●リプレイ本文
「ミンメイちゃん、ひさしぶり〜♪ 5日ぶりの抱擁だぁ〜♪」
満面の笑みを浮かべながら、朝宮連十郎(ea0789)が両手を開いてミンメイに駆け寄った。
「おっと! 危ないっ!」
それと同時にヴァラス・ロフキシモ(ea2538)がふたりの間に割って入り、連十郎の腹をボコリと殴る。
「イッテェ〜! 何しやがんだ!! こんちくしょう!!!!」
険しい表情を浮かべてヴァラスに殴られた腹を押さえ、連十郎が不満げにヴァラスの胸倉を掴む。
「喧嘩は駄目アル! ふたりとも仲良くするアルよ〜!」
慌てた様子でふたりをなだめ、ミンメイが涙まじりに呟いた。
「まっ‥‥、ミンメイちゃんの頼みなら仕方ねぇ。ミンメイちゃんを泣かすわけにはいかないしな」
納得した様子で頷きながら、連十郎がヴァラスを離して溜息をつく。
普段ならヴァラスを殴っていてもおかしくはないのだが、ミンメイの涙に心を打たれ仕方なく仲良くする事にしたらしい。
「ムヘヘヘ、依頼人殿ォ、ちゃんとお守りいたしますぜェー。安心して取材してくださいよォ」
ミンメイを見つめてクスリと笑い、ヴァラスが両手に構えたナイフをしまう。
ここで本気を出せば連十郎の喉元をナイフで切り裂く事も可能だが、依頼主がそれを望んでいない以上ヴァラスがそこまでやる必要はない。
「ふたりとも喧嘩は止めてミンメイさんの取材が上手くいくように毛狩り団を撲滅させる事を考えましょう。そのためにも常時警戒が必要ですね」
連十郎の肩をぽふりと叩き、瀬戸喪(ea0443)がニコリと微笑んだ。
こうしている間にも時間は過ぎていくばかりなので、早く連十郎達を説得して毛狩り団からリーゼン党のメンバーを守るための準備をしなくてはならない。
「さて、今回はイギリスからの客人の髪を守る仕事らしいが、我輩にも今回は個人的な目的がある。それは毛狩り団とやらの髪を綺麗に剃り上げ、髪の毛を回収する事である! 他人の髪を勝手に剃ろうとする輩だ。自分が剃られても文句は言えまい。我輩はその髪でちょんまげ鬘を作らねばならんのでな。‥‥そう。我輩が力士として土俵に上るには髷と四股名が必要なのだ! ‥‥いっそリーゼン党でも‥‥いや、いやいかん。いくら鬱陶しくとも奴らは客人だしな」
甘い誘惑に負けそうになりながら、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)がブンブンと首を横に振る。
確かにリーゼン党の髪は刈り甲斐があるが、そんな事をしたら依頼が失敗してしまう。
「リーゼン党だと! 噂には聞いていたが、まさか本当に存在していようとは‥‥」
リーゼン党がジャパンにやって来た事を知り、デュラン・ハイアット(ea0042)が険しい表情を浮かべて語りだす。
「‥‥150年ほど前、フランク王国の六分国争乱の際に活躍したイギリスの騎士リーゼンは戦いにおいて相手に威圧感を与えるべく髪の毛を前に長く伸ばすことによって、多大な戦果を上げた。それを多くの騎士達が真似て集団を組み、『ガンタレ』や『トッコーフク』といった統一した規範を取り込む事によって、更に強力な戦闘集団を形成した。彼らはリーゼン党と呼ばれ恐れられたという」
何処か遠くを見つめながら、デュランが手の平をポンと叩く。
実際にそんな伝説はないのだが、どこかで噂話を聞いたらしく、それが真実であると錯覚してしまったらしい。
「そうと分かればリーゼン党の連中を接待せねばな。彼らは日本食通らしいので寿司でもつまみながら、ミンメイに取材をさせよう。 ‥‥で、なんだ? う○こ座りで夜露死苦? まあ、それもよかろう」
江戸で一番うまい寿司の予約を取るため、デュランが仲間達と別れて寿司屋に走る。
リーゼン党のメンバーだけでもそれなりの人数がいるため、今から駆け足で予約を取りに行かないと間に合わない可能性があるようだ。
「‥‥そんな伝説があったなんて初耳アル。まだまだ調査不足アルね」
デュランの語った内容に驚き、ミンメイがスラスラとメモをとっていく。
