●リプレイ本文
「河童達は湖の近くに住んでいるようだな。昔は湖に住む魚を捕まえていたが、仲間が増えた事で食料となる魚が減ってしまい、キュウリを盗みに来ていたらしい。それがだんだん癖になり、河童達は魚を取る事を止め今に至っているというわけさ」
苦笑いを浮かべながら、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が大きな溜息をつく。
ほとんどの河童は怠け癖がついているため、働かせるためにはかなりの努力が必要だ。
「サジマ‥‥キュウリは喰うなよ」
自分の愛馬をジロリと睨みつけ、本所銕三郎(ea0567)が激しく叱りつける。
サジマはキュウリを貪るようにして喰らっていたが、銕三郎に注意され気まずくキュウリを飲み込んだ。
「‥‥飲んだって駄目だぞ。それは喰いモンじゃないからな。そうやってニンジンの中に隠しても駄目だ。緑色をしたニンジンなんてあるわけがないだろ」
サジマからキュウリを奪い取り、銕三郎が大きな溜息をつく。
よほどキュウリが気に入ったのか、サジマは物欲しそうにキュウリを睨む。
「今回の依頼は特に問題もなさそうですね。地元住民の方々は退治の依頼を出すぐらいに困っているようですが……。キュウリは井戸水に漬けて冷やしてから、水切りをして塩や味噌を漬けて食べると美味しいですよね。酒のつまみで食べましたが、なかなかでした」
依頼の内容を思い出し、バズ・バジェット(ea1244)がサジマの前でキュウリを揺らす。
「おい、止めてくれ。いまのコイツはキュウリ中毒だ」
バズからキュウリを奪い取り、銕三郎が小さく首を横に振る。
「何とも長閑な話だが……。丹精こめたキュウリを横取りされる村人にとっては難儀な話だ。是非とも何とかせねば」
愛馬の頭をヨシヨシと撫でながら、結城友矩(ea2046)が畑にむかって歩き出す。
キュウリ畑は隠れる場所が色々とあるため、河童が現れた時でも見つかる可能性が低い。
「一応、村人達とはキュウリ一本につき、川魚一匹で交渉が成立しとる。あとはキュウリ畑の手伝いで代価をえるという形、河童達がノウハウを覚えたらお互いにとっても損はないと思うんやけど‥‥」
村人達と話し合い、グラス・ライン(ea2480)が河童との共存を考える。
大半の村人は河童達に対して悪い印象は持っていないため、お互いの妥協点さえ分かれば今までのようなトラブルも減っていく事だろう。
「それじゃ、畑で張り込むとするか。依頼人殿ォ、このヴァラス様がご期待に応えてみせますからねェー!」
そしてヴァラス・ロフキシモ(ea2538)は依頼主に別れを告げ、他の仲間達と一緒にキュウリ畑にむかうのだった。
「‥‥あれが河童か。何だか気持ち悪い奴等だな」
キュウリ畑に河童達が現れた事を確認し、リフィーティア・レリス(ea4927)が溜息をつく。
「レリス殿はキューちゃんの可愛さを分かっていないようだね。あの円らな瞳を見たらメロメロなのに‥‥」
可愛らしい河童に胸をキュンとさせながら、巽弥生(ea0028)が物陰に潜んで河童の様子を窺った。
「河童がんなコトしたって可愛くも何ともない。気持ち悪いだけなんだよ。それだったら俺が同じコトした方が可愛いぞ。あんまり認めたくはないんだがな」
黙って河童を睨みつけ、レリスがキッパリと断言する。
「それにしても‥‥盗り方が妙に律儀な奴等よのう」
どう答えていいか分からなくなったため、弥生が別の話をレリスに振った。
