●リプレイ本文
●許されぬ出会い
「しかし全裸団って‥‥素っ裸なら身元とか簡単に割り出せるんじゃねえのか? それとも、顔だけは覆面してるのかね? ‥‥案外異人さんとかな? 赤目の銀髪の長髪で、背が高くて、何処か優しげな感じで包容力のありそうな‥‥って何言ってるんだ俺は」
暗い夜道をブツブツと言いながら、龍深城我斬(ea0031)が提灯を照らして歩く。
今回は張り込む範囲が広いため、みんな別行動をとっているのだが、全裸団の顔が気になって仕方がない。
「‥‥敵か!?」
目の前にいきなり女盗賊が降りてきたため、我斬が素早く真鉄の煙管を引き抜いた。
「クッ‥‥、ここにも追っ手が‥‥」
我斬と目が合ったため、全裸団の娘が悔しそうに唇を噛む。
盗みに成功した事で気がゆるみ、我斬に気づかなかったらしい。
「‥‥お、驚いた。まさか本当にいたとは‥‥」
理想の相手が目の前にいたため、我斬が驚いた様子であんぐりと口を開く。
外見だけで判断するなら、文句なしの女性である。
「ご、こめんなさい‥‥」
我斬にむかって頭を下げ、娘が慌てて逃げだした。
「お前等の奇行はともかく、こっちも仕事なんでね。とっとと捕まってもらうぜ」
依頼を受けていた事を思い出し、我斬が娘の事を追いかける。
「こ、こうなれば最後の手段‥‥です‥‥」
覚悟を決めた様子で腰紐をスルスルと外し、娘が恥ずかしそうに頬を染め我斬の前で全裸になった。
「‥‥ってマジで脱ぎやがった。‥‥いや待て、ちょっと‥‥うお、ああ、そんなとこまで‥‥」
腰布が顔にかかったため、我斬があからさまに動揺し、慌てた様子で視線をそらす。
「ぶ、マズイ、このままでは‥‥でゅわ!」
流れる鼻血を押さえながら、我斬が般若面を被って心を落ち着かせる。
「やっぱり‥‥こういうのに興味があるん‥‥ですね」
恥じらいで肌を紅潮させ、娘が全裸で我斬に迫っていく。
「無駄だ、今の俺にはそんな物は効かん!」
心の底まで般若になりきり、我斬がマントで煙管を隠す。
「マ、マズイ!?」
我斬のただならぬ気配に気づき、娘がダメージ覚悟で逃げ出した。
「滅っせよ‥‥斬!!」
娘の鳩尾を狙ってブラインドアタックEXを放ち、我斬が般若面をゆっくりと外す。
「‥‥逃げられたか。出来れば違う逢い方をしたかったものだな」
そして我斬は娘の盗んだかんざしを拾い上げ、黙って空を見上げるのであった。
●待ち伏せ
「観念してください‥‥。もう逃げる事は出来ません」
土遁の術を使って待ち伏せし、大宗院透(ea0050)が全裸団らしき娘の喉元に暗器を添える。
全裸団の娘は中世的な顔立ちをしており、どちらの性別でも通用しそうな雰囲気だ。
「逃がすつもりはないようですね‥‥」
盗んできた掛け軸をポトリと落とし、娘がひどく動揺した様子で汗を流す。
誰かが待ちかまえている事は覚悟していたのだが、まさか土遁の術で隠れているとは思っていなかったため、まったく準備が出来ていないらしい。
「忍びである者として、この勝負、負けるわけには分けにはいきません‥‥」
警告まじりに呟きながら、透がいつでも殺れる準備をする。
本来なら捕獲をすればいいだけだが、女盗賊が抵抗をしてくる可能性があるため、手加減せずに本気で攻めていくいもりらしい。
「‥‥分かったわ。殺しなさい。このまま捕まえても何も喋るつもりはないから」