メモ用の紙はとても質が悪く、筆で字を書くとすぐに滲んでしまうほどだ。
「ほぅほぅ、リーゼン党ですか。古代フランクでも前髪に鉄球を吊し、頭髪と首を鍛えたという幻の拳法があったのですョ。この拳法を会得する為には前髪で最低3個の鉄球を持ち上げ、自由自在に振り回す技量が要求されましてネェ‥‥。達人ともなると毛も伸縮自在だったモノです。‥‥何もかも懐かしい話ですョ。ウフ」
どこかで聞いた伝承を思い出し、クロウ・ブラッキーノ(ea0176)がクスリと笑う。
元々リーゼン党は都市伝説的な存在であるためか、胡散臭い伝説がいくつも残されている。
その伝説をひとつひとつ紙に記し、ミンメイが感心した様子で冒険者達の話に耳を傾けた。
「ミンメイちゃんと一緒だとジャパンについて色々と分かるわね」
彼女から聞いた話の大半が間違った知識である事も知らず、郭梅花(ea0248)がニコリと微笑んだ。
誰もその事を否定しない事もあり、梅花も知らず知らずに間違った知識を吸収する。
「ジャパンに博識なイギリス人か。それはぜひ会って、知識習得の要領について教えを請いたい」
ミンメイのメモ書きを覗き込み、ニライ・カナイ(ea2775)がリーゼン党に興味を持つ。
色々と気になる点はあるものの、面倒なので流しておく。
「‥‥ふむ? 四股を踏むような格好で座りつつ、夜露死苦? これが挨拶、と。成る程、ジャパンにはまだまだ我輩の知らぬ風習がある訳だな!」
ミンメイのイラストを参考に、ゴルドワが四股を踏むようにしてメンチを切る。
ミンメイの描いたイラストは相手の特徴を掴んでいるため、ゴルドワがほっと見ただけでもそれがどんなものか分かるほどだ。
「‥‥夜露死苦ですか。世の中には色々な挨拶ありますね‥‥」
遠い目をしながら、神楽聖歌(ea5062)が大粒の汗を流す。
まさかこんな変わった挨拶の仕方があるとは驚きだ。
「私はトッコーフクとやらにも興味があるが‥‥フク‥‥服とはジャパン語では? まあよい。聞けば分かるだろう」
リーゼン党が普段から使っている言葉に違和感を感じ、ニライが険しい表情を浮かべて考え込む。
リーゼン党が身に纏っているトッコーフクは龍や虎の刺繍が施されており、本人の信念が刺繍となって縫い込まれているものだ。
これを身に纏う事によってリーゼン党のメンバーは気合を入れ、強い団結力のもと自分達の信念を貫き通す事が出来るらしい。
(「まさか‥‥、リーゼン党の面子はジャパン出身では‥‥」)
‥‥やめておこう。
今回の敵は毛狩り団。
リーゼン党は守るべき相手である。
静かに首を横に振り、ニライが自分自身に言い聞かせた。
「『トッコーフク』ってどんなのかしら? ミンメイちゃんと一緒に取材しないとね☆」
トッコーフクに興味を持ち、梅花がミンメイと一緒にリーゼン党を迎えに行く。
本当は月道まで迎えに行く予定だったのだが、色々と事情があるらしく江戸で落ち合う事になった。
そこに謎を解く鍵が隠されている事も知らずに‥‥。
「さて、今回は‥‥リーゼン党にその髪を刈りに来る自前者集団毛狩り団‥‥何ともまぁ、変な集団ねえ。でも、リーゼン党の方々の出で立ちは見てみたい気はするわね☆」
リーゼン党が来るまでの間、梅花達は雑談をしながら時間をつぶす。
彼らは目立つ格好をしているため、目印になる旗を立てて到着を待つ。
旗には『ジャパン連合、夜露死苦!』という文字や『ビバ! ミンメイ書房』という文字が躍っているが、別に深い意味はないらしく目印代わりのものらしい。
「あれがリーゼン党か。確かミンメイ殿がこう言えと‥‥。『夜露死古!』 ‥‥む、発音が違ったか?」
リーゼン党が現れたため、ニライがガンタレを使って挨拶する。
「夜露死古! ‥‥じゃねぇ。夜・露・死・古ッ! だ!!」
すると男達もニライに答えるようにしてガンタレを放つ。
傍から見ていると何処が違うのかよく分からないが、ニライのものは気合の入れ方とガンタレの角度が間違っていたらしい。
「イギリスから来た有名人に着てもらうものといえばコレですね‥‥」
