あの波に乗れ!

■ショートシナリオEX&
コミックリプレイ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月22日〜08月27日

リプレイ公開日:2004年08月27日

●オープニング

「みんなに集まってもらったのは他でもないアル! 伝説の大波に乗るため、お手伝いをして欲しいアル!」
 相変わらず唐突な出だしとともに、依頼主であるミンメイが冒険者達に依頼を頼む。
 ミンメイはジャパンの勉強をするため、はるばる華国からやって来た少女で、何故か間違った知識ばかりを吸収し、妙に偏ったジャパンの知識を持っている。
「大波に乗るだと‥‥? 本当にそんな事が出来るのか?」
 ミンメイの無謀な依頼を警戒し、冒険者のひとりが素朴な疑問を投げかけた。
「たったひとりだけ存在しているアル。大波を制した男がひとりだけ‥‥」
 真剣な表情を浮かべ、ミンメイが人差し指をピンと立てる。
「まさか‥‥そんな奴がいたなんて‥‥」
 唖然とした様子でミンメイを見つめ、冒険者達がしばらく言葉を失った。
 それが真実なら本当に驚きだ。
「その男の名はぽち。伝説の河童アル‥‥」
 一瞬、冒険者達の脳裏に円らな瞳の河童が浮かぶ。
「なんだそのかわいらしい名前は‥‥、しかも河童だと!」
 納得のいかない様子でミンメイを見つめ、冒険者達がすぐさまツッコミを入れる。
「これが本人アル」
 ようやく手に入れた上質の紙に河童の絵をさらりと描き、ミンメイが冒険者達のその絵を見せた。
「渋っ! つーか、こわっ」
 その絵は劇画調で描かれており、まるでヤクザのような風貌だ。
「だったらまずはそいつに会う必要があるな」
 ミンメイの描いた紙を受け取り、冒険者のひとりがボソリと呟いた。
「そ、それは無理アル。ぽちは波に乗ったまま、帰らぬ人になったアル‥‥」
 気まずい様子で視線をそらし、ミンメイがわざとらしく涙を拭う。
「それって失敗したって言わねぇか? まぁ、いいや。それでいつ波は来るんだ?」
 冷たい視線をミンメイに送り、冒険者のひとりが質問する。
「もちろんアル! だから依頼したアルよ! ずっと待っていれば、いずれ‥‥来る‥‥アル‥‥」
 だんだん表情が険しくなり、ミンメイが大粒の汗を流す。
 どうやら冒険者達の鋭い視線に気づいたらしい。
「まぁ、そんな夢物語はさておき、本題アル。ワタシがお願いしたいのは、とある人物を波乗り出来るようにして欲しいアル! 大波は来たらいいなぁ‥‥、というレベルある‥‥」
 冒険者達のプレッシャーに負け、ミンメイが怯えた様子で本題に移る。
 ミンメイの話では大波に挑戦しようとしている男がいるため、彼に協力して欲しいというのが依頼のようだ。
「そんな奴がいるのか‥‥。だったらぜひ会ってみたいな!」
 凛々しい二枚目の姿が脳裏を過ぎり、冒険者達が期待に胸を膨らませる。
「それじゃ、紹介するアル! 彼がその挑戦者アル!」
 満面の笑みを浮かべながら、ミンメイがパチンと鳴らす。
 それと同時に小さな黒い影が飛び上がり、テーブルの上にぽてんと着地した。
「きゅ!」
 大きめの板切れを持ち、右手を上げるごるびー。
 ごるびーは見世物小屋で芸をするカワウソで、最近それんと呼ばれる恋人と同棲したばかりである。
 ちなみにそれんは野良イタチ。
 種族間を越えた禁断の愛が芽生えたらしい。
「コイツかい!」
「死ぬ、絶対に死ぬ!」
 冒険者達の不安をよそに、ごるびーがえっへんと胸を張る。
「飼い主さんに新しいゲイを取得させて欲しいと言われたアル。ちなみにさっきの話は大嘘ね。見世物小屋で客引きの時に使うダマシある!」
 ごるびーの頭をヨシヨシと撫で、ミンメイがニコリと微笑んだ。
