●リプレイ本文
「何の罪もない少女を攫い、自分達の儀式に利用しようなど言語道断。何が神、だ。そんなに神を降臨させたいのであれば、自分の身を差し出せば良いだろう」
納得の行かない様子で拳を握り、天螺月律吏(ea0085)が山の頂上にある寺を睨む。
寺までは数百段にも及ぶ階段を上っていく必要があるため、早く階段を上らなければ依頼主の孫娘は殺されてしまう。
「それにしてもここは‥‥なんだか気味が悪いな‥‥」
不安そうに律吏の身体にしがみつき、リゼル・メイアー(ea0380)が身体を震わせた。
ムシムシとしている昼間とは異なり、夜は微妙に生ぬるい空気が漂っている。
「生贄を捧げて神の降臨を願とは‥‥何ともイカレタ連中ですね」
依頼主から怪僧達の根城になっている寺の構造を教えてもらい、闇目幻十郎(ea0548)が頭の中で作戦を練り始めた。
以前まであの寺は他の僧侶が住んでいたため、依頼主もある程度の構造は覚えていたらしい。
「信じる神は人其々。それを否定する気はないが、生贄を求める神など神とは認めん。神聖騎士の名にかけて必ず孫娘殿を救出する!」
心配そうに寺を見つめる依頼主の肩を叩き、ニライ・カナイ(ea2775)が小さくコクンと頷いた。
依頼主は不安げにニライの顔を見つめると、溢れんばかりの涙を流す。
(「人の身の犠牲の上にしか光臨出来ない神なんか、絶対に認めないわよ‥‥私は」)
そんな姿を黙って見つめ、クレセント・オーキッド(ea1192)が拳を握り締める。
最初の鐘が鳴り響く中‥‥。
「‥‥御爺様。心配でしょうが、今は休んでいてください。孫娘さんが戻ってきた時に抱きしめてあげなくてはなりませんからね。わたくし達が励ますより身内の姿を見る方が安心できるでしょうから‥‥」
落ち込む依頼主の両手を握り、南天流香(ea2476)がニコリと微笑んだ。
依頼主は鐘の音がひとつ鳴った事で動揺の色が隠せず、ガタガタと身体を震わせながら祈るようにして両手を合わす。
「なぁに心配するな。怪僧とはいえ特別な力を持っているわけではなさそうだし‥‥。褌隊の奴らに比べれば可愛いものさ」
以前の依頼で遭遇した褌隊の事を思い出し、鷹波穂狼(ea4141)が苦笑いを浮かべて依頼主を慰める。
怪僧達は既に僧侶としての力を失っているため、油断さえしなければそれほど苦戦する相手ではない。
それよりも問題なのは鐘の音が鳴り終わったのと同時に処刑される依頼主の孫娘だ。
「奴等は鐘の音で儀式の開始時間を把握しているようだな。今まで鳴った鐘の音はひとつ。あと5回鐘が鳴るまでに、山の頂上まで行かねばならぬ」
途中にある石灯篭の灯りを頼りに、律吏が全力で階段を上っていく。
辺りは薄暗いため道はほとんど見えないが、階段を上るだけなので勘を頼りに突き進む。
「‥‥畜生。もうふたつめの鐘が鳴りやがった‥‥」
悔しそうに舌打ちし、九十九嵐童(ea3220)が階段を駆け上がる。
既に鐘の音はふたつ‥‥。
ここでのんびりとしている時間はない。
「とりあえず邪魔な荷物は置いていった方がいいようね」
なるべく軽装になるため、クレセントが荷物を投げ捨てた。
少しでも早く頂上に辿り着くためには、装備も軽くしておく必要がある。
「あら、皆さん、お早いですね」
トテトテと階段を上りながら、大宗院鳴(ea1569)が疲れた様子で溜息をつく。
まだ数段ほどしか上っていないが、汗が地面に滴り落ちる。
これから数百段ほど上らなくてはならないため、途中でパタンと倒れてしまいそうな雰囲気だ。
「闇目の名は伊達ではないですから」
暗闇の紛れて先を急ぎ、幻十郎が様子を見にやって来た怪僧をひとり始末した。