「そろそろ河童を説得するか。このまま逃げられてもシャレにならないからね」
河童の逃げ道を塞ぎ、レリスが激しく睨みを効かす。
「コラ、キュウリを無断で取って行ってはダメだろ」
困った様子で河童を見つめ、弥生がキュウリに手を伸ばした。
「きゅ‥‥?」
すると河童は皿の上にキュウリを乗せ、瞳をウルウルと潤ませる。
「ぬ‥‥な、泣いてもダメなモノはダメだぞ‥‥」
河童のきゅーとな瞳に心を打たれ、弥生が言葉に詰まって汗を流す。
「村人が困っているんだ。そのキュウリを返してくれ」
皿の上からキュウリを奪い、レリスがきつく河童を注意する。
「きゅーきゅー!」
あくまで無害な小動物を演じるつもりか、河童がきゅーきゅーと泣き叫ぶ。
「やっぱり皿を割るしかねぇかな。干からびるかも知れないけど‥‥」
河童の皿をコンコンと叩き、レリスが拳を振り上げた。
「やっぱり駄目だ。この辺で許してやれ!」
レリスの腕を素早く掴み、弥生が何度も首を振る。
「きゅ〜!」
あまりの恐怖に涙を流し、河童がダッシュで逃げていく。
「おい! こら! 待ちやがれ!」
そしてレリスは河童を追いかけ、街道にむかって走り出した。
「河童を発見したですよ〜」
あちこちにぶつかりそうになりながら、ベル・ベル(ea0946)が仲間達に報告する。
「きゅ〜ん!」
河童は待ち伏せしていた冒険者達と目が合い、悲鳴を上げて逃げていく。
「今日も暑いのにご苦労だな。そのせいで河童の数が少ないのか? まさか河童も夏バテとか‥‥」
ウチワでパタパタと仰ぎながら、フレーヤ・ザドペック(ea1160)が河童を追う。
河童は皿が乾かないようにするため、瓢箪型の水筒を使って水をかけ、ぴょこぴょこと住処に戻っていく。
「しかし、河童は何故キュウリが好きなのでしょうか? 水分が多いから、咽ごしが良いとか‥‥。まぁ、どうでもいい事なんですが‥‥」
素朴な疑問が脳裏を過ぎり、バズが河童を追いかける。
「あれが河童ねー。なかなか切り応えがありそうじゃねーか」
ゆっくりとナイフを取り出し、ヴァラスが妖しくニヤリと笑う。
河童は背後から感じる凄まじい殺気に驚き、大粒の涙を浮かべて走り出す。
「‥‥河童さん達と絶対に戦わないでくださいね〜! 聞いた話ですと、河童さん達は水の神様として奉っている地域もあるくらいですからぁ‥‥」
ヴァラスの服を引っ張り、ベルがブンブンと首を振る。
このままヴァラスを放っておけば、河童がズンバラリンとやられてしまう。
「‥‥じょうだんだよォ、そんなマジ面すんなって先輩!」
仲間達の視線が集中したため、ヴァラスが冗談まじりに微笑んだ。
すると河童はチャンスとばかりに逃げていく。
「河童さん‥‥黙ってキュウリを持っていくのはいけないと思うですよ〜。村の人々も丹誠込めて農作物を作っているんですから、やっぱり等価交換をしなくてはですよ〜。川で捕れたお魚とか海老とかを持っていけばいいと思うですよ〜」
河童のまわりを飛び回り、ベルがプンスカと怒る。
「‥‥犯罪の自覚がないからなぁ」
大きな溜息をつきながら、バズが少しだけペースを落とす。
河童の住処を突き止めるため、ここで捕まえるわけには行かない。
「おっとォアアアアア! 逃がさねえぜェ――ガキ」
仲間達がペースを落としたため、ヴァラスがここぞとばかりにスピードを上げる。
