魔の街道

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月06日

リプレイ公開日:2008年03月08日

●オープニング

●天牙
 天牙と呼ばれる盗賊集団が、街道に行き交う旅人達を襲い、人々を恐怖のどん底に突き落としているらしい。
 もともと天牙は『天に仇なす牙』という意味があり、権力者達に対抗するための組織だった。
 しかし、彼らを束ねていた男が志半ばで命を落とし、倒すべきはずだった相手が討たれてから、やるべき事を見失ってしまい、しばらくの間は迷走を続けていたようだ。
 そのせいで規模ばかりが大きくなってしまい、盗賊団になるほど落ちぶれてしまったらしい。
 彼らの言い分としては権力者達に対抗するための資金を集めるため、『寄付』を募っているだけらしいのだが、その方法があまりにも野蛮過ぎる。
 結果的に『寄付』された金の大半が、彼らの生活費に消えているのだから、単なる言い訳であると思われても仕方がないからな。
 一応、いまでもプライドだけは持っているため、旅人達の命を奪う事は絶対にない。
 だが、彼らのやっている事が正しいとは思えないので、出来る限り殺さないで捕まえて欲しいんだ。

●今回の参加者

 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5618 エレノア・バーレン(39歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●旅街道
「先程から何か妙な気配がしませんか。まるで誰かにつけられているような気が‥‥」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、晃塁郁(ec4371)が口を開く。
 彼女達は志すら忘れて盗賊になり下がった天牙を誘き寄せるため、旅芸人に扮してふたりで街道を歩いていた。
 天牙によって旅人達が襲われている事もあり、街道を行き交う人々は減っている。
 そのせいで峠にある茶屋の売り上げにまで響いているため、依頼を引き受けた冒険者達に対する期待も大きかった。
 天牙の一味と思しき気配は先程から少しずつ増えており、ピリピリとした感覚が全身に伝わってくる。
 しかし、ここで後ろを向けば相手に怪しまれてしまうため、あくまで気づかないフリをしなければならなかった。
「‥‥天牙ですね。『権力に逆らう』、それが如何言う事か判らず、闇雲に有るか解らない理想に走り、その挙句が盗賊団の集団とは、見下げ果てた者達ですね。彼らには、きつい裁きが下る事でしょう。最後に苦しまないで終わる事を祈ります」
 辺りの様子を窺いながら、エレノア・バーレン(eb5618)が深い溜息を漏らす。
 彼女達が本気を出せば、勝負は一瞬。
 その気になれば首領の首を討ち取る事も出来るだろう。
 だが、それだけでは手下達に逃げられてしまうため、完璧に天牙を壊滅させた事にはならない。
 その上、中途半端に天牙を攻撃すれば、彼らの団結力が強まり、壊滅させる事が困難となる。
「前方に数名‥‥。ここまであからさまに殺気を放っているという事は‥‥、素人ですね」
 前方で弓を構えている漢達が単なる脅しである事に気づき、塁郁が道化棒を地面に突き刺してクラウンマスクを被り直す。
 気をつけるべき相手は、背後の敵。
 この様子では茂みから弓を構えた漢達が飛び出した瞬間、背後に潜んでいたふたりが逃げ道を塞いで金品を巻き上げるつもりでいるのだろう。
 本当に彼女達が旅芸人ならば、それだけで震え上がってしまうところだが、冒険者としていくつもの依頼をこなしているため、盗賊達相手では演技でもしない限り驚かない。
「‥‥随分と馬鹿にされたものですね。弓を向ければ無駄な抵抗はしないと思っているのでしょうか。だとしたら甘過ぎます。もしくは弓を向けられて身動きが取れない間に、背後から斬りかかっていくという手もありますが、こちらが反撃した途端に戦意を喪失するのがオチでしょう」
 天牙の動きを探りながら、エレノアが仲間達の位置を確認する。
 仲間達は天牙のいる場所より、ずっと後ろにある茂みの中。
 ギリギリでエレノア達の姿を確認する場所にいるだけなので、一斉に天牙が攻撃を仕掛けてきたら、すぐに対応する事は出来ない。
 ‥‥となれば彼女達で何とかするしかないだろう。
 そして、彼女達の頭上に毒矢の雨が降り注いだ。
「下手な弓矢も数打ちゃ当たるですか」
 左足に刺さった毒矢を掴み、塁郁が唇をグッと噛み締める。
 依頼主から自然に貰っておいた解毒剤があったため、すぐに倒れる事はなかったが、それでも意識を保っているのがやっとなほど、漢達の放った毒矢は強力であった。
 そのせいで舌がビリビリと痺れ、両足がズッシリと重くなる。
 だが、次第に解毒剤が効いてきたのか、ようやく気持ちが楽になってきた。
「まさか女性にまで手を出すとは‥‥。天牙も落ちたようですね」
 彼らの懐事情を察しながら、エレノアが解毒剤を口に含む。
 毒矢が刺さったのは、背中と腰。
 天牙を油断させるため、わざと毒で麻痺してフリをして倒れ込む。
 それと同時に天牙達が茂みから飛び出し、彼女達のまわりを囲む。
「‥‥悪いな。これも世の中のため‥‥。人助けだと思ってくれ。‥‥安心しろ。お前達を殺しはしない。ただ‥‥、金が欲しいだけだ」
 申し訳なさそうな表情を浮かべ、天牙の頭がエレノアの懐を探る。
 本当に金にしか興味がないのか、彼女達を傷つけるつもりはないようだ。