リーゼン党を歓迎し、栄神望霄(ea0912)がトッコーフクの上から法被を着せる。
彼らは身体に触れられる事や、背後に立たれる事を極端に嫌ったが、望霄に危険がないと分かるとガンタレをしながら法被を纏う。
「夜露死苦‥‥? う〜ん‥‥。まぁ‥‥素敵な挨拶のひとつですよね」
気まずい様子で視線を逸らし、望霄が乾いた笑いを響かせる。
リーゼン党のメンバーはみんな必要以上に気合が入っているらしく、こちらが愛想笑いでも浮かべれば一気に殴りかかってきそうな勢いだ。
「リーゼン党も、毛狩り団も、どちらも鬱陶しいような‥‥」
苦笑いを浮かべながら、狩野響(ea1290)がボソリと呟いた。
それと同時にリーゼン党のメンバーが一斉に響を睨み、指の関節をバキボキと鳴らしてガンタレをする。
「い、いや、何でもありません‥‥。ご、ごめんなさいっ!」
滝のような汗を流し、響が彼らに頭を下げた。
本気を出せば勝てない相手でもないと思うが、そんな事をしたら末代まで付き纏われるような雰囲気があるため、ここで喧嘩を仕掛けるのは最良の方法とはいえない。
「リーゼン党の諸君、今日は、夜・露・死・苦っ!」
陽気な笑みを浮かべながら、デュランがリーゼン党にガンタレした。
何とか寿司屋で予約が通ったらしく、さっそくとく上の寿司が入った桶を掲げて、リーゼン党を歓迎する。
「貴殿らはイギリス人にしてジャパン文化に精通しているとか。感服だ、是非サインを頼む」
リーゼン党に筆と布を渡し、ニライが彼らにサインを頼む。
党員達は布を受け取りニヤリと笑い、筆を使ってサラリと名前を書く。
「‥‥譲二? これはジャパンの名ではないか?」
キョトンとした表情を浮かべ、ニライが布切れを彼らに見せる。
すると党員達の中から金髪の少年が前に出て、布に書かれた名前を手馴れた手つきで書き直す。
「夜・露・死・苦! ですネ」
凶悪なガンタレでリーゼン党を歓迎し、クロウが金髪ボーイにターゲットを絞る。
彼はまだリーゼン党に入党したばかりの少年らしく、他の党員とは違って生粋のイギリス人だ。
「ボーイは私が面倒みますネ。きちんと手取り足取り‥‥。ウフ」
含みのある笑みを浮かべ、クロウが少年に江戸を案内する。
彼だけは特別扱いらしく、江戸の素晴らしさを身体で教えるつもりらしい。
「ほら、ミンメイさんも梅花さんもみんなと一緒に叫ぶですー。夜・露・死・苦! ですー」
辺りに気まずい空気が流れたため、七瀬水穂(ea3744)が誤魔化すようにしてガンタレする。
「そうアルね。ちょっと少年の未来が気になるアルが‥‥」
少年の未来を案じ、ミンメイが黙って両手を合わす。
「それにしてもすげぇ髪型だわな」
ミンメイに危険が及ばないようにして前に立ち、連十郎がリーゼン党にメンチを切る。
「ちなみにリーゼン党の皆さんは歌舞伎者の亜種で、大きな町では既に絶滅寸前の保護指定な生物なのです。こうやってニワトリさんのトサカのごとく髪を長く前に出すほど偉いのです。しかも特殊な薬草の汁で固めたトサカによる頭突きは岩をも砕くそうですよー」
リーゼン党を珍獣扱いしながら、水穂が彼らを誇張しながら説明した。
「それは見てみたいアルね」
ミンメイも水穂の言葉を信じ込み、納得した様子でメモをとる。
「そういやおにいちゃんたちよォ、ジャパンの人間なんじゃあねーか? 分かるんだよな〜、顔立ちなんかでよォー。なに睨んでるんだよ。ずいぶんガンたれてくれるじゃないか、おにいちゃんたちィ。まさかあんたらァ――ジャパン生まれとばれたってだけで俺達を襲おうってんじゃあないでしょうねぇ――」
リーゼン党を胡散臭く思ったため、ヴァラスが喧嘩腰に彼らを睨む。
リーゼン党のメンバー達はヴァラスを取り囲むようにして陣取ると、いまにも殴りかかりそうな勢いでガンタレをし始める。
「駄目アル! この人達と喧嘩をしたら報酬はゼロあるヨ! みんなタダ働きがイイあるか?」
ヴァラスの口を慌てて塞ぎ、ミンメイが大粒の汗を流す。
