●リプレイ本文
「えんやーとっと、えんやーとっと汗水流して働くぜ」
野良着姿に着替えて泥田を作り、伊達正和(ea0489)がロープを使って罠を張る。
夏もそろそろ終わりかけというのに、まだまだ暑い日が続いているようだ。
「それにしてもおかしな話だな。自分達の手に負えない荒くれ牛をどうやって牛突きに使おうって言うのだろうか?」
牛突きする人に牛の扱い方や縄の掛け方などを教えてもらい、ジーン・グラウシス(ea4268)が首を傾げて呟いた。
「普通、牛突きをする場合は冒険者も一緒だからな。何かあった場合は冒険者達が対処してくれる」
手拭いを使って汗を拭い、正和が瓢箪に入った水を飲む。
「なるほど‥‥。面倒ごとは私達に押しつけるというわけか。それなら今回の依頼も納得出来るな」
呆れた様子で溜息をつきながら、ジーンが汗の染み込んだタオルを絞る。
「まぁ、そのおかげで俺達がこうやって生活できているんだが‥‥」
苦笑いを浮かべながら、正和が瓢箪をジーンに渡す。
「罠の方はうまくいきそうか? さっき村人達と話をしてきたんだが、牛は未だ蔵に篭っているらしい。 ‥‥家畜風情がいい気になっているじゃあないか。身の程を教えてやらなければな‥‥。久しぶりにステーキが食べたいし‥‥」
雄牛の肉付きがあまりによかったため、ウェス・コラド(ea2331)が肉厚のステーキを思い浮かべて呟いた。
「さすがに喰うのはマズイだろ。不慮の事故で雄牛がなくなってしまった場合は別だがな」
瞳をキラリと輝かせ、正和がニヤリと笑う。
「おお、その手があったか」
手の平をポンと叩き、ウェスが正和の言葉に納得した。
「やめろ。‥‥腹が減る。それに今回の目的は雄牛を喰う事じゃないだろ。余計な事は考えるな」
極上のステーキ肉が脳裏を過ぎり、ジーンがブンブンと首を横に振る。
「‥‥駄目か。かなり美味そうなんだが‥‥」
以前の祭りで事故死した雄牛を食べた話を聞いていた事もあり、ウェスが残念そうに溜息をつく。
目の前に極上のステーキ肉となる素材が転がっているというのに、捕獲するだけとは何とも寂しい事である。
「まぁ、仕方がないだろう。それよりもそろそろ田んぼに雄牛を誘き寄せないか。こっちの準備も出来たしな」
そして正和は作戦の開始を知らせるため、囮役の待つ蔵へと急ぐのであった。
「それじゃ、さっそく始めるか」
村娘と仲良くお茶を飲み終え、鷲尾天斗(ea2445)が気分よく赤褌を握る。
この赤褌は雄牛を誘き寄せるためのアイテムで、天斗は命懸けで雄牛を田んぼまで誘導するつもりでいるらしい。
「なんだか緊張してきたな。‥‥深呼吸、深呼吸」
村人達によって蔵の扉が開かれたため、天斗が緊張気味に雄牛を睨む。
雄牛は天斗の赤褌に気がつくと、鼻息を荒くしながら唸り声を上げて突進する。
「こ、こら! ちょっと待て! せめて準備体操が終わってから‥‥。ぬおおおおおお! き、きたぁぁぁ! 助けて女神様ぁぁぁ!」
雄牛が予想以上に速かったため、天斗がバックパックを投げつけ逃げ出した。
「お前‥‥さては彼女居ないだろ! やっぱり図星だな。さっきより鼻息が荒いぞ。うわ、やめろ! 何で俺だけ何時もこうなるのぉぉぉぉ‥‥」
囮用の赤褌を虎玲於奈(ea1874)に手渡し、天斗が雄牛の弾かれ星になる。
「ランラカランラカランラカランランラン、オレ♪ ‥‥はるか西方のエスパニアでは赤い褌を振って牛を自在に操るビーストテイマーがいるとかいないとか‥‥。だったら僕達にだって同じ事が出来るよね」
楽しそうに天斗から受け取った赤褌を揺らし、虎玲於奈(ea1874)が雄牛の事を挑発した。
