決して蓋を開けてはなりません

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月17日〜03月22日

リプレイ公開日:2008年03月20日

●オープニング

●木箱
 渡されたのは、人の頭ほどある木箱。
 木箱には『封印』と書かれた紙が何重にも貼られ、蓋が開かないように紐で縛られている。
 そして、蓋のところには何故か小さな穴が開けられており、それを避けるようにして箱全体が風呂敷で覆われていた。
 ただし、箱の中身は……謎。
 依頼主に聞いても、何も答えようとしない。
 これをある商人のところに届けてほしいというのが、今回の依頼であった。
 ちなみに今まで依頼を引き受けたもののうち、ひとりは途中で我慢が出来なくなって蓋を開け、続いて現れた冒険者は、蓋を開けずに壊すという『トンチスタイル』で依頼失敗。
 最後に引き受けた冒険者に至っては、覗き穴を大きくして中身を見てしまったため、報酬ゼロ。
 『蓋を開けてはならない』と言う単純な依頼のはずが、誰ひとりとして依頼を成功させた者はいなかった。
 それは箱の中身が何かなのを知りたい欲求……、いや、欲望なのかも知れない。
 そのせいで箱を運ぶのが予定より一週間ほど遅れている。
 このままでは相手の機嫌を損ねてしまう。
 そこで冒険者達に木箱を運んでほしいと言うわけだ。
 依頼主の話では木箱の中身は、決して危険なものではなく、人に危害を加えるものでもない。
 その代わり、盗賊達に木箱が狙われているため、何の障害もなしに相手の所まで運べるとは思わないでほしいという事だった。
 木箱の中身を見た時点で依頼は失敗。
 何らかの事故で木箱が壊れた場合も、やはり失敗扱いになる。
 そのため、冒険者達は木箱の中身を知らぬまま、相手の所まで運ばなければならなくなった。

●今回の参加者

 ea6410 水鏡 凪波(26歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●不思議な木箱
「不思議な依頼ね‥‥。箱の中身を見てはいけないなんて‥‥。 新発明された品とか、新技法の芸術品とかかしら。 でも、そんなに見られてはいけないものなら、自分で運んで、護衛を依頼すればいいのにね。穴があいているのも不思議‥‥。空気に触れていないと、ダメなものが入っているのかしら? まぁ、プロの冒険者としては、中身を気にする事よりも、きちんと任務を果たす事を考えないとね」
 不思議そうに木箱を見つめ、フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)が街道を進む。
 この木箱は冒険者ギルドにやってきた依頼主から預かった物で、隣町にある店まで運ぶ事になっている。
 ‥‥とは言え、この木箱を受け取るまで、妙に時間が掛かった。
 まるでリレーのように何人もの間を経由しているらしく、依頼主も詳しい事は知らないようだ。
 しかし、箱の中に何が入っているのか教えてもらう事が出来ず、中身を知らぬまま目的地まで運ばねばならなかった。
「楽そうな仕事、だと思うんだけど‥‥、誰も成功させて無いのって、依頼主が余計な事を言うからじゃないの?」
 呆れた様子で溜息をつきながら、水鏡凪波(ea6410)が依頼主の言葉を思い出す。
 確か依頼主は『箱の中身を見てはいけない』と言っただけで、他には何も言わなかった。
 そのため、依頼を受けた冒険者達の中には、中身を見たいという誘惑に勝つ事が出来ず、箱を開けてしまったのかも知れない。
 だが、凪波は箱の中身にまったく興味がないため、別に見たいとも思わなかった。
 ‥‥触らぬ神に祟りなし。
 世の中には知らない方が良い事もあるからだ。
「何か犯罪に関するものでなければ良いのだが‥‥。知らずのうちに悪事の片棒を担ぐ事になってはかなわないからな。盗賊に狙われているという事は、単に価値のある品なのか……。それとも盗賊から奪った品ものなのか‥‥、気になるな」
 念のため神秘のタロットで箱の中身を占い、鷹司龍嗣(eb3582)が表情を強ばらせる。
 一応、犯罪に関係した物ではないようだが、それ以上の事は何も分からなかった。
「まぁ‥‥、危険な物じゃないから、大丈夫じゃないのかな? 後は壊れ物かどうかだけど‥‥、一応、取り扱いに注意は必要かな?」
 囮用の箱をいくつか作っておき、本多文那(ec2195)がニコリと笑う。
 しかし、全く同じようには作る事が出来なかったため、盗賊達が木箱を見た事があった場合は無意味であった。
「何だか人を試すような依頼だね〜。何重にも包装して、ご丁寧に『封印』印までつけといて、『絶対に見てはいけない』なんて‥‥。 それなのに何故か蓋のところに穴がある。穴があるって事は、中は生き物? 盗賊達に狙われているって事は、稀少なもの??」
 興味津々な様子で木箱を見つめ、大泰司慈海(ec3613)が首を傾げて腕を組む。
 色々と疑問は尽きないのだが、昔から『見てはいけない』ものを見てしまって、良い事が起こった試しはない。
 それに箱の中身を見てしまった時点で、依頼が失敗してしまうのだから、そこまで危険を冒す価値もなかった。
「‥‥僕達がすべき事は、この木箱を無事に目的地まで運ぶ事‥‥。それだけ考えておけば、問題ないんじゃないのかな‥‥?」
 風呂敷で包んだ偽物の木箱を抱え、瀬崎鐶(ec0097)が答えを返す。
 先程から妙な気配を感じているのだが、辺りに人がいるためか襲ってこない。
 もちろん、その方が何かと都合がいいのだが‥‥。

