●リプレイ本文
「‥‥人面蝶か。相手をして気持ちの良いものではないが、これも仕事だ。どんな相手だろうが全力を持って当たる。私は冒険者だからな」
捕獲用の網と箒を肩に担ぎ、デュラン・ハイアット(ea0042)が森の中を歩いていく。
何処から人面蝶が現れるか分かっていないため、デュランも常に警戒を怠らない。
「人の顔をしているだけで、人のような呼吸をしているわけではないのだろうな‥‥。加えて、森の中では判断もしづらい‥‥。まあ、奇妙な声で鳴くとも聞くし、やるだけやってみるか‥‥」
自分の愛馬を村に預け、天城烈閃(ea0629)が定期的にブレスセンサーを使用した。
「人面蝶かぁ‥‥。気色悪いけれど、困っている人がいるなら退治しないと‥‥! 一気に人面蝶を全部倒せたらいいんだけど‥‥そうも行かないよね。だったら、私が薬を作って人面蝶を追い払えるようにしたいな」
大量のニンニクを摩り下ろし、アオイ・ミコ(ea1462)が除虫菊と一緒に水を混ぜる。
人面蝶に効果があるかどうかは不明だが、いまのうちに出来るだけの事はしておきたい。
「さてと、久しぶりの仕事だ! 腕が鳴るぜ!! 俺は細かいことを考えるのは苦手だからな〜。あんまり面倒な事は押し付けるなよ。つーか、なんだこの臭いは‥‥」
ミコの作った除虫剤の臭いに表情を強張らせ、アール・シュヴァイツェン(ea1164)が鼻をつまむ。
あまりに臭いがキツイためか、今にも倒れそうになっている。
「人体にはたぶん害がないと思うけど‥‥。みんなグッタリしているね‥‥」
驚いた様子で汗を流し、ミコが除草剤の入った樽にフタをした。
何とか一命を取り留めたものの、使用の際は十分に注意しておく必要があるようだ。
「とりあえずお馬さんを多い尽くすって事は、何十匹も居るって事だよね? だったら最終手段として使ってみるのもいいかもね」
少し離れた場所で深呼吸をしてから、狩多菫(ea0608)が苦笑いを浮かべて呟いた。
「それじゃ、俺とミコで偵察に行くか。一応、馬にはマントを掛け、虫除けを塗っておいてくれ。馬は臭いを嫌がるだろうから、なるべく薄めたものを塗るんだぞ。途中で倒れてしまったら、それこそ人面蝶の餌食だからな」
自分の馬に虫除けの液体を塗りたくり、鷲尾天斗(ea2445)がミコを連れて偵察にむかう。
奇妙な液体を塗られて馬が嫌な表情を浮かべていたが、人面蝶の餌食にするわけにはいかないため、これだけは我慢してもらうしかないだろう。
「めひひひひんが物凄く嫌がっているんだが‥‥」
めひひひひんに頭を噛まれてドクドクと血を流しながら、湯田鎖雷(ea0109)が何とか虫除けの薬を塗ろうと試みる。
しかし、めひひひひんは虫除け剤の臭いを嫌い、鎖雷の頭をヨダレまみれにしながら抵抗し続けた。
「そういう場合はこれを使うといいわよ。これならめひひひひんも嫌がらないでしょ?」
虫除けの薬が塗られた馬用の外套を被せ、レオーネ・アズリアエル(ea3741)がニコリと微笑んだ。
もしもの場合を考えて徹夜で馬用の外套を作っていた事もあり、めひひひひんも上機嫌な様子で自慢した。
「‥‥そんなものなのか。なかなか複雑なものだな」
疲れた様子でめひひひひんを見つめ、鎖雷がぺたんと寝転がる。
頭を噛まれてしまったため、意識が朦朧としているらしい。
「それじゃ、しばらくしたら俺達も出発だ! 商人達は俺達が命懸けで守り抜く!」
外守りと内守りの二重の囲いで商人達を護衛し、伊達正和(ea0489)が仲間達にむかって気合を入れる。
