●リプレイ本文
●一幕 砦
「ちっと京都を離れている間に、えらい事になっていやがるな。ここでジェロニモまで死なすわけにはいかん」
大和の民を惑わせた邪悪な存在としてジェロニモが囚われたため、龍深城我斬(ea0031)が真夜中になるのを待ってから仲間達を連れて救出にむかう。
ジェロニモはかつてジーザス教の砦であった場所に囚われており、沢山のジーザス京都が磔にされて無残な姿を晒している。
砦まではジーザス教徒を名乗る者が案内してくれているのだが、我斬はあまり信用していない。
そのため、万が一ジーザス教徒を名乗る者が嘘をついていた場合は、地獄で後悔させるつもりである。
ジーザス教徒を名乗る者はライアー。
最初に来るはずだったジーザス教徒に急用が出来たため、代わりにやって来た男である。
「彼にはまだ聞かなければならない事が山のようにあるからな。こんな所で死んでもらうわけには行かぬな」
ジェロニモの顔を思い浮かべ、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)がボソリと呟いた。
砦にはたくさんのゴロツキがウロついており、ジーザス教徒をいたぶって酒を飲んでいる。
「ひ、酷い‥‥。いくら教徒さんが反乱を起こしているからって、こんな事をするなんて許されないよ!」
ゴロツキ達に対して激しい怒りを感じ、草薙北斗(ea5414)が拳をぶるりと震わせた。
しかし、ここでゴロツキ達に攻撃を仕掛ければ、間違いなく返り討ちに遭うので我慢しなければならない。
この作戦を成功させるため、北斗達は色々と根回しをしていたのだから‥‥。
「しかし、ジーザス教徒狩りなんて酷い事をするわ。力でしか従わせんなんて無能の証明やろうに‥‥」
不機嫌な表情を浮かべながら、将門司(eb3393)が溜息を漏らす。
ライアーは辺りの様子を確認した後、物陰に隠れて司達を手招きする。
(「‥‥ライアーを信用する事が出来へんのは、十一番隊の性分やろうか」)
ライアーに対して胡散臭いものを感じながら、司が警戒した様子で茂みを掻き分けていく。
砦に入ってしまえば逃げ道がなくなるため、これが罠であった場合は勝ち目が無い。
「まったく厄介な話だぜ。だが、俺は生粋のジーザス教徒じゃないが、これは見過すには余りに非道な話だ。このままにはしておけないぜ」
何度か砦の様子を確認した後、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)がライアーを睨む。
ライアーはクロウ達に対して嘘は言っていないのだが、彼を見ていると妙な違和感を覚えてしまう。
それが何なのかうまく説明する事は出来ないが、このまま信用してしまうのも危険である。
だからと言ってライアーの協力がなければ砦に入る事も出来ないため、うまく彼を利用しなければならない。
「‥‥ふむ、こうなると脱出経路はここが一番かな」
ライアーの話を踏まえて簡単な地図を作成し、鷲尾天斗(ea2445)が仲間達と一緒に作戦を練っていく。
本当は昼間のうちに砦を偵察したかったのだが、ライアーに協力してもらえなかったため、砦がどうなっているのか分からなかった。
「それじゃ、行くか。みんな、気をつけてくれよ」
険しい表情を浮かべながら、ライル・フォレスト(ea9027)が仲間達を連れて砦に入っていく。
ここまではゴロツキ達に怪しまれる事はなかったが‥‥、何か嫌な予感がする。
●ニ幕 牢屋
「どうやら、ジェロニモが囚われているのは、こっちのようだな」
物陰に隠れて様子を窺いながら、天斗がジェロニモの囚われている牢屋を目指す。
牢屋の大半は無人になっているのだが、地面には血溜まりの跡が残っている。
その上、囚われているジーザス教徒達も、度重なる拷問によってピクリとも動かない。
もちろん、ここで助ける事も出来るのだが、足手纏いになるのでグッと堪える。
「ジェロニモの牢を見張っているのは、ひとりだけか。‥‥思ったよりも少ないな」
魔法発動の光が見られないように気をつけながら、クロウがブレスセンサーのスクロールを開く。
ジェロニモの処刑が近づいている割には、妙に見張りの数が少ないような気がしている。
「だからと言って、いまさら後戻りするわけにも行かねぇからな。とにかくジェロニモを助けちまおうぜ!」
何か嫌な予感を感じながら、ライルが危険を承知で牢屋にむかう。
牢屋の前には見張りが立っており、ライル達に気づいて近寄ってくる。
「何者だ、お前達」
警戒した様子で槍を構え、見張りがライル達をジロリと睨む。
念のため、変装をしていたのですぐに掴まる事も無さそうだが、うまく誤魔化さねば仲間を呼ばれてしまう。
「こいつらも一緒に処刑するので、一緒に牢に入れろという事だ」