持っていた短刀を地面に落とし、娘が観念した様子で溜息をつく。
本当なら服を脱いで誘惑するつもりでいたのだが、ほとんど効果がないと判断したため途中で諦める事にしたらしい。
「‥‥殺しません。私はプロフェッショナルですから‥‥」
抵抗しないと判断したため、透が娘の身体を縛り上げる。
「美女(びじょ)と美男の一線は微妙(『びみょ』う)です‥‥」
そして透は娘を見つめ、ちょっと苦しい駄洒落を言った。
●夜風に揺れる妙なモノ
「『全裸で追手を誘惑する盗賊団』 ‥‥そんな変態じみた集団が本当にいるとは正直いって信じられないのですが、そんな輩をのさばらせておく訳には行かないので叩き潰す事にします。まあ、むこうも『面倒臭いのが紛れ込んだ』とかと思っているのでしょうが‥‥」
馬に乗って夜の街を巡回し、三笠明信(ea1628)が全裸団を探して回る。
屋敷のあちこちから叫び声が聞こえているが、明信の前にはまだ全裸団の一味は現れていない。
「そろそろ現れてもおかしくないんですが‥‥」
全裸団の出した予告状を握りしめ、明信がゆっくりと辺りを見回した。
耳を澄ませば何処からか足音が聞こえてくる。
「‥‥そこか」
ある程度のあたりをつけ、明信が馬を走らせた。
「ぬおっ! 見つかったか」
妙なものをぶらりと揺らし、全裸団らしき男が千両箱を抱えて逃げる。
男は服をすでに脱いでおり、すでに誰かを撃沈してきた雰囲気だ。
「変態盗賊や‥‥いざ尋常に勝負‥‥」
相手が相手だった事もあり、明信が怒りすら覚えて男を睨む。
「ま、待て! わしは全裸じゃ。見逃せぃ」
大粒の汗を浮かべながら、男が両手を挙げて首を振る。
「問答無用‥‥覚悟っ‥‥」
呆れた様子で頭を抱え、明信がすぐさまスマッシュを放つ。
男は全裸だった事もあり、明信の一撃を喰らって気絶する。
「この男なら何か吐いてくれそうですね。とりあえず連れて行きますか」
そして明信は男を縄で縛り上げ、大きな溜息をつくのであった。
●砂の涙
「この世の者とも思えない美人か。それ程の美貌ならば盗人にならずとも、いくらでも道は開けよう。どうせ精神操作系の魔法で幻影を見せているに違いない。フ‥‥、人は美しいからこそ滅茶苦茶にしたくなる事もある。美人に化けた事を後悔させてやる」
短槍を片手に持って仁王立ちになりながら、結城友矩(ea2046)が金蔵の入り口に陣取り全裸団を待ち構える。
しかし、屋敷の中には金蔵がいくつも存在しているため、どこに全裸団が現れるかは分からない。
「‥‥やはり範囲が広すぎたか」
金蔵から立ち去ろうとして立ち上がり、友矩が全裸団と目が合い動きを止める。
「えっ? まだいたのぉ〜!?」
両脇に抱えていた宝箱をボトリと落とし、全裸団の娘が驚いた様子で汗を流す。
他の蔵を襲って宝箱を奪ってきたのだが、少し欲が出てしまったため、他の蔵を襲うつもりでいたらしい。
「盗人供め、一銭たりとも渡さんぞ」
短槍を縦横無尽に振り回し、友矩が娘の事を追いかける。
「ちょっ、ちょっと勘弁してよ〜」
宝箱を持ち帰ろうと必死でいたが、友矩に追いつかれそうになったため、慌てた様子で悲鳴を上げた。
「逃がすわけがないだろう。これが仕事だからな」
娘の逃げ道を少しずつ塞ぎながら、友矩がブンブンと短槍を振り回す。
「ちょっと‥‥恥ずかしいけど‥‥」
壁に背を当て頬を染め、友矩が恥ずかしいそうに頬を染める。
