●リプレイ本文
●一幕 ごるびー座
「‥‥ごるびーちゃんが行方不明かあ。最近、姿を見ないと思ったけど、それじゃ仕方ないよね。何か事件とか事故とかに巻き込まれてないといいんだけど‥‥。誰か良い人に保護されているといいんだけど‥‥、今までの事を考えると、確率が低いかも‥‥。変に野生化してないといいなぁ‥‥」
しみじみとした表情を浮かべながら、白井鈴(ea4026)がイカを持ってごるびー座に訪れた。
ごるびー座はごるびーが座長を務めたペット限定の劇団。
試行錯誤の末、昔話を題材にした見世物などをやっていたようだが、閑古鳥が鳴いていたので借金がかさんでしまったらしい。
ある意味、ごるびーもミンメイと同じ末路を辿っていたのである。
そのため、ごるびーも誰かに借金をしていた可能性が高い。
ミンメイがよく知っている悪徳商人ならば、例え相手が動物であっても金を貸す。
「ごるび〜ちゃ〜ん、どこですか〜。おいしそうに焼けたイカを持ってきたですよ〜」
何処かにごるびーが隠れている可能性も残されていたため、ベル・ベル(ea0946)が上空からイカの匂いを漂わせる。
‥‥ごるびーはイカが大好物。
何らかの理由でごるびーが隠れていたとしても、イカのニオイを嗅げば必ず姿を現すはずだ。
「やはり何処にもいないようでござるな。一体、ごるびー殿に何があったのでござろうか?」
蜘蛛の巣だらけになった屋敷に入り、沖鷹又三郎(ea5927)が深い溜息をつく。
屋敷はしばらく使われた形跡がなく、ちゃぶ台が埃を被っている。
「う〜む、困ったアルね。ちょっと反省アル」
ごるびーがどこにもいなかったため、ミンメイがションボリとした様子で肩を落とす。
さすがに今回はやり過ぎてしまったと思ったのか、彼女の顔から笑顔が消えている。
「お久しぶりですね、ミンメイさん。しばらく会わないうちに色々と遭ったようですが‥‥。賽銭泥棒なんてしなくても、仕事をして書き物を売れば細々と暮らせるはずですよね?」
生暖かい視線を送り、剣真(eb7311)が溜息を漏らす。
真は見世物小屋に言って情報を集めていたのだが、大した情報を得る事が出来なかったのでミンメイ達と合流した。
ちなみにミンメイは借金取りに狙われる毎日が続いていたため、ストレスで文章が書けなくなっていた時期があったらしい。
「まぁ‥‥、江戸もゴタゴタしていたでござるからの。臆病なごるびー殿が逃げ出すのも無理ないでござる。しかし、ごるびー殿がどうしているのか心配でござるな」
ごるびーの書き置きすら見つからなかったため、又三郎が残念そうに首を横に振る。
身の回りのものが無くなっているため、ひょっとすると夜逃げをしたのかも知れない。
一瞬、又三郎達の脳裏に最悪の結果が過ぎる。
「‥‥困りましたね。しかし、このままでは埒が明きません。きっと苦労なさっているでしょうから、是非とも救って差し上げたいですね」
少しでもごるびーに繋がる情報を見つけるため、大宗院真莉(ea5979)がパタパタと掃除をし始めた。
借金取りが来たわりには部屋が荒らされていないので、別の理由があって屋敷を出て行った可能性が高い。
「あっ、真莉さん。お久しぶりってカンジィ。ダーリンとはラブラブってカンジィ」
能天気な笑みを浮かべながら、大宗院亞莉子(ea8484)がパタパタと手を振った。
‥‥亞莉子の夫は真莉の息子。
先程まで大凧に乗って上空からごるびーを捜していたが、まったく手掛かりが見つからなかった。
「そうですか。お幸せそうでなりよりです。わたくしも見習いたいです」
そのため、真莉もにこやかな笑みを浮かべて答えを返す。
辺りに漂うほんわかムード。
しばらくの間、ほのぼのとした空気が漂った。
「それにしてもごるびーって、ロシア風の名前ってカンジィ。キエフに行っていたせいかなぁ?」
真莉からごるびーの特徴を改めて聞き、亞莉子がニコリと微笑んだ。
ごるびーはストレスに弱くてハゲやすかったため、その事も踏まえて捜す事になった。
「と、とりあえず手拭いが落ちていたですよー」
立っていられないほどフラフラとしながら、ベルがごるびーの愛用していた手拭いを渡す。
手拭いは裏口に落ちていたらしく、使い古されてボロ雑巾のようになっていた。
「これでごるびーちゃんの居場所が分かるかも‥‥。龍丸、獅子丸っ! ごるびーちゃんの匂いを辿って! ただし、ごるびーちゃんを見つけても、噛みついたら駄目だからね。すぐに吠えて知らせるんだよっ!」
ごるびーの匂いをペット達に覚えさせ、鈴が仲間達を連れて追跡をする。
そして、ペット達が向かった先は、江戸の外れにある見世物小屋であった。
●二幕 見世物小屋
「‥‥また来たのか。さっきも言っただろ。俺は何も知らないと言っただろ! 仕事の邪魔だから帰ってくれ!」
不機嫌な表情を浮かべながら、見世物小屋の主が冒険者達を手で払う。
あまり興行が上手くいっていないため、ごるびーの事で無駄な時間を費やしたくないようだ。
「こちらにごるびーさんがいらしたようですが、いなくなる前に何か気になる事はありませんでしたか?」