怪僧は何が起こったのかもわからぬまま、首から血を流して悲鳴すらあげずに階段を転がり落ちる。
「もうすぐ3度目の鐘が鳴るな。このままだと間に合わない‥‥」
鐘を鳴らす怪僧を倒す事を最優先に考え、ニライが駆け足で階段を上っていく。
頂上に近づけば近づくほど怪僧の数は増え、冒険者達から生贄を守るため命懸けで襲ってくる。
「時間稼ぎ‥‥頼んだわよ」
リトルフライを発動させ、流香が迷わず頂上を目指す。
魔法の効果はそれほど長くはないため、なるべく敵に会わないようにしながら頂上を目指さなくてはならない。
「任せておけ! 気合と根性で頑張るぜ!」
襲い掛かってきた怪僧に蹴りを放ち、穂狼が別の怪僧をブン殴る。
怪僧は次から次へと現れるが、それほど強くはないため、ほとんどの怪僧は戦う事なく、階段から突き落とされているようだ。
「あまり油断するんじゃないぞ。奴等は命なんて惜しくない。隙あらば俺達と相打ちになる気のようだ」
怪僧の槍を真っ二つにへし折り、ナバール・エッジ(ea4517)が背後に移動し、短刀を使って怪僧の首を切る。
「みっつめの鐘が‥‥」
階段の途中で立ち止まり、リゼル・メイアー(ea0380)が頂上を睨む。
ようやく半分程度まで来たが、間に合うかどうかは微妙である。
「極力ザコには構うな。奴等は単なる時間稼ぎの道具だ。構う事なく頂上を目指せ!」
そして巽弥生(ea0028)は怪僧達の隙間をすり抜け、頂上を目指すのだった。
「本当にしつこい人達だなぁ! 女の子がか弱いだなんて油断してたら痛い目見るんだから!」
怪僧達にむかって石を投げ、リゼルがかなり遅れた様子で階段を上っていく。
怪僧達は石を投げられた事で怒りを感じ、リゼルに纏わりつくようにして後を追う。
「ここに少し避難して‥‥。こいつらの相手は私がするわ」
ホーリーフィールドを使ってリゼルを守り、クレセントが追ってきた怪僧達を突き落とす。
怪僧達はゴロゴロと階段を転がり落ち、途中の石灯籠に身体を打ち付ける。
「すいません、急いでいますので」
落下してきた怪僧をひょろりとかわし、鳴がすまなそうに階段を上っていく。
4度目の鐘も鳴ったため、あまり時間が残されていない。
「神の裁きを喰らうがいい」
ホーリーを使って怪僧達にダメージを与え、ニライが倒れた怪僧を踏んでいく。
怪僧達がホーリーによって邪悪な存在であると証明されたため、ニライも手加減する事なくクルスソードを使って怪僧達を切り捨てる。
「貴様等の相手をしている暇は無いでなッ!」
そう言って弥生が怪僧の振り下ろした棍棒をかわす。
他の冒険者達に蹴られて下に落ちた怪僧達も目を覚ましてしまったため、このまま頂上を目指す事は危険である。
「誰かひとりでも頂上に着かねば‥‥」
スタンアタックを使って怪僧を気絶させ、嵐童が険しい表情を浮かべて溜息をつく。
何人かの冒険者は頂上近くまで辿り着いたのだが、寺の近くで怪僧達が守りを固めているため、作戦が成功するかどうかは微妙である。
「‥‥仕方ねぇ。俺達だけでここを食い止めるか」
下に落ちた怪僧達が階段を上ってきたため、穂狼がフェイントアタックとダブルアタックを使って、怪僧達が頂上にむかうのを防ぐ。
「挟み撃ちにされたらシャレにならないからな」
穂狼と背中合わせになりながら、エッジがソニックブームを放つ。
かなり頂上まで近づいたため、ここで怪僧達を足止めする時間くらいはありそうだ。
「早く娘さんを助け出そう!」
怪僧の振り回している棒をしゃがんで避け、リゼルが僅かに開いた門を潜る。
「儀式は恐らく本堂、最も守りが堅い所のはずです!」
門にむかって体当たりを食らわせ、幻十郎が怪僧達に当て身を食らわせ本堂を目指す。