リーゼン党からボディガード代としてもらう予定になっている報酬は、毛狩り団を撲滅してからという契約になっているため、ここでリーゼン党のメンバーを倒してしまうとまったく報酬がもらえなくなってしまう。
「まっ、そう言うこった。あんまりミンメイちゃんを困らせるなよ」
ヴァラスの肩をぽふぽふ叩き、連十郎がドサクサに紛れてミンメイの腰を抱く。
「色々と納得のいかない事や不満があるかも知れないアルが、何事も我慢しなきゃ駄目アルよ! ここで報酬がゼロになったら今まで積み上げてきたものがすべて無意味になってしまうアル!」
ミンメイも異性に対してそれほど警戒心がないのか、連十郎を見つめてキョトンとした表情を浮かべると、再びヴァラスを説得し始めた。
「‥‥たくっ! しゃあねぇな! ‥‥分かったよ。我慢すりゃいいんだろ。だが、報酬を貰った後は何をするか分からないぜ! 闇討ちするなら問題ないだろ!」
リーゼン党から視線を逸らし、ヴァラスが邪悪な笑みを浮かべて小声で話す。
「それは‥‥問題ないアル。どうせなら記憶が飛ぶくらい‥‥い、いや、何でもないアル!」
リーゼン党のメンバーがまわりを取り囲もうとしたため、ミンメイが慌てて言葉を訂正すると必死で友好的な態度を取る。
「それでは、こちらの宿に‥‥」
芸者としてリーゼン党を迎え入れ、望霄が彼らを部屋まで案内した。
遥々イギリスからやってきた客人という事もあり、望霄が用意した宿は江戸でも高級と呼べるランクの場所だ。
「待てぇい!」
野太い声を響かせながら、毛狩り団が道を塞ぐ。
毛狩り団の団員は全員巨大なハサミを持っており、彼らの髪を狩ろうと瞳を怪しく輝かせる。
「ようやく現れたか。それじゃ、仕事を始めるか」
そう言って響は日本刀を引き抜きと、毛狩り団の団員めがけて斬りかかるのであった。
「‥‥毛狩り団とやら、髪を切るのみで満足とは笑止。髪切り団と改名するが良い。反論するならしっかり狩って見ろ」
ビシっと男性陣を指差し、ニライがトッコーフクを身に纏う。
「これがトッコーフクというものか。身に纏っているだけで、どんどん気合が入ってくるな。‥‥気に入った! これは後で貰っておこう!」
ずっとトッコーフクに興味を持っていた事もあり、ニライは身体をゾクゾクさせながら毛狩り団と対峙する。
「女の毛を狩るのは久しぶりだな。バッサリ切ってやるから覚悟しておくんだな」
邪悪な笑みを浮かべながら、毛狩り団がチョキチョキとハサミを鳴らす。
毛狩り団の愛用しているハサミは普段から手入れされているため、髪の毛を束ねていても一瞬にして切れそうなほど鋭い。
「‥‥勘違いするな。それならこいつらの毛を狩るといい」
すぐさま響達の後ろに隠れ、ニライが毛狩り団を挑発する。
別に毛狩り団自体は怖くないのだが、大切な髪を切られるのは嫌らしい。
「俺達を売る気か!」
ニライの態度に驚きながら、響が慌てて後ろを振り返る。
「‥‥安心しろ。あの程度の相手に響殿の毛が狩られる事はないはずだ。しばらくの間だけ囮になってくれ」
響の肩を力強く叩き、ニライがコクンと頷いた。
「その役目は譲るぜ。愉快な仲間共にな☆」
凶悪な笑顔で仲間達を蹴り倒し、連十郎が毛狩り団と対峙する。
「面白れぇ! だったら遠慮なく狩らせてもらうぜ!」
下品な笑みを浮かべながら、毛狩り団が奇妙な道具を取り出した。
その道具は変わった形をしており、一瞬見ただけでは使い方が分からない。
「あの武器は! 噂に聞く『馬裏漢(バリカン)』! まさか使いこなせる者が存在して居ようとは!」
特上の寿司を危うく落としそうになりながら、デュランが毛狩り団の持っている武器に驚き馬裏漢に纏わる伝説を語りだす。
馬裏漢については様々な説があるようだが、デュランはそのすべてを網羅しているらしく、特上の寿司を安全な場所に移し、ミンメイの横で次々と語っていく。
「デュランさんは物知りアルね。うちの専属特派員として色々なお願いをしたいアル!」
上機嫌な様子でメモをとり、ミンメイがデュランをスカウトする。
「うむ、考えておこう」
