●リプレイ本文
『南蛮女中・矛転盾、猫型侍・暮空銅鑼衛門の両名は怪人である。彼らを改造したのは秘密結社グランドクロスである。彼らは結社の掲げる信仰による世界制服のため、日夜ギャグをもって戦うのである!』
何者かのナレーションと共に登場し、暮空銅鑼衛門(ea1467)がどっしりと腕を組む。
尻子玉を抜かれた若者達のいる村は、河童を恐れているためか誰も外に出ていない。
「あら、魂を取られるなんてあるのですね」
河童達が尻子玉を抜いているという噂を聞き、大宗院真莉(ea5979)が不思議がる。
尻子玉を抜かれた者は確かに腑抜けになってしまうのだが、沼地や湖で襲われた場合はそのまま水死体となって発見されてしまう事が多く、河童が尻子玉を抜いている場面が目撃されていないため、若者達が言っている事も信憑性に欠けているようだ。
「河童の悪さか、村の若者の便乗か、どちらにせよ河童の存在を確認せぬ事には始まらぬ」
事の真相を確かめるため、枡楓(ea0696)が湖の場所を村人達に聞く。
河童の出没している湖はここから少し離れた場所にあり、尻子玉を抜かれるという噂が出てからは誰も近寄っていないらしい。
「河童ねぇ‥‥ところで、河童ってどんな生き物なんだい? こっちは華国生まれで、まだこっちの風習やら固有の生き物に関して無知なもんでな」
質の悪い紙に描かれた河童の似顔絵を村人から受け取り、孫陸(ea2391)が熱心に河童の話を聞いていく。
この辺りに住む河童は争い事を極端に嫌っていたため、今まで村人達の間でトラブルが起こっていなかったため、村人達の中には半信半疑の者もいるようだ。
「俺の知っている河童は相撲好きだがこんなくだらない事はしない。人と同じで多種多様なのだろうがな。若者の方を俺は疑っている」
若者達が尻子玉を抜かれる前の状況を村人達から聞き出し、南天輝(ea2557)が若者達の狂言である可能性を高めていく。
若者達は以前からあまり働く方ではなかったため、河童に尻子玉を抜かれたという事は単なる口実である可能性が高い。
「河童さんを語ってずるをするなんて‥‥とんでもない方々ですね。もし、それが本当だったら、少々懲らしめて上げた方がよろしいのではないかと思います」
怠けてばかりいる若者達に怒りを感じ、大曽根浅葱(ea5164)が拳を握り締める。
河童達がとても悪さをするようには思えないため、若者達に非があると思っているようだ。
「河童の仕業か、若者達の作り話か。手っ取り早く真相を探るには河童に聞いてみるのが一番だろう」
険しい表情を浮かべながら、河島兼次(ea2900)が湖を睨む。
河童達の無実が証明されたわけではないため、直接会って事の真偽を確かめようと思っているらしい。
「仏門に身を置く者としましては、人々の安寧を護るのも勤めにございましょう」
そして矛転盾(ea2624)が両手を合わせ、小さくコクンと頷いた。
「河童達の住む湖はこの辺りのようじゃな」
むざさびの術を使って一足先に河童達の住む湖に降り立ち、楓が辺りをキョロキョロと見回しながら河童を探す。
河童達は村人達の騒動を知っているためか、楓が呼んでもなかなか顔を出そうとしない。
「おかしいですね? この辺りでカッパさんの足跡が途切れているのですが‥‥」
湖のまわりに河童の足跡が残っていたため、浅葱が不思議そうに首を傾げる。
河童の足跡と人間の足跡は明らかに違うため、決して見間違いというわけではないようだ。
「ここが現場ですか。グラビティーキャノンでふっとばすわけにもいきませんよね」
河童がなかなか出てこようとしないため、黒城鴉丸(ea3813)が危険な事を考える。
「‥‥仕方ない。この小船を使って湖の中心に行くか。水場なら河童の方が有利だから、少しは警戒を解いてくれるだろう」
村人達から教えてもらった予備知識を頼りに、陸が河童との接触を試みた。
河童がクロだった場合は大変危険な行為だが、わずかな希望に賭けてみる事にしたようだ。
「確かにその方がいいかも知れませんね。俺達の事を警戒しているようですし‥‥」
キュウリに釣り糸を縛って湖に垂らし、御蔵忠司(ea0901)がブレスセンサーを使って河童を探す。
