●リプレイ本文
「泣いても笑っても大紅天狗茸採取! 紅い物には目のない猪突猛進が玉にきず。是非とも私物七輪で炙り、醤油でつるっと食したい。成功したら皆で大紅天狗茸宴会ぞ!」
七輪を使ってキノコを丸焼きにする光景を想像しながら、白河千里(ea0012)が森の中で大声を出す。
大紅天狗茸を食べた事はないのだが、大変な美味という噂もあるため、何本かはその場で食すつもりらしい。
「美味しい物には毒がある〜だなんて言うけれど、あるキノコも食べ過ぎると確か倒れるんだよね〜」
ウットリとした様子で空を飛び、アオイ・ミコ(ea1462)が大紅天狗茸の味に興味を持つ。
「今回の依頼はキノコ取りか‥‥っつっても巨大で泣き声上げて、モンスター呼び寄せるとは性質の悪いこったな。‥‥ってかそんな物を何に使うんだ? 本当に食うだけなのか?」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、龍深城我斬(ea0031)がボソリと呟いた。
キノコの中には幻覚作用を引き起こすものもあるため、大紅天狗茸もその類のキノコであると一瞬不安になったらしい。
「どうやら幻覚作用はないらしいよ。その代わり耳障りな音を立てるから、迷宮の中では警報代わりに使われる場合もあるみたい。だから念のため耳栓を用意しておくといいよ」
大紅天狗茸を詰めるための麻袋を持参し、霧生壱加(ea4063)が布切れを耳栓代わりにして耳に詰める。
「話を聞くと、なんかいや〜んな物体ですねえ。毒々しい外見に、近くまで足を踏み入れたらけたたましい音を発して反撃する‥‥って。そうなると空から紐を垂らして引っ張っても駄目ですかねぇ?」
苦笑いを浮かべながら、ベル・ベル(ea0946)が少し長めのロープを用意した。
『スクリーマー狩りか‥‥。手早くせぬと周囲のモンスターが集い、厄介な事になるな。我の馬をキノコの運搬に貸し出そう』
言葉の壁を取り除くため菊川響(ea0639)に通訳を頼み、ルミリア・ザナックス(ea5298)が自分の馬を連れてくる。
すると愛馬は安心した様子で溜息をつき、ホッとした様子で尻尾を揺らす。
『なんじゃ! そのあからさまにほっとしたような仕草は!? キノコの方が我より軽いとでもぬかすか!? ええぃ! ソコヘなおれ! 今晩の食事としてくれん!』
不満げにロングソードを引き抜き、ルミリアが愛馬を睨む。
他の冒険者達にはルミリアがどんな事を言っているのか分からないようだが、ロングソードを構えて愛馬を叱っているため、かなり不機嫌である事は分かるらしい。
『‥‥いや、たいしたコトではないのだ』
周りの視線に気づいたため、ルミリアが誤解を解こうと試みる。
この言葉だけは響がきちんと訳したため、何とか理解は得られたらしい。
「働けど働けど、なを我暮らし楽にならざり‥‥」
気まずく視線を逸らすサジマ(馬)を見つめ、本所銕三郎(ea0567)が溜息をつく。
空腹のため荷物を運ぶ気もないのか、全くサジマが視線を合わそうとしない。
「‥‥そこまでして働くのは嫌か?」
凄まじい意志の力を感じながら、銕三郎がサジマと強引に視線を合わす。
するとサジマは力強く頷き、地面の草を食べ始める。
「そう落ち込むな。本所殿の馬が休んでいる分、うちの権兵衛に働かせる」
サジマと激しい戦いを繰り返す銕三郎を慰め、千里が権兵衛の背中に乗って森の奥へと進んでいく。
「‥‥まあな。ただ心配なのはサジマが空腹のあまり、キノコを食してしまわないか、という事だ」
ビクッと反応したサジマを見つめ、銕三郎が不安な気持ちを増大させる。
大紅天狗茸は美味という事なので、空腹時の馬なら軽く平らげる事が出来るだろう。