 一体、今までの時間は何だったのだろう。
 冒険者達の中で何か損した気分が広がった。
「‥‥で、どうして波乗りなんだ? 芸なら他にもあるだろ?」
 これ以上時間を無駄にしないため、冒険者のひとりが本題に入る。
「それは飼い主さんのアイデアね。ある日、タマ乗りをしていたごるびー君を見て、ピコピンと来たらしいアル。その時、玉の上で使用していた板がコレある」
 ごるびーの持っている板を指差し、ミンメイが冒険者達に顔をググッと近づけた。
「ごるびーのバランス感覚は最強アル! きっとこの板を使えば波に乗れるはずアルね。乗れなかった場合は、この板を誰かの頭にくくりつけて海を泳いでくれればイイあるよ」
 ‥‥詐欺だ。
 冒険者の誰もがそう思った。
 もちろん口には出さないが‥‥。
「とりあえず飼い主さんを納得させれば勝ちアル。お金を貰ったらトンズラあるね。逃げ足なら誰にも負けないアルよ」
 力強く拳を握り締め、ミンメイが瞳をキュピーンと輝かす。
 どうやらそういう事らしい。

●今回の参加者

 ea0567 本所銕三郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0789 朝宮連十郎(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2503 八俣 智実(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2505 セレナ・バーグランド(36歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3082 愛染鼎(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea6019 ヤマタ・サペント(27歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea6050 新城 日明(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●あの波に乗れ!
「カワウソが短期間で波乗りはいくらなんでも無理だよ‥‥」
 困った様子でごるびーを見つめ、八俣智実(ea2503)が溜息をつく。
 普通カワウソは湖などに棲んでいるため海を恐れる場合が多いのだが、ごるびーはかなりやる気になっているためか、決して板切れを放そうとはしない。
「何を言うか! ごるびーは見世物小屋でも花形スターのカワウソだぞ。そんじゃそこらのカワウソと比べてもらっては困る! ごるびーはな! 玉乗りだって容易に出来るカワウソ界のヒーローだ! いまどき波乗りくらい黄色いネズミだって出来る世の中だぞ! ネズミに出来て、カワウソに出来ないわけがないだろ!」
 ミンメイから教えてもらった間違った知識を曝け出し、依頼主の男が波乗り出来ると断言する。
 もちろん黄色いネズミなどは元から存在していないため、それを例えにする事自体が間違っているのだが、依頼主がその事実を知らないため、何も怖いものがないようだ。
 別の言い方をすれば、依頼主がそれだけ単純だったという事である。
「‥‥って言うか黄色いネズミって何? 本当にいるの?」
 不思議そうに首を傾げ、智実が黄色いネズミを想像した。
 なぜか目張りがされているが、とても実在しているようには思えない。
「それは‥‥いずれミンメイが見つけてくれる。見つけ次第わしの小屋で飼う予定だからな! ぐわっはっはっはっはっ!」
 豪快な笑みを浮かべながら、依頼主の男が扇子を仰ぐ。
 ミンメイの冗談を真に受けているため、黄色いネズミが実在するとすっかり信じ込んでいるようだ。
