孤独な戦い

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月26日〜03月02日

リプレイ公開日:2008年03月03日

●オープニング

●醍醐
 ‥‥醍醐と呼ばれる男がいる。
 醍醐は大変に腕の立つ侍で、一人娘とともに慎ましい生活を送っていた。
 ‥‥凱羅と呼ばれる男が来るでは‥‥。
 凱羅は醍醐の娘を誘拐すると、ある条件を飲む代わり、娘の命を保障すると言って来た。
 そのある条件とは、自分の命を狙う冒険者達の首を持ってくる事だ。
 醍醐にとって娘のためなら冒険者の首など安いもの。
 ‥‥断る理由はひとつもない。
 だから冒険者達の次々と狩ってきた。
 自分の娘を助けるために‥‥。
 いつも心を鬼にして‥‥。
 ‥‥そんな時だ。
 自分の娘が死んだと知ったのは‥‥。
 その一言を聞いて、醍醐は失意のどん底へと叩き落された。
 凱羅はそんな彼の心を利用し、娘の命を奪ったのは、冒険者達であると付け加えたらしい。
 だから醍醐は冒険者に恨みを持った。
 いまじゃ、自らの怒りをぶちまけるようにして冒険者達を殺しまわっている。
 自分が騙されている事に気づかぬまま、凱羅の駒として‥‥。
 このままだと醍醐は真実を知る事無く、冒険者達を殺し続ける事になるだろう。
 これ以上、醍醐が罪を重ねないようにするため、奴の暴走を止めてくれ!