●盗賊達
「もうすぐ目的地ね。このまま何も起らなければいいんだけど‥‥」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、フォルナリーナが溜息を漏らす。
 いつの間にか妙な気配も消えていた。
 それが単なる気のせいだったのか、相手が諦めてしまったのか、よく分からなかったが、とにかく危機は去ったようである。
「‥‥残念だが、そうもいかないようだな」
 ヴォーロスの指輪が危機を察して熱を帯びたため、龍嗣が険しい表情を浮かべて仲間達に警告した。
 どうやら盗賊達は先回りをしていたらしく、茂みに隠れて冒険者達を待ち構えているようだ。
「‥‥危ないところだったね。左の茂みに3人、右の茂みに3人。それから背後に2人。この2人はさっき着いたばかりみたい‥‥」
 バイブレーションセンサーを使い、文那が盗賊達の位置を特定した。
 盗賊達は一気に攻撃を仕掛けるつもりでいるらしく、少しずつ冒険者達との間合いを詰めている。
 しかし、ここで派手に動けば盗賊達に逃げられてしまうため、なるべく平静を装って街道を進む事にした。
「どうやら‥‥、動き出したようだね」
 茶毛吉(優れた忍犬)と、茶毛丸(幼い忍犬)が吠えだしたため、凪波が手裏剣を構えでゴクリと唾を飲み込んだ。
 それと同時に盗賊達が茂みから顔を出し、弓を構えて冒険者達に警告した。
「大人しくそれを渡してもらおうか。そうすれば命だけは助けてやる。だが、もしも嫌だというなら、命はねえ!」
 嫌らしい笑みを浮かべながら、盗賊の頭が冒険者達の心臓に狙いを定める。
 盗賊達が約束を守るとは限らないが、このまま従わなければ命はない。
 そのため、何とかして盗賊達の気を逸らし、少しでも反撃する事の出来るチャンスを作る必要があった。
「キミ達が欲しいのは、この箱だろ?」
 含みのある笑みを浮かべながら、慈海が偽物の箱を盗賊の頭めがけて放り投げる。
 次の瞬間、盗賊の頭が間の抜けた声を上げ、偽物の木箱をキャッチした。
「あんまり乱暴に扱うんじゃねぇ。どれどれ‥‥、中身を拝見しないとな。‥‥って、ニセモノじゃねえか」
 殺気に満ちた表情を浮かべ、盗賊の頭が木箱を地面に叩きつける。
 その途端に風呂敷が舞い上がり、冒険者達がバラバラになって茂みに飛び込んだ。
「絶対に逃がすんじゃねぇ。そいつらを血祭りに上げてから、木箱を回収しろ!」
 血に染まった蛮刀を高々と掲げ、盗賊の頭が命令を下す。
 その命令に従って盗賊達が蛮刀を引き抜き、冒険者達に襲いかかってきた。
「‥‥乱暴だな。木箱が壊れても‥‥いいのかな‥‥」
 大切そうに木箱を抱きかかえ、鐶が盗賊達の蛮刀を避けていく。
 盗賊達が木箱の事を何処まで知っているのか分からないが、このまま逃げ続けるわけにも行かないので倒すしかなさそうだ。