「それじゃ、今回はごるびーを波に慣れさせるところまででOKにしない? そこまでだったら、僕にも何とか出来るから‥‥」
 依頼主を見つめて両手を合わせ、智実が海のむこうを指差した。
「‥‥すでに泳いでいるが」
 暢気に水遊びをしているごるびーを見つめ、依頼主がニヤリと笑う。
 ごるびーは波打ち際で波を追いかけ、楽しそうに飛び跳ねている。
「‥‥あれ。おかしいなぁ。カワウソって海も大丈夫だっけ‥‥?」
 優しくごるびーを抱き上げ、智実が首を傾げて呟いた。
 ごるびーはわけも分からず両足をバタつかせ、智実にむかって何やら文句を言っている。
「ごるびーはグレートだからな! さぁて、どうするの? 断る理由がないだろ?」
 いやらしい笑みを浮かべながら、依頼主の男が智実の耳元で囁いた。
 どうやらごるびーは海でも生活できるタイプのカワウソらしい。
「無理なものは無理だよ」
 気まずく依頼主から視線をそらし、智実がモゴモゴと口ごもる。
 まさかごるびーが海に慣れているとは予想していなかったため、どう対応していいか分からなくなってしまったようだ。
「それを可能にするのが冒険者だろ?」
 冒険者達の事を何でも出来る凄い奴とでも勘違いしているのか、依頼主が智実に対して無理難題をふっかける。
「それじゃ、埋め合わせは、依頼主さんの名剣を僕の鞘に収めるって事でどう?」
 小悪魔的な笑みを浮かべ、智実が依頼主の事を誘惑する。
 すると依頼主は驚いたような表情を浮かべ、警戒した様子で辺りを何度も見回した。
「ちょっと待ったぁ!」
 テラ倫に突入するかと思われた瞬間、海のむこうから漢らしい雄たけびが響く。
「よぉ、ごるびー。元気そうで何よりだ!」
 爽快な笑みを浮かべながらタライの上で腕組みし、本所銕三郎(ea0567)が沖の方から波に乗って現れた。
 あまりに爽やか過ぎるため、智実達も対応に困って固まっている。
「ごるびーに波乗りを教えようにも、俺が出来ないのでは話にならん。そこで海人仲間に仕事用のタライを借りて試してみたんだ。なかなか格好よかっただろ?」
 そう言ってニヒルな笑みを浮かべる銕三郎。
 ごるびーも銕三郎の波乗り姿に感動したのか、きゅっと鳴いて頷いた。
「何でそんなに余裕なの? ごるびーが波乗りできるって言う保障はないんだよ!?」
 心配した様子で銕三郎を見つめ、智実が困った様子でツッコミを入れる。
「‥‥まぁ、ごるびーは泳ぎが得意だし、玉乗りで平衡感覚を鍛えている。問題なかろう」
 ごるびーの背中をポンと叩き、銕三郎がニコリと微笑んだ。
 ごるびーも何を根拠に自信があるかは不明だが、偉そうにえっへんと胸を張っている。
「ほらな!」
 ごるびーと一緒に胸を張り、銕三郎が高らかに笑う。
 その姿を見て大きな溜息をつく愛馬サジマ。
「おいおい、なんでそんな顔をするんだ? これでも俺は本気だぞ」
 フフンと鼻で笑ったサジマを睨み、銕三郎が不満げに鼻を鳴らす。
 サジマもごるびーが波乗りできないと思っているのか、銕三郎を馬鹿にしているようである。
「ここまで馬鹿にされちゃ俺達だって黙っているわけにはいかないな。ごるびーだってそうだろ?」
 銕三郎の言葉にごるびーが力強く『きゅ!』と応え、板切れを片手に大きな波に立ち向かう。
「きゅううううううううううううう〜!」
 次の瞬間、ごるびーは波に飲まれて、板切れごと砂浜まで流されていく。
「大丈夫か、ごるびー!」
 口から噴水のようにして海水を吐き出すごるびーを見つめ、銕三郎の脳裏に不安が過ぎる。
「うーむ。‥‥やはりカワウソに波乗りは無理なのか」
 残念そうに腕を組み、銕三郎が溜息をつく。
 果たしてごるびーは波乗りを会得できるだろうか?

