●リプレイ本文
「あたいも上手い酒が飲めるんなら、飲んでみたい!! と思って参加したんだけど‥‥まずは貴腐妖精を探すんだよね? だったらここで宴会をすればいいんじゃない? 妖精が興味を持つだろうから‥‥。それじゃ、せいぜい楽しく騒ぐわよ♪」
貴腐妖精の現れる場所で宴会を始め、御藤美衣(ea1151)が気持ちよく酒を呑む。
貴腐妖精が目撃されているのは街道沿いのため、行き交う行商人達が怪訝そうな表情を浮かべて宴会の様子を窺っている。
「‥‥物を腐らせる妖精さんですかぁ。‥‥世の中には色々な妖精さんがいらっしゃるんですねえ‥‥」
仲間達の話をしみじみと聞きながら、ベル・ベル(ea0946)がミルクをコクリと飲む。
甘い酒の匂いがベルの鼻をくすぐるが、ここで誘惑に負ければ大変な事になってしまう。
「ふむ、貴腐妖精か‥‥。どんな奴なんか興味があるな」
行商人の邪魔にならないように大きな樹に寄りかかり、西中島導仁(ea2741)が辺りに注意をむける。
いまのところ貴腐妖精が現れたという報告はなく、街道は平和そのものだ。
「ふ〜ん、物を腐らせる妖精かぁ‥‥。世の中、いろんな妖精がいるもんだな。でも、どんな妖精でどんな酒を造るんだろうな?」
空っぽになった酒樽を端に置き、リューグ・シーヴァ(ea5306)が首を傾げる。
「貴腐妖精に会った事はないが、貴腐葡萄酒なら飲んだ事がある。‥‥そうか、あの酒は妖精の仕業だったのか。一酒飲みとして言わせてもらうのなら、あの酒は格別だ。甘口はあまり好まない自分だが、貴腐葡萄酒の芳香豊かで気品ある確かな旨みは、最高としか形容の出来ないものだった」
あの時に呑んだ酒の味を思い出し、阿武隈森(ea2657)がクスリと笑う。
ひょっとすると以前の依頼で立ち寄った村で呑んだ酒を造った妖精かも知れない。
「何でも腐らせる妖精だから、酒を造ることができるのか‥‥。世界は不思議だなあ。でも、街道沿いで大事な食料を腐らせちゃあいけないよな。適材適所という言葉もあるんだし‥‥」
宴会に興味を持った行商人を誘い、李雷龍(ea2756)が一緒に酒を呑む。
貴腐妖精はなかなか現れそうにないが、行商人達からはかなり興味をもたれたらしい。
「つまり‥‥妖精さんをおだてて、珍しいお酒を造りたいわけですね。‥‥どういう訳か皆さんから『あなたは絶対にお酒を飲んでは駄目よ!』って言うんですよね‥‥。この前、ようやくそのわけが分かったんですが‥‥」
そしてベルは恥ずかしそうに頬を染め、気まずく視線を逸らすのだった。
「この間の商人話はどんな結末に? いい加減話して下さい」
他の冒険者達とは別行動をとりながら、高槻笙(ea2751)が白河千里(ea0012)と一緒に街道を歩く。
ふたりの会話は貴腐妖精を誘き寄せるための罠だが、関係のない行商人達まで笙達の会話に興味を持っているようだ。
「こんな所で言える話では‥‥」
気まずい様子で視線を逸らし、千里がモゴモゴと口ごもる。
ほとんど作り話であるのだが、行商人達にはひどく興味を持たれたようだ。
「ジャパンの一大事ですよ! 言いなさい」
千里の胸倉を掴みあげ、笙が険しい表情を浮かべて問いただす。
すると金の匂いを嗅ぎつけたのか、行商人達が慌ててふたりを止めに入る。
「いや、別にお前達に用があったわけでは‥‥」
困った様子で首を振り、千里が行商人達に真相を話す。
行商人達は笙を押し倒し、千里を助けようとしていたため、キョトンとした表情を浮かべている。
「‥‥というわけです」
服に付いた砂を払い、笙が大きな溜息をつく。
「貴腐妖精か‥‥。だったら宴会を開いていた冒険者達が見つけたぞ。俺達がとっちめてやろうと思ったんだが、任せてくれって言われてな」
仲間達が宴会を開いている場所を指差し、行商人が再び目的地を目指して歩き始める。
「‥‥しまった。あっちか」
そして千里は笙を連れ、元来た道を戻るのだった。
「まさかこんな簡単に貴腐妖精が現れるとはな」
苦笑いを浮かべながら、九印雪人(ea4522)が貴腐妖精と酒を呑む。
貴腐妖精が現れたのはいまから数分前のこと。
街道で宴会をやっている奇妙な集団がいるという噂を聞いたため、貴腐妖精が興味を持って様子を見に来たらしい。
「はじめまして。私、冷蓮。今はちびシフールだけど、いつか大きくなるのが夢なんだよ★ ここは、ちび同士語り合おう。よろしくな、貴腐妖精クン」