河童はお腹を減らしているためか、顔だけを出してキュウリの後を追いかける。
「なかなか考えたじゃないか。どれどれ‥‥、もうしばらく様子を見ようかねぇ」
物陰に隠れて忠司の行動を見守りながら、馬籠瑰琿(ea4352)がクスリと笑う。
少し心配になって様子を見に来てみたが、この様子なら何も問題はなさそうである。
「河童殿、少々聞きたい事がある。まあ、酒でも飲みながら聞いてはもらえんだろうか?」
河童にむかって声をかけ、兼次がキュウリを差し出した。
「僕を退治しに来たわけじゃないようだね」
ほっとした様子で兼次を見つめ、河童が小船に誘導されて陸に上がる。
「やっぱり河童さんがいたんですね♪」
嬉しそうにキュウリを掲げ、浅葱が河童に抱きついた。
「本当なら被害に遭った若者達もここに連れてくるつもりでしたが、彼らがとても怖がっているようなので‥‥申し訳ありません」
仲間達にむかって頭を下げ、盾が残念そうに溜息をつく。
「当たり前さ。奴らは僕を売ったからね」
兼次から貰ったキュウリをかじり、河童が納得のいかない様子で愚痴をこぼす。
「何か深いワケがあるようじゃな」
少し様子がおかしかったため、楓が河童の顔を見つめて問いかける。
「‥‥これさ」
そう言って河童が腰蓑の中から、白くて丸い玉を取り出した。
「それは‥‥尻子玉! やはり若者達の尻から、それをっ!」
すぐさまオーラパワーを発動し、陸が拳を振り上げる。
「まさに動かぬ証拠ですね」
呪文の詠唱を始めながら、鴉丸が河童の逃げ道を塞ぐ。
「ち、違うよ! これは単なる作り物さ。村のお兄ちゃん達がこれを持っていろって言ったから‥‥。そうしたら毎日キュウリをくれるって言っていたのに‥‥。僕は騙されたみたい‥‥」
ブルブルと首を横に振り、河童が丸い玉を手渡した。
「それじゃ、悪いのはやはり若者達ですか。まったく手の込んだ事をしてますね」
陸の持っている白い玉を見つめ、忠司が呆れた様子で溜息をつく。
「何の罪もない河童さんをいじめるなんて、若者の片隅にもおけませんね!」
腰に手を当てプンスカと怒り、浅葱が若者達に対して怒りを感じる。
「若者達には少し渇を入れてやらんとな」
険しい表情を浮かべて腕を組み、兼次が白い玉を楓に渡して頷いた。
「あとはうちに任せるのじゃ」
兼次から白い玉を受け取り、楓が再びむざさびの術を使って村にむかう。
「‥‥河童君。これはお詫びの印です。あなたには随分と迷惑をかけてしまったようですし、少ないかもしれませんが貰ってくれますか?」
懐から数本のキュウリを取り出し、忠司が河童にむかって頭を下げた。
「うん、ありがとう」
満面の笑みを浮かべてキュウリを受け取り、河童が元気よく手を振りながら湖の中へと姿を消す。
「まずまずと言ったところだな。それじゃ、あたしは帰るとするかねぇ」
忠司の行動を最後まで見届け、瑰琿が黙ってその場から立ち去っていく。
「それでは私達も参りましょうか。若者達を懲らしめに‥‥」
そして盾は優しく微笑みながら、ポイズンで毒を加えた胡瓜を握り締め、村にむかって歩き出すのであった。
「尻子玉を抜かれた若者が何時までも腑抜けのふりをするのは難しかろう」
被害にあった若者達の家を訪れ、輝が聞き耳を立てて腕を組む。
若者達は部屋の中でグーグーと寝ており、何かしようとしている気配はない。
「しょうがないでござるなぁ、近頃の若い者は」
堂々とした態度で若者達の家に入り、銅鑼衛門がバックパックの中からゴソゴソとし始める。
「どぶろく〜(SE:ちゃちゃちゃちゃ〜ん)」
独特の効果音と共にバックパックの中からどぶろくを取り出し、銅鑼衛門が若者達の輪に入っていく。
「‥‥で、本当の所はどうでござるか? ミーたち部外者の方が話しやすくはないでござるかな? どうせミーたちは、村の大人たちに本当の事を話す義理はないでござる。何となれば河童は無事悪さをしなくなった、で住む事でござる」
若者達の杯に酒を注いでまわりながら、銅鑼衛門がニヤリと笑う。
「話が分かるじゃねぇか。俺達は働きたくないんだよ。‥‥面倒だろ? 疲れるだけだしさ。だから河童に罪を着せて、のんびりしようと思ったわけさ」
まったく悪びれた様子もなく、若者達がゲラゲラと笑い出す。