残された時間はほとんどない。
早く彼女を救わねば、すべてが無駄になってしまう。
「‥‥ちっ! こっちには時間が無いってのに!」
怪僧達に囲まれてしまったため、嵐童が火遁の術で迎撃する。
「‥‥頼む。間に合ってくれ‥‥」
そして5度目の鐘が鳴り響いた‥‥。
「私はここから釣鐘を目指す! おまえ達は怪僧達の頭目を倒してくれ!」
門番が大声をあげる前に当て身を食らわせ、律吏がオーラソードを発動すると、そのまま釣鐘のある場所をめざす。
怪僧達は生贄の女性を優先して守っているか、釣鐘までの道のりはそれほど苦ではない。
「早くしないと鐘が鳴らされちゃう!」
怪僧が鐘を鳴らそうとしていたため、リゼルが驚いた様子で悲鳴をあげる。
「鐘をならすわけにはいきませんので‥‥」
その場に立ち止まって精神を集中させ、鳴が怪僧めがけてサンダーボルトを叩き込む。
それでも怪僧は立ち上がり、釣鐘を鳴らそうと試みる。
「まだ諦めるつもりはないようだな」
怪僧めがけてホーリーを放ち、ニライが大きな溜息をつく。
怪僧はニライを恨めしそうに睨むと、口から大量の血を吐き地面に倒れる。
「何とか儀式は阻止できたな。あとは孫娘を救うだけか」
念のため怪僧の死を確認し、律吏が頭目の待つ本堂を目指す。
「まてぃ!」
一方、本堂では弥生が生贄となった孫娘を救うため、扉を蹴破り本堂の中へと突入する。
生贄となった孫娘は神像の前にある大きな台に寝かされており、あまりのショックで意識を失っているようだ。
「何者だ、貴様らは! 神聖な儀式を邪魔するつもりか!」
儀式用の短刀を高々と掲げ、怪僧の弥生の事を威嚇した。
「貴様等の訳の分からん儀式の為に何の罪も無い娘を手に掛けるなどと言うその行為、許すまじ! 最早貴様等に弁明の余地は無い! とっとと娘を解放し、私達に成敗されるが良いぞっ!」
弥生は素早く小太刀を構えると、怪僧めがけて斬りかかり、生贄を解放するため台に走る。
「‥‥甘いな。神の裁きを喰らうがいい!」
服の下に着込んだ鉄板をみせてニヤリと笑い、頭目が短刀を振り回して弥生の身体を切りつけた。
「大丈夫ですか!」
ホーリーフィールドを発動し、クレセントがリカバーを使用する。
「さすが頭目。小賢しい真似をしますね」
弥生を間も寝ようにして前に立ち、幻十郎が素早く手裏剣を放つ。
「ぐおっ‥‥。格なる上は!」
右目に手裏剣を喰らいながら、頭目が生贄を始末しようと短刀を掲げる。
「雷使い流香、儀式を壊させてもらいます。雷の神の加護はわたくしにありますよ♪」
本堂の屋根を突き破り、流香が頭目の背後に着地すると、すぐさまバーストアタックを叩き込む。
頭目は油断していた事もあり、流香の一撃を喰らって前のめりに倒れ込む。
「まだだ‥‥。せめて儀式だけでも成功させねば‥‥」
吐き捨てるようにして呟きながら、頭目が短刀にむかって手を伸ばす。
「生贄ならてめぇ達がなりやがれ!」
短刀を力任せに蹴り飛ばし、穂狼が生贄となった娘を抱き上げる。
「地獄で自らの罪を悔やむがいい‥‥」
立ち上がろうとしていた頭目の首を刎ね、エッジがロングソードについた血を払う。
「‥‥危ないところだったな」
ホッとした様子で溜息をつき、穂狼が娘を連れて本堂を後にする。
「申し訳ございません。騒ぎを起こしてしまって」
神像にむかってペコリと頭を下げ、鳴がお詫びの意味を込めて祈っておく。
この神像は怪僧達が奉っていたものなので、謝る必要はないのだが少し悪いと感じたらしい。
「さあ、お爺様の元に帰りましょう」
そして流香は仲間達にむかって微笑むと、孫娘を連れて山を降りるのであった。
依頼主の待つ場所へと‥‥。