すると雄牛は凄まじい勢いで玲於奈にむかって突進し、赤褌を擦り抜けそのまま壁に激突する。
「うわ‥‥、本気で僕達を殺す気だね。それじゃ、あとは宜しく頼むよ」
大粒の汗を浮かべながら、玲於奈がデュラン・ハイアット(ea0042)に赤褌を渡す。
「牛というのは普段は大人しいが、一度暴れ出すと手がつけられない。これは少々骨が折れそうだな」
田んぼの前でドーンと構え、デュランが雄牛を迎え撃つ。
しかし雄牛は野次馬達の気配に気づき、デュランに興味を持とうとしない。
「このままじゃ、野次馬達にも被害が出るね。まったく‥‥何を考えているんだか」
逃げ惑う野次馬達に標的を変えたため、跳夏岳(ea3829)が困った様子で溜息をつく。
「なんだかマズイ事になってないか? あのままだとみんな死ぬだろ」
雄牛に追われて逃げ惑う野次馬を見つめ、花房三日月(ea1875)が大粒の汗を流す。
「野次馬か‥‥。もう何人も殺されているというのに、不謹慎な奴らだな‥‥」
蜘蛛の巣を散らすようにして逃げ出した野次馬を見つめ、天城烈閃(ea0629)が大きな溜息をつく。
「物珍しい事が気にかかる気持ちは分かるが、それで命を落としては元も子もあるまい? 大人しく隠れていろ」
パニックに陥った野次馬達を誘導し、天螺月律吏(ea0085)が雄牛を睨む。
雄牛は興奮しているためか、声のする方向にむかって突進する。
「野次馬のせいで随分と被害が出たようだな」
簡単なバリケードを作り、夜神十夜(ea2160)が野次馬達を誘導した。
雄牛は標的となる野次馬が避難してしまったため、興奮気味に辺りを何度も見回している。
「ここから先に入らないでくださいとは言ったんですけどねぇ‥‥」
雄牛に襲われないようにロープを張っておいたのだが、野次馬達がそれを乗り越えて見物に行ったため、神楽聖歌(ea5062)が残念そうに溜息をつく。
わざわざ江戸から見物に来ていた事もあり、雄牛を間近で見たかったらしい。
「例の牛が見たければ、捕まってからにしろ。今は危険だ」
それでも野次馬達が雄牛を見物しようとしていたため、烈閃が警告まじりに口を開く。
「一つ教えておいてやるが、お前達のように興味本位であの牛に近づき、殺された村人が何人もいる。命が惜しければ近づかない方が身のためだ」
野次馬達は不満げに愚痴をこぼしていたが、烈閃が睨みを利かせたため気まずく口篭る。
「物見遊山で怪我をしては意味があるまい? 貴方達もそうは思わないか?」
村人達をなだめながら、律吏がバリケードの後ろへと連れて行く。
ここからだと雄牛を見る事は出来ないが、怪我をするよりはマシだろう。
「俺達も手荒な真似はしたくない。そこでジッとしていてくれよ」
ダガーをギラリと輝かせ、十夜が野次馬の前に立つ。
野次馬達も十夜が何を言いたいのか分かったため、残念そうにバリケードの後ろに隠れていく。
「しばらく我慢してくださいね。あの雄牛は本当に怒っていますから」
少しでも被害を減らすため、聖歌が野次馬達を説得した。
聖歌が説得した事もあり、野次馬達はやけに素直である。
「これでこっちは安心だな。思ったよりも手間がかかったが‥‥。雄牛に復讐しようとしている村人がいなかっただけでもマシか」
バリケードの守りを固め、烈閃が野次馬達を警戒した。
油断した隙に野次馬達が抜け出す可能性もあるため、雄牛を捕まえるまでの間はここから離れるわけにはいかないようだ。
「あとは雄牛を捕まえるだけか。こればっかりは仲間達の報告を待つしかないな」
雄牛が再び田んぼに向かって事を確認し、律吏がホッとした様子で溜息をつく。
