●リプレイ本文
「壷を探しに来ただと!? 白容裔の退治じゃないのか?」
猛省鬼姫(ea1765)の胸倉を掴み上げ、村人達が険しい表情を浮かべて詰め寄った。
村人達は誰かが抜け駆けしたと思ったのか、鬼姫から依頼主の事を聞きだそうと必死なようだ。
「確かにそんな依頼を受けた奴もいたな。だけど俺達のメインは壷探しだぜ」
全く動揺する事もなく、鬼姫が苦笑いを浮かべる。
「そんな馬鹿な。まさか裏切り者がいるなんて‥‥」
信じられないといった様子で鬼姫を睨みつけ、村人達は疑心暗鬼に陥り愚痴をこぼす。
「嘘でそんな依頼を引き受けるわけがないよ。きちんと前金までもらっているのに‥‥」
村人達に依頼が本物であると信じ込ませるため、荒神紗之(ea4660)が前金と偽り自分の所持金を見せる。
そのため村人達は完全に鬼姫達の話を信じ込み、動揺した様子で辺りをキョロキョロと見回した。
「それに野良白溶裔なんて珍しくないです。勝手に呪いだなんて決め付けるのは良くないですよ」
苦笑いを浮かべながら、アイリス・フリーワークス(ea0908)が村人達のまわりを飛び回る。
村人達はポカンとした表情を浮かべ、何やらブツブツと呟く。
「だから私達は壺を掘り起こすだけさ。こんな簡単な依頼で前金がこれだけ貰えるんだから、世の中分からないねぇ」
含みのある笑みを浮かべながら、紗之が村人達の表情を窺った。
村人達は明らかに動揺しており、挙動不審になっている。
「しかも、おおよその位置も分かっているってのは‥‥、ホント、ギルド様々だねぇ」
質の悪い紙に描かれた地図を広げ、紗之がニヤニヤと笑う。
「お、俺達も連れて行ってくれ」
壷を横取りしようと考えたのか、村人達が慌てた様子で土下座する。
「お前達には関係ないだろ。依頼の邪魔はしないでくれよ」
村人達をぞんざいに扱い、鬼姫が適当な場所にむかって歩き出す。
「えっと‥‥壷のある場所は、確かあっちの話にあるお地蔵さんの下ですよね。‥‥あっ」
わざと村人達に聞こえるように声を出し、アイリスがハッとした表情を浮かべて村人達を睨みつける。
「まさか今の話‥‥聞いたのか!」
物凄い剣幕で村人の胸倉を掴み上げ、鬼姫がギリギリと歯を鳴らす。
「な、何も聞いちゃいないっ! 気のせいだ」
あまりの気迫に圧倒され、村人のひとりが首を振る。
「もしも嘘だったら‥‥分かっているねぇ?」
わざと村人達を驚かし、紗之が怪しくニヤリと笑う。
「それじゃ、私達はここで‥‥」
村人達にむかって頭を下げ、アイリスが森の中に入っていく。
「しばらく‥‥ここで待ってから‥‥壷を横取りしちまうか‥‥」
小声でブツブツと呟きながら、村人達が邪悪な笑みを浮かべる。
「亡霊が出るなんて聞いてないよ!」
それと同時に紗之が慌てた様子で村人達の横を通り過ぎ、そのまま村の外まで逃げていく。
「まさか‥‥そんな事が!」
信じられないといった表情を浮かべ、村人達が亡霊の現れた現場にむかう。
問題の場所には真っ白な布がふわふわと漂っており、その姿はまるで老婆のような感じがする。
「ひぃぃぃぃぃ」
‥‥そこで村人達の意識は途絶えた。
「どうやら成功したようだねぇ」
アイリスのスリープによって眠った村人達を端に寄せ、紗之が面白そうにクスクスと笑う。
「これだけ脅かしゃ懲りるだろ」
自分の被っていた布をたたみ、鬼姫が大金と書かれた紙の入った壷を置く。
「ところで本物の壷には何が入っているんでしょうか? 中身が食べ物だったら良いですね〜」
そしてアイリスは壷の中身の興味を持ち、胸をワクワクとさせるのだった。
「遺産目当ての村人達はみんな森に行ってしまったようですね」
廃屋のまわりに村人達がいなくなったため、瑠黎明(ea6067)が仲間達にグッドラックをかけて後方に待機する。
村人達はアイリスの魔法で眠らされてしまっているのか、森の中からまったく出てこようとしない。
「そりゃあそうだろう。俺達は白溶裔退治をしに来ただけだからな。壷が別の場所にあると知ったら、わざわざこんな危険な場所に誰もいようとは思わないはずだ」
ボロボロに壊れた入り口の扉をはずし、胤奏柳傳(ea7084)が廃屋の中を覗き込む。
廃屋の中はあちこち蜘蛛の巣が張っていたが、家財道具などはそのままの形で残っている。
「白溶裔なる妖怪はどんなものなのか早く戦いたいぜ」
未知の敵に胸を躍らせ、孫陸(ea2391)がオーラパワーを発動させた。
白溶裔は不意打ちを得意としているため、どこから現れるか分からない。
「あの忌々しい白容裔たち! 私の背中に火傷を負わせたのはあなた達の仲間なのよっ!! 覚悟しなさい!!」
痛い目に合わされたリベンジを果たすため、萩原唯(ea5902)が廃屋の入り口でホイップを振り回す。
そのため野良作業をしていた村人達が、そそくさと別の場所に移動する。
「今回の相手は手強いですね」
わざと大きな声を出し、零亞璃紫阿(ea4759)が辺りに村人達がいないか確認した。
