●リプレイ本文
「全く‥‥厄介な場所に乗り上げてくれたものだな‥‥。せっかくの海だというのに、情緒のかけらもあったものじゃない‥‥」
呆れた様子で溜息をつきながら、天城烈閃(ea0629)が船着場を睨む。
船着場にはたくさんの大磯巾着をウロウロしており、そのせいで舟を出すのは難しい。
「海の仲間が遭難したとあっちゃ助けにいかない訳にはいかねぇな。頑張れよ、生き残り船員! 俺達が行くまで何とか持ちこたえてろよ!」
拳をギュッと握り締め、鷹波穂狼(ea4141)が座礁した船にむかって大声を上げる。
船からは誰も出てくる気配はないが、誰かひとりは生きていると信じたい。
「毒海月に毒磯巾着、まったく厄介だよねぇ」
依頼主から解毒剤を分けてもらい、御藤美衣(ea1151)が祈るようにして黄勾玉を握り締める。
効果があるかは不明だが、何もないよりはマシだろう。
「まずは邪魔な大磯巾着をどうにかしなきゃならんのか。‥‥急いで助けに行きたいのに邪魔な事この上ねぇな、まったく‥‥」
ウジャウジャと蠢く大磯巾着を見つめ、孫陸(ea2391)が舟までの最短距離をはじき出す。
一気に駆け抜ける事が出来れば、このまま真っ直ぐ行けば問題ない。
だが、そのためには仲間達の協力が必要になるだろう。
「殲滅する事は無理だって話だから、とにかく安全を確保するしかないわね」
陸達の安全を確保するため、佐上瑞紀(ea2001)が日本刀を引き抜いた。
「だったら人が通れるだけの広さを確保すれば問題ないな」
そう言って南天輝(ea2557)が瑞紀の後に続いて走る。
「サジマ、今回はお前にも働いてもらうぞ」
そして本所銕三郎(ea0567)は愛馬にむかって話しかけ、大磯巾着に勝負を挑むのであった。
「タフな奴でも射程外から撃たれてはもたんだろ。お前達に触手は全て俺が刈り取ってやろう」
大磯巾着を睨みつけながら、輝がニヤリと笑ってソニックブームを叩き込む。
「コイツらだったら前にも相手にした事があるから楽勝だぜ!」
流木を大磯巾着にむかって放り投げ、穂狼が船着場にむかって走り出す。
何匹かの大磯巾着は穂狼の投げた流木を襲ったが、数があまりに多すぎるため他の大磯巾着が穂狼を襲う。
「これはシャレにならねぇな!」
船着場にむかうため、陸が大磯巾着の触手をかわす。
しかし、大磯巾着の数が多いため、なかなか先には進めない。
「解毒剤はたくさんある。何も恐れる事はない」
漁師の使用する網を投げ、銕三郎が触手の動きを封じ込める。
大磯巾着は網の中から触手を伸ばすが、余計に絡まってしまいうまく身動きが取れない。
「これだけ数が多いとブレスセンサーを使う必要もないな。やはり俺達に出来るのは時間稼ぎくらいか‥‥」
足元を注意しながら大磯巾着と間合いを取り、烈閃が素早く弓矢を放って横に飛ぶ。
弓矢の当たった大磯巾着は空に向かって体液を撒き散らし、他の大磯巾着を巻き込み海に落ちる。
「次から次へと鬱陶しい!」
群がるようにして襲ってくるため、美衣が半ばキレ気味に日本刀を振り下ろす。
大量の体液を浴びたため、刀の切れ味が悪くなっているようだが、ここで立ち止まる訳にはいかないようだ。
「なんでこんな人にとって都合の悪い所に大磯巾着が群生してるのよ!」
射程ギリギリでソードボンバーを放ち、瑞紀が大磯巾着を倒していく。
「サジマ! 引け!」
磯巾着の胴にロープを巻きつけ、銕三郎がサジマにむかって声をかける。
サジマは大磯巾着に怯えていたが、銕三郎の鋭い視線に驚き、大磯巾着を海にむかって蹴落とした。
「悪いが、あいつらの邪魔をさせる訳にはいかないんでな‥‥。さあ、お前達の相手はこっちだ!」
マントを使って触手を受け止め、烈閃が大磯巾着を倒す。
倒しても倒しても何処からか現れるため、まともに戦っていたらキリがない。
「おらっ、ハゲろ。南天剣技・無影刃!」
大磯巾着の触手を次々とかわし、輝がポイントアタックを加えたソニックブームを炸裂させる。
大磯巾着は大量の体液を垂れ流し、ブシュブシュと嫌な音を立てて萎んでいく。
「もう少しで船着場に着くのにっ! しつこいなぁ!」
荒く息を吐きながら、美衣が額に浮かんだ汗を拭う。
何十匹もの大磯巾着を倒したのだが、あまり数が減っているようには見えない。
「クッ‥‥、大磯巾着の毒が‥‥」
大粒の汗を浮かべながら、瑞紀がその場にガクリと膝をつく。
次第に体がしびれ始め、意識が朦朧としてくる。
「船着場までの道が開けたぞ!」
サジマに飛び乗り走り出し、銕三郎が瑞紀にむかって薬を放り投げた。
「あ、ありがとう。恩にきるわ」
慌てて薬を一気に飲み干し、瑞紀が眠るようにして目を閉じる。
「いまのうちに舟に乗れ」
