●リプレイ本文
●山姥の家
「OH〜、ようやく来たザマスか。いま丁度、旅人の肉を煮込んでいるところザンス。この様子だと一緒に入った方が良いかもしれないネー」
隠密技術を使って山姥の小屋を調べ上げ、災魔鬼影(ec4055)が仲間達に報告をする。
すでに日は西に傾きかけており、辺りにはまったく人気がない。
その分、山姥の家から漏れる明かりが目立ち、台所から流れ出た煮物の匂いが胃袋を刺激した。
この煮物の正体は山姥によってバラバラにされた旅人のものだが、何の事情も知らないものであればそれに気づく事はなさそうである。
その代わり、ここで山姥の餌食になった旅人達は死ぬ間際にその事実を知らされていた可能性が高いため、絶望のどん底に突き落とされるような気持ちで命を奪われたのかも知れない。
ちなみに鬼影がくまなく調査したところ、山姥は旅人達の死体を塩漬けにして壺にしまっており、普段は野ウサギやネズミ、カエルなどを食べて生活をしているようである。
そのため、山姥にとって旅人の肉は御馳走であり、きちんと小分けにして食べる事が多いようだ。
「それじゃ、準備は万端ってわけか。それにしても、集まったのが全員悪党とはな。笑っちまうで〜」
能天気な笑みを浮かべながら、岩之戊撫茶鎮(ec4378)が鬼影の背中を叩く。
撫茶鎮達は旅芸人に扮して山姥の小屋に入ろうとしているのだが、あまりにも悪党面をしているせいで怪しまれてしまう可能性が高い。
だが、山姥としても久しぶりの人肉なので、よほどの事がない限り、彼らを拒絶する事はないだろう。
下手にそんな事をしてしまえば、保存していた人肉が底をつき、次の旅人が現れるまで延々と、マズイ肉を食べ続けなければならないからだ。
そこまでの危険を冒してまで、山姥に彼らを拒否するだけの余裕はない。
「ふはははははっ! どう見ても怖すぎて旅芸人には見えねよ、お前ら。‥‥とは言え、冒険者の格好のままじゃ、間違いなく怪しまれちまうしな。何とかして誤魔化すか」
苦笑いを浮かべながら、イヴァン・ボブチャンチン(ec2141)が答えを返す。
さすがの山姥も冒険者相手では警戒してしまうため、例え無理であっても旅芸人もしくは、それに近い格好でなければならない。
もちろん、山姥もバカではないので、胡散臭い格好をしていれば怪しむ事は間違いないが、保存した人肉が底を尽きかけているという事情があるため、冒険者達にとって有利な選択肢を選ぶ可能性が高かった。
●山姥邸
「う〜ん、イイ匂いザマスね。どうやら、味噌スープが煮えた頃のようザンス」
警戒した様子で辺りを見回しながら、鬼影が仲間達にむかって合図を送る。
山姥にとってもいい頃合いであるため、鬼影達を拒絶する理由がなくなった。
「‥‥すまない。旅の途中で道に迷った。一晩だけ宿を借りたいんだが‥‥」
大きく深呼吸してから戸を叩き、イヴァンが山姥に向かって声をかける。
‥‥緊張の一瞬。
息を飲む冒険者達。
仲間達の誰もが諦め始めた頃、入り口の戸がゆっくりと開く。
「おやおや、こんな夜更けにお客さんかい? しかも、こんな大人数で‥‥。外は随分と冷えるだろ。暖かい味噌汁でも飲んで身体を温めて行きなされ」
おっとりとした笑みを浮かべながら、老婆に扮した山姥が冒険者達を迎え入れた。
だいぶ腹を空かせているのか山姥の瞳はギラギラとしており、冒険者達を見つめて舌舐めずりを始めている。
しかし、あまり不審な行動を取ると冒険者達に怪しまれてしまうため、そそくさとした様子で味噌汁の用意をし始めた。
「お〜、予想以上にイイ匂いがするんやな〜。せっかくだからレシピを教えてほしいわ〜。まさか、これが人肉だなんて誰も思わないやろ〜」
山姥から受け取った味噌汁の匂いを嗅ぎ、撫茶鎮が鋭い視線を送って言い放つ。