●木箱の中身
「すっかり頭に血が上っちゃっているみたいだね」
 少しずつ間合いを取りながら、文那が盗賊達の振り下ろした蛮刀を小太刀で弾く。
 盗賊達は怒りで我を失っているためか、まったく連携が取れておらず隙だらけである。
「ええいっ! 何をやっている! 殺せ! 皆殺しだっ!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、盗賊の頭が大声をあげて蛮刀を振り回す。
 そのため、盗賊達も落ち着いて考えているさえ出来ず、ヤケになって冒険者達に斬りかかってきた。
「‥‥って、木箱はどうでもよくなっていない!?」
 偽物の木箱を高々と掲げ、凪波がダラリと汗を流す。
 しかし、盗賊達は聞く耳を持っておらず、次々と冒険者達に斬りかかっていく。
「やられる前に殺れって事か。私達を恨まないでくれよ。仕掛けてきたのはそっちだからな」
 盗賊達にムーンアローを放ち、龍嗣が警告混じりに呟いた。
 本当なら無難に解決したかったのだが、このままでは自分達の身に危険が及ぶ。
 それを防ぐためには反撃する以外の選択肢が残されていなかった。
「だからと言って殺すわけにも行かないわ。親玉さえ倒せば所詮は烏合の衆なんだし‥‥」
 盗賊の頭にスタンアタックを放ち、フォルナリーナがクスリと笑う。
 次の瞬間、盗賊達が青ざめた表情を浮かべ、蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。
 その後、盗賊の頭から木箱について話を聞いてみたのだが、彼も中身までは知らなかったらしく、『冒険者達に依頼するぐらいだから、価値のある物だろ?』と答えを返した。
「‥‥呆れたね。何も知らなかったなんて‥‥。でも、これで木箱を無事に届ける事が出来そうだね‥‥」
 本物の木箱が無事である事を確認し、鐶が仲間達を連れて商人の店にむかう。
 店の前では商人達が待ち構えており、冒険者達の前で木箱を受け取った。
「ところで木箱の中には何が入っているの? いや、ちょっと気になっただけだけど‥‥」
 妙な違和感を覚えたため、慈海が商人達を引き留める。
 商人達の話では木箱を開けてしまうと、消えて無くなってしまうらしく、誰も箱に何が入っていたのか、知っている者がいないらしい。
 そのため、最初から何も入っていなかったのか、それとも箱を開けてしまったから消えてしまったのか、判断が分かれているようだが、強いて言うなら、箱の中身は人間達の好奇心。
 商人達の店では、この箱を神社から受け取り、幸運のお守りとして神棚に置いていたらしい。
 結局、箱の中身がなんだったのか、ハッキリとした答えは出なかったが、何が入っているのか分からないと言う事は、それだけ好奇心を刺激するものだという事を理解する事が出来た。
 これからも木箱は冒険者達によって運ばれてくるはずだが、その大半が誘惑に負けて中身を確認してしまうだろう。
 なぜなら、それが人間の性だからである。