨て、えろがっぱーずがスタコラと逃げていく。
「皆さん、少し、反省が必要なようですね」
爽やかな笑みを浮かべ、真莉がアイスブリザードを放つ。
そのため、えろがっぱーずは逃げる事が出来ず、真莉の攻撃を喰らってパタパタと倒れていく。
「やはり新たなえろがっぱーずに『若さ』を託すべきようだな〜」
コアギュレイトを使ってえろがっぱーずの動きを封じ込め、ドクターが不敵な笑みを浮かべて呟いた。
しかし、えろがっぱーずは真っ白に燃え尽きているため、ドクターの言葉が聞こえていない。
「どうやら身体に教え込ませる必要があるようですね。まぁ‥‥、その事がキッカケになって、別の道を歩むかも知れませんが‥‥」
含みのある笑みを浮かべ、喪がえろがっぱーずを近くの小屋に連れて行く。
そのうちの何人かは喪の噂を聞いていたため、悲鳴を上げて泣き叫んだが彼は容赦しなかった。
「これで無事に一件落着だな。どうだい、今夜一緒に過ごさないか?」
ドサクサに紛れて復活し、謙が桜の肩を抱く。
それと同時に脇腹に激しい痛みを感じ、謙がげふりっと血反吐を吐いた。
「あなたは川太郎さん達よりもたちが悪いです。冒険者ギルドにあなたの討伐依頼を出しましょうか」
殺意のオーラを漂わせ、真莉が謙を何処かに連れていく。
そのため、桜がキョトンとした表情を浮かべたまま、温泉に浸かって首を傾げている。
「まあ、とりあえず‥‥覗きはいかんことだし、お仕置きといこうかねぇ? ちゃーんと覚悟は出来てるよねぇ? わざわざ覗きにくるくらいだし‥‥ねぇ?」
そう言ってリスティも鞭を握り締めて、えろがっぱーずの消えた小屋へと歩いていった。