子捨て寺

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月09日〜11月12日

リプレイ公開日:2008年11月17日

●オープニング

●山奥にある村外れ
 生活に困った村人達が子供を捨てに行く寺があった。
 その寺の住職はとても心が優しかったため、どんな子供でも分け隔てなく育てていたのだが、十分に養っていくだけの収入がなかったため、どんどん寺が廃れていつしか『子捨て寺』と呼ばれるようになったらしい。
 それからというもの子供を捨てる親が増え始め、住職にとっても悩みの種になっていた。
 だが、そんな思いもとある事件をキッカケにして一変する。
 子捨て寺に現れた鬼の群れが手当たり次第に子供達を食べ、一瞬にして寺を惨劇の場に変えてしまったのだから‥‥。
 それでも、住職は命懸けで鬼の群れから子供を守り、何とか助ける事が出来たのだが、それもほんの一握り。
 子捨て寺にはいまでも心ない親達によって子供が捨てられ、少しずつ数が増えている。
 しかし、鬼の群れがいつ襲ってくるのか分からないため、住職も眠れない夜を過ごしているらしい。
 しかも、住職の傷が完全に癒えていないため、鬼の手から子供達を守る事などほぼ不可能。
 そこでお前たちの出番と言うわけだ。

●今回の参加者

 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4183 空漸司 影華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●山奥の村
「‥‥どうやらこの先のようですね」
 険しい表情を浮かべながら、山本建一(ea3891)が山奥にある村にむかう。
 村人達はまるで何かに脅えるようにオドオドとしており、冒険者達の姿を見てバツが悪そうに視線をそらす。
 それだけで健一には村人達が何か知られてはいけない秘密を持っているのだと確信する事が出来た。
「それにしても鬼達のやり方には頭が来るよね。子供を狙うなんて許せないよ」
 不機嫌な表情を浮かべながら、シャフルナーズ・ザグルール(ea7864)が口を開く。
 鬼の群れは寺に預けられた孤児達を狙っており、前回の襲撃で寺の住職が深手を負っている。
 しかし、村人達は我関せずと言った雰囲気で、住職に関する話題には口を固く閉ざしていた。
「鬼が‥‥、子供を襲うなんて‥‥、許せない‥‥けど‥‥。 本当に恐ろしいのは‥‥、生活に困っているからって‥‥、子供を捨てる人間の心かもね」
 複雑な心境に陥りながら、空漸司影華(ea4183)が村人達に視線を送る。
 もちろん、村人達も好きで子供達を寺に捨てたわけではないのだが、そうしなければ飢えて死ぬか、人買いに売るしかないため、苦渋の選択だったのか知れない。
 だからと言って村人達の行為は許されるものではないので、どうしても軽く流す事が出来なかった。
「ええ、そうですね。だからと言って、このまま放っておくわけにはいきません。鬼の群れは襲撃を重ねるたびに、まるで甘いモノに群がる蟻のように、少しずつ数を増やしているようですから‥‥」
 優れた通常馬(さらら)からゆっくりと降りながら、和泉みなも(eb3834)が冒険者ギルドに届いた依頼文に目を通す。
 残念ながら具体的な鬼の数を知る事は出来なかったが、どんなに鬼の数が多くても冒険者の脅威にはならない。
「あの寺は鬼達にとって餌場でしかありませんからね。村人達は寺の子供達を犠牲にして生き長らえているわけですから、討ち漏らしたりしたら非難轟々でしょうね」
 苦笑いを浮かべながら、神田雄司(ea6476)が答えを返す。
 村人達からすれば孤児達を生贄として差し出す事で、鬼の群れに襲われる心配がなくなっていたため、冒険者達が余計な事をして鬼達の怒りを買わないか心配のようだ。
「万が一、そうなったとしても、自業自得だと思うんだが‥‥。他人を犠牲にして得た幸せなど、脆くて壊れやすいものだからな」
 勢いよく駿馬(久遠)に飛び乗り、雀尾嵐淡(ec0843)が惨劇の舞台となった寺の方角を睨む。
 そして、冒険者達は鬼の群れを退治するため、山奥にある子捨て寺へむかうのだった。