●欲望の渦の中
「夏! 海! ‥‥とくれば‥‥ミンメイちゃんのサービスショットー。‥‥夏サイコー!」
 ジャパンで浴衣の次にメジャーな夏のファッションと吹き込みミンメイにサラシと褌をつけてもらい、朝宮連十郎(ea0789)が感動した様子で彼女にぎゅっと抱きついた。
 連十郎はこちらがメインだった事もあり、今にも天に昇りそうな気分である。
「えっ‥‥と、なんだ。こういう時はスマイル、スマイル! それがジャパン流の挨拶さ!」
 満面の笑みを浮かべて自分を指差し、連十郎がミンメイに同じ表情をさせようと試みた。
 するとミンメイは天使のような笑みを浮かべ連十郎のハートを貫いた。
「辛抱タマラン! 俺ぁ、今日の出来事を絶対に忘れないぞ!」
 いまにもミンメイを押し倒しそうなオーラを放ち、連十郎が感動した様子で熱い涙を垂れ流す。
「ジャパンの挨拶は激しいアルね。これが普通の挨拶アルか?」
 キョトンとした表情を浮かべ、ミンメイが首を傾げる。
「いや、他の奴には駄目だぞ。如何わしい事とかされちまうかも知れないしな。その‥‥なんだ。これは特別な挨拶で、俺みたいに親しい奴だけにする挨拶さ。‥‥間違っても他の奴にするなよ。特にああいう親父とかな!」
 警戒した様子で依頼主を睨みつけ、連十郎がミンメイを必要以上に遠ざけた。
「‥‥聞こえているぞ。お前達‥‥、報酬はいらんのか?」
 冷たい視線をふたりに送り、依頼主が大きな溜息をつく。
「忘れていたアル! ごるびーの訓練アル! お金をたくさん稼いで宴会アルよ♪」
 上質な紙を手に入れるため、ミンメイが瞳をキュピーンと輝かせる。
 ミンメイ書房を設立するという野望を胸に秘めているためか、ミンメイとしても今回の依頼は何としても成功させようと思っているらしい。
「‥‥ごるびー、まあ、頑張れ‥‥命ある限り。飼い主の方はどうとでもしてやるからよ」
 凛々しい表情を浮かべるごるびーの頭を撫で、連十郎が横目で依頼主を睨みつける。
「本当に大丈夫なのか?」
 心配した様子で連十郎をジーッと見つめ、依頼主が念のため連十郎に確認した。
「まぁ、そんな心配するな。俺達はプロだぜ。俺とミンメイちゃんが本気になれば、カワウソの一匹や二匹くらい軽く波乗りさせてやるさ」
 依頼主の肩をぽふぽふと叩き、連十郎が自分の胸をポンと叩く。
 あまり自信はないのだが、少しでもミンメイと一緒にいたいため、ごるびーとの訓練を長引かせようとしているようだ。
『大波乗りに失敗すれば死あるのみ! 本当にやる気があるなら、そのくらいの覚悟は必要だよ!』
 ごるびーの似顔絵が描かれた巻き藁を真っ二つに両断し、ヤマタ・サペント(ea6019)がごるびーを叱り付ける。
 ヤマタはラテン語しか話す事が出来ないため、ミンメイが少し遅れて彼女の言葉を逐一訳していく。
「きゅ‥‥」
 警戒した様子でヤマタを睨み、ごるびーが真剣白羽取りの体勢で汗を流す。
『そんな事をしたって無駄だよ! きみが動くのよりも早く、僕の剣がきみの身体を真っ二つにしちゃうから。‥‥何ならここで試してみる?』
 ロングソードを構えてごるびーと間合いを取りながら、ヤマタが警告まじりに呟いた。
 ごるびーも命が惜しくなったのか、涙を流して失禁する。
「おいおい、ごるびーをあんまり追い込むなよ。こいつは褒めて伸びるタイプなんだからさ。そんなに叱ったら、また家出しちまうぞ!」
 見世物小屋からごるびーが家出した時の事を思い出し、銕三郎がヤマタをなだめるようにして前に出た。
 ごるびーも銕三郎がいる事で安心したのか、脚にギュッとしがみつきヤマタに文句を言っている。
『そう言われても甘やかすのは良くないよ。ただでさえ温室暮らしが長そうだし‥‥』
 ごるびーの首根っこを掴み上げ、ヤマタがジト目でジーッと睨む。
 ごるびーも空中でバタバタと暴れていたが、勝ち目がないと分かった途端、だらりと肩を落として観念する。
『それじゃ、特訓開始だよ!』
 勢いよくごるびーを海にむかって放り投げ、ヤマタが元気よく波にむかって走り出す。