そして輝は横笛を吹き鳴らし、仲間達にむかって合図を送るのだった。
「‥‥真っ直ぐ走れば船着場か」
大磯巾着と戦う仲間を見つめ、天螺月律吏(ea0085)が大きく息を吸い込んだ。
途中で立ち止まる事は出来ないため、なるべく身軽な格好になっておく。
「さーて、きっちり仕事すっか」
仲間達が大磯巾着と戦っている間に隙間を潜り抜け、鷲尾天斗(ea2445)が船着場にむかって走り出す。
「貴方はここで待っていてくれますか」
近隣の寺から回復間魔法の使える僧侶を呼んだため、風御凪(ea3546)が安全な場所まで誘導する。
「‥‥潮風か。船着場にむかう前にある程度の事はしておくか」
潮風を浴びて錆びないように偃月刀を布で巻き、夜十字信人(ea3094)が肩に担いで天斗達の後を追う。
「悪いが先に行ってるぞ」
大磯巾着を踏みつけ、ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が船着場の近くに着地する。
他の仲間達はまだ来ていないが、時間がないため舟をだす。
「何とか間に合ったな」
ウェントスの乗っている舟に飛び乗り、陸が縄を使って他の舟を括りつける。
「次は毒海月か。うわっ‥‥、こんなにいるのか!」
舟から海面を覗き込み、穂狼が慌ててたじろいだ。
「舐めんなよ、この海産物が! いつか食ってやるからそれまで無い首洗って待っていやがれ!」
座礁した船を目指し、天斗が毒海月を避けて舟を漕ぐ。
「それにしても鬱陶しいな。何とかならんのか?」
何度か毒海月に当たったため、信人が不満そうに愚痴をこぼす。
「もう少しの辛抱だ。海に落ちないように気をつけろ」
船の内部構造が書かれた紙を握り締め、律吏が信人にむかって声をかける。
毒海月の群れが舟にへばりつくようにして漂っているが、なるべく刺激を与えないようにして慎重に舟を漕いでいく。
「もうそろそろ船にたどり着くぞ。‥‥覚悟はいいな」
鉤爪のついたロープを投げ、ウェントスが座礁船に乗り込んだ。
甲板の上には大量の血痕が残されており、何者かと争った形跡がいくつも残っている。
「誰かひとりでも生き残っていればいいんですが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、凪がブレスセンサーを使って生存者を探す。
「その割には何だか妙に静かじゃないか?」
自分が操船してきた舟を固定し、陸が船内へと続く扉を開く。
それと同時にかび臭いにおいが、陸の鼻をくすぐった。
「‥‥確かに妙だな。うげ、これは‥‥」
グチャグチャに潰された大磯巾着の骸を見つけ、天斗が慌てた様子で右手を払う。
骸はすでに腐っており、倒されてから何日か経っている。
「こっちには船乗りの死体が‥‥。自ら犠牲になって仲間を逃がしたのか」
武器を持ったままで力尽きている船乗りを見つけ、穂狼が悲しげな表情を浮かべて目を閉じた。
「‥‥とにかく生存者を探そう」
生き残った船乗り達が何処かに立てこもっていると考え、信人が見取り図を片手に通路を走る。
通路の途中には大磯巾着の死体と、船乗り達の死体が転がっており、ここで壮絶な戦いがあった事を物語っているようだ。
「やけに寒いな。‥‥大丈夫か」
暗闇の中をランタンで照らし、律吏が大磯巾着の骸を踏まないようにして歩く。
万が一、大磯巾着が生きている事を考え、慎重に行動しているようだ。
「駄目だ。あるのは死体ばかりだ」
残念そうに首を振り、ウェントスが船乗りの死体を確認した。
その船乗りは飢えのために亡くなったらしく、空ろな表情を浮かべたまま口をあんぐりと開けている。
「すでに手遅れだったという訳ですか」
険しい表情を浮かべながら、凪が視線を逸らす。
船乗り達によって船内で暴れていた大磯巾着は退治されたようだが、そのダメージがあまりに大きすぎたため、船内に生存者が残っている可能性は低い。
「見つかったぞ! 生存者だっ!」
倒れていた船乗りを抱き上げ、陸がホッとした様子で溜息をつく。
「ふぅ〜、一時はどうなるかと思ったぜ」
持てるだけの積み荷を抱え、天斗が陸の事を誘導する。
両手が荷物で塞がっているため、素早い対応は不可能だが、生存者を守るくらいの事なら出来るだろう。
「それじゃ、ここから脱出するぜ。いつ沈むか分からないからな」
濡れたら困る荷物を帆布で包み、穂狼が自分の舟に積み込んだ。
「もう沈み始めているようだな」
大きく船が傾いたため、信人が持てるだけの荷物を持つ。
船は一気に海水が流れ込み、信人達がいる場所まで浸水する。
「‥‥間一髪だったな」
そして律吏は自分の乗ってきた舟に乗り、次第に沈んで行く船を見つめるのであった。