●今回の参加者

 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8806 朱 蘭華(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●凱羅のアジト
「‥‥最悪ですね。何もかも‥‥」
 醍醐によって命を奪われた冒険者達の遺族に会った後、宿奈芳純(eb5475)が仲間達と合流した。
 遺族達の話では亡くなった冒険者の大半が原形を留めぬほど細かく切り刻まれており、とても人の仕業とは思えなかったらしい。
 それだけ醍醐が腕の立つ侍だったのかも知れないが、凄いというよりも恐ろしいという印象を受けた。
 そのため、芳純は遺族達のカウンセリングを行い、何とか気持ちを落ち着かせる事に成功したが、それでも家族を失った悲しみは深く耐え難いものだった。
「一体、どんな事を醍醐に吹き込んだのかしら。よほどの事を言われない限り、ここまで人を狂気に駆り立てる事なんて出来ないと思うけど‥‥。出来れば‥‥、罪を認めた上で生きて欲しいわね。亡くなった娘さんの為にも、ちゃんと罪を償って‥‥ね」
 険しい表情を浮かべながら、南雲紫(eb2483)が凱羅のアジトに視線を送る。
 凱羅によって娘を攫われる前の醍醐は、冷静沈着で寡黙な漢だった。
 その漢が豹変するほどの事なのだが、刃物のように鋭い一言であった事は間違いない。
「醍醐さんも凱羅と言う悪党も許されざる者だね。 このまま倒してしまう事も『醍醐さんの苦しみが終わる』ということで一番いいかもしれないけれど‥‥。これまで関係のない冒険者をも手をかけた罪。その家族にも醍醐さんと似た悲しみを与えてしまったのを考えると‥‥、その真実だけは知らなくちゃ、駄目だよ。‥‥それを受け入れられず自害するのも、受け入れて生きていくのも醍醐さん次第‥‥。僕は真実をこの眼で見届けるだけ‥‥今回は」
 醍醐の事を考えながら、草薙北斗(ea5414)が口を開く。
 凱羅のアジトは数時間ごとに見張りが交替しており、警備が一番厳重なのは昼間。
 昼間は凱羅か近隣の村々を襲ってアジトが手薄になるため、それだけ見張りの数を増えしているらしい。
 逆に夜は警備の数が極端に少なく、醍醐を除いて酒盛りをしているようだ。
「ああ‥‥、一番の悪党が凱羅というのには異論はない。だが、醍醐にはどう言っていいやら‥‥。まあ、いい。文句も事を収めてからでなくば言いようもない」
 茂みに隠れて様子を窺いながら、カノン・リュフトヒェン(ea9689)が溜息を漏らす。
 見張りの数や醍醐の動向などを考え、作戦を決行するのは深夜。
 出来るだけ最小限の人数で、作戦を成功させる事を優先させた。
 そうしなければ少人数で醍醐達を押さえ込むのは難しい。
「‥‥凱羅ってヤツ。腕は大した事がなくても、悪党の頭としては大したものね。 まぁ、強い手下を上手く使いこなすだけの頭ではあったわけ‥‥。頭を潰せば‥‥、この悪党達も終わりでしょうけれど、出来るだけ逃がさない。存分に懲らしめてあげるわ」
 オーラエリベイションで士気を高め、朱蘭華(ea8806)が蝋燭の明かりで障子に映った手下の数を確認する。
 ざっと見積もっても、手下の数は数十人。
 芳純がインフラビジョンのスクロールと、テレスコープを使ったところ、手下の配置や具体的な人数まで分かった。
 一人当たりで計算すると、十人程度。
 手下の戦い方にもよるのだが、一対一で戦う事が出来ない以上、こちらが命を落とす可能性も高かった。
「‥‥醍醐にはきっちりと真実を全て伝えなきゃな。凱羅がこれまで行ってきた悪事、醍醐が凱羅に騙され続けていた事、そして醍醐の娘は既に亡くなっている事も‥‥」
 自分自身に言い聞かせるようにしながら、クリムゾン・コスタクルス(ea3075)が拳をギュッと握り締める。
 それがどれだけつらく厳しい事なのか彼女も理解しているが、だからと言って真実を伝えぬまま醍醐と戦うわけにはいかなかった。
 もちろん、いままで醍醐がしてきた事を考えれば、自ら死を選ぶのは当然の事。
 しかも都合が悪い事に凱羅がこれまでに行ってきた悪事の大半が、醍醐の起こした事件として役所に残っていた事だった。
 そのため、例え凱羅を役所に突き出したとしても、軽い罪でしか裁けない。
「それじゃ、そろそろ準備はいいっすか。醍醐殿の腕は達人らしいっすから、気を引き締めて行くっすよ」
 精神を集中させてオーラエリベイションを発動させ、太丹(eb0334)が仲間達に合図を送って茂みから飛び出した。
 それと同時に醍醐がムックリと立ち上がり、愛用の太刀を握り締めて荒々しく息を吐くのであった‥‥。

●凱羅の手下
「な、なんだありゃ!? どうして、ここが分かったんだ!?」
 騒ぎを聞きつけて凱羅達の手下が顔を出し、唖然とした表情を浮かべて汗を流す。
 ‥‥凱羅達にとって冒険者達の襲撃は誤算であった。
 アジトの場所を知られないようにするため、目撃者は皆殺し(もちろん、その中には女子供も含まれている)。
 その上、少しでも周囲で異変を感じたら、アジトを移動させていたのだから‥‥。
(「‥‥誰が裏切った!?」)
 凱羅の脳裏で様々な可能性が駆け巡る。
 『裏切り者には死を』
 ‥‥それが鉄則。
 だが、自分達の手下に裏切るような人間はいない‥‥はずだ。
(「一体、誰が裏切った」)
 最近、酒場を出入りしていた塩山か。
 それとも、博打好きの六郎。
 はたまた、女好きの雄二か。
 考えている暇はなかった。
 冒険者達は目と鼻の先。
 そのため、凱羅は裏切り者である可能性が高い漢達を嗾け、『冒険者達の首を奪って来い』と命令を下す。
 『裏切り者には死を』
 もちろん、敵前逃亡は許さない。
 生き残るためには、冒険者達を倒すのみ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 六郎の雄叫びが辺りに響く。
(「借金を返済するため、アジトの場所をギルドに売ったか」)
 ‥‥可能性は捨て切れない。
「それじゃ、凱羅の身柄を拘束し、とっとと真実を吐いてもらうか」
 クリムゾンの放ったダブルシューティングが六郎の脳天を貫く。
 断末魔をあげて崩れ落ちる六郎。
「て、てめぇ、よくも六郎を!」
 六郎の返り血を浴びて我を忘れ、塩山が太刀を振り上げて冒険者に斬りかかっていく。
「邪魔だ! 死にたいのか」
 不機嫌な表情を浮かべながら、カノンが盾で押し出すようにして塩山を叩き、動きが乱れたところで真っ二つに斬り裂いた。
 その間に凱羅の手下達が次々と斬り捨てられていく。
 冒険者達の戦闘力はケタ外れであった。
「‥‥諦めよ」
 雄叫びをあげて斬りかかっていった雄二をスリープで眠らせ、芳純が凱羅の手下達に対して警告する。
(「‥‥決まりだな」)
 裏切り者は雄二。
(「遊郭にギルドの関係者がいたか」)
 だが、この状況では身動きが取れない。
 ‥‥頼みの綱は醍醐のみ。