貴腐妖精と一緒に肩を組み、劉冷蓮(ea4972)がニコリと笑う。
「こちらこそよろしく! 今日は何のパーティかな?」
山葡萄を美味しそうに頬張りながら、貴腐妖精が辺りをフラフラと飛びまわる。
「あんたを歓迎するパーティだよ。ちょっとお願いがあるんだ」
元気よく立ち上がり、神埼紫苑(ea4387)が貴腐妖精と握手をかわす。
「物を腐らせて欲しいのかい」
近くにあったおにぎりを腐らせ、貴腐妖精が陽気に飛ぶ。
「違う、違う! それじゃない」
蟲の湧いたおにぎりを放り投げ、紫苑が激しく首を振る。
このまま貴腐妖精を放っておけば余計なものまで腐らせてしまう。
「貴腐妖精って、男か」
パンパンと身体を触り、大宗院謙(ea5980)が残念そうに溜息をつく。
「なんだ、お前! 変態か!」
慌てた様子で謙から遠ざかり、貴腐妖精が大粒の汗を流す。
如何わしい事をされると勘違いしたためか、本気で謙の事を警戒しているようだ。
「あ、気にしないでくださいね〜。謙さんの趣味はナンパですから〜。私も口説かれちゃいました〜☆」
苦笑いを浮かべながら、ベルが貴腐妖精のまわりを飛びまわる。
「気をつけた方がいいぞ。身体を触られただけで子供が出来ちゃうからな」
ベルの耳元で耳打ちし、貴腐妖精が謙を睨む。
「人聞きの悪い事を言うな。私は妖怪か」
気まずく酒を呑みながら、謙が貴腐妖精にツッコミをいれる。
「ははっ、そりゃいいや。だがな。もっと面白い話があるぞ」
貴腐妖精に興味を持たせるため、シーヴァが途中で話すのを止めた。
「なんだよ。気になるな。俺にも教えてくれよ」
シーヴァのまわりを飛びまわり、貴腐妖精が頬を大きく膨らませる。
「詳しい話は酒を呑んでからにしよう」
貴腐妖精に酒を渡し、美衣がコクンと頷いた。
「何か怪しい感じがするけど‥‥、まぁいいか」
胡散臭そうに美衣を見つめ、貴腐妖精が酒を呑む。
「お、いい呑みっぷりだね。もう一杯どうだい?」
貴腐妖精の肩をポンポンと叩き、美衣が再び酒を並々と注ぐ。
「ところでさ、酒って何? 私、一度も飲んだ事が無いから分かんないじゃん。でもアレだろ?ジャパン語で‥‥酒は百薬のチョー、とか言うらしいじゃん? 私にも効くかな〜背、でっかくなりたいんだよ!」
酒の匂いをクンクンと嗅ぎながら、冷蓮が不思議そうに首を傾げる。
「人間を堕落させる飲み物さ。俺はあんまり好きじゃないな」
何か嫌な事でも思い出してしまったのか、貴腐妖精が大きな溜息をつく。
「そういや貴腐妖精って何でも腐らせる事が出来るんだろ? 何かやってみてくれよ」
酔った様子で貴腐妖精の肩を抱き、雪人が話題を変えて話しかける。
「おっちゃん、飲み過ぎだぞ〜」
雪人のそばから遠ざかり、貴腐妖精が説教をし始めた。
意外と真面目な性格なのか、まともな事を言っている。
「こ、こいつか!」
倒れるようにして貴腐妖精を捕まえ、千里が大きな溜息をつく。
ここまで走ってきたためか、少し干からびているようだ。
「こ、こらー。俺をつぶす気か。‥‥ん? 父ちゃん?」
キョトンとした様子で千里を見つめ、貴腐妖精がしばらく言葉を失った。
「そう言えば‥‥確かに似てますね。でも、それじゃ‥‥」
まるで親子のように似ているため、雷龍が言葉に詰まって咳をする。
「誤解だ! 私にそんな趣味はない!」
気まずい雰囲気が漂い始めてきたため、千里が慌てて自分の無実を訴えた。
「ほら、癇癪を起こすとこなんか、特に」
苦笑いを浮かべながら、笙が千里と貴腐妖精を見比べる。
雰囲気的に良く似ているため、親子と言われても納得してしまう。
「まさか貴腐妖精の娘と‥‥」
危険な光景を思い浮かべ、導仁がジリジリと後ろに下がっていく。
千里の無実は信じたいと思うのだが、まさかという事もあるため少し警戒しているようだ。
「そこ、暴走しない! 人間と妖精の間に子供なんて出来るわけがないだろ。それ以前に妖精に手を出した覚えだって、私にはないんだから‥‥。こら、そんな目で私を見るな。本当だ!」
仲間達からあらぬ誤解を受けたため、千里が激しく首を振る。
さすがに身体のサイズが違うため、千里の無実は明らかだ。
「そういや、かーちゃんが言ってたなぁ。俺はとーちゃんによく似ているって‥‥」
しょんぼりとした様子で千里を見つめ、貴腐妖精が涙を拭う。
「もう誤魔化す事は出来ないね」
貴腐妖精の頭をヨシヨシと撫で、紫苑が千里の顔を見る。