恐怖で足がすくまないように‥‥。
「なんだか薄暗い森だね。お化けでも出てきそうな予感‥‥」
怯えた様子で天斗の身体にしがみつき、ミコが身体をブルブルと震わせる。
森の中からは奇妙な鳥の鳴き声が聞こえるため、依頼で森に来ていなければ逃げ出しているところである。
「そんなにべったりとへばりつくな。前が見えないだろ」
苦笑いを浮かべながら、天斗のミコの腰を掴んで馬に乗せた。
「だって怖いんだもん。私が食べられちゃったらどうするの?」
怖い想像を駆け巡らせ、ミコが涙目になって天斗を睨む。
「‥‥確かにそれは困るな。化けて出てきそうだからな」
ミコの頭をヨシヨシと撫でながら、天斗が笑い声を響かせる。
「あ〜、ひど〜い」
頬をぷぅっと膨らませ、ミコが天斗の胸をポカポカと叩く。
「ははっ、冗談だ。それよりもあの黒い影‥‥、なにか嫌な予感がしないか」
何か黒い影が急接近してきたため、天斗が警戒した様子で馬から下りる。
「嘘‥‥。あんなにたくさんいるの?」
ハッとなった様子で人面蝶の群れを見つめ、ミコが慌てて天斗の後ろに避難した。
「‥‥やるしかないな。仲間達が来るまでさ」
祈るようにして刀を引き抜き、天斗がゴクリと唾を飲む。
いつまで持つか分からないが、このまま逃げるわけには行かないようだ。
「まじかる薬師アオイミコ惨状! 私の薬を受けてみれーっ!」
虫除けの液体が入っている樽を人面蝶の群れにかけ、ミコがあまりに臭さに逃げ帰る。
人面蝶は大量に液体を浴びたため、狂ったように飛び回り森の奥へと逃げていく。
「‥‥意外と効果があったな。この臭いは我慢できないが‥‥」
警戒した様子で人面蝶を睨みつけ、天斗が日本刀を振り下ろす。
「何をやっているんだ。早くこの事を仲間達に知らせてくれ!」
ミコを遠くに逃がすため、天斗がオーラボディを発動させ、わざと人面蝶の群れに突っ込んだ。
「う‥‥、うん」
ミコもはじめは躊躇していたが、小さく頷き飛んでいく。
天斗の思いを決して無駄にはしないため‥‥。
「あれが人面蝶?! ‥‥何か不気味だよぉ〜」
ミコからの連絡を受け、菫が人面蝶の群れから視線をそらす。
「‥‥助かった。マジで死ぬかと思ったぜ」
愛馬にも逃げられてしまったため、天斗が涙目になって菫にぎゅっと抱きついた。
本当に怖くて仕方がなかったのか、仲間達の顔を見て心底ほっとした様子である。
「‥‥かなりの数だな。だが、俺の技を試すには丁度いいか‥‥」
釣り糸のついた矢を番え、烈閃が人面蝶めがけて放っていく。
人面蝶は烈閃の脚に噛み付くと、その肉を乱暴に引きちぎる。
「ぐっ‥‥、これは効いたな」
険しい表情を浮かべて後ろに下がり、烈閃が脚に包帯を撒いていく。
「大丈夫か? こりゃ、覚悟が必要だな」
烈閃を守るようにしてロングソードを構え、アールがチィッと舌打ちする。
「寄ってくる人面蝶を全て斬り伏せればいいだけの事です」
人面蝶を確実に一体一体倒していき、瀬戸喪(ea0443)が日本刀についた血を払う。
「あれ殴ったら祟られそうだな〜。後でお払いをしてもらった方がいいかな〜」
真顔で人面蝶を見つめて悩み、暁峡楼(ea3488)が両手を合わす。
人面蝶が自分の知っている人達の顔に似ているような気がしたため、峡楼が妙な寒気を感じて後ろに下がる。
「だったらこうすればいいんじゃない?」
ストームを使って人面蝶の群れを巻き上げ、ファラ・ルシェイメア(ea4112)がニコリと笑う。