●醍醐
「凱羅の首が欲しいのなら、わしを倒してからにしろ。例え何人たりとも、この先には進ません」
 紅蓮の如く燃え上がるような殺気を身に纏い、醍醐が冒険者達の行く手を阻む。
 ‥‥その姿は、まさに鬼。
 『少しでも動けば殺られてしまう』と確信する事が出来るほど、醍醐の殺気は凄まじかった。
 最初に動いたのは、醍醐。
 すべての殺気を達に濃縮させ、冒険者達に攻撃を放っていく。
「や、やめるっす!」
 真剣白刃取りで醍醐の太刀を受け止め、丹が近距離から蹴りを放つ。
 しかし、醍醐はピクリとも動かない。
 まるで大木でも蹴っているかのように、醍醐はその場に立ったままだ。
「本当に何も知らないんだな。あんたの娘が凱羅によって殺された事も‥‥。最初からあんたは騙されていたのさ。凱羅によって何もかも‥‥」
 とうとう我慢する事が出来なくなり、クリムゾンが真実を語り出す。
 ‥‥醍醐は一言『嘘だ』とだけ呟いた。
「嘘じゃない。本当は凱羅をとっ捕まえてから話すつもりでいたが、この状況じゃそれも難しいからな。信じたくないのならそれでもいい。だが、その事だけは頭の片隅に置いてくれ」
 ショートボウで醍醐の眉間を狙い、クリムゾンがグッと噛み締める。
 醍醐はまったく怯んでおらず、『打てるものなら打ってみろ』と言わんばかりの勢いだ。
「‥‥好きにしろ。例え私達が何を言ったところで、お前の心には響かない。お前が信じられる者だけを信じればいい。私は、私のするべき事をやるだけだ」
 クールな表情を浮かべながら、カノンが醍醐に斬りかかっていく。
 娘を誘拐した凱羅の言を信じたのは醍醐の罪。
 仮に冒険者に殺された話が真であっても、犯人とも限らぬ多数の冒険者を殺す理由はない。
 醍醐は純然たる加害者であるのだから‥‥。