なるべく見世物小屋の主を刺激しないように気をつけながら、真莉が言葉を選んでごるびーの居場所を聞き出そうとした。
しかし、見世物小屋の主人は視線を逸らし、鬱陶しそうにフンと鼻を鳴らす。
「ほ、本当に何も知らないんですか〜? 例えば、ごるびーさんによく似た細長いナマモノとか〜?」
最悪の事態を想定した上で、ベルがごるびーの特徴を説明する。
場合によってはしばらく何も食べていなかった可能性もあるため、骨と皮だけになっている可能性も高い。
「だから知らないと言っているだろ! ここにごるびーは来ていないっ!」
殺気に満ちた表情を浮かべ、見世物小屋の主が扉を閉める。
しかし、鈴が右足を突っ込んできたため、出入り口の扉を閉める事が出来なかった。
「嘘をついたって分かるんだからね。これが何よりの証拠だよ」
泥だらけになった手拭いをつきつけ、鈴が見世物小屋の主を睨む。
手拭いには見世物小屋の名前が書かれており、ペット達も『嘘をつくな』と言わんばかりに吠えている。
「うぐ‥‥、ごるびーのヤツ。面倒ばかりかけおって!」
悔しそうな表情を浮かべ、見世物小屋の主がギチギチと歯軋りした。
本当は誤魔化し通すつもりでいたが、ここまで証拠が集まっているのでは仕方が無い。
‥‥見世物小屋の主人がようやく折れた。
「どんな些細な事でも構いません。ごるびーさんについて何か知っている事があったら教えてください。ごるびーさんがここに来た事は間違いないんです」
祈るような表情を浮かべ、真が見世物小屋の主に迫っていく。
ミンメイに金を貸していた取立て屋の話では、彼らが来た時には既にごるびーがいなかったらしい。
‥‥と言う事は、見世物小屋で何かトラブルが遭った事は間違いない。
「ごるびーが参加した最後の興行が終わってから、ひどく落ち込んでいたようだな。ハッキリとした理由は分からないが、それからごるびーの姿は見ていない。確かあっちの方角にむかってトボトボと歩いていったなぁ」
当時の事を思い出し、見世物小屋の主が外を指差した。
「あ、あれはごるびー殿が棲んでいた湖でござる!」
ハッとした表情を浮かべ、又三郎が湖にむかって走り出す。
どうやらごるびーは何らかの理由で湖に帰ってしまったらしい。
●三幕 湖の近くにある小屋
「えーっと、確か‥‥こっちだと思うんですが‥‥」
‥‥真達は迷っていた。
何処で道を間違えたのか分からない。
きちんと地図を見て森を通って来たはずだが、気がついた時には見知らぬ場所に迷い込んでいた。
「でもぉ、こっちにごるびーがいる感じぃ〜」
地図の上でダウジングペンデュラムを揺らし、亞莉子がごるびーの居場所を特定する。
しかし、自分達のいる場所が分からないため、特定した場所に行く事が出来ない。
「とりあえず腹ごしらえをしておくでござる。今日の献立はごるびー殿の大好きなイカ料理でござる。イカ焼きに、イカノ天ぷら、イカ飯に、イカの酢の物‥‥。今の時期ならイカ素麺も美味しいでござる」
七輪を使ってイカを焼きながら、又三郎がうちわをパタパタと叩く。
‥‥辺りに漂う香ばしい匂い。
ごるびーが近くにいたら、間違いなく飛びついていた事だろう。
「絶対にごるびーちゃんを見つけるですよ〜〜〜〜〜!!!!」
拳をギュッと握り締め、ベルがイカを頬張った。
焼きたてのイカはとても美味しく、ベルの落ち込んだ心を癒していく。
「‥‥あれ? どうしたんですか?」
エレメンタルフェアリーの漫珠沙華が袖を引っ張ったため、真が不思議そうに首を傾げて森を眺める。
次の瞬間、茂みがガサコソと動き、何か黒いものが横切った。
「あれは、まさか‥‥ごるびー殿っ!」
黒いものの正体がごるびーであると確信し、又三郎がイカの串焼きを茂みに投げ込んだ。
それと同時に黒いものがイカの串焼きに飛びつき、茂みの中でモシャモシャとかじって串を放り投げた。
「逃がさないわよってカンジィ」
疾走の術を使って逃げ道を塞ぎ、亞莉子がごるびーに飛びつく。
ごるびーはしばらくジタバタとしていたが、見知った顔が幾つもあったのでようやく大人しくなった。
「ごめんアル〜。ワタシがヒドイ事をしたから、家出しちゃったアルね」
大粒の涙を浮かべながら、ミンメイがごるびーを抱き締める。
しかし、ごるびーは家出をしたわけではなく、屋敷の食料が尽きたので湖に棲んでいただけらしい。
そのため、見世物小屋の主には空腹でフラつくごるびーが、落ち込んでいるように見えてしまったようだ。
「‥‥なるほど。ごるびー殿だけでは買い物が出来なかったという事でござるな」
納得した様子でニコリと笑い、又三郎がごるびーの頭をヨシヨシと撫でた。
ごるびーは野生生活が長かったためか、毛むくじゃらになって『プチ野人』状態である。
「でも、無事で何よりです。折角ですので、ごるびーさんの芸を見せていただきませんか」
ホッとした表情を浮かべ、真莉がごるびーにイカを渡す。
そして、ごるびーが始めた芸はイカの早食いであった‥‥。
どうやらマトモなものをしばらく食べていなかったらしく、草葉の陰でそれんが生暖かい視線を送っていた。