●リプレイ本文
「‥‥生贄騒ぎですか。まったく余所者がこういう時に通ると被害に遭う事が多くて困りますね」
シフールから依頼の内容を確認し、刀根要(ea2473)が大きな溜息をつく。
ただでさえ村人達は大蛙が現れた事で混乱しているのに、老婆が煽り立てる事でさらなる拍車がかかっている。
「シフィールを蛙に食わすのは不味いでござる。私の好きな方もシフィールなのだ。月華がそうなるかも知れん前例は全力で潰すでござるよ」
自分の愛しい人を守るため、甲斐さくや(ea2482)が蛙退治を決意した。
大蛙がシフールの味を覚えてしまったため、このまま野放しにしておく事は危険である。
「今回はふんどし締めなおしてかからねぇとな」
別の依頼で失敗してしまった事を反省し、日向大輝(ea3597)が自分自身に気合を入れた。
「しかし‥‥なんでシフールなんだろうねぇ? ジャパンにほとんどいないシフールを生贄にするなんて、少しおかしくない? ‥‥あんた。何か婆さんに恨まれる様な事したんじゃないの??」
依頼主であるシフールの胸倉を掴み、御藤美衣(ea1151)がジト目で睨む。
「ジャパンで珍しいから狙われるんだろ! おいらだって好きで生贄になったわけじゃないぞ!」
大きく頬を膨らませ、シフールが美衣をポカスカと叩く。
村人達に悪さを働いた覚えがないため、とても迷惑しているらしい。
「ところでシフィール君の名前はなんだい? いつまでもシフィール君じゃ気分が悪いだろ?」
興奮気味のシフールをなだめ、要がニコリと微笑んだ。
「おいらの名前かい? フィルって言うんだ。宜しくな!」
人懐っこい笑みを浮かべ、フィルが要のまわりを飛びまわる。
「こぅらぁ! こんな所にいたのか! 早く村に戻るんじゃ!」
般若のような表情を浮かべ、老婆がクワを片手にフィルを脅す。
老婆の後ろにはたくさんの村人達が集まっており、その手には普段から愛用している農具が握られている。
「生贄なんて、駄目なんよ。数多の孤裡妖怪がいようと、うちは認めませんよ」
フィルを守るようにして両手を広げ、グラス・ライン(ea2480)が老婆を睨む。
「なぁにを言っておるかぁ! 村の存亡が関わっておるのじゃぞぉ〜」
腹の底から言葉を吐き捨てるようにして、老婆が狂ったようにクワをブンブンと振り回す。
「なんだかいかにも怪しい老婆ね。例えるなら事件の黒幕って感じ。本当はあんたが仕組んだ事じゃないの?」
疑惑の目を老婆に移し、美衣がボソリと呟いた。
「失礼な! 蛙様の天罰が下がるぞ! なんまんだぶ、なんまんだぶ!」
美衣を見つめて念仏を唱え、老婆が呪いの言葉を吐き捨てる。
「か、勘弁してよ。あたいは大蛙を退治してくれる。こっちは宜しく〜」
村人達の異様な気配を察し、美衣が苦笑いを浮かべて逃げていく。
「こぅらぁ! 蛙様のバチが当たるぞ!」
持っていたクワを放り投げ、老婆が美衣を追い掛け回す。
「ババアてめー頭がマヌケか? 生贄なんぞで本当に村が救えると思っとるのかよー!」
鬱陶しそうに小太刀を引き抜き、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が老婆達を威嚇した。
「そ、そんな事で怯む我らではないぞ!」
あからさまに動揺した表情を浮かべ、老婆が腰から鎌を引き抜き後ろに下がる。
「依頼人殿を生贄にしようなどというクソバカどもは全員ブッた切ってくれるぜェ!」
いまにも斬りかかりそうな勢いで、ヴァラスが小太刀を振り下ろす。
村人達もヴァラスが本気だと思ったのか、気まずい様子で口ごもる。