「野次馬の中に女性がいなかったのは残念だがな。やはり最初から村娘を狙っておけばよかったか」
野次馬と何度か揉み合いの喧嘩になったため、十夜が自分の選択を後悔する。
野次馬の中に女性がいれば胸を揉んだり、触ったりするつもりでいたのだが、相手が男しかいなかったため、かなり不満でいるようだ。
「まあまあ、落ち着いて‥‥。だからと言って私の身体を触ったら駄目ですよ」
そして聖歌は気まずい様子で頬を染め、十夜から黙って視線をそらすのだった。
「野次馬達の避難は完了したようだな」
リトルフライを使って状況を確認し、デュランが雄牛の前に着地し赤褌を揺らす。
雄牛は興奮した様子で突進するが、デュランが再び上空に逃げたため、そのまま田んぼに突っ込んだ。
「フフフフフ‥‥これぞ秘技『魔田道流(マタドール)』!」
赤褌を勝ち誇ったように揺らしながら、デュランがニコリと微笑んだ。
「うわっ、まだ暴れているね。こんなに足場が悪いのに‥‥」
田んぼの対岸で大きな赤旗を揺らし、夏岳が雄牛の事を挑発する。
雄牛がトラップから少し離れた場所に落ちたため、何とか移動させようとしているらしい。
「なんだか面倒な事になっているな。あたいも協力した方がいいかな?」
どぶろくを呑みながらのんびりと見学していたのだが、あまりにも雄牛捕獲に手間取っているため、三日月が心配した様子で立ち上がる。
「出来れば一緒に雄牛を捕まえてくれるかな? もう少しだと思うから」
苦笑いを浮かべながら、夏岳も田んぼに飛び込んだ。
ここで逃がすわけにもいかないため、夏岳も必死なようである。
「どうやらそのようだな。それならあたいも協力するよ」
名残惜しそうにどぶろくを見つめ、三日月が雄牛の捕獲にむかう。
「おっ来たっ、大漁だっ!」
雄牛が怒り狂った様子で突進してきたため、正和が嬉しそうに玲於奈を睨む。
「それじゃ、いっくよ〜!」
気合を入れて雄牛を睨み、玲於奈が爆虎掌で脳震盪を誘発させる。
その間にウェスがアースダイブを使って地中から雄牛の下に潜り込み、ロープを雄牛の胴に巻きつけ再び地中に潜ってロープを結ぶ。
「もう大丈夫だぞ。雄牛はとっくに気絶しているからな。泡を吹いているから、しばらく起きる事もないだろ」
グッタリとしている雄牛を縛り、ジーンが仲間達と一緒に田んぼの外まで引っ張りあげる。
「獲ったどぉ〜! ヌシ釣り名人ついに牛釣ったどぉー! 皆様、ご協力有り難うございましたぁー!!」
再び野次馬達が集まってきたため、天斗が誇らしげに笑う。
「なんかこの仕事、魚の漁みたいだったな」
冗談まじりに微笑みながら、正和が仲間達と一緒に勝利をかみ締める。
「ここんところ、よわっちい相手ばかりだったから、久々に手ごわそうな相手でおもしろかったな」
雄牛を檻の中まで運び込み、玲於奈がお尻に傷薬を塗っておく。
逃げる途中で雄牛の角に当たったため、少し腫れているようだ。
「これで村の人達も安心して寝られるね」
ゾロゾロと集まってきた村人達を見つめ、夏岳がホッとした様子で溜息をつく。
「牛突き横綱候補と冒険者達の格闘なんて丁度良い見世物じゃないか。特に安全な場所が確保出来るなら、避難所を観覧席として売ってみたらどうだい? 見物の思い出に村の名産品を勧めてみるとかね」
報酬を持ってきた村長に気づき、ジーンが新たな祭りを提案する。
村長もまんざらではないのか、頭の中でそろばんを弾く。
「それじゃ、今夜は村名物の牛引きだな! 貴様ら力の限り引きたくれ! 今宵は祭の夜だぁ!」
そして十夜は野次馬達を楽しませるため雄牛の体にロープをかけ、祭りの準備を始めるのであった。