●リプレイ本文
「人質を保存食にするなんて、蜘蛛くんは賢いんだねえ‥‥って感心してる場合じゃないか。とりあえずさ。事前に色々用意しておくべきだよね」
仲間達を集めて酒場にむかい、外橋恒弥(ea5899)が必要な道具を集めておく。
戦闘中に何が起こるか分からないため、道具の手入れも念入りである。
「まぁた気持ちワリィ奴が出てきたもんだなぁ。ま、問題なく狩るがね」
のんきに酒を呑みながら、三宝重桐伏(ea1891)がニヤリと笑う。
それほど警戒していないため、他の冒険者と比べて気楽である。
「‥‥無益な殺生は好まないが‥‥人様に迷惑を掛けるのであれば仕方無い‥‥。土蜘蛛の強さや素早さは我々を優に上回ると予想する‥‥更に2匹となれば油断は禁物だ‥‥」
土蜘蛛の強さを警戒し、丙鞘継(ea2495)が辺りを睨む。
銭湯では思うように身動きが取れないため、仲間達との連携が重要になってくる。
「何故、銭湯に土蜘蛛が‥‥?」
不思議そうに首を傾げ、ララ・ルー(ea3118)がボソリと呟いた。
「ま、酒代が稼げりゃいいんじゃねぇか」
酒を一気に飲み干し、桐伏がお代わりを頼む。
土蜘蛛と戦っている間は酒を呑む事が出来ないため、ここで多めに飲んでおくらしい。
「ギルドの情報だと娘さん達には卵が産み付けられています。最悪、彼女達は助けられないかも‥‥」
銭湯の主人から現場の間取りを教えてもらい、闇目幻十郎(ea0548)が潜入経路を吟味する。
場所が銭湯と言う事もあり、潜入経路は限られているが、何とかするしかないだろう。
「‥‥目的はあくまで敵の殲滅。それが最上の使命‥‥。そのためなら手段を問う暇は無い‥‥」
人質となった者達の救出が不可能であると判断し、緋室叡璽(ea1289)が覚悟を決める。
土蜘蛛の強さが半端ではない事を知っているため、少しの油断が命取りである事を理解しているらしい。
「卵の摘出を寺に依頼してみてはどうでしょうか。出来る限り魔法で凍らせて娘さん達を持ち込みますので。さすがに殺してしまうのは、酷過ぎますから‥‥」
人質が生きている可能性に賭け、神有鳥春歌(ea1257)が静かに祈る。
銭湯の主人も娘の安否を気遣っているため、どんな形であれ娘達が生きていればきっと喜ぶ事だろう。
「やってみる価値はあるな。あとで銭湯に主人に言っておくか。さてと‥‥、それじゃ、こっちが餌にされないように頑張りますか‥‥」
そう言って孫陸(ea2391)が仲間達を連れ、銭湯にむかって歩き出した。
「人質になっているのは娘さんだけやないな。何人かの客も捕まっているようや」
デティクトライフフォースを使って人質の位置を確認し、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)が銭湯の中へと入っていく。
室内は蜘蛛の糸で覆われているため、膜を破るようにして先に進む。
「‥‥生きているかは別だがな。あまり期待するんじゃないぞ」
ブレスセンサーを使って辺りを探り、月代憐慈(ea2630)が残念そうに首をする。
何人かの人間は生きているようだが、大半はすでに手遅れらしい。
「だからと言って見捨てるわけには行かないだろ。何人かは助かるはずだから‥‥」
何処か寂しそうな表情を浮かべ、桐澤流(ea4419)が拳を握る。
人質となっている客達が弱り始めていることを知ったため、少しずつだが焦り始めているようだ。
「何かあったら荷車に乗せて寺までいかないとね。もしかすると助かるかも知れないから‥‥」
犠牲者となった客をすぐに運べるようにするため、恒弥が荷車を銭湯の前に止めておく。
運がよければ助かる可能性も高いため、わずかな望みに賭けるつもりでいるようだ。
「自分は屋根裏から行きますね」
湖心の術を使って足音を消し、幻十郎が屋根裏を進んでいく。
「古来蜘蛛は火を苦手とすると言う‥‥。怯ませるのにも使えるかも知れないしな」
仲間達に対してバーニングソードを付与し、鞘継が日本刀を握り締める。
「さぁて、始めるとすっか! 後ろ、援護頼むぜ!」
気合を入れて刀を握り、桐伏が浴場に突入した。
土蜘蛛達は奇声を上げて威嚇しながら、桐伏達にむかって糸を吐く。
「いまのうちに逃げてください!」
土蜘蛛の眉間を狙って矢を放ち、春歌が桐伏の逃げる時間を稼ぐ。
春歌の放った矢は土蜘蛛の顔面をかすり、雄蜘蛛が奇声を上げて糸を吐く。
「‥‥意外に強敵ですね」
右足に蜘蛛の糸を喰らってバランスを崩し、叡璽が表情を強張らせる。
二匹の蜘蛛は卵を守るようにして連携を取るため、その行動を予想する事は難しい。
「やはりグランドスパイダーですか。まぁ、同じ蜘蛛には変わりませんが‥‥」
仲間達にグッドラックをかけておき、ララが土蜘蛛を警戒する。
「‥‥予想を上回る強さですね」
蜘蛛の糸によって膜が出来ているため、鳳明美輝(ea1405)が汗を流す。