「皆様、落ち着かれてください。毒蛙は山を越えた湖にむかおうとした途中で、たまたま村に立ちよっただけにございましょう。あれは理由もなく水辺から水辺へと渡るものですから。なに、少し脅かせば逃げていくものです」
興奮気味の村人達をなだめるため、矛転盾(ea2624)がニコリと微笑んだ。
「もっと笑顔でいなきゃ。そんな怖い顔をしていたら、福の神様だって小走りで逃げてまうで」
村人達から危険な農具を回収し、音羽でり子(ea3914)が老婆の前で立ち止まる。
「わしは騙されたりせんぞ! こやつらは妖怪じゃ!」
自分の立場が危うくなり始めたため、老婆がでり子の喉元に鎌を突きつけ村人達に警告した。
「ウチが妖怪やて!? それは面白いシャレやな」
老婆の頭をぽふぽふ叩き、でりこが大袈裟に笑う。
「わしを馬鹿にする気か! この妖怪め!」
鎌をブンブンと振り回し、老婆がでり子を挑発する。
「もう少し冷静になってよ。僕達が妖怪だって根拠は何? キミ達を騙したって何のメリットもないでしょ?」
呆れた様子で老婆を見つめ、常緑樹(ea4068)が大きな溜息をつく。
「そ、それは‥‥」
何の根拠もなかったため、老婆が気まずく視線をそらす。
「とにかく俺達は怪しい奴じゃない。信じてもらえないかも知れないが‥‥。少なくとも蛙達を村から追い出す事は出来るぞ」
優しく声を掛けながら、伊東登志樹(ea4301)が老婆から鎌を奪い取る。
「こ、こぉら! 鎌を返さんか!」
油断した隙に鎌を奪い取られてしまったため、老婆が鎌を取り返そうと手を伸ばす。
「落ち着いてください。確かにモンスターの中には各が高く、高い知性を持ち守り神や土地神と呼べるものも存在していますが、今回の兼は生存競争の為に侵攻と考え、これ以上村への手出しはさせないようにしようと思っています。あなた達だって何処かおかしいと思っているはずです」
老婆がなかなか納得しようとしないため、山王牙(ea1774)が村人達にむかって訴えかける。
村人達も少しずつ冷静になり始めたのか、牙達の言葉に次第に心を開いていく。
「‥‥仕方ないでござるね。本当なら隠しておきたかったんでござるが‥‥」
真剣な表情を浮かべ、さくやが村人達の前に立つ。
村人達もさくやのただならぬ雰囲気に唾をゴクリと飲み込んだ。
「はっ!」
それと同時にさくやが大ガマの術を使って大きなガマを召喚する。
「か、蛙様!?」
さくやの召喚した蛙に驚き、村人達が腰を抜かす。
老婆などはさくやを蛙の使いと思い込み、必死になって拝んでいる。
「私は大ガマを支配下に置いているでござるよ。生贄を差し出せといったのは何方でござる。こいつ等、蛙は生贄なんぞ求めておらぬ。それでも出すのならお前がなればよい」
老婆を見つめて邪悪な笑みを浮かべながら、さくやが老婆の肩を優しく叩く。
老婆は飛び上がるほど驚き悲鳴をあげ、再び両手を合わせて拝みだす。
「これで分かりましたか? 少なくとも村にいる蛙は悪い蛙達ですよ」
村人達にむかって話しかけ、要が老婆に優しく手を差し伸べる。
老婆は何も話そうとしなかったが、要達のいいたい事とは分かったらしい。
「私も僧兵という職業柄、化蛙の類とは幾度か渡りあっております。漂う妖気からして、件の大蛙は格下のものにございますね。毒蛙の使役などとてもとても。皆様、あとは何もかも私共にお任せくださいませ」
村人達を安心させるため、盾が蛙退治を約束する。
「人を呪わば穴二つ‥‥。生贄などという方法が、いつまでも上手くいくはずがない。俺達が来なければ、次は我が身だったと言うことを、肝に銘じておくんだな」
落ち込む老婆の横を通り過ぎ、ナバール・エッジ(ea4517)が村にむかう。
老婆には可愛そうな事をしてしまったが、罪もないシフールを生贄にしようとしたのだから、その罪は償う必要があるはずだ。