●子捨て寺
「お〜、よー来なすったな。遠路遥々ご苦労様と言ったところかな」
 子捨て寺に辿り着いた冒険者達は住職に迎えられ、子供達の遊び場代わりになっている境内に入っていく。
 住職は50代半ばで立派な髭を蓄えており、おっとりとした笑みを浮かべている。
 しかし、右腕には肘の部分まで包帯が巻かれ、袈裟の隙間から幾つもの傷が見えていた。
「怪我‥‥、大丈夫?」
 心配した様子で声をかけながら、シャフルナーズが住職の身体に視線を送る。
 住職の身体に刻まれた傷は最近のモノから昔のモノまでいくつもあり、人知れず鬼の群れと戦っていた事を容易に想像する事が出来た。
 そういう意味で住職は村の守り神的な存在であったが、その事を口にしていなかったため、村人達は未だにその事実を知らないようである。
 ただし、住職はその事を口にするつもりはないので、真実を知っているのは、彼と生活を共にしている子供達だけだ。
「昔はこの辺りも賑やかだった。ともに戦ってくれる仲間もいたしな。だが、度重なる戦いによって、仲間達は次々と命を落とし、最後にはわしだけになった。そんな時じゃった。この寺に子供が捨てられていたのは‥‥。それまで子育てなどした事はなかったが、その時のわしは必死じゃった。まるで自らの孤独を癒すようにしてな」
 どこか寂しげな表情を浮かべながら、住職が記憶の糸を辿るようにして昔の事を思い出す。
 そのため、子供達が心配した表情を浮かべ、住職のまわりに駆け寄っていく。
「‥‥子供達のためにも鬼を倒さなければなりませんね」
 住職に語りかけながら、健一が子供達の頭を撫でる。
 子供達にとって住職は大切な存在であるため、どんな事があっても失うわけにはいかなかった。
「それじゃ、そろそろ配置に就きましょうか」
 仲間達に声をかけながら、雄司が寺を守るようにして配置につく。
 鬼の群れはさらに山奥からやってくるらしく、その周辺には住職が作った罠が仕掛けられていた。
 だが、鬼達も同じ罠に何度も引っかかる事がないので、ほとんど飾りと化していたようである。
「本来ならばどこか安全な場所に子供達を避難させておくべきですが、村人達があれでは本堂の中に隠れてもらっていた方が良さそうですね」
 残念そうに溜息をつきながら、みなもが子供達を本堂の中に連れていく。
 子供達は住職に迷惑をかけたくなかったため、文句を言わず素直に本堂の中に入っていった。
 村人達がもう少し協力的ならば、子供達にとって何をする事が出来るのか、話し合う事も出来たのだが、現時点ではそれも難しそうである。
「必ず‥‥、守ってみせるからね‥‥?」
 子供達に笑顔を見せながら、影華が必ず守る事を固く誓う。
 ただでさえ子供達は多くのモノを失っているため、これ以上悲しい気持ちにはさせたくなかった。
「子供達にとって一番良い道を残してやろう。こんな時から険しい道ばかりでは気の毒だ。いままで苦労した分、未来が明るくなくてはな」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、嵐淡が鬼の群れの襲撃に備える。
 こうしておけば鬼の襲撃に合わせて高速詠唱でホーリーフィールドを展開する事が出来るため、例え冒険者達の包囲網を突破したとしても子供達を守る事が出来るはずだ。
「だからそんな心配そうにしないでね。お姉さん達に任せておいてなさい。私達が必ず鬼の群れを退治してあげるから」
 満面の笑みを浮かべながら、シャフルナーズが本堂の扉を閉める。
 その途端に表情がガラリと変わり、鬼に対する怒りがムクムクと膨らんでいく。
「‥‥何だか騒がしくありませんか?」
 ハッとした表情を浮かべながら、雄司が物陰に隠れて息を殺す。
 どうやら鬼の群れが山から下りてきたらしく、どこからか唸り声が聞こえている。
「もう‥‥、そんな時間か‥‥」
 仲間達に合図を送りながら、影華がゆっくりと日本刀を抜く。
 その間に鬼の群れが山を駆け下りていき、徐々に冒険者達のいる寺まで迫ってきた。
「ちょっと様子を見てこよう」
 ミミクリーでジャイアントオウルに変身し、嵐淡が鬼の様子を窺うために寺の周辺を飛び回る。
 そして、冒険者達は鬼の具体的な人数を把握し、戦闘の準備を着々と進めていくのであった。