「‥‥見逃してくれるかな?」
華の様なかんばせに誘うような微笑を浮かべ、娘がオドオドとした様子で友矩の事を誘惑した。
「これが俺の理想の女か。いや、違うな。勉強不足だったな」
情け容赦なく短槍を繰り出し、友矩がクスリと笑って娘を睨む。
娘はひどく動揺していたが、色仕掛けが効かないと分かったためか、友矩にむかって砂を投げる。
「うおっ‥‥不意打ちか」
両目に砂が入ったため、友矩がバランスを崩して短槍を落とす。
「お、覚えてなさいよっ!」
そして娘は軽々と塀を跳び越え、大粒の涙を浮かべて逃げ出した。
●ほほえみの中に‥‥
「‥‥理想の女か、美女か、まあ魔術であろうと無かろうと俺の前に美女が現れるのだろ。‥‥楽しみだな」
屋敷の用心棒達から全裸団の噂を聞き、南天輝(ea2557)が屋敷の中を歩いていく。
全裸団の標的となっている屋敷は無駄に広く、隙だらけのため警備のしづらい状況だ。
「どちらにしても俺の中で女性は無闇に裸を男にさらさない。其れをした時点で俺には対象外の女になる。最も理想の女性が現実に現れたら勿体無くて手がだせんよ、浪人の身分ではな」
苦笑いを浮かべながら、南天輝(ea2557)が髪を掻き上げる。
「‥‥いるんだろ。そんなんじゃ、気配で丸わかりだ」
草むらに身を潜めていた全裸団の娘に声をかけ、輝がクスリと笑って目を閉じた。
「いつから‥‥気づいていたの?」
艶のある長い黒髪を風に揺らし、娘がゴクリと唾を飲み込んだ。
「‥‥ずっとさ。俺の事を調べ回っていたらしいな。女の趣味とかさ。そうやって盗みを繰り返していたのか。念入りに準備をした上で」
すべてを悟った様子で笑みを浮かべ、輝が鳴子を鳴らして仲間を呼ぶ。
「そこまで分かっているのなら何も話す必要はないわね」
警戒した様子で後ろに下がり、娘が残念そうに溜息をつく。
「いや、話してくれないと困る。どうしてこんな真似をしたのかな」
ジリジリと娘を追い詰め、輝がソニックブームを撃ち込んだ。
「あなたの理想にはまだまだ近づけないようね。出直してくるわ」
そして娘は輝に向かって微笑むと、近くの木を足場にして門を飛び越え逃げ出した。
まるで何か新しい目的ができたかのような表情を浮かべ‥‥。
●ドジな女盗賊
「有名な店を狙う盗賊団‥‥商売敵を潰してくれていると思えば有難い存在なのかもしれませんが、お仕事はお仕事、しっかりと捕縛しなければなりませんね」
予告状の届いた屋敷の屋根で、十三代目九十九屋(ea2673)が全裸団の襲撃を待つ。
屋敷の中には何人もの用心棒がいるようだが、真面目に警備をするつもりがないのか酒ばかりを飲んでいるようだ。
「まったく‥‥情けないですね。こんな光景を依頼主が見たら一体どんな顔をするか‥‥」
呆れた様子で用心棒達を見つめながら、九十九屋が大きな溜息をつく。
用心棒達は依頼主が気づかれないように休憩しているようだが、これでは盗賊に何か盗まれてもおかしくはない状況だ。
「屋敷が広すぎるのも考え物ですね。警戒しすぎて用心棒を雇い過ぎたのが原因かも知れません」
用心棒達に気づかれないようにして屋根の上から蔵に移動し、九十九屋がゆっくりと辺りを見回した。
「きゃあ!?」
後ろを振り向いた瞬間、黒ずくめの少女と目が合い、悲鳴を上げてバランスを崩す。
「あ、危ないっ!」
少女が蔵の屋根から落ちそうになったため、九十九屋が慌てて手を伸ばし少女の事を引っ張り上げる。