「これで毒蛙の毒を防ぐ事が出来るはずだ」
現地で調達してきた木材を使って簡単なバリケードを作り、登志樹が木材使って作った盾を仲間達に配っていく。
あまり時間がなかったため簡単なものしか作る事が出来なかったのだが、それでも毒を防ぐ事ぐらいは出来そうだ。
「もしも身体に毒がまわったら、遠慮なくうちに声をかけてくれてええんやで。うちがアンチドートをかけるから」
ゲコゲコと集まり始めた毒蛙達に気づき、グラスがホーリーを使って確実に退治する。
グラスの攻撃を喰らって弾け飛んだ毒蛙は、異様な臭いを漂わせ地面を黒く染めていく。
「なるべく討ち漏らしがないようにしないとね」
オーラパワーを発動させ、緑樹が毒蛙を潰す。
「そんな事をしなくても、これで十分でござるよ」
春花の術を使って毒蛙の群れを眠りにつかせ、さくやが忍者刀を突き刺しトドメをさした。
「なるべく返り血を浴びないようにしないとな」
マントを使って毒を防ぎ、大輝が地道に毒蛙を倒していく。
「毒蛙の数が多ければミミクリーを使って威嚇しようと思いましたが、この様子なら大丈夫そうですね」
ブラックホーリーを使って毒蛙を倒し、盾が大量の卵を見つけて動きを止める。
「どうやらこれが理由らしいな。蛙達には悪いが潰させてもらう」
蛙の卵をソニックブームで破壊し、エッジが盾を使って返り血を防ぐ。
「蛙の群れが村に集まっていた理由も分かったな」
ざわざわと集まってきた村人達に気づき、登志樹がグチャグチャに潰れた蛙の卵を指差した。
「これで分かったやろ。シフールを生贄にする必要なんてないんやで」
落ち込む老婆の肩を叩き、グラスがニコリと微笑んだ。
老婆も自分が間違っていた事を理解したのか、トボトボと自分の家に戻っていく。
「‥‥これで残るは大蛙か」
そう言って大輝が大蛙退治にむかった仲間達を心配する。
大輝の予想が正しければ今頃きっと‥‥。
「うわっ‥‥、ヌルヌルしていて気持ち悪い」
大蛙の舌に捕らえられ、美衣が険しい表情を浮かべて愚痴をこぼす。
まるで脂ぎった親父の抱きつかれたような感覚が美衣の全身を駆け巡る。
「しばらくトラウマになりそうですね」
松明を大蛙の舌に押し付け、要が日本刀を振り下ろす。
大蛙の舌は途中で切断されてしまったため、大量の血が辺りにむかって撒き散らされる。
「このド汚ねェクソ蛙がァ――! しゃぶれッ! 俺の小太刀をしゃぶりやがれッ! このド汚ねえのがァ――ッ!」
大蛙の口にむかって小太刀を突き刺し、ヴァラスがそのまま引っ張り臓物を辺りに撒き散らす。
「ヒャヒャヒャ!! やっぱカエルの子はカエルやな!」
仲間達によって退治された大蛙を見つめ、でり子がケラケラと笑い出す。
美衣が毒蛙に捕まるまではかなり苦戦していたのだが、彼女が捕まった事で大蛙に隙ができ、なんとか勝利する事が出来たらしい。
「一時はどうなるかと思っていましたが‥‥。あなたには感謝しなくてはなりませんね」
ホッとした様子で美衣を見つめ、牙が日本刀を鞘に収める。
「あたいは最悪なんだけど‥‥。うわぁん、まだヌルヌルする‥‥」
背筋にゾッと寒気を感じ、美衣が大蛙の骸を蹴り飛ばす。
すでに大蛙は息絶えているが、未だに気持ち悪さが残っている。
「これは土産に持っていくか。大蛙を倒した証拠にもなるしな」
地面に転がっていた舌を担ぎ、エッジが村にむかって歩き出す。
「というわけで大蛙の危機も去り依頼人殿も生贄にされずめでたしめでたしといったところか。やれやれだねェ〜」
そしてヴァラスは小太刀についた血を拭い、エッジの後を追いかけた。
本当の意味でフィルを安心させるため‥‥。