●鬼の群れ
「鬼の群れは目と鼻の先だ。‥‥こっちの準備は大丈夫か?」
 ミミクリーを解除して地面に降り立ち、嵐淡が仲間達に話しかけて確認を取る。
 既に日は西に傾けかけており、冒険者達が物陰に隠れて鬼達の襲撃に備えた。
「‥‥いよいよですね」
 覚悟を決めた様子で気合を入れ、健一が茂みから顔を出して息を殺す。
 鬼の群れはクンクンをヒクつかせ、警戒した様子でゆっくりと寺に近づいていく。
 次の瞬間、寺の屋根から弓矢が射られ、先頭を歩いていた小鬼が悲鳴を上げる。
「一匹たりとも逃がしません」
 屋根の上から十人張を構えながら、みなもが鬼の群れに警告した。
 その途端に鬼の群れが悲鳴を上げ、慌てた様子で踵を返す。
「悪いけどこっちは通行止めだよ」
 鬼の群れに行く手を阻むようにして陣取り、シャフルナーズがダブルアタックを叩き込む。
 その一撃を喰らって鬼の群れが血反吐を吐き、恨めしそうな表情を浮かべて崩れ落ちる。
 しかし、群れを率いる人喰い鬼はまったく戦意を喪失しておらず、迷う事なく子供達が避難している本堂を目指す。
「一体、何をやっている! 鬼がこっちにむかっているぞ!」
 仲間達を叱りつけながら、嵐淡が高速詠唱でホーリーフィールドを展開する。
 それと合わせて影華が一気に距離を縮め、フレイムエリベイションを発動させた。
「‥‥行かせないっ! 空漸司流暗殺剣第壱奥義‥‥神虚滅破斬‥‥てやぁぁぁっ!!」
 人喰い鬼の行く手を阻むようにして懐に潜り込み、影華が神虚滅破斬(チャージング+スマッシュ)を放つ。
 そのため、人喰い鬼が棍棒を振り上げ、唸り声をあげて影華を睨む。
「隙だらけですね」
 三矢射ち(ダブルシューティングEX)で人喰い鬼の頭を射抜き、みなもが疲れた様子で溜息をもらす。
 人喰い鬼は棍棒をポトリと落とし、白目を剥いて倒れ込む。
「あ、危なかった。ありがとうね」
 ホッとした表情を浮かべながら、影華が額に浮かんだ汗を拭う。
 人喰い鬼が倒れた事で鬼の群れは戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。
「でも、またこの場所に来るんでしょうね。彼らにとっては餌場ですから‥‥。それが分かっていながら、子供を捨てる親こそが本当の鬼かも知れませんね」
 本堂から顔を出した子供達に視線を送り、雄司が悲しげな表情を浮かべて口を開く。
 例え親達にも理由があったとは言え、子供を捨てていい理由にはならない。
「子供を捨てなければならないような国じゃ。‥‥駄目なんだ‥‥変えていかなくちゃ‥‥ね?」
 自分自身に言い聞かせるようにしながら、影華が拳をギュッと握り締める。
 そして、冒険者達は新たな決意を胸に秘め、子捨て寺を後にするのであった。