村人達は面倒ごとに関わりたくないためか、この辺りには誰も近寄らない。
「とりあえず僕は見張りにでも立っておくよ。あー‥‥背は其方に任せるからね?」
村人達が様子を見に来てもすぐに追い返せるようにするため、フィール・ヴァンスレット(ea4162)が入り口に陣取り血まみれの半仮面を顔に被る。
「それじゃ、白溶裔達を外に誘き出すのじゃ」
護身用としてライトニングアーマーをかけておき、馬場奈津(ea3899)が廃屋の中に突入した。
「さっそくお出迎えのようだな」
あちこちの隙間から現れた白溶裔を睨みつけ、柳傳が少しずつ後ろに下がっていく。
白溶裔は何も知らないためか、柳傳を溶かそうとして襲い掛かる。
「大丈夫ですか?」
柳傳が尻餅をついたため、黎明が慌てて彼に手を貸した。
「あとは俺達に任せておけ!」
猪突拳を織り交ぜ白溶裔を攻撃し、陸が素早く後ろに下がる。
「絶対に逃がしはしない!」
白溶裔の酸も気にせず、唯がホイップを振り回す。
「ここまで酸が飛んできますね」
飛び散った酸に当たらないようにするため、亞璃紫阿が少し離れた場所まで移動した。
「そんな事より白溶裔に張りつかれんように気をつけるんじゃぞ」
ロープつき棒手裏剣を投げ飛ばし、奈津が白溶裔を感電させる。
白溶裔はグシャリと嫌な音を立て、辺りにバラバラと飛び散った。
「分かっているさ。多少のダメージは食らったがな」
ジクジクと痛む右手を押さえ、柳傳が後ろに下がる。
なるべく白溶裔には近づかないようにしているが、それでも何度か攻撃を食らってしまったらしい。
「この程度の怪我なら大丈夫だよ。すぐに治す事が出来るから」
メタボリズムを使って柳傳の新陳代謝を早め、フィールが髪を掻き上げクスリと笑う。
「出来れば俺の治療もお願いできるか」
白溶裔から何度も攻撃を食らったため、陸が険しい表情を浮かべて膝をつく。
本当ならバックパックの中にあるリカバーポーションを使うつもりでいたのだが、予想以上にダメージを食らってしまったためそこまで辿りつけそうにない。
「あらあら、大変」
慌てた様子で陸に駆け寄り、黎明がリカバーを使用する。
「出来れば着替えもお願いね。こんな格好で外を歩く事が出来ないから」
恥かしそうに頬を染め、唯が白溶裔にトドメをさす。
酸を気にせず白溶裔と戦っていたためか、服のほとんどが溶けてしまったらしい。
「白溶裔には以前悔しい思いをさせられましたからね。‥‥ここで挽回させてもらいます!」
戦いを早く終わらせるため、亞璃紫阿がファイヤーコントロールで白溶裔を倒す。
「これで終わりじゃ!」
そして白溶裔は奈津の一撃を喰らい、ブシュッと弾け飛ぶのであった。
「家族に見捨てられた老婆の遺産、か‥‥。直感で物事を判断するのは好きではないが、大したものじゃあないだろうな‥‥」
仲間達の活躍によって白溶裔がすべて退治されたため、ウェス・コラド(ea2331)が廃屋の中に足を踏み入れる。
廃屋の中は白溶裔の身体から飛び散った酸のせいで、箪笥や姿見がドロドロに溶けているようだ。
「遺産と聞いて何故金目の物を思いつくのかな〜。人それぞれの価値観は違うと思うのだけどね〜」
大きな溜息をつきながら、暁峡楼(ea3488)が辺りを見回した。
部屋の雰囲気から老婆がどんな生活をしていたかがよく分かる。
「‥‥壷に入った遺産ね。大方壷入りの『糠床』じゃないか? 毎晩糠床をかき混ぜている姿がドラ息子には金を入れている様に見えた。‥‥コレが真相なのかも知れん。噂などアテにならんモノだしな」
苦笑いを浮かべながら、浦部椿(ea2011)が糠床を探す。
「‥‥糠床か。確かにありえる話だが、金と漬物を間違ったりするだろうか?」
少し疑問を感じたため、ウェスが腕を組んで考え込む。
「‥‥つーか。金品目当てでしか動けんのか、此処の村人は。強ち婆さんの残した呪と言うのも外れではないかもな」
村人達に怒りを感じ、椿が拳を握り締めた。
「とにかく壷を探すのが先よ。村人達が戻ってきたら、面倒な事になるからね」
部屋の中を調べ終わったため、峡楼が畳をはずして床下を調べる。
「これは‥‥壷だな」
峡楼が見つけた壷を受け取り、ウェスがコクリと唾を飲み込んだ。
「やっぱり糠床じゃないのか。壷もそれっぽい形だしさ」
コツコツと壷を叩き、椿が中身を確かめる。
「これは‥‥梅干ね」
壷の中身を覗き込み、峡楼が大きな溜息をつく。
「まさかそれだけって事はないだろ」
納得のいかない様子で壷を見つめ、ウェスが壷の中身を覗き込む。
「それじゃ、一応調べてみるか。‥‥ん? これは」
梅干を皿の上に置いていき、椿が手紙を発見した。
「この壷を見つけたものに私の遺産を相続させる‥‥? 遺産といっても中には梅干しか‥‥あっ」
声を出して手紙を読み、峡楼が驚いた様子で壷の中に手を入れる。
「‥‥二重底か。これなら村人達も気づかんな」
そしてウェスは苦笑いを浮かべながら、仲間達を廃屋の中に呼び集めた。