死角から蜘蛛達を攻撃するつもりでいたため、なかなか身動きが取れずに困っているらしい。
「まさか膜の近くで日本刀を振るったら、それこそシャレにならないからな。たくっ‥‥、最悪だな」
日本刀を構えて舌打ちし、桐伏がジリジリと後ろに下がる。
蜘蛛の糸が邪魔しているため、どうしても動ける場所が限られてしまう。
「だが、それは蜘蛛も同じだろ。俺が奴らをひきつけておくから、その間にトドメをさしてくれ。それと手の空いている奴は蜘蛛の巣を壊してくれ」
オーラパワーを発動させ、陸が囮になって土蜘蛛の頭を踏みつけ飛び上がる。
土蜘蛛は陸を視線で追いかけ糸を吐き、鋭いキバをガチガチさせた。
「あちこちから小賢しい‥‥」
土蜘蛛達から糸を放たれ、憐慈が悔しそうに舌打ちする。
動けば動くほどドツボにはまってしまうため、仲間達に頼んで糸を切断してもらう。
「この緊迫感がたまらないな」
右足を噛み千切られる寸前で土蜘蛛の頭に着地し、陸が蜘蛛の巣まみれの浴槽に飛び込んだ。
「随分と無茶をしたな‥‥」
土蜘蛛達の注意が陸に移ったため、鞘継が溜息をつきながら雄蜘蛛の尻を斬りつける。
雄蜘蛛は汚らしい体液を撒き散らし、後ろを振り向き奇声を上げた。
「早く戻ってきてください。そんな場所にいたら土蜘蛛の餌食になりますよ!」
陸にむかって警告し、ララが雌蜘蛛にホーリーを放つ。
「雌蜘蛛は俺がひきつける‥‥」
フェイントアタックを駆使しながら、鞘継が雌蜘蛛をひきつける。
「ここは俺達に任せて後ろに下がれ!」
土蜘蛛の牙と放たれる糸に注意しながら、桐伏が仲間達の壁になりスマッシュを叩き込む。
「‥‥分かっているさ。だが、人質になっている奴らをひとりでも救わないとな」
人間が包まっている糸の塊を引きちぎり、陸が蜘蛛の巣の中から弱った娘を救い出す。
すると娘は陸にむかって右手を伸ばし、口から無数の子蜘蛛を吐き出した。
「やはり手遅れか。グッ‥‥」
無数の子蜘蛛が皮膚を食い破って潜り込んできたため、陸が激痛のあまり膝をつく。
「‥‥すまないな。‥‥来世で幸せになってくれ‥‥」
娘の皮膚を突き破って現れた子蜘蛛を見つめ、叡璽が侘びの言葉を呟きながら、娘の命をその場で絶つ。
「こっちも駄目だ。‥‥畜生」
肉塊と化した客の亡骸を見つめ、桐伏が残念そうに首を振る。
「その横にいる娘は生きているはずだ。頼む! 助けてやってくれ」
ブレスセンサーを使って生存者の位置を探り当て、憐慈が土蜘蛛達をひきつける。
「一人でも多くの人を助けたい。御願いですから、孵化しないで!」
繭の中から娘を助け、春歌がアイスコフィンを使う。
「これでもう大丈夫や。土蜘蛛達には指一本触れさせへんで!」
ホーリーフィールドを展開し、ニキが土蜘蛛達を激しく睨みつける。
雄蜘蛛はかなり弱っているが、雌蜘蛛はまだまだ元気なようだ。
「せめて雄蜘蛛だけでも仕留めておくか」
オーラパワーを発動させ、流が雄蜘蛛の傷口に日本刀を突き刺した。
雄蜘蛛は必死になって暴れたが、流は容赦のない一撃を喰らって息絶える。
「子蜘蛛達にも気をつけて! ぞろぞろ孵化してきたよ」
床を覆いつくすほどの子蜘蛛が孵化したため、恒弥が雄蜘蛛の首を切り落とし刀についた血を払う。
「貴方達も生きている‥‥けど、譲れないんです、ここは」
襲い掛かってくる子蜘蛛達を悲しげに見つめ、ララがホーリーを放つ。
「蜘蛛の子を散らすとは‥‥よく言ったもんだ」
苦笑いを浮かべながら、憐慈が子蜘蛛を倒す。
浴槽を破壊するわけには行かないため、ここでは注意しなければならない。
「雌蜘蛛もいまのうちに!」
一瞬の隙をついて天井から落下し、幻十郎が雌蜘蛛の首を絞めて大声上げる。
雌蜘蛛は滅茶苦茶に糸を吐き、狂ったように暴れだす。
「‥‥随分と難しい注文ですね」
蜘蛛の糸が短刀に絡まり奪われてしまったため、叡璽がカウンターアタックを浴びせて後ろに下がる。
「これで終わりです」
バーニングソードを付与した日本刀を握り締め、美輝が顔面めがけて突き刺した。
「‥‥やったか!?」
無数の子蜘蛛に噛まれて血を流し、桐伏が雌蜘蛛の生死を確認する。
「まだしんどらん!」
起き上がろうとしていた雌蜘蛛に気づき、ニキがブラックホーリーでトドメをさす。
「彼女だけでも助けましょう。まだ助かるかも知れません!」
気絶した娘を抱きしめ、美輝が瞳を潤ませる。
助かる見込みはほとんどないが、わずかな望みに賭けてみたい。
「だったら俺が連れて行く。その娘を馬に乗せろ!」
愛馬『緋陰』に飛び乗り、憐慈がそのまま寺にむかう。
「‥‥お願い。間に合ってください」
そして春歌は祈るようにしてふたりを見つめ、涙をほろりと零すのだった。
その後、娘は土蜘蛛達に卵を植えつけられる前だった事が判明し、奇跡的に一命を取り留める事が出来たのだが、他の人達を助ける事が出来なかったため、冒険者達の心には悔しい気持ちが溢れていた‥‥。