「あ、ありがとうございます。あの‥‥その‥‥」
伏し目がちに視線をそらし、少女が頭の中で言葉を選ぶ。
「あなたが予告状を出した全裸団の方ですね。確かに可愛らしい方だと思います。ですが重要なのは貴女の容姿ではありません。私を誘惑するつもりがあるのなら、あなたが盗んだ金全てを差し出してもらわなければ割に合いませんね」
少女の身なりを見てピンときたのか、九十九屋が大カマの術を唱えて縄ひょうを握る。
「‥‥というか、まだ何も盗んでません。ご、ごめんなさいっ!」
ペコペコと頭を下げながら、少女が慌てた様子で逃げ道を探す。
「逃がしませんよ」
少女が屋敷の屋根に飛び移ろうとした瞬間を狙って、九十九屋が隠し持っていた風車を取り出し少女に投げる。
「あう!?」
すると少女は屋根に飛び移る事が出来ずに転げ落ち、どすんと尻餅をついて暗がりの中へと消えていく。
「まさか逃げられてしまうとは‥‥」
そして九十九屋は蔵の屋根から飛び降り、少女の姿を探すのだった。
●ロリ魂
「‥‥うわ!? なんだ、止めr」
屋敷の警備をするため庭を歩き回っていたのだが、途中で何者かに押し倒されたため夜十字信人(ea3094)が悲鳴をあげる。
信人の真上には可愛らしい幼女がぺたんと座っており、信人の心を一瞬にしてかき乱す。
「違う、違うんだぁ」
心臓が飛び出すほどに動揺し、信人が幼女と目が合い凍り付く。
「どうしたの?」
幼女の甘ったるい声が脳味噌の隙間を駆けめぐり、信人の背筋をずずずぅ〜んと一気に駆け上る。
「な、何故、服を脱ごうとしているんですかっ。ああっ‥‥」
膝を抱えてブルブルと震え、信人の辛いトラウマが蘇り、まったく身動きがとれなくなった。
「へぇ〜、こういうのが好きなんだ♪」
小悪魔的な笑みを浮かべ、幼女が信人をからかうようにして、ゆっくりと服を脱いでジリジリと迫る。
「う、うわあああああ」
次の瞬間、額の前に種が降りてきてパチンと弾け、度重なる恐怖と辛い思い出で信人の精神が限界を超えた。
「えっ? 何っ!?」
信人の気配が一瞬にして獣のソレに変わったため、幼女が大粒の汗を浮かべて後ろに下がる。
「ぬおおおお!」
光の無い鋭い目で偃月刀を投げ捨てロープを握り、信人が凄まじい雄叫びを上げて幼女を追う。
「だ、誰か助けて〜」
ただならぬ気配を感じて涙を流し、幼女が悲鳴を上げてスタコラ逃げる。
「なんだ、アイツは!? アヤシイ奴め! 全裸団の一味だな」
険しい表情を浮かべながら、用心棒達が信人の事を取り囲む。
「そのお兄ちゃんがあたしを‥‥くすん」
潤んだ瞳で信人を指さし、幼女がここぞとばかりにトドメをさす。
「詳しい話はあっちで聞かせてもらおうか。このロリコンめ!」
両脇から用心棒達に押さえられ、信人がズルズルと引きずられていく。
「ご、誤解だっ! ぼ、僕は全裸団の一味じゃない!」
そして信人は空にむかって雄叫びをあげるのだった。
●形勢逆転
「全裸団の正体は誰なんだろう? 噂通りの美男美女の集団なら町で噂になってもよさそうなんだが‥‥」
愛馬『早風』を走らせ色々な人達から情報を集めた上で、風御凪(ea3546)が全裸団の襲撃を予想して屋敷内に罠を仕掛ける。
全裸団は犯行の手口が手荒なため、その美貌と全裸にさえ気をつければ、何とか捕まえる事が出来そうだ。
「‥‥ここまで人が多いと探しづらいな」