人面蝶はストームを食らって羽が傷つき、バタバタと地上に落ちていく。
「いくぞ、めひひひひん。こ、こら、馬鹿! 突っ込みすぎだっ!」
めひひひひんの身体に下半身を固定し、鎖雷が飛来する人面蝶の羽を切り裂いた。
「風切りと呼ばれた俺の技を食らえ!」
たいまつを振り回して人面蝶を威嚇し、正和が手刀でソニックブームを放つ。
「だが、これでは埒があかんな」
自分の身体に噛み付いてきた人面蝶をナイフで突き刺し、デュランがリトルフライを使って飛び上がり、上空から人面蝶の群れにむかって網を落とす。
「‥‥残り半分くらいかな。もっと集まってくれるといいんだけど‥‥」
フレイムエリベイションを発動し、菫が弓矢にバーニングソードを付与して放つ。
「見れば見るほど不気味な蝶ね。‥‥あんまり、自分も噛まれたくは無いかも‥‥」
なるべく人面蝶に近寄らないように警戒し、レオーネがシュライクで人面蝶を撃退する。
「そーいやおめえさん、病患ってんだよな? 養生しろよ」
レオーネと背中合わせになりながら、正和がニヤリと笑って人面蝶を叩き落とす。
「正和! マズイ事になったぜ。コイツらの鱗粉は毒だぜ」
人面蝶の毒にやられて膝をつき、アールが表情を強張らせる。
「商人達を別の道から進ませて正解だったわね」
なるべく人面蝶から遠ざかり、峡楼が視線をそらす。
人面蝶と戦う事を躊躇しているためか、なかなか攻撃をしようとしない。
「降り注ぐ死の雨、とくと味わえ‥‥」
クイックシューティングとダブルシューティングEXを駆使し、烈閃が人面蝶を次々と仕留めていく。
「早めに片付けてしまいましょう。僕達の身体に毒が回る前に‥‥」
右肩の傷口から染み込んだ毒が回り始めたため、喪がフラフラとしながら人面蝶を睨みつける。
「のんびりと詠唱している暇はなさそうだな」
ライトニングサンダーボルトを使って一気に人面蝶を撃退し、ファラが仲間達の援護にむかう。
「必殺! 『黒い流星』」
上空から人面蝶を狙って落下し、デュランが地面へと着地する。
大半の人面蝶が倒されてしまったため、他の人面蝶がフラつきながら逃げていく。
「何とか撃退できたわね」
額に浮かんだ汗を拭い、菫がその場にペタンと座る。
「早く村に戻って毒消しを作る必要がありますね」
人面蝶の死骸を回収し、峡楼が゛両手を合わす。
何処か自分の身内に似ている顔をしていたが、きっと気のせいなのだろう。
なるべく忘れるつもりでいるようだ。
「外套のおかげで馬の被害は少ないようですね」
ずっと後ろで待機していた馬の頭を撫でながら、喪がホッと胸を撫で下ろす。
「服は洗うより新調した方が早いな」
鱗粉のついた服を脱ぎ、デュランが大きな溜息をつく。
迂闊に洗って毒を流すわけにも行かないため、今回の依頼できていた服は捨てるしかないだろう。
「今日も〜何故だかぁ危険な目に遭ったな〜。‥‥アオイ、家に帰ったら一緒に風呂入って背中流せ」
ミコにむかって声をかけ、天斗が馬に飛び乗った。
彼女も言われる事を予想していたのかコクンと頷き、天斗の後ろをついていく。
「それじゃ、俺も帰るかな。人面蝶の羽根は売り物にもならないだろうし‥‥」
めひひひひんの裸中に飛び乗り、鎖雷が空を見上げて呟いた。
‥‥命があっただけでも、まだマシか。
いまにもそんな声が聞こえてきそうな雰囲気だ。
「‥‥気味の悪い蝶だったわね。私は水浴びしてから帰るとするわ。もちろん、人面蝶達の出ない場所でね」
そう言ってレオーネは含みのある笑みを浮かべると、仲間達に別れを告げ湖にむかって歩き出した。