 あまりの恐怖にごるびーは暴れているが、ヤマタの特訓が休まる事はないようだ。
「いやぁ、海だねぇ。こんないい天気に大波。泳ぐのには最適だな。しかし、こんな場所まで来て肌を隠すのはいかんな。折角の海なのだから心も身体もおーぷんでないと」
 褌一丁になってニヤリと笑い、愛染鼎(ea3082)がヤマタの胸当て(水着)を奪う。
『こ、こら、僕の胸当てを返せぇ〜』
 水着を奪われてしまったため、ヤマタが慌てて鼎を追いかける。
「ふふふっ‥‥、このちちばんどを返して欲しいのなら、本気でうちにかかってくるのじゃ! ほれほれ、他の者達もこうじゃぞぉ〜♪」
 次々と女性達の胸当てを奪い取り、鼎が高々と掲げて笑う。
「ちょっと恥ずかしいアルね」
 恥ずかしそうに胸を隠し、ミンメイがポッと顔を染める。
 あまり薄着になる事がないためか、物凄く恥ずかしい気持ちになっているらしい。
「ぬおおおおおお! ミンメイちゃんが恥らう姿を見れて俺は本当に幸せだああ〜♪ ナイスジョブだ、鼎!」
 危うく鼻血の海に沈みそうになりながら、連十郎が幸せそうに親指を立てた。
 よほどミンメイの恥らう姿が魂の琴腺に触れたのか、連十郎が心のアルバムを埋め尽くすほどの勢いでページをミンメイ一色に染めていく。
「これで旗を作ったら楽しそうじゃな〜。みんなうちの言いなりじゃぞ」
 戦利品である胸当てを自慢げに振り回し、鼎が勝ち誇った様子でニヤリと笑う。
 ヤマタ達も自分の胸当てを取り戻すため、本気で鼎を捕まえようとしているようだ。
「みんなでじゃれあうのもいいが、ごるびーの特訓も忘れてもらっては困るな」
 わざとらしく咳をして、依頼主をジト目で睨む。
 ごるびーも波打ち際で板切れを突き立て、暑さのあまりグッタリとしている。
「‥‥無理じゃ。うちが断言しよう」
 依頼主の顔をジーッと睨み、鼎がキッパリと言い放つ。
 何とか海には慣れてきたようだが、板切れの材質が悪いため、とても波乗りできる状況ではない。
「そこまで断言されてしまうと、わしも返す言葉が全くないな」
 大粒の汗を浮かべながら、依頼主が返答に困る。
 もともとミンメイが出来ると言って引き受けた依頼なので、ここまで冒険者達に否定されてしまうと、本当に期待していいのか分からない。
「そんな事よりも‥‥。そなた、結構うちの好みじゃな。どうじゃ、あちらの岩陰でイイコトしないか?」
 色っぽく褌を脱ぎ捨てニコリと笑い、鼎が身体を密着させる。
「いや、いまはそんな気分じゃ‥‥」
 普段からごるびーの金をピンハネして私腹を肥やしている依頼主にとって、女遊びなど日常茶飯事であるため少し困っているようだ。
「うちの胸であんな事やこんな事まで出来るんじゃぞ。おぬしだってこういう事が嫌いなわけじゃなかろう」
 依頼主の顔を胸の谷間に挟み込み、鼎が甘い言葉を囁いた。
「青い空! 白い雲! 光輝く海!! そして薄着の女の子ぉぉ!!」
 女性陣のサービスショットをバックに拳を握り、鋼蒼牙(ea3167)が感動のあまり涙を流す。
 ジャパンでは海水浴という習慣がないため、女性が水着姿になる事はないのだが、鼎のおかげで予想以上の収穫だったらしい。
「そう、浪漫! 覗きとか云々も漢の浪漫!! そう、俺は浪漫の探求者!!」
 拳を突き上げるようにして雄たけびを上げ、蒼牙が様々な妄想を脳裏にグルリと巡らせる。
 目の前では鼎と依頼主が禁断の領域に足を踏み入れようとしているため、ベストポジションで貴重なシーンを心に刻むつもりらしい。
「きゅ〜‥‥」
 智実との特訓に疲れ、グッタリとするごるびー。
 特訓疲れのためか、汗で池が出来ている。
「‥‥そうだったな。今回のメインは覗きじゃない。今回の目的は‥‥そう、教え子の熱血指導! その教え子はもちろんごるびーだ! ‥‥ごるびーよ、貴様も漢ならば、波に乗ってみせるんだ!!」
 気合を入れて拳を握り、蒼牙がごるびーを睨む。
「‥‥きゅ☆」