ブレスセンサーを使って索敵をしていたのだが、用心棒の数が多いためなかなか気配を特定する事は難しい。
「うわっ」
何も知らずに凪の仕掛けた罠にかかり、用心棒が足をつまずき豪快にコケる。
「‥‥はぁ」
予想以上に用心棒達がマヌケなため、凪が大きな溜息をつく。
用心棒達も酔っぱらっているためか、見当違いな方向にむかって刀をブンブンと振り回しているようだ。
「‥‥動かないで! 怪我をさせなくないから」
凪の喉元に短刀を押し当て、全裸団の少女が警告まじりに呟いた。
「い、いつの間に‥‥!?」
いきなり動きを封じ込まれてしまったため、凪がゴクリと唾を飲み込んだ。
「貴方の事は色々と調べさせてもらいましたから」
あたりの様子を窺いながら、少女が怪しく凪に囁いた。
「俺をどうするつもりですか? 一撃で仕留める事が出来なければ、あなたが後悔する事になりますよ」
短刀を素手で掴み取り、凪が振り向き際に体当たりを食らわせる。
「‥‥形勢逆転ですね」
少女から短刀を奪い取り、凪が素早く後ろを振り向いた。
「お、覚えてなさい!」
悔しそうな表情を浮かべながら、少女が捨て台詞を残して逃げていく。
「覚えてなさい‥‥か」
そして凪は少女の残した短刀を見つめ、ボソリと呟くのであった。
●容赦のない一撃
「‥‥理想の女性にみえる、術でしょうか。ある意味究極の敵ですね」
全裸団の女盗賊と対峙しながら、山本建一(ea3891)が日本刀を握りしめる。
健一と対峙している女性は清楚でスタイル抜群の女性で、奥ゆかしい雰囲気をほんのり漂わせている。
「怪しい術など使っておりません。すべて‥‥真実です‥‥」
健一にむかって深々と頭を下げ、女盗賊がニコリと微笑んだ。
「恥ずかしながらも、負けるわけにはいきません。‥‥許されよ」
女盗賊にむかって泥水をぶっかけ、健一がしばらく様子を窺った。
「ひどい‥‥。わたくしは何も悪い事はしていないのに‥‥」
瞳をウルウルとさせながら、女盗賊が悲しそうな表情を浮かべる。
「こんな真似をしたくはありませんでしたが‥‥」
ロープを使って女盗賊を縛り上げ、健一が残念そうに溜息をつく。
「許してもらえないんですか?」
今にも泣き出しそうになりながら、女盗賊が健一にむかって問いかける。
「すべて話してもらいますよ」
そして健一は爽やかな笑みを浮かべ、女盗賊の肩を優しく叩くのであった。
●暢気な男
「‥‥貴様が俺の相手をするのか? それじゃ、とりあえず飯でも食うか?」
満面の笑みを浮かべながら、男が鷹波穂狼(ea4141)に大きなおにぎりを渡す。
穂狼の相手をする男は彼女よりも大柄で、筋骨隆々の立派な奴だ。
「毒は入ってないだろうな?」
ジト目で男を睨み付け、穂狼がおにぎりを受け取った。
本当ならこのまま男を捕まえるつもりでいたのだが、あまりにも相手がマイペースなためかなり拍子抜けしているらしい。
「がっはっはっ‥‥。わし特製の握り飯じゃ。毒など何も入っておらん!」
穂狼のおにぎりをふたつに割り、男がその片方を豪快にかじる。
「ただの握り飯か。‥‥って、オイ! 危うく騙されるところだったぜ」
男に握り飯を突き返し、穂狼が日本刀と小太刀を抜く。
「こら、待て。飯は食わんのか。わしは何も盗んじゃおらん。ここで見張りをしているだけじゃ」
慌てた様子で首を振り、男が両手を上げて自分の無実を訴える。