「ムクックックックックックッ‥‥。大きい声じゃ言えねーがな‥‥俺は弱い者をイジめるとスカッとする性格なんだ‥‥ムヘヘヘヘ、自分でも変態な性格かなァと思うんだがね。‥‥でもよく言うだろ? 自分を変と思う人は変じゃあないってな‥‥。だから俺は変じゃあないよな‥‥子供には絶対に負けないという安心感もあるしよ‥‥」
河童を捕まえそうになったため、ヴァラスが警告まじりに呟いた。
「‥‥ということであるからァ――イジめてやるぜェー! ガキッ! ムヒヒヒ、逃げろや逃げろ」
ナイフをブンスカと振り回し、ヴァラスがゲラゲラと笑う。
河童は恐怖のあまり失禁しそうになりながら、必死でヴァラス達から逃げていく。
「途中でショック死したりしないだろうな。妙な事が原因で報酬がなしになったらシャレにならないぜ」
河童が今にも倒れそうになったため、フレーヤが困った様子で汗を流す。
「疲れたのでお皿の上で休憩ですよ〜」
ふらふらと皿の上に着地し、ベルがしばらく休憩する。
河童はヴァラスに追われているため、パニックに陥っているようだ。
「普段なら何処かの水場で休憩するはずだろうからな。少し疲れているんじゃないか」
河童の逃げるペースが遅れてきたため、フレーヤが走る事を止めて歩き出す。
「こうも暑いと暑さで倒れる事もありますしね」
河童の皿めがけて水をかけ、バズがヴァラスの腕を掴む。
「‥‥ム! ここが奴等の住処か‥‥見つけたぜェ〜! ‥‥後はあんさんらのお仕事だ。うまくやってくれよォ、この俺様の報酬のためになァ!」
河童が自分の住処に逃げたため、ヴァラスが追跡を止める。
「今日の事がトラウマになって、まさか復讐とかされないよな」
そしてフレーヤは妙な予感が脳裏を過ぎり、身体をぶるりと震わせるのであった。
「みんな、こっちだよ〜」
河童の住処のある洞窟の前で飛び回り、ヴァルテル・スボウラスが仲間達を手招きする。
住処となっている洞窟は湖の傍にあり、子河童達が騒ぎに驚き汗を流す。
「ご苦労だったな。おやつにキュウリはどうだ」
サジマの誘導用に使っていたキュウリを渡し、銕三郎が険しい表情を浮かべて洞窟を睨む。
「それじゃ、ボクは一休みさせてもらうよ〜」
フラフラと飛びながらアクビをし、ヴァルテルがサジマの上で昼寝をする。
サジマはキュウリを食べられないため機嫌が悪く、ヴァルテルの顔面を尻尾で叩く。
「不意討ちなんて卑怯だぞ〜」
サジマの身体をポカスカと殴り、ヴァルテルが不満げに鼻を鳴らす。
「喧嘩は止せ。河童達に警戒される」
ヴァルテルの事を優しくなだめ、銕三郎がゆっくりと近づいた。
「気をつけてくださいね。子供とはいえ相手は河童。何をしてくるか分かりませんよ」
子河童達に愛想笑いを浮かべながら、橘真人が両手を挙げてニコリと笑う。
河童達はキュウリを武器のようにして突き出し、真人達を必要以上に警戒した。
「河童達の行動には規律があるようだな。多分、頭(かしら)がいるのだろう」
入口付近の子河童にキュウリを与えて警戒を解き、銕三郎が頭との面会を求める。
「‥‥あれ? みんなどうしてここに?」
河童達に手を引かれ、友矩が驚いた様子で顔を出す。
「それはこっちの台詞だ。一体ここで何をしているんだ?」
険しい表情を浮かべて友矩を睨み、笠倉榧(ea344)が素早く刀に手を掛ける。
「‥‥そうか。皆は河童を叱りに来たんでござるな。拙者もそのつもりで来たはずでござるが‥‥。河童達と意気投合してしまったでござる‥‥」
苦笑いを浮かべて頬をかき、友矩が事の顛末を説明し始めた。
どうやら友矩は河童達と接触し、今まで酒を呑んでいたらしい。