 するとごるびーは内股になって瞳を潤ませ、女の子になったフリをする。
「誤魔化しても無駄だっ! 逃げていたら何も始まらない! そう、お前が諦めなければ、いつかは成功する! 絶対に成功する方法って知ってるか? それは成功するまで続けるという事だ!」
 ごるびーを板切れの上に乗せて放り投げ、蒼牙が青空に輝くカワウソの星(ありません)を指差した。
「波乗りというのは不測の事態にもそれを乗りこなければ駄目だ! これが俺のおくる試練だ!!」
 海にむかってオーラショットを叩き込み、蒼牙がごるびーを鍛えていく。
 ごるびーは迷惑そうに板切れにしがみついているものの、先程と比べて波の乗り方がうまくなったようにも見える。
「負けるな、ごるびー! あの波をおまえの彼女だと思うんだ!」
 やけに大きな波を指差し、蒼牙が暑く断言した。
「きゅ〜〜〜〜」
 そしてごるびーは大波の中へと姿を消した‥‥。

●三途の川で夢心地
「大丈夫か、ごるびー。随分と水を飲んだようだな」
 水を飲んで風船のように膨れ上がったごるびーを心配し、新城日明(ea6050)がそれんと駆け寄り声をかける。
「きゅっ!」
 三途の川で家族達と再会したのか、ごるびーの表情はどことなく幸せそうだ。
「‥‥少し休め。そんな身体で大波に立ち向かっても勝ち目はない」
 ごるびーを心配するそれんに麦茶を渡し、日明がごるびーにもスイカを差し入れする。
 ごるびーは凄まじい勢いでスイカをかじり、その種をマシンガンのようにして吐き出した。
「それも十分な芸だと思うんだが‥‥」
 再び大波に挑もうとしているごるびーを見つめ、日明が驚いた様子でツッコミを入れる。
 ごるびーにとってスイカの種飛ばしは大した事でもないため、日明の言葉を聞いてもキョトンとした表情を浮かべてきゅーっと鳴く。
「それじゃ、気を取り直して頑張るか。俺も応援してやるからな!」
 愛用のハチマキをそれんと一緒に赤に変え、日明が気合を入れて立ち上がる。
 純白の褌を揺らしながら‥‥。
「おてんとさまのおぼしめしーっ☆ おんなのこをよろこませるのが、おとこのこのおしごとなのよっ! がんばってね、ごるびー!」
 それんの首と尻尾にリボンをつけておめかしさせ、ジュディス・ティラナ(ea4475)が一緒になってごるびーの事を応援する。
 それんはティラナの言っている言葉を理解する事は出来ないが、大波と戦っているごるびーの姿を見て心配した様子できゅーっと鳴く。
「ふれーふれーご・る・びーっ! がんばれがんばれご・る・びーっ! だいすきなそれんちゃんにおっきなきぼうをみせるのよ〜☆」
 丸くてふかふかなものを両手に持ち、ティラナがそれんと一緒になってごるびーにむかって声援を送る。
 ごるびーもティラナ達の応援に気づいて大きく手を振り返そうとするが、大波に飲まれてそのまま岸まで流された。
「大丈夫か、ごるびー!」
 再び三途の川を渡ろうとしていたごるびーを前後に揺らし、日明が何とか意識を取り戻させようと試みる。
 ごるびーも今度は怖い相手に会ったのか、きゅーっと鳴いて飛び起きた。
「そんなことじゃ、おんなのこのはーとをげっとすることはできないよー! ふぁいとよ、ごるびー!」
 腑抜けと化したごるびーを抱き上げ、ティラナがそれんと一緒に気合を入れる。
 しかし、気力が尽きてしまったためか、ごるびーもなかなか立ち上がろうとしない。
「‥‥仕方ない。アレをやるか。ほれ、おまえの大好きなイカだ。生きているのを見るのは初めてだろう? 海にはこういうのがたくさんいるぞ」
 海で捕まえてきたイカをごるびーの目の前で揺らし、銕三郎がニコリと笑って海の方を指差した。
 ごるびーはすぐさまイカにかぶりつき、一気に平らげてしまうと海にむかって走り出す。
「ほんとうにいかがすきなんだね」
 唖然とした様子でごるびーを見つめ、ティラナがボソリと呟いた。
 ごるびーは大好物のイカが海にたくさん泳いでいると知ったためか、ギラリと輝くハンターの瞳になって海にザブンと飛び込んだ。