「だったら他の仲間の事についても知っているんだろ? 言い訳だったら後で聞く」
男の胸倉を掴み上げ、穂狼がニヤリと微笑んだ。
「‥‥やはり戦うしかないのか」
素早く腕を掴み取り、男が穂狼を投げ飛ばす。
「んな!?」
突然の事に対応できず、穂狼がそのまま宙を舞う。
「がっはっはっ、まだまだじゃのう。わしに勝ちたくば飯を食え。朝昼晩にきちんとな。では、さらばだ!」
そして男は高笑いを上げながら、夜の闇へと姿を消した。
●神の愛
「‥‥フッ。私を誘惑など、愚の骨頂だね‥‥。私は唯神にのみ忠誠を誓い、唯一神のみが、私が崇めるに値する存在、決して屈する事は無い」
懐から一輪のバラを取り出し、クリス・ウェルロッド(ea5708)が匂いを嗅ぐ。
彼にとって神は完全者にして無限者。ならば主は、全ての属性を併せ持つ美女とともに美少女である、という考えがあるため、、全ての女性に平等に接する事で、間接的に彼なりの神への忠誠と信仰としているらしい。
「ならば私を逃がすつもりはないという事か?」
警戒した様子で後ろに逆り、全裸団の女性が汗を流す。
女性はクリスと雰囲気のよく似た金髪ロングで碧眼の女性で、蔵から奪った宝箱を脇に抱えて逃げ道を探しているようだ。
「私から‥‥逃げる事が出来ますか?」
天使のような笑みを浮かべ、クリスが女性にむかってバラを投げる。
それと同時に女性が一気に走り出し、クリスから逃亡しようと試みた。
「逮捕状です‥‥。私が、貴女を愛の無期懲役に処しましょう。ですから、これからは全裸団などからは足を洗って下さい‥‥」
素早く女性の腕を掴み上げ、彼女の薬指に指輪をはめ、クリスが爽やかな笑みを浮かべる。
「‥‥いいわよ。役人から逃がしてくれるのなら‥‥」
そして女性はクリスと濃厚なキスをした。
●理想と現実
「妄想でしかありえない、理想の相手というのをいっぺん見てみたい。だがそれ以上に、相手の正体、使っている手段を知りたい。‥‥と思っていたが、その様子では私達の事を調べて理想に近い相手を盗みに入らせているだけか」
目の前の女盗賊を警戒し、ゲレイ・メージ(ea6177)が短弓を構える。
女盗賊はおしとやかで口数の少なく、色白で髪の長い女性だが、事前に情報を集める事が出来なかったためか、ゲレイの理想とは微妙に異なっているようだ。
「この方が効率よく目的の物を盗む事が出来ますから‥‥。屋敷に閉じこもりで異性に飢えている用心棒なら簡単です‥‥」
ゲレイから全く視線をそらさず、女盗賊が短刀を引き抜き間合いをとる。
「そんな甘い考えが今回の失敗を生んだ訳か。普通の用心棒ならそれで十分かもしれないが、私達を誘惑する事は出来ないな。悪いがそこまで女に飢えていない」
女盗賊の行動をじっくりと観察し、ゲレイがジリジリと逃げ道を塞ぐ。
「仕方がありませんね。‥‥覚悟‥‥してください‥‥」
ゲレイにむかって短刀を投げ飛ばし、女盗賊が素早く上に飛ぶ。
それと同時にゲレイがアイスブリザードを放ち、女盗賊の動きを完全に封じ込める。
「残念だったな。それじゃ、詳しい話を聞かせてもらおうか」
そしてゲレイは鋭い視線で女盗賊を見つめながら、縄を使って彼女の身体を縛り上げた。
その後、捕まった盗賊達からの証言で全裸団のアジトが判明し、江戸を騒がせた一団は壊滅させられる事となる。
今回の事件で逃げた盗賊達を除いては‥‥。