ミンメイから連絡先の書かれた布切れを受け取り、デュランが小さく頷き微笑んだ。
「戦闘中に雑談とは余裕だな! そんなに俺達を甘く見ていると後悔する事になるぜ!」
両手に馬裏漢を構えてミンメイを睨み、毛狩り団がいやらしい笑みを浮かべる。
「やんのかぁ〜〜ッ! おにいちゃんたちよォーッ!」
毛狩り団の攻撃を受け止め、ヴァラスが馬裏漢を叩き落す。
「クッ、クソッ! だったらコイツらから先だ!」
ヴァラス達と戦っても勝ち目がないと悟ったため、毛狩り団が狩る標的をリーゼン党に戻して襲う。
「保護指定の『リーゼン党』のトサカを刈っちゃ駄目ですー。緑の豆の会の人達が怒りますよー」
神風と書かれたトッコーフクを身に纏い、水穂が十手を構えて歌を歌う。
このトッコーフクは限られた人間しか切る事が出来ず、身に纏っている者達はみんな壮絶な死を遂げている。
「ミンメイちゃん、しばらく後ろに下がってくれ。怪我でもしたらシャレにならないしな」
彼女を守るようにして陣取り、連十郎が日本刀を構えて辺りを睨む。
本気を出せば苦戦する相手でもないが、野次馬達が集まって来たためそれほど派手な技は使えない。
「この人がどうなってもいいんですか!」
手近な団員にコアギュレイトをかけて拘束し、望霄が毛狩り団を威嚇した。
「ひ、卑怯な真似を‥‥。だが、ここで迷っていても仕方ねぇ。やつごとアイツの毛を狩っちまえ!」
毛狩り団は一瞬だけ怯んだものの、仲間意識が薄いため仲間を見捨てて攻撃を仕掛ける。
「スモーレスラーとして更に鍛えこんだ我輩の新たな技の見せ所だな! 食らえ、上手投げ! そしてさば折だ!」
雄たけびを上げて毛狩り団を迎え撃ち、ゴルドワが次々と技を披露した。
毛狩り団の団員はゴルドワの気迫に怯え、逃げ腰に馬裏漢を構えて威嚇する。
「間違って毛狩り団を殺さないようにしてね。確かに悪い奴だけど、一応人間だから‥‥」
仲間達が手加減をしないため、梅花が慌てた様子でツッコミを入れた。
ただでさえ街中で戦闘をした事で目立っているのに、ここで誰かが死んだとしたら野次馬どころの騒ぎじゃない。
「だから‥‥俺、荒事は苦手なんですってば」
しつこい毛狩り団をしばき倒し、望霄が乱れた服をその場で直す。
「ムヒヒ、どうやらてめーら理解してねェようだな、オイ。てめーらが俺の髪を『切り刻む』んじゃあないぜ。俺が『切り刻む』んだよッ! 髪じゃあなくてめーら自身をォッ!」
両手に持ったナイフで毛狩り団を切り裂き、ヴァラスがゲラゲラと笑う。
一応、急所は外しているようだが、一歩間違うと危険である。
「僕の毛を狩る場合、命の保証はできませんからね」
爽やかな笑みを浮かべながら、喪が自分の馬を囮にして毛狩り団を峰打ちした。
喪の馬は所々にハゲが出来たが、飼い主の気迫に負けて盾になる。
「我輩に剃られる髪など元よりない! 故に恐れる物もないのだ!! 剃られる恐怖に怯えるのはうぬらの方だ!」
毛狩り団の髪を掴んで放り投げ、ゴルドワが豪快に笑う。
「ん? この毛は‥‥。そうか。うぬらは自分の毛が薄い事を恥じ、毛狩り団として毛を刈っていたのだな。自らのカツラを作るために‥‥」
哀れみの表情を浮かべながら、ゴルドワがカツラを握り締める。
「だからと言ってうぬらの行為が許されるわけではない。毛がない事を恥じるより、うぬらの小ささを恥じるがよい!」
襲い掛かってきた毛狩り団の顔面を掴み、ゴルドワが気合を入れて地面に投げた。
すると毛狩り団は標的を変え、ミンメイにむかって襲い掛かる。
「おい、てめー今何をしようとした? 依頼人殿の大事なおぐしを! どうなさろうとしたのだと聞いとるんだよォーーッ!」
毛狩り団の頭の胸倉を掴み、ヴァラスがそのまま遠くに投げ飛ばす。
その勢いで他の毛狩り団も吹っ飛び、泡を吹いて気絶する。
「彼らには反省する時間が必要のようですね」
毛狩り団を全員縛り上げ、聖歌が大きな溜息をつく。
「二度とこんな事したくならないようにしませんとね」
そして喪は邪悪な笑みを浮かべると、毛狩り団を足で踏みつけ何処かへと連れて行った。