「‥‥ありゃ。何だか間違った方向に頑張っているな」
 苦笑いを浮かべながら、銕三郎がごるびーの安否を気遣った。
 確かに海に立ち向かう勇気を取り戻したようなのだが、波乗りする気がないのか水中に潜ったままなかなか顔を出そうとしない。
「それじゃ、そろそろワタシは帰るアルよ」
 ごるびーが波乗りをマスター出来そうにないと確信したため、ミンメイが気まずい様子で依頼主から背をむける。
「ミンメイさんも一緒に頑張りましょう」
 ミンメイにむかってロングソードを突き出し、セレナ・バーグランド(ea2505)がニコリと笑う。
 セレナにもミンメイがトンズラすると分かったのか、笑顔の中にも何か警告めいたものが輝いている。
「わ、分かった‥‥アル」
 大粒の汗を浮かべてセレナを見つめ、ミンメイが力強く何度も頷いた。
 ‥‥やはり命は惜しいらしい。
「ちょっと待った! 俺のミンメイちゃんをキズモノにしたらタダじゃおかねぇぞ!」
 セレナの持っていたロングソードを弾き飛ばし、連十郎が警告まじりに睨みをきかす。
「大丈夫か、ミンメイちゃん。逃げる時は‥‥一緒だ!」
 ミンメイの右手をギュッと掴み、連十郎が脱兎の如く逃げ出した。
「こ、こら!」
 連十郎にむかって石を投げ、セレナが呆れた様子で溜息をつく。
 本当なら追いかけるつもりでいたのだが、馬鹿らしくなったため途中で諦めてしまったらしい。
「でも石はクリティカルヒットだな」
 気絶している連十郎を見つめながら、日明が同情した様子で両手を合わす。
 よほど打ち所が悪かったのか、ブクブクと泡まで吹いているようだ。
「きゅ♪」
 その間にごるびーがイカをくわえて陸に上がり、セレナに対して右手を上げて挨拶した。
「いい所に来ましたね、ごるびーさん。精霊のご加護を信じて大波と一心同体となり輝く太陽と煌めく海に華麗な軌跡を描きましょう!」
 力強く海を指さし、セレナが拳を握り締める。
「きゅ!」
 ごるびーもイカを食べて気力が完全に回復したのか、板切れを脇に抱えて海にむかってぺたぺたと歩く。
「がんばってね、ごるびー♪」
 ぴょこぽんと飛び上がり、ティラナがごるびーを応援する。
「きゅきゅきゅ!」
 するとごるびーは板切れの上に飛び乗ると、きゅっと鳴いて目の前の大波に立ち向かう。
「おっ、ごるびーが波乗りしてる!」
 驚いた様子で海を指差し、蒼牙が感動した様子で拳を握る。
 ごるびーは見事に波を乗りこなし、蒼牙達にむかって元気よく手を振った。
「まさかこんなに早くマスターできるなんて!」
 波乗りできた事が信じられないのか、セレナが表情を強張らせる。
「これなら報酬も全額ゲットできるアルね」
 依頼主との前に立って両手を突き出し、ミンメイが嬉しそうに報酬を全額要求し始めた。
「‥‥仕方ない。約束だからな」
 依頼主も最初は報酬の支払いをためらっていたが、しぶしぶ報酬の入った袋を渡す。
「何だかおかしくありませんか?」
 ごるびーを乗せた波が普通の波とは違うため、セレナがじーっと目を凝らす。
 波の中には不気味に輝く二つの目があり、セレナ達にむかって大きな口を開く。
「全速力で逃げるのじゃ〜!」
「まさか、あれって‥‥?」
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、日明が大粒の汗を流す。
 その隙にミンメイが依頼主の頭を殴り、鼎が仲間達を連れて全速力で逃げていく。
 波の中に潜んだモノの正体は分からなかったが、ごるびーが無事に帰ってきたためイルカか亀だったのかも知れない。
 とりあえず依頼主から報酬が貰えたため、ミンメイも上機嫌で冒険者達に報酬を配る。
 その後、依頼主が目を覚ましたがごるびーが波乗りした直後の記憶が曖昧なため、ミンメイが話を脚色しうまく丸め込んでしまったらしい。
 ごるびーが波乗り出来なかった事を知らされぬまま‥‥。

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