天斗が偽造した偽の指令書を渡し、司が疲れた様子で溜息をつく。
しかし、偽の指令書で騙す事が出来ず、見張りが呼子笛を吹こうとする。
「‥‥クッ! 駄目か」
見張りを睨んで舌打ちし、司がスタンアタックを放つ。
その一撃を喰らって見張りが白目を剥き、崩れるようにして倒れ込む。
「ふぅ‥‥、危ないところでしたね」
ホッとした様子で汗を拭い、ライアーが見張りから鍵を奪う。
そして、ジェロニモが閉じ込められている牢屋の鍵を開け、両手両足の自由を奪っている縄を解く。
「まさか、ここまで酷い目に遭っていたなんて‥‥、生きているのが不思議なくらいだよ」
心配した様子でジェロニモに駆け寄り、北斗が変装用のカツラを被せる。
ジェロニモの身体には無数の傷跡が残っており、北斗達が声を掛けても返事をしない。
「ポーションくらいじゃ、治療は無理だな。まぁ‥‥、手遅れにならなかっただけマシなのかも知れないが‥‥」
見張りから呼子笛を奪って牢屋に閉じ込め、我斬が疲れた様子で溜息を漏らす。
その間にライアーが鍵の束を掴んで走り出し、次々と牢屋の鍵を開けていく。
「‥‥言っておくが、他の人質の安全までは保障する事が出来ない」
仲間達から預かっていた武器を渡し、クロウが警告まじりに呟いた。
そのため、ライアーは『私達には、私達の考えがある』と言って、クロウの警告を無視してジーザス教徒達を助け出す。
「こ、ここは‥‥」
呻き声を上げ、ジェロニモが目を覚ます。
まだ意識が朦朧としているため、まるで夢を見ているようである。
「やぁ、ジェロニモ。助けに来たぜ」
ジェロニモの頭にカツラを被せ、天斗がニコリと微笑んだ。
「交代の見張りが来る前に、この砦から脱出しよう」
再び意識を失ったジェロニモを抱え、北斗が地下牢から脱出する。
しかし、ゴロツキ達は酒盛りに夢中で、北斗達には気づいていない。
「予定より随分と人が増えているな。‥‥悪いがコイツらまでの面倒は見れないぞ」
クールな表情を浮かべながら、テスタメントがキッパリと言い放つ。
それと同時にゴロツキ達が騒ぎに気づき、一斉に襲い掛かってきた。
●三幕 戦闘
「仲間が大怪我したんだ! 何者か知らないがえらい強い賊がジェロニモを連れて逃げやがった。後は頼む!」
険しい表情を浮かべながら、天斗がゴロツキ達に助けを求める。
しかし、天斗達の顔に見覚えのあるゴロツキがいなかったため、すぐに怪しまれて捕らわれそうになった。
「今回の目的はあくまでジェロニモの救出だ! ここで時間を掛ければ、大和の大名達まで敵に回す事になる。それだけは忘れるな」
ゴロツキの懐に潜り込んで首を刎ね、我斬が大量の返り血を浴びる。
そのため、ゴロツキ達は呼子笛を吹いて、ジェロニモ達が逃げた事を仲間に伝えた。
「ジェロニモ、死ぬんじゃねぇぞ」
ジェロニモが逃げるまでの時間を稼ぐため、天斗がゴロツキ達に斬りかかっていく。
しかし、暗闇に紛れて忍び達が攻撃を仕掛けてきたため、天斗達は思わぬ苦戦を強いられる事になった。
「ゴロツキ、忍者と来れば、次は‥‥侍か? まさか黄泉人が紛れ込んだりしていないだろうな」
ダーツを投げて忍びを仕留め、クロウが疲れた様子で溜息をつく。
一応、天斗が惑いのしゃれこうべを使って黄泉人の気配を探っているが、いまのところそれらしき気配は感じていない。
「うまく逃げ切ってくれればいいんだけど‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、北斗がダラリと汗を流す。
何とかゴロツキ達の行く手を阻む事は出来たのだが、忍び達がジェロニモの抹殺に動き出したため、北斗達だけでは阻止する事が出来ない。
‥‥ここで人数不足がアダとなってしまったのである。
「クッ‥‥、もう少しだったのに‥‥駄目か!」
観念した様子で戦闘馬を落ち着かせ、テスタメントが忍びを睨む。
次の瞬間、ライアーに助けられたジーザス教徒が木の棒を持って、忍び達に襲い掛かっていく。
「我々はジェロニモ様に命を助けられました。恩返しをするなら今しかないのです!」
自らの命を捨てる覚悟で、ジーザス教徒が忍びを襲う。
しかし、ただでさえ拷問によって体力が失われているため、ジーザス教徒の大半が一瞬にして命を落とした。
「‥‥いまのうちに逃げるぞ。この戦いで散っていった者達のために‥‥」
あちこちから悲鳴が響く中、ライルが悔しそうに背をむける。
ここでジーザス教徒を助けに行けば、間違いなくジェロニモが狙われてしまうため、彼らを見捨てるしか無さそうだ。
「‥‥絶対にこのままでは済まへんからな」
グッと怒りを堪えながら、司が暗闇に紛れて砦を脱出した。
この戦いによって多くのジーザス教徒が命を落としたが、ジェロニモを助け出した事で何かが変わるはずである。