「河童達もきちんと話をすれば分かってくれるでござる。今回の事件はお互いの誤解が招いた事だ」
そう言って友矩が榧の肩を叩き、奥の部屋まで案内する。
「‥‥馬鹿な真似は考えるなよ」
警戒した様子で友矩を睨み、真人が入り口を塞いで腕を組む。
「そんなに緊張する必要はない。彼らは拙者達と争うつもりはないでござる」
河童達が危険でない事を説明し、友矩が河童の頭を紹介した。
「キミが河童の大将か? ずいぶんと凛々しい顔をしているんやな」
友好の証としてキュウリを渡し、グラスがペコリと頭を下げる。
「キュウリを横取りするとはどういう了見だ」
河童の頭が口を開く前に、銕三郎が毅然とした態度で頭に問う。
「‥‥いつか来るとは思っていたよ」
まったく表情を変えず、頭がゴクリと酒を飲む。
「このままお前たちが好き勝手を続けるとどうなると思う? 村は荒れ果て、当然キュウリも枯れてなくなる。村人達が困っていることは、頭であるお前の耳にも入っているはずだ」
納得のいかない様子で頭を睨み、銕三郎がキュウリを突き出した。
「俺達も暴力で解決するつもりはありません。出来る事ならお互いが納得できる解決法を見つけたい」
険悪なムードになったため、橘由良(ea1883)が慌ててフォローを入れる。
「お前達の言いたい事は分かっている。ただ俺達だって必死なんだ」
寝たきりの河童達を見つめ、頭が大きな溜息をつく。
「働き手が少ないというわけですか」
納得した様子で頭を見つめ、由良がしばらく考え込む。
「だからと言ってキュウリを盗む理由にはなりません。これ以上、キュウリを盗み続けていれば、いずれ畑からキュウリはなくなってしまいますよ」
強引に杯を奪い取り、神楽聖歌(ea5062)が頭を叱る。
「一応、村人達とは川魚一匹につき、キュウリ一本で話が纏まっています。それで何とか手を打ちませんか?」
村人達の抱える深刻な状況を説明し、由良が頭に交渉を持ちかけた。
「何とか納得してほしいんよ。うちらかて暴力で解決するつもりはないんやし‥‥」
頭が言葉に詰まったため、グラスが心配そうに声を掛ける。
「ココのキュウリは旨いよなぁ。そうは思わんか? それが食べられなくなるのだぞ? お前達の所為で‥‥分かるか?」
まわりの河童達を見回し、銕三郎が腰に手を当てる。
「もし仮に納得できなかった場合は‥‥」
瓢箪に入った酒を飲み、頭が銕三郎達を睨む。
「‥‥倒すのみです」
険しい表情を浮かべながら、聖歌が気まずく視線をそらす。
「こちらとしては話し合いで解決したい。それが嫌なら‥‥分かっているな」
河童の目の前で日本刀を振り下ろし、榧が最後の警告をした。
「まあまあ、お互い冷静に。これじゃ、喧嘩になってまうで。もうちっと落ち着いてしゃべらな」
険悪なムードになったため、グラスがふたりの間に割って入る。
「村人達も必死に生きている事を理解してください。同じ立場にある貴方なら、それが何を意味しているか分かるはず‥‥」
持参した道具を前に置き、由良が深々と頭を下げた。
「できる事からで構いません。少しずつ歩み寄っていきましょう」
何も答えようとしない頭に声をかけ、聖歌がゆっくりと立ち上がる。
「‥‥分かった」
頭は小さく頷くと、再び酒をコクリと呑む。
「それから物々交換の案が出ているようなので、交換する品々を書いた布切れを貼っておくぞ。本当なら上質な紙に書いておきたんったんだが、少し値が張るのでな」
そして榧は住処の壁に布切れを貼りつけ、河童の住処を立ち去った。