●リプレイ本文
「よっ、達者か?」
爽快な笑みを浮かべながら、本所銕三郎(ea0567)が見世物小屋を訪れる。
この見世物小屋にはごるびーと呼ばれる芸達者なカワウソが働いており、銕三郎とは魂の糸で何となく繋がっているらしい。
「んぁ? なんでお前がここにいる!? 今日は何の依頼もしてないぞ」
険しい表情を浮かべながら、見世物小屋の主人が銕三郎を睨む。
かなり胡散臭く思っている事もあり、慌ててごるびーを後ろに隠す。
「いや、少し困った事になってなぁ。ごるびーをしばらく貸して欲しい。もちろんタダとは言わないぞ」
ごるびーの前にイカを山のように積んでいき、銕三郎が主人とごるびーを見比べる。
既にごるびーは誘惑に負け、イカに手を伸ばしているようだ。
「だが、ごるびーは見世物小屋の看板スター。そう簡単には‥‥こら!」
ごるびーがイカを食べてしまったため、主人が慌てて頭を叩く。
「交渉成立と言う事だな。それじゃ、ごるびーを借りていくぜ!」
そして銕三郎はごるびーの事を小脇に抱え、見世物小屋を脱兎のごとく逃げ出した。
「スズメバチ‥‥ですかぁ? あの大きなハチさん‥‥ですよねえ? あんな大きなハチさんに刺されたら、私たちシフールは死んじゃいますよぉ。でも‥‥シフールじゃなきゃ‥‥この依頼は駄目なんですよね‥‥。わかりました! 何とかいたしますです☆」
苦笑いを浮かべながら、ベル・ベル(ea0946)が自分の胸を叩いて咳をする。
「これも人助けの為だものね‥‥こ、恐くない‥‥恐くない‥‥恐く‥‥。うぅ‥‥何か身を包むもの貸してほしいな。少しでも蜂から刺されにくいようにしたいの」
手ぬぐいに包まってカタカタと振るえ、紫霄花(ea5879)が辺りを警戒する。
近くにスズメバチがいないとも限らないため、とても不安になっているらしい。
「シフール用の道具がない〜。手裏剣は重いし、投げたら拾わなきゃいけないし‥‥。こんなモン、投げても威力ないし‥‥」
弓矢をじーっと眺めながら、ヴァルテル・スボウラス(ea2352)が溜息をつく。
シフールサイズの武器がないため、ブツブツと愚痴をこぼしている。
「ところで、ごるびーって何だろ? ひょっとして、このカワウソ君? とても利口そうな顔をしているね〜♪」
ごるびーにぺこりと頭を下げ、霄花が友好の証にイカをもらう。
「シフールでないのは俺と由加の二人か。ガマがシフールを喰わないようにな。蜂なら構わんが」
仲間達の内訳を確認し、銕三郎が由加紀(ea3535)の肩をぽふりと叩く。
「多分‥‥大丈夫。食べても‥‥吐き出させるから‥‥」
そして由加はシフール達をジーッと見つめ、怖い事をさらっと言った。
「そういえば‥‥坊ちゃんがまだ蔵の中にいる‥‥ようですねぇ? 外にごるびーちゃんもいますから‥‥何とか‥‥なりませんかねぇ‥‥」
蔵の扉をジーッと見つめ、ベルが頭を悩ませる。
「とりあえずガキ‥‥もとい‥‥お子様を見つけて、話が出来る場所まで連れてかないとね。頭の上にスズメバチが一杯なんて嫌だけど‥‥」
スズメバチを刺激しないように壁の隙間から蔵に入り、ヴァルテルが警戒した様子で子供を捜す。
途中でスズメバチに見つかったら命を落とす可能性が高いため、ヴァルテルも命懸けで子供の姿を探している。
「‥‥あれか」
ワンワンと泣いている子供を見つけ、ヴァルテルが仏像の上に座って話しかけた。
「お化け蝶々?」
驚いた様子でヴァルテルを睨み、子供がジリジリと後ろに下がる。
「外にごるびーがいるんだけど会ってみない? それと外にデッカイ蛙と友達の人がいるらしいよ。面白そうじゃない?」
親しげな様子で話しかけ、ヴァルテルが子供の緊張を解こうと試みた。
「えっ? ごるびーがいるの! 確か芸達者なネズミでしょ」
ごるびーをネズミと勘違いしたまま、子供が瞳をキラキラさせる。
「‥‥惜しい。カワウソだよ」
あえて深くは突っ込まず、ヴァルテルが子供を扉の近くまで連れて行く。
「あれ? ごるびーは?」
鍵穴から外を覗き込み、子供がごるびーを探す。
「……出てきたら、ガマに乗せてあげてもいい‥‥」
子供と目が合ったため、紀がカエルの人形を抱きしめる。
「食べられたりしない?」