その言葉を聞いて山姥が両目をカッと見開いたが、すぐに冷静さを取り戻しクスクスと笑い声を響かせた。
「おんや、まぁ‥‥。随分と面白い事を言うお方だ事。わしみたいに非力な老婆が、そんな人食い鬼のような事を出来るとお思いですか? だったら、とんだ勘違いですじゃ。これはさっき罠に掛かったウサギの肉。お前さん達もウサギの肉くらい喰った事があるじゃろ?」
しどろもどろになりながら、山姥が適当な言い訳を考える。
冒険者達も山姥の言動が怪しいと感じていたが、どこまで誤魔化し通すか見ものだと思ったので、もう少し様子を見てみる事にした。
‥‥瞬間。
冒険者めがけて山姥がナタを振り下ろす。
もうこれ以上、言い逃れは出来ないと思っているのか、攻撃する事に対してもまったく躊躇いがない。
「耳まで裂けた口、ビッシリと並んだ牙、オーガの本性をあらわしやがったザマスね」
山姥の振り下ろしたナタを避けながら、撫茶鎮が仲間達と連携を組むようにして攻撃を避けていく。
そのせいで山姥は狙いを定める事が出来ず、悔しそうにギチギチと歯を鳴らす。
「ええいっ! どこまでわしをコケにすれば気が済むんじゃ! いくら温厚なわしでも、お前達だけは許せん!」
不機嫌な表情を浮かべながら、山姥が殺気に満ちた視線を送る。
そのため、冒険者達は山姥の逃げ道を塞ぐようにして、次々と攻撃を仕掛けていくのであった。
●山姥
「俺は老人だろうが、女だろうが、子供だろうが、敵ならば容赦はせんぞ。‥‥戦える事が嬉しいんだからなッ!! 今まで貴様は何人の人間を喰ってきた? その分だけ殴ってやるぜ、憶えてないだろうがな、ふははははっ!」
高笑いを響かせながら、イヴァンが間合いを詰めていく。
そのため、山姥が『そんなモノは知るか!』と答えを返し、イヴァンめがけて勢いよくナタを振り下ろす。
しかし、そのナタはイヴァンの身体に触れる事なく、寸前のところで弾き飛ばされた。
「ボブチャンばかり、うちにもやらせてほしいさかい」
納得のいかない様子で文句を言いながら、撫茶鎮が徐々に山姥を追い詰めていく。
それと同時に山姥が悔しそうに舌打ちし、冒険者達の間を擦り抜けるようにして逃げ出した。
「……まったく。のんびりと星も見せてくれないなんて‥‥、ロマンのかけらもないんやねー。まっ、ミーは冷静なバトルマシーンやから、最初から予測していたけどなー」
山姥の行く手を阻むようにして陣取りながら、鬼影がシールドソードを叩きつけ、再び山小屋の中へと投げ返す。
その一撃を食らって山姥が情けない声をあげ、ゴロゴロと転がって鍋を倒した。
「おっと‥‥、鬼影の旦那。いつからそこにおったんや。気配を消す事が出来るから、いつか旦那と戦う時は怖いで〜」
苦笑いを浮かべながら、撫茶鎮が鬼影に視線を送る。
その間に山姥が近くに落ちていたナタを拾い上げ、狂ったように雄叫びをあげて襲いかかってきた。
「おっ、抵抗もできるのか? ババアといえどさすがはオーガだな、ほめてやる」
すぐさまカウンターアタックを放ち、イヴァンが山姥を追い詰めていく。
そのせいで山姥は反撃する事が出来ず、冒険者達の刃によって息絶えた。
「おやおや、何を持っていないようザマスね。山姥って言うくらいだから、『大包丁』と『山姥の襦袢』くらいは持っていると思ったザマスが‥‥」
山姥の小屋を調べながら、撫茶鎮が残念そうに溜息をつく。
どれもありきたりなモノばかりで、例え持って帰ったとしても売り物にはならない。
また、イヴァンが旅人と思しき人骨を発見したが、身元が全く分からなかったので、遺族に遭う事は出来なかったようである。
こうして冒険者達は山姥を退治し、旅人達から感謝の言葉を贈られるのであった。