「おい、嘘つきども。話は聞かせてもらったぜ。その事を村のみんなに話してもらおうじゃねぇか。それとも河童に玉を抜かれるか?仲間は河童に会いに行っているからな。どうするんだ」
入り口の戸を蹴り破り、輝が若者達の足元にソニックブームを叩き込む。
「だ、騙したな」
あまりの出来事に腰を抜かし、若者達が銅鑼衛門に文句を言う。
「さて‥‥、何の事やら。ミーも驚いているところでござる」
パタパタと扇子を仰ぎながら、銅鑼衛門が茶をすする。
「お前さん達、尻子玉ってのは抜かれたら死ぬんだ。お前ら生きてるじゃねえか腑抜けてるのは怠けてるせいだ。ここにおわすシャクティ様は徳の高いお坊様だ。シャクティ様が言うにはお前等は地獄に落ちる助かる方法は真実を湖で明かすしかない救われたい奴は俺達に着いて来い」
力強い言葉で若者達を叱り、伊達正和(ea0489)がシャクティを紹介した。
「‥‥って、いねぇ。あれほど時間厳守といったのに‥‥。仕方ない」
げふっと血反吐を吐きながら、正和が大きな溜息をつく。
「えーっ、こほん。お前達は徳が足らないので、ここにおわす御方を見る事はできないと思うが‥‥、とっても偉いお方がいるんだ。‥‥本当だぞ」
気まずい様子で若者達を睨みつけ、正和が怪しまれないように誤魔化した。
「村の人達と河童に謝ってきませんか。わたくしの夫もさぼるのが好きですから‥‥。お気持ちは分かります」
若者達に同情しながら、真莉が何とか説得しようと試みる。
「う、うるせぇ! 俺達がやったっていう証拠はあるのかよ。よそ者の話なんか誰も信用するわけがないだろ!」
開き直った様子で輝を睨み、若者達がフンと鼻を鳴らす。
「甘い奴らじゃのぉ。この尻子玉が目に入らぬかぁ〜」
河童から貰った白い玉を突き出し、楓が荒く息を吐き捨てる。
どうやらここまで走ってきたらしく、早くも息切れしているようだ。
「こうなりゃヤケだ! ずらかるぞ!」
酒瓶を楓達にむかって放り投げ、若者達がスタコラ逃げる。
「‥‥困りましたねぇ。あまり乱暴な事はしたくないんですが‥‥」
先頭の若者めがけてアイスコフィンを放ち、真莉が次々と倒れた若者達を見つめて溜息をつく。
「休息も大事ですが、真面目に働かないと、結婚した後、奥さんとお子様は不幸になりますよ」
自分の状況に照らしあわせ、真莉が若者達を叱り付ける。
若者達も観念したのか、疲れた様子で頷いた。
「どのみち、使用人を雇う甲斐性もないのに怠けるというのは感心いたしません。貴方たちの日々の労働が、私の(メイドとしての)将来の雇い先の富裕を左右し、ひいては私のお給金に関わってくるやも知れないのです。そこのところを理解されたうえで、今後はしっかりと勤労に励んでくださいませ」
若者達を縛り上げ、盾がニコリと微笑んだ。
「貴殿らの力を、我々に貸して欲しいのでござる」
含みのアル笑みを浮かべ、銅鑼衛門が結社ぐらんどくろすの旗を渡す。
若者達も何やら訳が分からなかった様子だが、妙な雰囲気に飲み込まれ小さくコクンと頷いた。
「一体、何事じゃ!」
冒険者達の騒ぎを聞きつけ、村の長老が顔を出す。
「事件は解決したぞ。詳しい話は若者達から聞いてくれ。こいつらも少し間がさしただけだしな。許してやってくれまいか。これからは頑張るらしいから‥‥」
若者達の肩を叩き、輝が長老にむかって頭を下げた。
「またこのような事があったら、始末しても良いのでしょうか? ‥‥構いませんよね」
警告交じりに呟きながら、鴉丸が怪しく瞳を輝かせる。
「うむ、構わんじゃろ」
キッパリとした態度で答え、長老が力強く頷いた。
「さて、事の顛末は河童とその習性を利用してこいつらが怠けてたわけだが、改心するなら河童と村長それぞれに詫び証文を書け」
懐から質の悪い紙を取り出し、マサカズが若者達に証文を書かせる。
「河童の詫証文ならぬ河童への詫び証文とは名裁きだな」
きちんと詫び証文を書いた事を確認し、マサカズが刀を抜いて若者達を激しく睨む。
「まあまあ、良いではござらんか。それでは明るく真面目に活動するでござるよ」
そして銅鑼衛門は村の中心に結社ぐらんどくろすの旗を掲げ、満足した様子で江戸に帰っていくのであった。