「本当に記憶にないんだが‥‥。まさか、なぁ‥‥」
自分でも不安になったため、千里が気まずい様子で汗を流す。
「いまだけ父親になってみてはどうですか? その方が交渉もしやすいと思いますし」
千里が深刻な表情を浮かべたため、雷龍がクスリと笑って肩を叩く。
「まっ、そういう事だ」
千里の耳元で囁きながら、導仁がコクンと頷いた。
本当は貴腐妖精を騙すつもりで打った芝居だが、千里が信じ込んでしまったため種明かしをしたようだ。
「‥‥というわけで頼みがある! 千里パパのために美味しいお酒をご馳走してくれないか?」
千里の肩をポンポンと叩き、シーヴァが貴腐妖精にお願いする。
「酒だったらあるじゃん! 俺は‥‥駄目さ」
潤んだ瞳で千里を見つめ、貴腐妖精がしょんぼりした。
「あ〜、残念〜。もうお酒ないんだね〜。ここに果物はあるんだけどなぁ〜。誰かお酒を造ってくれないかな〜」
空になった酒樽をぺちぺちと叩き、美衣がニヤリと微笑んだ。
大量の酒を用意したため、飲み干すまでに時間がかかってしまったが、何とか仲間達が時間稼ぎをしてくれたため、ようやく全部飲み干すことが出来たらしい。
「飲みたりねぇな。千里殿もそう思わんかぁ?」
千里の肩を抱きながら、謙が貴腐妖精の顔を見る。
「う〜ん。父ちゃんがどうしてもって言うなら‥‥考えてもいいぞ」
困った様子で千里を見つめ、貴腐妖精が考え込む。
せっかく父親(?)に会えたのだから、酒くらいご馳走しても罰は当たらない。
「なぁ、貴腐妖精クン。果物を腐らせると酒になるらしいじゃん。だったら私に見せてくれるかな? お父さんだって喜ぶじゃん?」
貴腐妖精が判断に迷っているため、冷蓮が果物の入った樽を渡す。
「随分と小さな樽だな。こんな所に果物なんて入るのか? まぁ、いいや」
冷蓮の持ってきた樽の中身を腐らせ、貴腐妖精が千里に手渡した。
「これが貴腐妖精の造った酒か。‥‥ん? なんだか妙に粘つくぞ」
複雑な表情を浮かべ、千里が樽の中を確認する。
そこには納豆が入っており、千里が気まずく冷蓮を睨む。
「もしかして、間違えちゃった? わりぃわりぃ」
納豆の入った樽を覗き込み、冷蓮が苦笑いを浮かべて頭を掻く。
「そんなに落ち込む必要はない。中身が果物じゃなかったんだから気にするな」
そう言って森が落ち込む貴腐妖精を慰める。
「千里パパだって納豆が大好きだから問題ありませんよね?」
貴腐妖精を元気付けるため、笙が千里にむかってニコリと笑う。
「あ、ああ‥‥、出来れば飯も喰いたいが‥‥」
さすがに否定は出来ないため、千里が無難な答えを言う。
「本当かい? なんかそうには見えないけど‥‥」
心配そうに千里を見つめ、貴腐妖精がしょんぼりする。
「もっと自分に自信を持て。残念な事に貴腐葡萄酒の産地はほとんどが異国な上、値段も高価な代物だが、もしジャパンでもそれが安く手に入るようなことになれば、こんなに嬉しい事はない。もし良かったら仕事先も紹介するぞ」
なかなか貴腐妖精がやる気にならないため、森が依頼主の店までの地図を渡す。
地図は薄汚れているため見づらいが、簡単なもののため目的地まで迷うことはなさそうだ。
「ありがとう。それが父ちゃんのために頑張るかな」
すっかり千里を父親だと信じ込み、貴腐妖精が力強く頷いた。
「どれでも好きなものを選んでくれ。きっと美味い酒が出来ると思うから」
桃やブドウ、梨などの入った樽を転がし、美衣が貴腐妖精にむかって微笑んだ。
「それじゃ、お酒が出来るまで一緒に踊りましょう☆ くるりんくるくる〜☆」
貴腐妖精の手を握り、ベルが桃のまわりでクルクルまわる。
すると桃はみるみるうちにお酒に代わり、樽の中で心地いい音を響かせた。
「おっ、早速酒が出来たな。どれどれ‥‥、うまい! こりゃ癖になるな」
貴腐妖精の造った酒を呑み、美衣が文句なしに絶賛する。
「‥‥予想以上の出来だな。これならマニアが欲しがるのも無理はない」
味の良さに驚きながら、シーヴァが酒をガブ呑みした。
「てへっ、照れるな」
恥ずかしそうに頬を染め、貴腐妖精が顔を隠す。
「この調子で仕事の復帰も出来そうだな。期待しているぞ」
貴腐妖精の肩を叩き、雪人も一緒に酒を呑む。
貴腐妖精の造った酒はとても味がまろやかで、味もそんなにしつこくない。
「ふにゃ〜〜〜〜〜暑いですぅ〜〜〜〜」
そしてベルは酒の匂いに誘われ呑んでしまい、服をスルスルと脱ぎ始めるのであった。