「そういや随分と報酬が良いが、そのナンタラとか言うキノコ、旨いのか? それとも高く売れるのか?」
サジマとの間に険悪な空気が漂い始めてきたため、銕三郎が気まずい様子で話題を変える。
「それなりに価値はあるようだな。大紅天狗茸は森の奥に生えている事が多い上に、金切り声でも上げられたら他の怪物達まで寄ってくるから、キノコを欲しがる商人だって少なくはない」
質の悪い紙に書いてもらったキノコの絵を頼りに、響が辺りを確認しながらゆっくりと歩く。
ジャパンでは紙がとても貴重なため、上質な紙がなかなか手に入らない。
そのため紙に絵を描いてもらっても、実物とは異なる場合が多々あるようだ。
「私達がどれだけ時間を稼げるかでキノコの採取量が変わってくるでしょうね‥‥」
森の中から次々と現れる怪物達を思い浮かべ、佐上瑞紀(ea2001)が疲れた様子で溜息をつく。
最悪の場合は囲まれてしまう可能性もあるため、なるべく逃げ道は確保しておく必要がある。
「馬は臆病な性格だからな‥‥。キノコの悲鳴や戦闘の音に驚いて暴れないようにしておけよ‥‥。鬼に襲われてしまっては元も子も無いからな‥‥」
次第に辺りが薄暗くなってきたため、丙鞘継(ea2495)が愛馬をなだめて森を進む。
「キノコの叫び声でウヨウヨと湧いて出よる鬼なんぞ、イチイチ相手にしとったらキリがないしのぅ‥‥」
困った様子で遠くを見つめ、馬場奈津(ea3899)が頭を悩ませた。
「もしもの場合は国皇達にキノコを運ばせ、私達で怪物どもを食い止める必要があるな」
自分の愛馬の頭を撫で、凪里麟太朗(ea2406)が干し草を与える。
その間もサジマが羨ましそうに見ていたが、キノコの運搬をしないため御預けを喰らってしまったようだ。
「確かこの辺りがキノコの群生地だよ」
そしてミコはボロボロの地図を広げて確認し、キノコの生えている場所を指差した。
「群生地から離れておる囮用の大紅天狗茸を見つけて叫ばせれば、きっとそちらに鬼どもは集まるに違いないぞい!!」
囮用の大紅天狗茸を探すため、奈津が単独で森の奥にむかって歩いていく。
作戦が成功すれば怪物達をそちら側に引きつける事が出来るため、群生地に生えるキノコの採取が楽になると考えたらしい。
「それは無理だよ。群生地以外のキノコは地元の人が命懸けで取っていたようだから‥‥。ここにキノコが残っているのは、危険度が高いから取らなかっただけみたい」
森の奥に行こうとしていた奈津を引きとめ、壱加が残念そうに首を振る。
大紅天狗茸が騒ぎ始めた時の対策として落とし穴を掘ったり、ロープを使って罠を仕掛けたりしているため、ここで奈津に単独行動をさせると後が怖い。
「権兵衛には頑張ってもらわんとな」
大紅天狗茸の騒音対策のため耳栓を装着し、千里が権兵衛にむかって声をかけ壱加と一緒に罠を張る。
「‥‥我導丸は置いてこう。あまり多すぎても困るだろうしな‥‥」
なるべくキノコから愛馬を遠ざけ、我斬が耳栓をつけて辺りを睨む。
耳栓をつけた事によって他の冒険者達の声も聞こえなくなったため、我斬も身振り手振りを使って仲間達と連絡を取る。
「何かあったら連絡はサインでする。ルミリア殿も慌てぬように‥‥」
作戦中にトラブルがないように、響がオーラテレパスを使ってルミリアと話す。
仲間達がパニックに陥った時の事を考え、身振り手振りを使ったサインを決める。
「キノコが叫ばずに済めば御の字なのだが‥‥」
響から連絡方法を教えてもらい、銕三郎が疲れた様子で溜息をつく。
怪物が現れた時の事を考えると、そこまで余裕があるか分からない。
「無益な殺生は好まないが、手加減出来ない質だからどうなるかは判らん‥‥。キノコを回収したら、すぐに撤退するぞ‥‥」
日本刀を構えながら、鞘継が辺りを警戒する。