警戒した様子で紀を見つめ、子供が大粒の汗を流す。
「多分‥‥大丈夫‥‥。もし‥‥食べられたとしても‥‥」
「カ、カエルもいいが、ごるびーもいるぞ。ほ、ほらな!」
慌てて紀を口を押さえながら、銕三郎が額に浮かんだ汗を拭う。
「わぁ、本当♪」
嬉しそうに蔵から飛び出し、子供が銕三郎にしがみつく。
「カエルも‥‥可愛いのに‥‥」
カエルの人形をギュッと抱きしめ、紀がごるびーをライバル視する。
「まあまあ、それじゃ、蔵のものを片付けるか。スズメバチがいるから慎重にな」
そして銕三郎は愛馬サジマに餌をやり、蔵の中へと入っていった。
「スズメバチは煙を焚かれると失神するらしいから、煙で牽制してもらっている間に巣を捨てるしかないな」
煙で駄目になってしまう可能性のある貴重品だけを運び、ヴァルテルがスズメバチを撃退するため作戦を練る。
「羅文(らもん)とも遊んでいるようだし、子供の方は安心だね」
貴重品をすべて運び出したため、霄花が蔵の中を覗き込む。
子供はごるびーと一緒に驢馬に乗っているため、蔵の中に戻ってくる事はないだろう。
「必要な道具は依頼主が用意してくれたから、まずはスズメバチの通り道になっている穴を塞がなくてはな」
期待に満ちた表情を浮かべ、銕三郎がシフール達の顔を見る。
「えっと‥‥私が囮になりますぅ‥‥。とっても怖くて泣きそうですが‥‥、皆さんを信じていますから‥‥」
勇気を振り絞りながら、ベルが囮に立候補した。
本当は怖くて気絶しそうだが、仲間達を犠牲にするわけにはいかない。
「心配‥‥しないで‥‥。悪いスズメバチは‥‥ガマが食べるから‥‥」
最悪の場合を考え、紀が大ガマを召喚する。
「私が食べられたりはしませんよね?」
獲物として認識されたような気がしたため、ベルが心配そうに汗を流す。
「‥‥」
何も言わずに視線をそらし、紀が大ガマの頭を撫でる。
「ふぇぇぇぇぇ、怖いですぅ」
危険な映像が脳裏を過ぎり、ベルがカタカタと身体を震わせた。
「とりあえず‥‥がんばれ!」
ベルの肩を優しく叩き、銕三郎がニコリと笑う。
色々と危険な状況に陥るかも知れないが、他に立候補するシフールがいないため、ベルが頑張るしかないようだ。
「ひぃーん、何だか死神さんが見えますぅ〜」
デンジャラスな光景が頭にこびりついてしまったため、ベルが魂が抜けたような表情を浮かべる。
「僕達だっているんだし、何とかなるさ」
「だから何も怖がらないで!」
シフール達から応援され、ベルがコクンと頷いた。
「‥‥丸呑みされるかも」
奈落の底に突き落とされるような言葉を吐き、紀がベルを見つめて両手を合わす。
「ま、丸呑みはご遠慮しますぅ〜」
慌てて上空に飛び上がり、ベルが大きく首を振る。
「こらこら、シフール達が本気で怯えているだろ。それじゃ、ベル。よろしく頼むぜ!」
苦笑いを浮かべながら、銕三郎が蔵をビシィッと指差した。
「それじゃ、行ってきますぅ〜」
そしてベルは怯えた様子で蔵にむかう。
色々な意味で不安な気持ちになりながら‥‥。
「きゃああああああ、やっぱり囮はキツイですぅ〜」
しばらくしてスズメバチに追われたベルが、大粒の涙を浮かべて森の方に飛んでいく。
予想以上にスズメバチが来たため、そのまま森に逃げたらしい。
「このままじゃ、ベル姉ちゃんが危険だな。おい、蜂野郎! 刺すなら僕を刺してみろ」
足に黒い布を巻いてスズミバチを挑発し、ヴァルテルがガマのいる場所まで飛んでいく。
「行くぞ!」
気合を入れて拳を握り、ヴァルテルがガマに食われる寸前で、上空へと飛び上がる。
「ちょっと‥‥痛いかも知れないけど‥‥我慢してね‥‥ガマ‥‥」
美味しそうにスズメバチを食べるガマを見つめ、紀がホッとした様子で溜息をつく。
「何とか穴は塞いだよ」
ベルが逃げている間に穴を塞ぎ、霄花が嬉しそうに手を振った。
「こっちも運び終わったぜ」
蔵から貴重品を運び出し、銕三郎が親指を立てる。
「ひぃぃぃん、怖かったですよ〜」
銕三郎にしがみつき、ベルが大粒の涙を流す。
「それじゃ‥‥巣を駆除‥‥しないと‥‥」
そして紀は蔵の中で煙を炊くと、スズメバチの駆除に成功した。
その後、依頼主の子供がごるびーを離さなかったため、銕三郎が困り果てる事となる。