●凱羅
「ひゃーはっはっはっ! 何をやっているかと思えば、この木偶の坊を説得しているのか? 無駄だ、無駄、無駄! そんな事をしたって、コイツの心が動くわきゃねーだろ! 大事な娘を冒険者達によって殺されちまったんだからな!」
 雄二の心臓に刀を突き刺して笑みを浮かべ、凱羅が醍醐の背中をポンポンと叩く。
 凱羅にとって醍醐は、都合のいい操り人形。
 どんな事があっても、逆らわないという自信がある。
「へぇ、そうなんだ。でも、いつまで、そうやって嘘をついていられるのかな。こっちは証拠を掴んでいるんだよ。キミが嘘をついている事も‥‥」
 微塵隠れと高速詠唱で凱羅の背後に回り、北斗が警告混じりに呟いた。
 醍醐もまさか北斗が背後にいるとは思っていなかったため、驚いた様子で太刀を振り回す。
「ば、ばっきゃろ! 俺に当たったら、どうするつもりだ! お前の獲物はコイツらだけ! 俺を少しでも傷つけたら、容赦しねえからな」
 ‥‥単なる強がりだった。
 凱羅には醍醐を抑え込む術はない。
 そもそも、醍醐の娘を手に掛けたのは失敗だった。
 大人しくいいなりになっていれば良かったものの‥‥。
 醍醐の娘が死んだ時の姿が脳裏に過る。
(「‥‥愚かなヤツめ」)
 だが、そのすべてを冒険者達の仕業にした上で、娘の死を知った醍醐の表情は傑作だった。
 凱羅も笑いを堪えるのに必死で、泣いたフリまでしていたのだから‥‥。
「戦闘中に考え事? 随分と余裕なのね。あくまで私達の狙いは、あなた。そんなにのんびりしていたら、命まで奪ってしまうかも知れないわよ」
 一気に懐に潜り込み、蘭華が爆虎掌を叩き込む。
 その一撃を食らって凱羅がふっ飛び、冒険者達の前に転がった。
「畜生、畜生、畜生! 今の衝撃で足が折れちまったじゃねえか!」
 今にも泣きそうな表情を浮かべ、凱羅が右足を押さえて冒険者達を睨む。
 本当に骨が折れてしまっているのか、立ちあがる事さえ出来ない。
「だったら、こっちとしては都合がいいわ。あなたを捕縛するつもりので、ここに来ているから‥‥」
 含みのある笑みを浮かべながら、紫がゆっくりと凱羅に近づいていく。
 それと同時に凱羅が懐に隠し持っていた短刀を抜き、捨て身の覚悟で冒険者達に斬りかかっていく。
「そこまでだよ。このままキミを殺しても構わないんだけど、それじゃギルドの人達が納得しないからさ」
 凱羅の背後に回り込んでスタンアタックを放ち、北斗がニコリと笑ってロープで縛る。
 そのため、凱羅はまったく抵抗する事が出来ず、涎を垂らして地面に転がった。
「‥‥凱羅は捕縛したわよ。これで、あなたを縛っていたものはなくなったわ。さぁ、どうするの? このまま私達と戦う? それとも降伏する? 私はどちらでも構わないけど‥‥」
 警戒した様子で醍醐をジロリと睨みつけ、蘭華が少しずつ間合いを取っていく。
 返答次第では醍醐と戦う事になるが、それも仕方がない事だった。
「いや‥‥、やめておく。真実を知りたくなったからな」
 ‥‥それが醍醐の答え。
 醍醐は乱暴に凱羅の胸倉を掴み、『時間をくれ』と呟いた後、アジトの中に入っていく。
 そして、しばらく経った頃、醍醐が冒険者達の前に現れた。
 その右手には凱羅の首を持ち‥‥。
「‥‥罪は償うつもりだ」
 醍醐は泣いていた。
 冒険者達には、その理由がわかっている。
 ‥‥醍醐はようやく理解した。
 いままで自分が騙されていた事を‥‥。
 冒険者達にとって、凱羅が殺された事は誤算であったが、あのまま醍醐を止めていれば、間違いなく戦闘になっていた。
 そうなった場合、醍醐が死ぬまで戦い続けた事が目に見えていたため、あえて醍醐の好きにさせてみたのだから‥‥。
 結果的に醍醐は娘の復讐を果たし、冒険者達の前に現れた。
 すべての罪を償うためには、一生かかるかも知れない。
 だが、それが娘に対する供養であると醍醐は答えた。