いまのところ近くに怪物がいる気配はないが、大紅天狗茸の騒音によって怪物達が集まってくる可能性もあるため、ここで油断するわけにはいかない。
「大紅天狗茸を採るときは叫び声が響かぬよう、毛布を被せて包むようにして採るのじゃ!」
なるぺく辺りに音が響く事を防ぐため、奈津が毛布を被せてキノコを取る。
「それじゃ、作戦開始ですぅ‥‥」
上空からコッソリと近づき、ベルが大紅天狗茸に紐をくくりつけ、冒険者達のいる方向へと持っていく。
しかし大紅天狗茸は紐が触れた事によって身体を大きく揺らし、鼓膜を劈くほどのけたたましい音を響かせる。
「わっわっ、どうしよう!」
予想外の出来事が起こったため、ミコがパニックに陥り悲鳴を上げた。
「‥‥大急ぎで逃げるですぅ〜!」
紐についたキノコを引っ張り、ベルが慌てて上空に逃げる。
一応、耳栓をしていたため、鼓膜が破れる事はなかったが、心臓が飛び出しそうなほど驚いたため、寿命がかなり縮まったようだ。
『‥‥大した数でもないだろう』
ロングソードを構えて辺りを睨み、ルミリアが余裕の態度でクスリと笑う。
怪物の鳴き声は一ヶ所からしか聞こえてこないため、ルミリア達が本気を出せばそれほど苦戦もしないだろう。
「‥‥一匹二匹の数じゃないわね」
森のあちこちから唸り声が聞こえたため、瑞紀が警戒した様子で汗を流す。
大紅天狗茸が連鎖的に耳障りな音を出したため、怪物達も何事が起ったのかと警戒し、他の仲間達を引き連れ、大紅天狗茸の群生地に集まってきているらしい。
「こうなってしまった以上、刈れるだけ刈るしかないね」
大紅天狗茸に毛布を被せ、壱加が忍者刀を使って根元から刈っていく。
「鬼達がこちらに来る前に、ここから立ち去った方がいいようだな」
持てるだけのキノコを袋につめ、千里が刀を構えて辺りを睨む。
怪物達の唸り声は次第に集まり始めており、このままだとかなりの数を相手にしなくてはならなくなるだろう。
「馬達が暴れている! 早くみんなこっちに来い!」
馬達を必死でなだめながら、麟太朗が仲間達にむかって大声を上げる。
このままだと馬だけ逃げてしまうため、これ以上のキノコ採取は難しい。
「あ゛〜〜〜〜! 鬱陶しい!!」
耳障りな音を立てる大紅天狗茸をムンズと掴み、銕三郎が手当たり次第に麻袋の中へと放り込む。
大紅天狗茸は麻袋の中でけたたましい音を立てているが、何度か蹴りを放って黙らせておく。
「‥‥南無、大紅天狗茸。次に生まれるときは本シメジにでも生まれてこい」
大紅天狗茸にむかって両手を合わせ、響がゆっくりと目を閉じる。
「それじゃ、早くここから立ち去ろう!」
大紅天狗茸の入った袋を引っ張り、ミコが大急ぎで馬のところまで運んでいく。
「分かっている‥‥。このまま怪物達の餌にはなりたくないからな」
そして鞘継は大紅天狗茸を寝袋の中に詰め込み、全速力で馬を走らせ森から脱出するのであった。
「これだけあれば充分だな」
森から抜け出し愛馬から飛び降り、麟太朗が毛布に入った大紅天狗茸を確認する。
大紅天狗茸は抜かれてしまった事でしんなりとしており、先程とは異なりけたたましい音を響かせる事もない。
「余った分は貰えないか交渉してみるか。料理に使ってみたいしな」
麻袋に入った大紅天狗茸を取り出し、我斬がニコリと微笑んだ。
それなりに大紅天狗茸が取れたため、ひとつくらいなら分けてくれそうだ。
「とっても美味しいです☆」
商品価値の失った大紅天狗茸を取り出し、ベルが幸せそうに頬張った。
ベルがシフールであった事が幸いし、大紅天狗茸がひとつだけでも大満足だ。
「なんだか羨ましいわね。私も後で交渉してみようかしら」
そして瑞紀は苦笑いを浮かべながら、依頼主の待つ酒場へとむかうのであった。