●天牙
 天牙達が攻撃を仕掛ける少し前‥‥。
 エレノア達を見守るようにして、冒険者達が後をつけていた。
「最近、色んなトコに盗賊が出ているよな? まあ‥‥、それだけ世の中が乱れているってコトだが‥‥。とりあえず今回の依頼は倒す事が目的じゃないし、相手の戦意を失くす事が出来れば十分だな。万が一、怪我をした場合は自業自得って事で‥‥」
 しみじみとした表情を浮かべながら、リフィーティア・レリス(ea4927)が茂みの身を隠す。
 ‥‥視線の先にいるのは盗賊達。
 ふたりとも無防備な格好で背中を向けているため、不意打ちを仕掛ければ呆気なく倒せそうだ。
 だが、そんな事をしてしまえば遥か前方で弓を構えている漢達が逃げ出してしまう可能性が高いため、彼らが行動を起こすまでジッと待っている必要があった。
「‥‥と言うか、世直しなんてお題目の割には、フツウのヒトから無理やり『寄付』を頂くなんてやっている時点で、ただの小悪党よね‥‥。そういうおバカなヒト達は一度懲らしめてやった方がイイわ‥‥」
 呆れた様子で溜息をつきながら、御陰桜(eb4757)がキッパリと言い放つ。
 そのため、彼らを拘束するために必要な縄を運ぶ事になった黒曜(優れた戦闘馬)も、不満そうにフンと鼻を鳴らしている。
 もちろん、黒曜の機嫌を取るために十分な餌を与えたはずなのだが、『20人分の縄を運ぶのに見合った食糧ではない』と言わんばかりの視線が送られていた。
 はるか遠くにある峠の茶屋から‥‥。
 ‥‥留守番である。
「いや‥‥、後で追加報酬をあげるから‥‥」
 引きつった笑みを浮かべ、峠のある方向を見つめて答えを返す。
 ‥‥懐がズキリと痛む。
 これもすべて天牙のせい。
 天牙に憑いていた貧乏神や、厄病神に纏わりつかれているような感覚。
 早く彼らを捕まえて、そんな忌々しい状態から抜け出したい。
 彼女はその事ばかりを考えていた。
「‥‥天牙が動き出したようですね」
 テレスコープとインフラビジョンを駆使してエレノア達が倒れた事を確認し、ジークリンデ・ケリン(eb3225)が仲間達に合図を送る。
 天牙は彼女達に狙いを定めて弓を向け、ゆっくりと近づいていく。
 彼女達も天牙に怪しまれないようにするため、わざと気絶したフリをして動かない。
「そこまでだっ! ‥‥たくっ! 女子供にまで手を出したら、お終いだぞ。一体、どこまで落ちれば、自分達が間違っていた事に気づくんだ?」
 盗賊めがけてフェイントアタックを放ち、リフィーティアがエレノア達の前に立つ。
 そのせいで盗賊達が両目をパチクリさせ、驚いた様子で一斉に刀を抜く。
「テ、テメェ! 一体、何者だっ! 俺達を天牙と知っての狼藉か!」
 あからさまに動揺しながら、漢達がレリスに刀を向ける。
「まさか、そんなナマクラ刀で、俺を斬るつもりじゃないよな? まぁ‥‥、斬りたきゃ、斬りゃあいいけど‥‥。後で後悔するなよ」
 含みのある笑みを浮かべながら、リフィーティアが天牙を挑発した。
「うぐ‥‥、それはどういう意味だ」
 あからさまに動揺する天牙。
 彼らにとって戦闘は久しぶり。
 戦闘を行えばそれなりに戦う事が出来るはずだが、リフィーティアの身体から放たれている殺気のせいで、身動きが取れなくなっているらしい。
「こういう意味です」
 インビンシブルを解除して天牙の頭に当て身を食らわせ、ジークリンデが上品な笑みを浮かべて答えを返す。
 天牙の戦意を喪失させるには、それだけで充分であった。
 すぐに刀を放り投げ、蜘蛛の子を散らすようにして、ジークリンデ達から逃げ出そうとする。
「はいはい、そこまでよ。これ以上、時間が経つと黒曜が機嫌を損ねちゃうからね」
 苦笑いを浮かべながら、桜が春花の術を発動させた。
 次の瞬間、辺りにいた漢達がパタパタと倒れ、次々と深い眠りについていく。
 それで‥‥すべてが終わった。
 何もかも‥‥。
「‥‥意外と呆気なかったな」
 気絶した漢達を一か所に集め、リフィーティアが汗を拭う。
 その騒ぎを聞きつけて黒曜が土煙をあげ、峠の茶屋から飛び出してきた。
「これ以上、時間が掛かっていたら、シャレにならないわ。黒曜だって待ちきれなかったようだし‥‥」
 真っ直ぐ自分達のところに向かってきた黒曜を見つめ、桜が乾いた笑いを響かせる。
「それじゃ、帰りましょうか」
 縄で漢達の身体をキッチリと縛り、ジークリンデがホッとした様子で溜息をつく。
 こうして天牙の野望は、志半ばで潰えた。
 だが、彼らにとっては、これで良かったのかも知れない。
 本来の目的を無くして、彷徨い続ける事に比べれば、罪を償う事によって、新たな道を切り開く事が出来るのだから‥‥。